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民事訴訟法 1890年04月21日

 民事訴訟法(原文:ひらがな、一部新字体化)


法律第二十九号

   民事訴訟法

 第一編 総則

  第一章 裁判所

   第一節 裁判所の事物の管轄

第一条 裁判所の事物の管轄は裁判所構成法の規定に従ふ

第二条 訴訟物の価額に依り管轄の定まるときは以下数条の規定に従ふ

第三条 訴訟物の価額は起訴の日時に於ける価額に依り之を算定す

 果実、損害賠償及ひ訴訟費用は法律上相牽連する主たる請求に附帯し一の訴を以て請求するときは之を算入せす

第四条 一の訴を以て数箇の請求を為すときは前条第二項に掲くるものを除く外其額を合算す

 本訴と反訴との訴訟物の価額は之を合算せす

第五条 訴訟物の価額は左の方法に依り之を定む

 第一 債権の担保又は債権の担保を為す従たる物権か訴訟物なるときは其債権の額に依る但物権の目的物の価額寡きときは其額に依る

 第二 地役か訴訟物なるときは要役地の地役に依り得る所の価額に依る但地役の為め承役地の価額の減したる額か要役地の地役に依り得る所の価額より多きときは其減額に依る

 第三 賃貸借又は永貸借の契約の有無又は其時期か訴訟物なるときは争ある時期に当る借賃の額に依る但一个年借賃の二十倍の額か右の額より寡きときは其二十倍の額に依る

 第四 定時の供給又は収益に付ての権利か訴訟物なるときは一个年収入の二十倍の額に依る但収入権の期限定まりたるものに付ては其将来の収入の総額か二十倍の額より寡きときは其額に依る

第六条 訴訟物の価額は必要なる場合に於ては第三条乃至第五条の規定に従ひ裁判所の意見を以て之を定む

 裁判所は申立に因り証拠調を命し又は職権を以て検証若くは鑑定を命することを得

第七条 地方裁判所の判決に対しては其事件か区裁判所の事物の管轄に属す可き理由を以て不服を申立つることを得す

第八条 事物の管轄に付き区裁判所又は地方裁判所か管轄違なりと宣言し其裁判確定したるときは此裁判は後に其事件の繋属す可き裁判所を羈束す

第九条 地方裁判所か事物の管轄違なりとして訴を却下するときは原告の申立に因り同時に判決を以て原告の指定したる自己の管轄内の区裁判所に其訴訟を移送す可し

 区裁判所か事物の管轄違なりとして訴を却下するときは同時に判決を以て其訴訟を所属の地方裁判所に移送す可し

 移送の申立は判決に接著する口頭弁論の終結前に之を為す可し

 移送言渡の判決確定したるときは其訴訟は移送を受けたる裁判所に繋属するものと看做す

   第二節 裁判所の土地の管轄(裁判籍)

第十条 人の普通裁判籍は其住所に依りて定まる

二 普通裁判籍ある地の裁判所は其人に対する総ての訴に付き管轄を有す但訴に付き専属裁判籍を定めさる場合に限る

第十一条 軍人、軍属は裁判籍に付ては兵営地若くは軍艦定繋所を以て住所とす但此規定は予備、後備の軍籍に在る者及ひ兵役義務履行の為めのみに服役する軍人、軍属に之を適用せす

第十二条 外国に在る本邦の公使及ひ公使館の官吏並に其家族、従者の裁判籍上の住所は本邦に於て本人の最後に有せし住所なりとす此住所なきものに付ては司法大臣の命令を以て予め定むる東京内の区を以て其住所なりとす

第十三条 内国に住所を有せさる者の普通裁判籍は本人の現在地に依りて定まる若し其現在地の知れさるか又は外国に在るときは其最後に有せし内国の住所に依りて定まる

二 然れとも外国に住所を有する者に対しては内国に於て生したる権利関係に限り前項の裁判籍に於て訴を起すことを得

第十四条 国の普通裁判籍は訴訟に付き国を代表する官庁の所在地に依りて定まる但訴訟に付き国を代表するに付ての規定は勅令を以て之を定む

二 公又は私の法人及ひ其資格に於て訴ヘらるることを得る会社其他の社団又は財団等の普通裁判籍は其所在地に依りて定まる此所在地は別段の定なきときは事務所所在の地とす若し事務所なきとき又は数所に於て事務を取扱ふときは其首長又は事務担当者の住所を以て事務所と看做す

第十五条 生徒、雇人、営業使用人、職工、習業者其他性質上一定の地に永く寓在す可き者に対する財産権上の請求に付ての訴は其現在地の裁判所に之を起すことを得

二 兵役義務履行の為めのみに服役する軍人、軍属に対しては其兵営地若くは軍艦定繋所の裁判所に前項の訴を起すことを得

第十六条 製造、商業其他の営業に付き直接に取引を為す店舗を有する者に対しては其店舗所在地の裁判所に営業上に関する訴を起すことを得

二 前項の裁判籍は住家及ひ農業用建物ある地所を利用する所有者、用益者又は賃借人に対する訴に付ても亦之を適用す但此訴か地所の利用に付ての権利関係を有するときに限る

第十七条 内国に住所を有せさる債務者に対する財産権上の請求に付ての訴は其財産又は訴を為して請求する物の所在地の裁判所に之を起すことを得債権に付ては債務者(第三債務者)の住所を以て其財産の所在地とす又債権に付き物か担保の責を負ふときは其物の所在地を以て財産の所在地とす

第十八条 契約の成立若くは不成立の確定又は其履行若くは銷除、廃罷、解除又は其不履行若くは不十分の履行に関する賠償の訴は其訴訟に係る義務を履行す可き地の裁判所に之を起すことを得

第十九条 会社其他の社団より社員に対し又は社員より社員に対し其社員たる資格に基く請求の訴は其会社其他の社団の普通裁判籍ある地の裁判所に之を起すことを得

第二十条 不正の損害の訴は責任者に対し其行為の有りたる地の裁判所に之を起すことを得

第二十一条 弁護士又は執達吏の手数料及ひ立替金に付き其委任者に対する訴は訴訟物の価額の多寡に拘はらす本訴訟の第一審裁判所に之を起すことを得

第二十二条 不動産に付ては其所在地の裁判所は総て不動産上の訴殊に本権並に占有の訴及ひ分割並に経界の訴を専らに管轄す

二 地役に付ての訴は承役地所在地の裁判所専らに之を管轄す

第二十三条 不動産上の裁判籍に於ては債権の担保を為す従たる物権に基く不動産上の訴に附帯して同一被告に対する債権の訴を起すことを得

二 不動産上の裁判籍に於ては不動産の所有者若くは占有者に対する人権の訴又は不動産に加ヘたる損害の訴を起すことを得

第二十四条 相続権、遺贈其他死亡に因りて効果を生する処分に基く請求の訴は遺産者死亡の時普通裁判籍を有せし裁判所に之を起すことを得

二 相続裁判籍に於ては遺産債権者より遺産者又は相続人に対する請求の訴を起すことを得但遺産の全部又は一分か其裁判所の管轄区内に存在するときに限る

第二十五条 第二十二条の規定を除く外原告は数箇の管轄裁判所の中に就き選択を為すことを得

   第三節 管轄裁判所の指定

第二十六条 管轄裁判所の指定は裁判所構成法に定めたる場合の外尚ほ不動産上の裁判籍に訴を起す可き場合に於て不動産か数箇の裁判所の管轄区内に散在するときも亦之を為す

第二十七条 管轄裁判所の指定に付き申請を為す場合及ひ其決定を為す裁判所は裁判所構成法第十条の規定に従ふ

第二十八条 管轄裁判所の指定に付ての申請は書面又は口頭を以て其申請に付き管轄権を有する裁判所に之を為すことを得

二 右裁判所は口頭弁論を経すして其申請を決定す

三 管轄裁判所を定めたる決定に対しては不服を申立つることを得す

   第四節 裁判所の管轄に付ての合意

第二十九条 第一審裁判所は当然管轄権を有せさるも当事者の合意に因り管轄権を有す但書面を以て合意を為し且其合意か一定の権利関係及ひ其権利関係より生する訴訟に係るときに限る

第三十条 被告か管轄違の申立を為さすして本案の口頭弁論を為すときは亦前条と同一の効力を生す

第三十一条 左の場合に於ては第二十九条及ひ第三十条の規定を適用せす

第一 財産権上の請求に非さる訴訟に係るとき

第二 専属管轄に属する訴なるとき

   第五節 裁判所職員の除斥及ひ忌避

第三十二条 判事は左の場合に於て法律に依り其職務の執行より除斥せらる可し

第一 判事又は其婦か原告若くは被告たるとき又は訴訟に係る請求に付き当事者の一方若くは双方と共同権利者、共同義務者若くは償還義務者たる関係を有するとき

第二 判事又は其婦か当事者の一方若くは双方又は其配偶者と親族なるとき但姻族に付ては婚姻の解除したるときと雖も亦同し

第三 判事か同一の事件に付き証人若くは鑑定人と為りて訊問を受くるとき又は訴訟代理人たる任を受くるとき若くは受けたるとき又は法律上代理人と為る権利を有するとき若くは之を有したるとき

第四 判事か不服の申立ある裁判を前審又は仲裁に於て為すに当り判事又は仲裁人として干与したるとき但此場合に於て判事は受命判事又は受託判事としては職務の執行より除斥せらるること無し

第三十三条 判事か法律に依り職務の執行より除斥せらるるとき及ひ偏頗の恐あるときは総ての場合に於て各当事者より之を忌避することを得

二 偏頗の忌避は判事の不公平なる裁判を為すことを疑ふに足る可き事情あるとき之を為すことを得

第三十四条 判事か法律に依り職務の執行より除斥せらるる場合に於ける判事の忌避は其訴訟の如何なる程度に在るを問はす之を為すことを得

二 偏頗の恐ある場合に於ては原告若くは被告其覚知したる忌避の原因を主張せすして判事の面前に於て申立を為し又は相手方の申立に対し陳述を為したる後は其判事を忌避することを得す

第三十五条 忌避の申請は判事所属の裁判所に書面又は口頭を以て之を為すことを得

二 忌避の原因は之を疏明することを要す忌避せられたる判事の職務上の陳述は其疏明の用に充つることを得

三 原告若くは被告か判事の面前に於て申立を為し又は相手方の申立に対し陳述を為したる後其判事に対し偏頗の忌避を為すときは忌避の原因其後に生し又は之を其後に覚知したることを疏明す可し

第三十六条 忌避せられたる判事合議裁判所に属するときは其裁判所忌避の申請を裁判す但忌避せられたる判事は其裁判に参与することを得す

二 若し其裁判所右判事の退去に因り決定を為すこと能はさるときは直近上級の裁判所其申請を裁判す

三 区裁判所判事忌避せられたるときは上級の地方裁判所其申請を裁判す若し区裁判所判事か忌避の申請を正当なりと為すときは裁判を要せす

第三十七条 忌避の申請に付ての裁判は口頭弁論を経すして之を為すことを得忌避せられたる判事は先つ申請の理由に付き職務上意見を述ふ可し

第三十八条 忌避の申請を正当なりと宣言する決定に対しては上訴を為すことを得す其申請を不当なりと宣言する決定に対しては即時抗告を為すことを得

第三十九条 忌避せられたる判事は忌避申請の完結するまて総ての行為を避く可し然れとも偏頗の為に忌避せられたる判事は猶予す可からさる行為を為す可し

第四十条 忌避申請の管轄裁判所は其申請あらさるも忌避の原因たる事情に付き判事より申出あるとき又は他の事由よりして判事か法律に依り除斥せらるる疑あるときも亦裁判を為す

二 此裁判は予め当事者を審訊せすして之を為す又其裁判は之を当事者に送達することを要せす

第四十一条 本節の規定は裁判所書記にも之を準用す但其裁判は書記所属の裁判所之を為す

   第六節 検事の立会

第四十二条 検事は左の訴訟に付き意見を述ふる為め其口頭弁論に立会ふ可し

第一 公の法人に関する訴訟

第二 婚姻に関する訴訟

第三 夫婦間の財産に関する訴訟

第四 親子若くは養親子の分限其他総て人の分限に関する訴訟

第五 無能力者に関する訴訟

第六 養料に関する訴訟

第七 失踪者及ひ相続人虧欠の遺産に関する訴訟

第八 証書の偽造若くは変造の訴訟

第九 再審

二 検事の陳述は当事者の弁論終りたるとき之を為す

三 当事者は検事の意見に対し事実の更正のみに付き陳述を為すことを得

  第二章 当事者

   第一節 訴訟能力

第四十三条 原告若くは被告か自ら訴訟を為し又は訴訟代理人をして之を為さしむる能力と法律上代理人に依れる訴訟無能力者の代表と法律上代理人か訴訟を為し又は一の訴訟行為を為すに付ての特別授権の必要とは民法の規定に従ふ

第四十四条 外国人は自国の法律に従ひ訴訟能力を有せさるも本邦の法律に従ひ訴訟能力を有するものなるときは之を有するものと看做す

第四十五条 裁判所は訴訟の如何なる程度に在るを問はす職権を以て訴訟能力、法律上代理人たる資格及ひ訴訟を為すに必要なる授権に欠缺なきや否やを調査す可し

二 裁判所は遅滞の為め原告若くは被告に危害あり且其欠缺の補正を為し得るものと認むるときは原告若くは被告又は其法律上代理人に其欠缺の補正を為す条件を以て一時訴訟を為すを許すことを得此場合に於て裁判所は欠缺補正の為め相当の期間を定め其期間の満了前に判決を為すことを得す但其欠缺の補正は判決に接著する口頭弁論の終結まて之を追完することを得

第四十六条 訴訟無能力者又は相続人の未定の遺産又は不分明なる相続人に対し訴を起す可き場合に於て法律上代理人あらさるときは其事件の繋属す可き裁判所の裁判長は申立に因り遅滞の為に危害の恐ある場合に限り特別代理人を任す可し

二 右申請は書面又は口頭を以て之を為すことを得此裁判は口頭弁論を経すして之を為し其裁判は申請人に之を送達し又申請を認許したるときは其任せられたる特別代理人にも亦之を送達す可し

三 申請を却下する裁判に対しては抗告を為すことを得

四 裁判長より任せられたる特別代理人は法律上代理人又は相続人の出頭するまて訴訟行為に付き法律上代理人の権利及ひ義務を有す

第四十七条 第十五条に掲けたる場合に於て訴訟無能力者か其現在地又は兵営地若くは軍艦定繋所の裁判所に訴を受く可き場合に於て其法律上代理人他の地に住するときは遅滞の為め危害なしと雖も前条の規定に従ひ特別代理人を任することを得

二 此他裁判に対し抗告を許す規定を除く外総て前条の規定を適用す

   第二節 共同訴訟人

第四十八条 左の場合に於ては共同訴訟人として数人か共に訴を為し又は訴を受くることを得

第一 数人か訴訟物に付き権利共通若くは義務共通の地位に立つとき

第二 同一なる事実上及ひ法律上の原因に基く請求又は義務か訴訟の目的物たるとき

第三 性質に於て同種類なる事実上及ひ法律上の原因に基く同種類なる請求又は義務か訴訟の目的物たるとき

第四十九条 共同訴訟人は其資格に於ては各別に相手方に対立し其一人の訴訟行為及ひ懈怠又は相手方より其一人に対する訴訟行為及ひ懈怠は他の共同訴訟人に利害を及ほさす

第五十条 然れとも総ての共同訴訟人に対し訴訟に係る権利関係か合一にのみ確定す可きときに限り左の規定を適用す

二 共同訴訟人中の或る人の攻撃及ひ防禦の方法(証拠方法を包含す)は他の共同訴訟人の利益に於て効を生す

三 共同訴訟人中の或る人か争ひ又は認諾せさるときと雖も総ての共同訴訟人か悉く争ひ又は認諾せさるものと看做す

四 共同訴訟人中の或る人のみか期日又は期間を懈怠したるときは其懈怠したる者は懈怠せさる者に代理を任したるものと看做す

五 然れとも懈怠したる共同訴訟人には其懈怠せさりし場合に於て為す可き総ての送達及ひ呼出を為すことを要す其懈怠したる共同訴訟人は何時たりとも其後の訴訟手続に再ひ加はることを得

   第三節 第三者の訴訟参加

第五十一条 他人の間に権利拘束と為りたる訴訟の目的物の全部又は一分を自己の為に請求する第三者は本訴訟の権利拘束の終に至るまて其訴訟か第一審に於て繋属したる裁判所に当事者双方に対する訴(主参加)を為して其請求を主張することを得

二 第三者か原告及ひ被告の共謀に因り自己の債権に損害を生することを主張するときも亦同し

第五十二条 本訴訟は第一審に繋属すると上級審に繋属するとを問はす原告、被告若くは主参加人の申立に因り又は職権を以て主参加に付ての権利拘束の終に至るまて之を中止することを得

二 中止の申請は書面又は口頭を以て本訴訟の繋属する裁判所に之を為すことを得

三 決定は口頭弁論を経すして之を為すことを得

四 中止を命する決定に対しては即時抗告を為すことを得

第五十三条 他人の間に権利拘束と為りたる訴訟に於て其一方の勝訴に依り権利上利害の関係を有する者は訴訟の如何なる程度に在るを問はす権利拘束の継続する間は其一方を補助(従参加)する為め之に附随することを得

第五十四条 従参加人は其附随する時に於ける訴訟の程度を妨けさる限りは其主たる原告若くは被告の為に攻撃及ひ防禦の方法を施用し且総ての訴訟行為を有効に行ひ殊に主たる原告若くは被告の為に存する期間内に故障、支払命令に対する異議又は上訴を為す権利を有す

二 従参加人の陳述及ひ行為と主たる原告若くは被告の陳述及ひ行為と相牴触する場合に於ては主たる原告若くは被告の陳述及ひ行為を以て標準と為す但民法に於て此に異なる規定あるときは此限に在らす

第五十五条 従参加人は訴訟より脱退したるときと雖も其補助したる原告若くは被告との関係に於ては其訴訟の確定裁判を不当なりと主張することを得す

二 従参加人は其附随の時の訴訟の程度に因り又は主たる原告若くは被告の所為に因り攻撃及ひ防禦の方法を施用することを妨けらるるとき又は主たる原告若くは被告か従参加人の当時知らさりし攻撃及ひ防禦の方法を故意又は重過失に因り施用せさりしときに限り其補助したる原告若くは被告か訴訟を不十分に為したりと主張することを得

第五十六条 従参加は本訴訟の繋属する裁判所に申請を以て之を為す可し

二 申請には当事者及ひ訴訟を表示し又一定の利害関係及ひ附随せんとする陳述を開示す可し

三 申請は当事者に之を送達す可し

四 従参加は故障、異議又は上訴と併合して之を為すことを得

第五十七条 原告若くは被告か従参加に付き異議を述ふるときは当事者及ひ従参加人を審訊したる後決定を以て参加の許否を裁判す其裁判は口頭弁論を経すして之を為すことを得

二 利害関係の存否に付き争あるときは従参加人其関係を疏明するのみを以て参加を許すに足る

三 右の決定に対しては即時抗告を為すことを得

四 参加を許ささる裁判確定せさる間は従参加人を本訴訟に立会はしめ殊に総ての期日に之を呼出し又本訴訟に関係ある裁判を為したるときは従参加人に其裁判を送達す可し

第五十八条 従参加人は当事者双方の承諾を得て其附随したる原告若くは被告に代り訴訟を担任することを得此場合に於ては其原告若くは被告の申立に因り判決を以て訴訟より其原告若くは被告を脱退せしむ可し

第五十九条 原告若くは被告若し敗訴するときは第三者に対し担保又は賠償の請求を為し得ヘしと信し又は第三者より請求を受く可きことを恐るる場合に於ては訴訟の権利拘束間第三者に訴訟を告知することを得

二 訴訟の告知を受けたる者は更に訴訟を告知することを得

第六十条 訴訟告知は訴訟の繋属する裁判所に其訴訟告知の理由及ひ訴訟の程度を記載したる書面を提出して之を為す可し

二 此書面は第三者に送達することを要す又訴訟を告知する原告若くは被告の相手方には其謄本を送付す可し

第六十一条 訴訟は訴訟告知に拘はらす之を続行す

二 第三者参加す可きことを陳述するときは従参加の規定を適用す

第六十二条 第三者の名を以て物を占有することを主張する者其物の占有者として被告と為りたるときは本案の弁論前第三者を指名し之に陳述を為さしむる為め其呼出を求むるときは第三者の陳述を為し又は之を為す可き期日まて本案の弁論を拒むことを得

二 第三者か被告の主張を争ふとき又は陳述を為ささるときは被告は原告の申立に応することを得

三 第三者か被告の主張を正当と認むるときは被告の承諾を得て之に代り訴訟を引受くることを得

四 第三者か訴訟を引受けたるときは裁判所は被告の申立に因り其被告を訴訟より脱退せしむ可し其物に付ての裁判は被告に対しても効力を有し且之を執行することを得

   第四節 訴訟代理人及ひ輔佐人

第六十三条 原告若くは被告自ら訴訟を為ささるときは弁護士を以て訴訟代理人とし之を為す

二 弁護士の在らさる場合に於ては訴訟能力者たる親族若くは雇人を以て訴訟代理人と為し若し此等の者の在らさるときは他の訴訟能力者を以て訴訟代理人と為すことを得

三 区裁判所に於ては弁護士の在るときと雖も訴訟能力者たる親族若くは雇人を以て訴訟代理人と為すことを得

第六十四条 訴訟委任は裁判所の記録に備ふ可き書面委任を以て之を証す可し

二 私署証書は相手方の求に因り之を認証す可し其認証は公証人之を為し又相当官吏之を為すことを得

三 口頭弁論の期日又は受命判事若くは受託判事の面前に於て口頭委任を為し其陳述を調書に記載せしむるときは書面委任と同一なりとす

第六十五条 訴訟委任は反訴、主参加、故障、仮差押若くは仮処分又は強制執行に因り生する訴訟行為を併せ訴訟に関する総ての訴訟行為を為し及ひ相手方より弁済する費用の領収を為す権を授与す

二 訴訟代理人は特別の委任を受くるに非されは控訴若くは上告を為し、再審を求め、代人を任し、和解を為し、訴訟物を抛棄し又は相手方より主張したる請求を認諾する権を有せす

第六十六条 訴訟委任は法律上の範囲(第六十五条第一項)を制限するも其制限は相手方に対し効力なし

二 然れとも弁護士に依れる代理を除く外は各箇の訴訟行為に付き委任を為すことを得

第六十七条 訴訟代理人数人あるときは共同若くは各別にて代理することを得但委任に此と異なる定あるも相手方に対し其効力なし

第六十八条 訴訟代理人か委任の範囲内に於て為したる訴訟上の行為及ひ不行為は原告若くは被告に対しては其本人の行為又は不行為と同一なりとす

二 然れとも代理人の事実上の陳述は其代理人と共に裁判所に出頭したる原告若くは被告より即時に之を取消し又は更正したるときに限り其効力を失ふ

第六十九条 委任者の死亡、訴訟能力若くは法律上代理の変更、委任の廃罷及ひ代理の謝絶に因る委任の消滅は其消滅を通知するまて相手方に対し其効力なし

二 此通知書は原告若くは被告より受訴裁判所に之を差出し裁判所は相手方に之を送達す可し

三 代理人は謝絶を為すも委任者他の方法を以て自己の権利の防衛を為ささる間は其委任者の為に行為を為すことを得

第七十条 委任の欠缺は原告若くは被告の為め其代理人なきものと看做す

二 裁判所は職権を以て委任の欠缺を調査し委任なく又は適式の委任なく代理人として出頭する者に事情に従ひ費用及ひ損害の保証を立てしめ又は之を立てしめすして仮に訴訟を為すを許すことを得

三 判決は欠缺を補正し又は之を補正する為め裁判所の適宜に定むる期間の満了後に限り之を為すことを得但欠缺の補正は判決に接著する口頭弁論の終結まて之を追完することを得

第七十一条 原告若くは被告は弁護士を輔佐人と為し又は何時にても裁判所の取消し得ヘき許可を得て他の訴訟能力者を輔佐人と為して共に出頭することを得其輔佐人は口頭弁論に於て権利を伸張し又は防禦する為め原告若くは被告を補助するものとす

二 輔佐人の演述は原告若くは被告即時に之を取消し又は更正せさるときに限り原告若くは被告自ら演述したるものと看做す

   第五節 訴訟費用

第七十二条 敗訴の原告若くは被告は訴訟の費用を負担し殊に訴訟に因り生したる費用を相手方に弁済す可し但其費用は裁判所の意見に於て相当なる権利伸張又は権利防禦に必要なりと認むるものに限る

二 訴訟中に訴を取下け、請求を抛棄し又は相手方の請求を認諾する原告若くは被告は敗訴の原告若くは被告に同し

第七十三条 当事者の各方一分は勝訴と為り一分は敗訴と為るときは其費用を相消し又は割合を以て之を分担す可し第一の場合に於ては各当事者は其支出したる費用を自ら負担し他の一方に対し弁済を請求することを得す

二 然れとも裁判所は相手方の要求格外に過分なるに非す且別段の費用を生せさりしとき又は判事の意見、鑑定人の鑑定若くは相互の計算に因り要求額を定むるに非されは容易に過分の要求を避くることを得さりしときは当事者の一方に訴訟費用の全部を負担せしむることを得

第七十四条 被告直ちに請求を認諾し且其作為に因り訴を起すに至らしめたるに非さるときは訴訟費用は原告の勝訴と為りたるに拘はらす其負担に帰す

第七十五条 期日若くは期間を懈怠し又は自己の過失に因り期日の変更、弁論の延期、弁論続行の為にする期日の指定、期間の延長其他訴訟の遅滞を生せしめたる原告若くは被告は本案の勝訴者と為りたるに拘はらす此か為に生したる費用を負担す可し

第七十六条 裁判所は無益なる攻撃又は防禦の方法(証拠方法を包含す)を主張したる原告若くは被告をして本案の勝訴者と為りたるに拘はらす其方法の費用を負担せしむることを得

第七十七条 無益なる上訴又は取下けたる上訴の費用は之を提出したる原告若くは被告の負担に帰す

第七十八条 上訴に因り裁判の全部又は一分を廃棄若くは破毀するときは訴訟の総費用(上訴の費用を包含す)の裁判は本案の終局裁判と併合して更に之を為す可し

二 原告若くは被告か前審に於て主張することを得ヘかりし事実又は攻撃若くは防禦の方法を新に提出するに因り勝訴者と為るときは其原告若くは被告に上訴費用の全部又は一分を負担せしむることを得

第七十九条 当事者か訴訟物に付き和解を為すときは其訴訟の費用及ひ和解の費用は共に相消したるものと看做す但当事者別段の合意を為したるときは此限に在らす

第八十条 法律の規定に従ひ費用に付き共同訴訟人の連帯義務の生せさるときに限り其共同訴訟人は相手方に対し平等に費用を負担す然れとも共同訴訟人の訴訟に於ける利害の関係著しく相異なるときは裁判所は其利害関係の割合に従ひ費用を負担せしむることを得

二 共同訴訟人中の或る人か特別の攻撃又は防禦の方法を主張したるときは他の共同訴訟人は此か為に生したる費用を負担せす

第八十一条 従参加に対し原告若くは被告か異議を述ふるときは其異議の決定に於て従参加人と其原告若くは被告との中間訴訟の費用に付き第七十二条乃至第七十八条の規定に従ひて裁判を為す可し

二 従参加を許したるとき又は異議を述ヘさるときは本訴訟の判決に於て従参加人と相手方なる原告若くは被告との間に従参加に因り生したる費用に付ても亦前数条の規定に従ひて裁判を為す可し

第八十二条 費用の点に限りたる裁判に対しては不服を申立つることを得す然れとも本案の裁判に対し許す可き上訴を提出し且追行するときに限り費用の点に付き不服を申立つることを得

二 費用の点に限りたるときと雖も相手方より提出したる上訴に附帯する場合に於ては不服を申立つることを得

第八十三条 裁判所書記、法律上代理人、弁護士其他の代理人及ひ執達吏の過失又は懈怠に因り費用の生したるときは受訴裁判所は申立に因り又は職権を以て其費用の弁済を負担せしむる決定を為すことを得但其決定前関係人に口頭又は書面にて陳弁を為す機会を与ふ可し

二 此裁判は口頭弁論を経すして之を為すことを得其決定に対しては即時抗告を為すことを得

第八十四条 弁済す可き費用額の確定は申請に因り訴訟の第一審に繋属したる裁判所の決定を以て之を為す

二 申請は第七十二条第二項又は上訴取下の場合を除く外執行し得ヘき裁判に依るときに限り之を為すことを得

三 申請は口頭を以て之を為すことを得

四 申請には費用計算書、相手方に付与す可き計算書の謄本及ひ各箇費用額の疏明に必要なる証書を添附す可し

第八十五条 費用額確定の裁判は口頭弁論を経すして之を為すことを得

二 裁判所は裁判所書記に費用計算書の計算上の検査を命することを得

三 裁判所は費用額確定の決定を為す前相手方に計算書を付与して裁判所の定むる期間内に陳述を為す可き旨を之に催告することを得此決定に対しては即時抗告を為すことを得

第八十六条 当事者は訴訟費用の全部又は一分を割合に従ひ分担す可きときは裁判所は費用額確定の決定を為す前相手方に裁判所の定むる期間内に其費用の計算書を差出す可き旨を催告す可し此期間を徒過したる後は費用額確定の決定は相手方の費用を顧みす之を為す可し但相手方は後に自己の費用を以て其費用額確定の申請を為す妨と為ること無し

   第六節 保証

第八十七条 訴訟上の保証は当事者か別段の合意を為す場合又は此法律に於て保証を定むることを裁判所の自由なる意見に任する場合を除く外裁判所の意見に於て担保に十分なりとする現金又は有価証券を供託して之を為す

第八十八条 原告又は原告の従参加人たる外国人は被告に対し其求に因り訴訟費用に付き保証を立つ可し

二 左の場合に於ては保証を立つる義務を生せす

第一 国際条約又は原告の属する国の法律に依り本邦人か同一の場合に於て保証を立つる義務なきとき

第二 反訴の場合

第三 証書訴訟及ひ為替訴訟の場合

第四 公示催告に基き起したる訴の場合

第八十九条 裁判所は前条第一項の場合に於ては保証を立つ可き数額を確定す可し

二 此数額を確定するには被告の訴を受けたるか為め各審級に於て支出す可き訴訟費用の額を標準と為す可し

三 訴訟中に保証の不足を生し且追増保証を立つ可きことを被告か求むるときは前項と同一の手続に依る可し但争なき請求の部分か担保に十分なるときは此限に在らす

第九十条 裁判所は保証を立つ可き期間を定む可し

二 此期間の経過後裁判あるまてに保証を立てさる場合に於ては被告の申立に因り判決を以て訴を取下けたりと宣言し又原告か上訴を為したるときは其上訴を取下けたりと宣言す可し

   第七節 訴訟上の救助

第九十一条 何人を問はす自己及ひ其家族の必要なる生活を害するに非されは訴訟費用を出たすこと能はさる者は訴訟上の救助を求むることを得但其目的とする権利の伸張又は防禦の軽忽ならす又は見込なきに非すと見ゆるときに限る

第九十二条 外国人は国際条約又は其属する国の法律に依り本邦人か同一の場合に於て訴訟上の救助を求むることを得るときに限り之を求むることを得

第九十三条 訴訟上救助の申請は訴訟の関係を表明し且証拠方法を開示して其救助を求むる審級の裁判所に之を提出す可し其申請は口頭を以て之を為すことを得

二 原告若くは被告は申請の提出と共に管轄市町村長より発したる証書を出たすことを要す其証書には原告若くは被告の身分、職業、財産並に家族の実況及ひ其納む可き直税の額を開示して訴訟費用支払の無資力を証す可し

第九十四条 訴訟上の救助は各審に於て各別に之を付与す第一審に於ては強制執行に付ても之を付与するものとす

二 前審に於て訴訟上の救助を受けたるときは上級審に於ては無資力を証することを要せす相手方上訴を提出したるときは上級審に於ては訴訟上の救助を求むる原告若くは被告の権利の伸張又は防禦の軽忽ならす又は見込なきに非すと見ゆるやを調査することを要せす

第九十五条 訴訟上の救助は之を受けたる条件の存せさりしとき又は消滅したるときは何時たりとも之を取消すことを得

第九十六条 訴訟上の救助は之を受けたる原告若くは被告の死亡と共に消滅す

第九十七条 訴訟上の救助は之を受けたる原告若くは被告の為に左の効力を生す

第一 裁判費用(国庫の立替金を包含す)を済清することの仮免除

第二 訴訟費用の保証を立つることの免除

第三 送達及ひ執行行為を為さしむる為め一時無報酬にて執達吏の附添を求むる権利

二 受訴裁判所は必要なる場合に於ては訴訟上の救助を受けたる原告若くは被告の申立に因り又は職権を以て一時無報酬にて弁護士の附添を命することを得

第九十八条 訴訟上の救助は相手方に生したる費用を弁済する義務に影響を及ほさす

第九十九条 救助を受けたる原告若くは被告の為め仮に済清を免除したる裁判費用は訴訟費用に付き確定裁判を受けたる相手方又は訴若くは上訴の取下、抛棄、認諾若くは和解に因り訴訟費用を負担す可き相手方より之を取立つることを得

二 救助を受けたる原告若くは被告に附添ひたる執達吏又は弁護士は同一の条件あるときは亦自己の権利に依り費用確定の方法を以て其手数料及ひ立替金を取立つることを得

第百条 救助を受けたる原告若くは被告は自己及ひ其家族の必要なる生活を害せすして費用の済清を為し得るに至るときは仮免除を得たる数額(第九十七条第一号)を直ちに追払ひする義務あり

第百一条 裁判所は検事の意見を聴きたる後訴訟上救助の付与並に弁護士附添の命令に付ての申請、訴訟上救助の取消及ひ数額追払の義務に付き決定を為す

二 此裁判は口頭弁論を経すして之を為すことを得

第百二条 訴訟上の救助を付与し又は其取消を拒み若くは費用追払を命することを拒む決定に対しては検事に限り抗告を為すことを得

二 弁護士の附添を命する決定に対しては上訴を為すことを得す

三 訴訟上の救助を拒み若くは取消し又は弁護士の附添を拒み又は費用の追払を命する決定に対しては原告若くは被告は抗告を為すことを得

  第三章 訴訟手続

   第一節 口頭弁論及ひ準備書面

第百三条 判決裁判所に於ける訴訟に付ての当事者の弁論は口頭なりとす但此法律に於て口頭弁論を経すして裁判を為すことを定めたるときは此限に在らす

第百四条 口頭弁論は書面を以て之を準備す

第百五条 準備書面には左の諸件を掲く可し

第一 当事者及ひ其法律上代理人の氏名、身分、職業、住所、裁判所、訴訟物及ひ附属書類の表示

第二 原告若くは被告か法廷に於て為さんと欲する申立

第三 申立の原因たる事実上の関係

第四 相手方の事実上の主張に対する陳述

第五 原告若くは被告か事実上主張の証明又は攻撃の為め用いんとする証拠方法及ひ相手方の申出てたる証拠方法に対する陳述

第六 原告若くは被告又は其訴訟代理人の署名及ひ捺印

第七 年月日

第百六条 準備書面に於て提出す可き事実は簡明に之を記載す可し

二 此他事実上の関係の説明並に法律上の討論は書面に之を掲くることを得す

第百七条 準備書面には訴訟を為す可き資格に付ての証書の原本、正本又は謄本其他総て原告若くは被告の手中に存する証書にして書面中に申立の原因として引用したるものの謄本を添附す可し

二 証書の一部分のみを要用とするときは其冒頭、事件に属する部分、終尾、日附、署名及ひ印章を謄写したる抄本を添附するを以て足る

三 証書か既に相手方に知れたるとき又は大部なるときは其証書を表示し且相手方に之を閲覧せしめんと欲する旨を附記するを以て足る

第百八条 当事者は準備書面及ひ其附属書類並に相手方に付与する為め必要なる謄本を裁判所書記課に差出す可し

第百九条 裁判長は口頭弁論を開き且之を指揮す

二 裁判長は発言を許し又其命に従はさる者に発言を禁することを得

三 裁判長は事件に付き十分なる説明を為さしめ且間断なく弁論の終了することに注意す又必要なる場合に於ては直ちに弁論続行の期日を定む

四 裁判所に於て事件に付き十分なる説明を為せりと認むるときは裁判所は口頭弁論を閉ち及ひ裁判所の判決並に決定を言渡す

第百十条 口頭弁論は当事者の申立を為すに因りて始まる

二 当事者の演述は事実上及ひ法律上の点に於ける訴訟関係を包括す可し

三 口頭演述に換ヘて書類を援用することを許さす文字上の旨趣を要用とするときは其要用なる部分に限り之を朗読することを得

第百十一条 各当事者は相手方の主張したる事実に対し陳述を為す可し

二 明かに争はさる事実は原告若くは被告の他の陳述より之を争はんとする意思か顕れさるときは自白したるものと看做す

三 不知の陳述は原告若くは被告の自己の行為に非す又自己の実験したるものにも非さる事実に限り之を許す此場合に於て不知を以て答ヘたる事実は争ひたるものと看做す

第百十二条 裁判長は職権上調査す可き点に関し相手方より起ささる疑の存するときは其疑に付き注意を為すことを得

二 裁判長は問を発して不明瞭なる申立を釈明し主張したる事実の不十分なる証明を補充し証拠方法を申出て其他事件の関係を定むるに必要なる陳述を為さしむ可し

三 陪席判事は裁判長に告けて問を発することを得

四 当事者は相手方に対し自ら問を発することを得す然れとも其問を発す可き旨を裁判長に求むることを得

五 若し其問に対して答ヘす又は判然答ヘさるときは相手方の利益と為る可き答を為したるものと看做すことを得

第百十三条 事件の指揮に関する裁判長の命又は裁判長若くは陪席判事の発したる問に対し弁論に与かる者より不適法なりとして異議を述ヘたるときは裁判所は其異議に付き直ちに裁判を為す

第百十四条 裁判所は事件の関係を明瞭ならしむる為め原告若くは被告の自身出頭を命することを得

第百十五条 裁判所は原告若くは被告の援用したる証書にして其手中に存するものを提出す可きを命することを得

二 裁判所は外国語を以て作りたる証書に付ては其訳書を添附す可きを命することを得

第百十六条 裁判所は当事者の所持する訴訟記録にして事件の弁論及ひ裁判に関するものを提出す可きを命することを得

第百十七条 裁判所は検証及ひ鑑定を命することを得

二 此手続は申立に因り命する検証及ひ鑑定に付ての規定に従ふ

第百十八条 裁判所は一箇の訴に於て為したる数箇の請求又は本訴及ひ反訴に付ての弁論を分離して為す可きを命することを得

第百十九条 同一の請求に関し数箇の独立なる攻撃及ひ防禦の方法を提出したるときは裁判所は先つ弁論を其一二に制限す可きを命することを得

第百二十条 裁判所は同一の人又は別異の人の数箇の訴訟にして其裁判所に繋属するものの弁論及ひ裁判を併合す可きを命することを得但其訴訟の目的物たる請求を元来一箇の訴に於て主張し得ヘきときに限る

第百二十一条 裁判所は訴訟の全部又は一分の裁判か他の繋属する訴訟に於て定まる可き権利関係の成立又は不成立に繋るときは他の訴訟の完結に至るまて弁論を中止す可し

第百二十二条 裁判所は民事訴訟中罰す可き行為の嫌疑生するときは刑事訴訟手続の完結に至るまて弁論を中止す可し但其罰す可き行為か訴訟の裁判に影響を及ほすときに限る

第百二十三条 裁判所は分離若くは併合に関し発したる命を取消すことを得

第百二十四条 裁判所は閉ちたる弁論の再開を命することを得

第百二十五条 裁判所は弁論に与かる者日本語に通せさるときは通事を立会はしむ但裁判所構成法第百十八条の場合は此限に在らす

第百二十六条 裁判所は弁論に与かる者聾又は唖なるとき之に文字を以て理会せしむることを得さる場合に限り通事を立会はしむることを得

第百二十七条 裁判所は相当の演述を為す能力の欠けたる原告若くは被告又は訴訟代理人若くは輔佐人に其後の演述を禁し且新期日を定め弁護士をして演述せしむ可きことを命す可し

二 裁判所は裁判所に於て弁論を業とする訴訟代理人若くは輔佐人を退斥せしむることを得此場合に於ては新期日を定め且退斥の決定を原告若くは被告に送達す可し

三 本条の規定に従ひ為したる命に対しては不服を申立つることを得す

四 弁護士には本条の規定を適用せす

第百二十八条 弁論に与かる者秩序維持の為め弁論の場所より退斥せられたるときは申立に因り本人の任意に退去したると同一の方法を以て之を取扱ふことを得但裁判所構成法第百十条に依り中止したる場合は此限に在らす

二 前条の場合に於て禁止又は退斥の命を受けたる者再ひ出頭するときは前項の方法を以て之を取扱ふことを得

第百二十九条 口頭弁論に付ては調書を作る可し

二 調書には左の諸件を掲く可し

第一 弁論の場所、年月日

第二 判事、裁判所書記及ひ立会ひたる検事若くは通事の氏名

第三 訴訟物及ひ当事者の氏名

第四 出頭したる当事者、法律上代理人、訴訟代理人及ひ輔佐人の氏名若し原告若くは被告闕席したるときは其闕席したること

第五 公に弁論を為し又は公開を禁したること

第百三十条 弁論の進行に付ては其要領のみを調書に記載す可し

二 調書に記載して明確にす可き諸件は左の如し

第一 自白、認諾、抛棄及ひ和解

第二 明確にす可き規定ある申立及ひ陳述

第三 証人及ひ鑑定人の供述但其供述は以前聴かさるものなるとき又は以前の供述に異なるときに限る

第四 検証の結果

第五 書面に作り調書に添附せさる裁判(判決、決定及ひ命令)

第六 裁判の言渡

三 附録として調書に添附し且調書に附録として表示したる書類に於ける記載は調書に於ける記載に同し

第百三十一条 前条第一号乃至第四号に掲けたる調書の部分は法廷に於て之を関係人に読聞かせ又は閲覧の為め之を関係人に示す

二 調書には前項の手続を履みたること及ひ承諾を為したること又は承諾を拒みたる理由を附記す可し

第百三十二条 調書には裁判長及ひ裁判所書記署名捺印す可し

二 裁判長差支あるときは官等最も高き陪席判事之に代り署名捺印す区裁判所判事差支あるときは其裁判所書記の署名捺印を以て足る

第百三十三条 受命判事若くは受託判事又は区裁判所判事か法廷外に於て為す審問にも亦裁判所書記を立会はしむ

二 前四条の規定は右の審問調書に之を準用す

第百三十四条 口頭弁論の為め規定したる方式の遵守は調書を以てのみ之を証することを得

第百三十五条 此法律に従ひ口頭を以て訴、抗告、申立、申請及ひ陳述を為し又は証言を拒む場合に於ては裁判所書記は其調書を作る可し

   第二節 送達

第百三十六条 送達は裁判所書記職権を以て之を為さしむ

二 裁判所書記は執達吏に送達の施行を委任し又は送達を施行す可き地を管轄する区裁判所の書記に送達の施行を執達吏に委任す可きことを嘱託す

三 裁判所書記は郵便に依りても亦送達を為さしむることを得

四 第二項の場合に於ては執達吏又第三項の場合に於ては郵便配達人を以下に規定する送達吏と為す

第百三十七条 送達は其送達す可き書類の正本又は認証したる謄本を交付す可き規定あるときは其正本又は其謄本の交付を以て之を為し其他の場合に於ては謄本の交付を以て之を為す

二 原告若くは被告数人の代理人に為し又は同一なる原告若くは被告の代理人数人中の一人に為す可き送達は謄本又は正本の一通を交付するを以て足る

第百三十八条 訴訟能力を有せさる原告若くは被告に対する送達は其法律上代理人に之を為す

二 公又は私の法人及ひ其資格に於て訴ヘ又は訴ヘらるることを得る会社又は社団に対する送達は其首長又は事務担当者に之を為すを以て足る

三 数人の首長若くは事務担当者ある場合に於ては送達は其一人に之を為すを以て足る

第百三十九条 予備、後備の軍籍に在らさる下士以下の軍人、軍属に対する送達は其所属の長官又は隊長に之を為す

第百四十条 囚人に対する送達は監獄署の首長に之を為す

第百四十一条 送達は財産権上の訴訟に付ては総理代人に之を為し又商業上より生したる訴訟に付ては代務人に之を為すを以て原告若くは被告の本人に為したると同一の効力を有す

第百四十二条 訴訟代理人あるときは送達は其代理人委任の旨趣に依り原告若くは被告の代理を為す権を有するときに限り其代理人に之を為す

二 然れとも原告若くは被告の本人に為したる送達は其訴訟代理人あるときと雖も効力を有す

第百四十三条 受訴裁判所の所在地に住居をも事務所をも有せさる原告若くは被告は其所在地に仮住所を選定して之を届出つ可し

二 仮住所選定の届出は遅くとも最近の口頭弁論に於て之を為し又其前に書面を差出すときは其書面を以て之を為す可し

三 前項の届出を為ささるときは裁判所書記又は其委任を受けたる吏員交付す可き書類を原告若くは被告の名宛にて郵便に付して送達を為すことを得此送達は其書類の原告若くは被告に到達すると否とを問はす又何時に到達するとを問はす郵便に付したる時を以て之を為したるものと看做す

第百四十四条 送達は何れの地を問はす送達を受く可き人に出会ひたる地に於て之を為すことを得然れとも其人か其地に住居又は事務所を有するとき其住居又は事務所の外に於て為したる送達は其受取を拒まさりしときに限り効力を有す

二 第百三十八条第二項の場合に於て特別の事務所あるときは其事務所の外に於て法律上代理人又は首長若くは事務担当者に為したる送達は其受取を拒まさりしときに限り効力を有す

第百四十五条 送達を受く可き人に住居に於て出会はさるときは其住居に於てする送達は成長したる同居の親族又は雇人に之を為すことを得

二 此規定に従ひ送達を施行することを得さるときは其送達は交付す可き書類を其地の市町村長に預置き送達の告知書を作り之を住居の戸に貼附し且近隣に住居する者二人に其旨を口頭を以て通知して之を為すことを得

第百四十六条 住居の外に事務所を有する人に対する送達は事務所に於て之に出会はさるときは其事務所に在る営業使用人に之を為すことを得此規定は弁護士にも亦之を適用す但此場合に於ける送達は筆生にも亦之を為すことを得

第百四十七条 第百三十八条第二項の場合に於て法律上代理人又は首長若くは事務担当者に事務所に於て出会はす又は此等の者受取に付き差支あるときは送達は事務所に在る他の役員又は雇人に之を為すことを得

第百四十八条 前二条の規定に従ひ送達を施行することを得さるときは第百四十五条第二項に準し送達を為す可し但住居に於ける送達を施行するを得さることの明白なるときに限る

二 前項の場合に於ては送達告知書の貼附は事務所又は住居の戸に之を為す

第百四十九条 法律上の理由なくして送達の受取を拒むときは交付す可き書類を送達の場所に差置く可し

第百五十条 日曜日及ひ一般の祝祭日には執達吏の為す可き送達は裁判官の許可を得るときに限り之を施行することを得

二 前項の規定は郵便に付して為す送達を除く外は夜間に為す可き送達に之を適用す夜間とは日没より日出まての時間を謂ふ

三 右の許可は受訴裁判所の裁判長又は送達を為す可き地を管轄する区裁判所の判事之を与ヘ又は受命判事若くは受託判事の完結す可き事件に在ては其判事之を与ふ

四 許可の命令は認証したる謄本を以て送達の際之を交付す可し

五 本条の規定を遵守せさる送達は之を受取りたるときに限り効力を有す

第百五十一条 送達に付ては之を施行する吏員は送達の場所、年月日時、方法及ひ受取人の受取証並に送達吏の署名捺印を具備する証書を作ることを要す

二 受取人受取を拒み若くは受取証を出たすことを拒みたるとき又は受取証を作ること能はさる旨を述ふるときは之を送達証書に記載す可し

三 第百四十三条第三項の場合に於ては郵便に付したる吏員の報告書を以て送達の証と為すに足る

第百五十二条 外国に在る本邦の公使及ひ公使館の官吏並に其家族、従者に対する送達は外務大臣に嘱託して之を為す

第百五十三条 前条の場合を除く外外国に於て施行す可き送達は外国の管轄官庁又は外国に駐在する帝国の公使又は領事に嘱託して之を為す

第百五十四条 出陣の軍隊又は役務に服したる軍艦の乗組員に属する人に対する送達は上班司令官庁に嘱託して之を為すことを得

第百五十五条 前三条の場合に於て必要なる嘱託書は受訴裁判所の裁判長之を発す

二 送達は嘱託を受けたる官庁又は官吏の送達施行済の証書を以て之を証す

第百五十六条 原告若くは被告の現在地知れさるとき又は外国に於て為す可き送達に付ては其規定に従ふこと能はす若くは之に従ふも其効なきことを予知するときは其送達は公の告示を以て之を為すことを得

第百五十七条 公示送達は原告若くは被告の申立に因り裁判所の命を以て裁判所書記之を取扱ふ

二 此送達は交付す可き書類を裁判所の掲示板に貼附して之を為す判決及ひ決定に在ては其裁判の部分のみを貼附す可し

三 右の外裁判所は送達す可き書類の抄本を一箇又は数箇の新聞紙に一回又は数回掲載す可きを命することを得其抄本には裁判所、当事者並に訴訟物及ひ送達す可き書類の要旨を掲くることを要す

第百五十八条 公示送達は書類の貼附より十四日を経過したる日を以て之を為したるものと看做す然れとも裁判所は公示送達を命するに際し此より長き期間を必要とするときは相当なる期間を定むることを得

二 同一の事件に付き同一の原告若くは被告に対して為す其後の公示送達は貼附を以て之を為したるものと看做す

   第三節 期日及ひ期間

第百五十九条 期日は裁判長日及ひ時を以て之を定む

第百六十条 期日は已むを得さる場合に限り日曜日及ひ一般の祝祭日に之を定むることを得

第百六十一条 期日に付ての呼出は裁判長の命に従ひ裁判所書記正本の送達を以て之を為す但在廷したる者に期日を定め出頭を命したるときは之を送達することを要せす

第百六十二条 期日は裁判所内に於て之を開く但臨検又は裁判所に出頭するに差支ある人の審問其他裁判所内に於て為すことを得さる行為を要するときは此限に在らす

第百六十三条 期日は事件の呼上を以て始まる

二 原告若くは被告か期日の終に至るまて弁論を為ささるときは期日を怠りたるものと看做す

第百六十四条 裁判所又は裁判長の定むる期間の進行は期間を定めたる書類の送達を以て始まり又其送達を要せさる場合に於ては期間の言渡を以て始まる但期間指定の際此より遅き起期を定めたるときは此限に在らす

第百六十五条 期間を計算するに時を以てするものは即時より起算し又日を以てするものは初日を算入せす

第百六十六条 一日の期間は二十四時とし一个月の期間は三十日とし一个年の期間は暦に従ふ

二 期間の終か日曜日又は一般の祝祭日に当るときは其日を期間に算入せす

第百六十七条 法律上の期間は裁判所の所在地に住居せさる原告若くは被告の為め其住居地と裁判所所在地との距離の割合に応し海陸路八里毎に一日を伸長す八里以外の端数三里を超ゆるときも亦同し

二 裁判所は外国又は島嶼に於て住所を有する原告若くは被告の為め特に附加期間を定むることを得

第百六十八条 期間の進行は裁判所の休暇に依りて停止す其期間の残余の部分は休暇の終を以て其進行を始む期間の初か休暇に当るときは其期間の進行は休暇の終を以て始まる

二 前項の規定は不変期間及ひ休暇事件の期間には之を適用せす

三 不変期間は此法律に於て不変期間として掲けたる期間に限る

四 休暇事件とは裁判所構成法第百二十八条、第百二十九条に掲けたる事件を謂ふ

第百六十九条 期日の変更、弁論の延期、弁論続行の期日の指定は申立に因り又は職権を以て之を為すことを得但申立に因れる期日の変更は合意の場合を除く外顕著なる理由あるときに限り之を許す

第百七十条 期間は不変期間を除く外当事者の合意の申立に因り之を短縮し又は伸長することを得

二 裁判所又は裁判長の定むる期間及ひ法律上の期間は合意なきも申立に因り顕著なる理由あるときは之を短縮し又は伸長することを得然れとも法律上の期間の短縮又は伸長は此法律に特定したる場合に限り之を許す

三 伸長に係る新期間は前期間の満了より之を起算す

第百七十一条 期日の変更又は期間の短縮若くは伸長に付ての申請の理由は之を疏明す可し其申請は口頭を以て之を為すことを得

二 申請の裁判は口頭弁論を経すして之を為すことを得

三 同一期日の再度の変更又は同一期間の再度の伸長は相手方の承諾書を提出せさるときは相手方を審訊したる後に限り之を許すことを得又相手方か異議を述ふるときは顕著なる差支の理由及ひ其差支を除去することの特別なる困難を生したることを証するときに限り之を許すことを得訴訟代理人の差支に原因する期日の再度の変更又は期間の再度の伸長は相手方の承諾あるに非されは之を許さす

四 期日の変更又は期間の伸長に付ての申請を却下する裁判に対しては不服を申立つることを得す

第百七十二条 本節に於て裁判所及ひ裁判長に与ヘたる権は受命判事又は受託判事も亦其定む可き期日及ひ期間に付き之を行ふことを得

   第四節 懈怠の結果及ひ原状回復

第百七十三条 訴訟行為を怠りたる原告若くは被告は其訴訟行為を為す権利を失ふ但此法律に於て追完を許すときは此限に在らす

二 法律上懈怠の結果は当然生するものとす但此法律に於て失権を為さしむることに付き相手方の申立を要するときは此限に在らす

第百七十四条 天災其他避く可からさる事変の為に不変期間を遵守することを得さる原告若くは被告には申立に因り原状回復を許す

二 原告若くは被告か故障期間を懈怠したるときは其過失に非すして闕席判決の送達を知らさりし場合に於ても亦之に原状回復を許す

第百七十五条 原状回復は十四日の期間内に之を申立つることを要す

二 右期間は障碍の止みたる日を以て始まる此期間は当事者の合意に因り之を伸長することを得す

三 懈怠したる不変期間の終より起算して一个年の満了後は原状回復を申立つることを得す

第百七十六条 原状回復は追完する訴訟行為に付き裁判を為す権ある裁判所に書面を差出して之を申立つ可し

二 此書面には左の諸件を具備することを要す

第一 原状回復の原因たる事実

第二 原状回復の疏明方法

第三 懈怠したる訴訟行為の追完

三 即時抗告の提出を懈怠したるときは原状回復の申立は不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所又は抗告裁判所に之を為すことを得

第百七十七条 原状回復の申立に付ての訴訟手続は追完する訴訟行為に付ての訴訟手続と之を併合す然れとも裁判所は先つ申立に付ての弁論及ひ裁判のみに其訴訟手続を制限することを得

二 申立の許否に関する裁判及ひ其裁判に対する不服の申立に付ては追完する訴訟行為に於て行はる可き規定を適用す然れとも申立を為したる原告若くは被告は故障を為すことを得す

三 原状回復の費用は申立人之を負担す但相手方の不当なる異議に因り生したるものは此限に在らす

   第五節 訴訟手続の中断及ひ中止

第百七十八条 原告若くは被告の死亡したる場合に於ては承継人か訴訟手続を受継くまて之を中断す

二 受継を遅滞したるときは裁判所は申立に因り受継及ひ本案弁論の為め其承継人を呼出す

三 承継人期日に出頭せさるときは申立に因り相手方の主張したる承継を自白したるものと看做し且裁判所は闕席判決を以て承継人訴訟手続を受継きたりと言渡す又本案の弁論は故障期間の満了後始めて之を為し又其期間内に故障を申立てたるときは其完結後始めて之を為す

第百七十九条 原告若くは被告の財産に付き破産の開始したる場合に於て訴訟手続か破産財団に関するときは破産に付ての規定に従ひ手続を受継き又は破産手続を解止するまて之を中断す

第百八十条 原告若くは被告か訴訟能力を失ひ又は其法律上代理人か死亡し又は其代理権か原告若くは被告の訴訟能力を得る前に消滅したるときは訴訟手続は法律上代理人又は新法律上代理人か其任設を相手方に通知し又は相手方か訴訟手続を続行せんとすることを其代理人に通知するまて之を中断す

第百八十一条 原告若くは被告の死亡に因り訴訟手続を中断する場合に於ける訴訟手続の受継に関し遺産に付き管理人を任設するときは前条の規定又遺産に付き破産を開始するときは第百七十九条の規定を適用す

第百八十二条 戦争其他の事故に因り裁判所の行務を止めたるときは此事情の継続間訴訟手続を中断す

第百八十三条 訴訟代理人を以て訴訟を為す場合に於て原告若くは被告か死亡し又は訴訟能力を失ひ又は法律上代理人か死亡し又は其代理権か消滅するときは委任消滅の通知に因り訴訟手続を中断す

二 訴訟手続の受継に付ては第百七十八条、第百八十条、第百八十一条の規定に従ふ

第百八十四条 原告若くは被告か戦時兵役に服するとき又は官庁の布令、戦争其他の事変に因り受訴裁判所と交通の絶エたる地に在るときは受訴裁判所は申立に因り又は職権を以て障碍の消除するまて訴訟手続の中止を命することを得

第百八十五条 訴訟手続中止の申請は受訴裁判所に之を提出す其申請は口頭を以て之を為すことを得

二 此裁判は口頭弁論を経すして之を為すことを得

第百八十六条 訴訟手続の中断及ひ中止は各期間の進行を止め及ひ中断又は中止の終りたる後更に全期間の進行を始むる効力を有す

二 中断及ひ中止の間本案に付き為したる原告若くは被告の訴訟行為は他の一方に対し其効力なし

三 口頭弁論の終結後に生したる中断は其弁論に基きて為す可き裁判の言渡を妨くること無し

第百八十七条 中断し又は中止したる訴訟手続の受継及ひ本節に定めたる通知は原告若くは被告より其書面を受訴裁判所に差出し裁判所は相手方に之を送達す可し

第百八十八条 当事者は訴訟手続を休止す可き合意を為すことを得其合意は不変期間の進行に影響を及ほさす

二 口頭弁論の期日に於て当事者双方出頭せさるときは訴訟手続は其一方より更に口頭弁論の期日を定む可きことを申立つるまて之を休止す

三 一个年内に前項の申立を為ささるときは本訴及ひ反訴を取下けたるものと看做す

第百八十九条 本節の規定其他此法律の規定に基き訴訟手続の中止を命する裁判に対しては抗告を為すことを得又其中止を拒む裁判に対しては即時抗告を為すことを得

 第二編 第一審の訴訟手続

  第一章 地方裁判所の訴訟手続

   第一節 判決前の訴訟手続

第百九十条 訴の提起は訴状を裁判所に差出して之を為す

二 此訴状には左の諸件を具備することを要す

第一 当事者及ひ裁判所の表示

第二 起したる請求の一定の目的物及ひ其請求の一定の原因

第三 一定の申立

三 此他訴状は準備書面に関する一般の規定に従ひ之を作り且裁判所の管轄か訴訟物の価額に依り定まる場合に於て訴訟物か一定の金額に非さるときは其価額を掲く可し

第百九十一条 同一の被告に対する原告の請求数箇ある場合に於て其各請求に付き受訴裁判所か管轄権を有し且法律に於て同一種類の訴訟手続を許すときは原告は其請求を一箇の訴に併合することを得但民法の規定に反するときは此限に在らす

第百九十二条 訴状か第百九十条第一号乃至第三号の規定に適せさるときは相当の期間を定め裁判長の命令を以て其期間内に欠缺を補正す可きことを命す若し原告此命に従はさるときは其期間の満了後訴状を差戻す可し

二 此差戻の命令に対しては即時抗告を為すことを得

第百九十三条 訴状か第百九十条第一号乃至第三号の規定に適するときは口頭弁論の期日を定めて之を被告に送達す可し

第百九十四条 訴状の送達と口頭弁論の期日との間には少なくとも二十日の時間を存することを要す

二 外国に於て送達を施行す可きときは裁判長相当の時間を定む

第百九十五条 訴訟物の権利拘束は訴状の送達に因りて生す

二 権利拘束は左の効力を有す

第一 権利拘束の継続中原告若くは被告より同一の訴訟物に付き他の裁判所に於て本訴又は反訴を以て請求を為したるときは相手方は権利拘束の抗弁を為すことを得

第二 受訴裁判所の管轄は訴訟物の価額の増減、住所の変更其他管轄を定むる事情の変更に因りて変換すること無し

第三 原告は訴の原因を変更する権利なし但変更したる訴に対し本案の口頭弁論前被告か異議を述ヘさるときは此限に在らす

第百九十六条 原告か訴の原因を変更せすして左の諸件を為すときは被告は異議を述ふることを得す

第一 事実上又は法律上の申述を補充し又は更正すること

第二 本案又は附帯請求に付き訴の申立を拡張し又は減縮すること

第三 最初求めたる物の滅尽又は変更に因り賠償を求むること

第百九十七条 訴の原因に変更なしとする裁判に対しては不服を申立つることを得す

第百九十八条 訴の全部又は一分は本案に付き被告の第一口頭弁論の始まるまては被告の承諾なくして之を取下け又其後口頭弁論の終結に至るまては被告の承諾を得て之を取下くることを得

二 訴の取下は口頭弁論に於て之を為ささるときは書面を以て之を為す可し

三 訴状を既に送達したる場合に於ては訴取下の書面は之を被告に送達す可し

四 適法なる取下は権利拘束の総ての効力を消滅せしむる結果を生す

五 取下けたる訴を再ひ起したるときは被告は前訴訟費用の弁済を受くるまて応訴を拒むことを得

第百九十九条 訴状送達の際十四日の期間内に答弁書を差出す可きことを被告に催告す可し

二 答弁書には準備書面に関する一般の規定を適用す

第二百条 訴か管轄裁判所に於て権利拘束と為りたるときは被告は原告に対し其裁判所に反訴を起すことを得

二 然れとも財産権上の請求に非さる請求に係る反訴又は目的物に付き専属管轄の規定ある反訴は若し其反訴か本訴なるとき其裁判所に於て管轄権を有す可き場合に限り之を為すことを許す

三 反訴に対しては更に反訴を為すことを得す

第二百一条 反訴は答弁書若くは特別の書面を以て又は口頭弁論中相手方の面前に於て口頭を以て之を為すことを得

二 然れとも答弁書差出の期間内に差出したる書面を以て起ささる反訴は被告の請求の全部又は一分と相殺を為す可き場合に於て同時に被告か自己の過失に因らすして其以前反訴を起すを得さりしことを疏明するときに限り之を為すことを許す

第二百二条 訴に関する此法律の規定は反訴に之を適用す但其規定に因り差異の生す可きときは此限に在らす

第二百三条 裁判長は申立に因り其命令を以て第百九十九条に定めたる期間を相当に短縮若くは伸長し又第百九十四条に定めたる時間を切迫なる危険の場合に限り二十四時まてに短縮することを得

二 前項時間の短縮は之か為め答弁書を差出すことを得さるときと雖も亦之を為すことを得

三 本条の規定は第百六十七条に掲けたる規定を妨けす

第二百四条 各当事者は訴状又は答弁書に掲けさりし事実上の主張若くは証拠方法又は申立に付き相手方か予め穿鑿を為すに非されは陳述を為す能はすと予知する事項あるときは口頭弁論の前に書面にて差出す可し但其書面を相手方に送達する時間及ひ相手方をして必要なる穿鑿を為す時間を得せしむ可し

二 口頭弁論の延期を為すときは裁判所は爾後必要なる準備書面を差出す可き期間を定むることを得

第二百五条 口頭弁論は一般の規定に従ひて之を為す

第二百六条 妨訴の抗弁は本案に於ての被告の弁論前同時に之を提出す可し

二 左に掲くるものを妨訴の抗弁とす

第一 無訴権の抗弁

第二 裁判所管轄違の抗弁

第三 権利拘束の抗弁

第四 訴訟能力の欠缺又は法律上代理の欠缺の抗弁

第五 訴訟費用保証の欠缺の抗弁

第六 再訴に付き前訴訟費用未済の抗弁

第七 延期の抗弁

三 本案に付き被告の口頭弁論の始まりたる後は妨訴の抗弁は被告の有効に抛棄することを得さるものなるとき又は被告の過失に非すして本案の弁論前に其抗弁を主張する能はさりしことを疏明するときに限り之を主張することを得

第二百七条 被告か妨訴の抗弁に基き本案の弁論を拒むとき又は裁判所か申立に因り若くは職権を以て別に弁論を命するときは其抗弁に付き別に弁論を為し及ひ判決を以て裁判を為す可し

二 妨訴の抗弁を棄却する判決は上訴に関しては終局判決と看做す但裁判所は申立に因り本案に付き弁論を為す可きを命することを得

第二百八条 裁判所は計算事件、財産分別及ひ此に類する訴訟に於ては口頭弁論を延期し準備手続を命することを得但妨訴の抗弁ありたるときは其完結後之を為す

第二百九条 攻撃及ひ防禦の方法(反訴、抗弁、再抗弁等)は第二百一条に規定する制限を以て判決に接著する口頭弁論の終結に至るまて之を提出することを得

第二百十条 被告より時機に後れて提出したる防禦の方法は裁判所か若し之を許すに於ては訴訟を遅延す可く且被告は訴訟を遅延せしめんとする故意を以て又は甚しき怠慢に因り早く之を提出せさりしことの心証を得たるときは申立に因り之を却下することを得

第二百十一条 訴訟の進行中に争と為りたる権利関係の成立又は不成立か訴訟の裁判の全部又は一分に影響を及ほすときは判決に接著する口頭弁論の終結に至るまて原告は訴の申立の拡張に依り又被告は反訴の提起に依り判決を以て其権利関係を確定せんことを申立つることを得

第二百十二条 訴状其他の準備書面に於て主張せさる請求の権利拘束は口頭弁論に於て其請求を主張したる時を以て始まる

第二百十三条 各当事者は事実上の主張を証明し又は之を弁駁せん為に用いんとする証拠方法を開示し且相手方より開示したる証拠方法に付き陳述す可し

二 各箇の証拠方法に付ての証拠申出及ひ之に関する陳述は第六節乃至第十節の規定に従ふ

第二百十四条 証拠方法及ひ証拠抗弁は判決に接著する口頭弁論の終結に至るまて之を主張することを得

二 証拠方法及ひ証拠抗弁の時機に後れたる提出に付ては第二百十条の規定を準用す

第二百十五条 証拠調並に証拠決定を以てする特別の証拠調手続の命令は第五節乃至第十節の規定に従ふ

第二百十六条 当事者は訴訟の関係を表明し証拠調の結果に付き弁論を為す可し

二 受命判事又は受託判事の面前に於て証拠調を為したるときは当事者は証拠調に関する審問調書に基き其結果を演述す可し

第二百十七条 裁判所は民法又は此法律の規定に反せさる限りは弁論の全旨趣及ひ或る証拠調の結果を斟酌し事実上の主張を真実なりと認む可きや否やを自由なる心証を以て判断す可し

第二百十八条 裁判所に於て顕著なる事実は之を証することを要せす

第二百十九条 地方慣習法、商慣習及ひ規約又は外国の現行法は之を証す可し裁判所は当事者か其証明を為すと否とに拘はらす職権を以て必要なる取調を為すことを得

第二百二十条 此法律の規定に依り事実上の主張を疏明す可きときは裁判官をして其主張を真実なりと認めしむ可き証拠方法を申出つるを以て足る但即時に為すことを得さる証拠調は疏明の方法としては之を許さす

第二百二十一条 裁判所は事件の如何なる程度に在るを問はす自ら又は受命判事若くは受託判事に依り訴訟又は或る争点の和解を試むる権あり和解を試むる為には当事者の自身出頭を命することを得

第二百二十二条 判決を受く可き事項の申立は書面に基き之を為すことを要す

二 書面に掲けさる申立あるときは調書に附録として添附す可き書面を差出して之を為すことを要す

三 重要の点に於て以前申立てたるものと異なる申立に付ても亦同し

四 本条の規定を遵守せさるときは申立なきものと看做す

第二百二十三条 前条の申立を除く外書面に掲けさる重要なる陳述又は其書面の旨趣と重要の点に於て差異の存する事項は其差異か附加、削除其他の変更に係るを問はす申立に因り又は職権を以て調書若くは其附録として添附す可き為め差出したる書面に依りて之を明確にす可し

第二百二十四条 当事者は訴訟記録を閲覧し且裁判所書記をして其正本、抄本及ひ謄本を付与せしむることを得

二 裁判長は第三者か権利上の利害を疏明するときに限り当事者の承諾なくして訴訟記録の閲覧及ひ其抄本並に謄本の付与を許すことを得

三 判決、決定、命令の草案及ひ其準備に供したる書類並に評議又は処罰に関する書類は其原本なると謄本なるとを問はす之を閲覧することを許さす

   第二節 判決

第二百二十五条 訴訟か裁判を為すに熟するときは裁判所は終局判決を以て裁判を為す

二 同時に弁論及ひ裁判を為す為め併合したる数箇の訴訟中の一のみ裁判を為すに熟するときも亦同し

第二百二十六条 一の訴を以て起したる数箇の請求中の一箇又は一箇の請求中の一分又は反訴を起したる場合に於ては本訴若くは反訴のみ裁判を為すに熟するときは裁判所は終局判決(一分判決)を以て裁判を為す

二 然れとも裁判所は事件の事情に従ひて一分判決を相当とせさるときは之を為ささることを得

第二百二十七条 各箇の独立なる攻撃若くは防禦の方法又は中間の争か裁判を為すに熟するときは中間判決を以て裁判を為すことを得

第二百二十八条 請求の原因及ひ数額に付き争あるときは裁判所は先つ其原因に付き裁判を為すことを得

二 請求の原因を正当なりとする判決は上訴に関しては終局判決と看做し其判決確定に至るまて爾後の手続を中止す然れとも裁判所は申立に因り其数額に付き弁論を為す可きを命することを得

第二百二十九条 口頭弁論の際原告其訴ヘたる請求を抛棄し又は被告之を認諾するときは裁判所は申立に因り其抛棄又は認諾に基き判決を以て却下又は敗訴の言渡を為す可し

第二百三十条 判決は弁論を経たる総ての攻撃及ひ防禦の方法を包括す

二 然れとも数箇の独立なる攻撃又は防禦の方法中其一箇を適切なりとするときは裁判所は他の方法に付き判断する義務なし

第二百三十一条 裁判所は申立てさる事物を原告若くは被告に帰せしむる権なし

二 裁判所は終局判決を為す場合に於ては訴訟費用の負担に限り申立あらさるも判決を為す可し然れとも一分判決を為す場合に於ては費用の裁判を後の判決に譲ることを得

第二百三十二条 判決は其基本たる口頭弁論に臨席したる判事に限り之を為す

第二百三十三条 判決は口頭弁論の終結する期日又は直ちに指定する期日に於て之を言渡す但其期日は七日を過くることを得す

第二百三十四条 判決の言渡は判決主文の朗読に因り之を為す闕席判決の言渡は其主文を作らさる前と雖も之を為すことを得

二 裁判の理由を言渡すことを至当と認むるときは判決の言渡と同時に其理由を朗読し又は口頭にて其要領を告く可し

第二百三十五条 判決の言渡は当事者又は其一方か在廷すると否とに拘はらす其効力を有す

二 言渡ありたる判決に基き訴訟手続を続行し又は他に其判決を使用する原告若くは被告の権は此法律に特定したる場合を除く外相手方に其判決を送達すると否とに拘はらさるものとす

第二百三十六条 判決には左の諸件を掲く可し

第一 当事者及ひ其法律上代理人の氏名、身分、職業及ひ住所

第二 事実及ひ争点の摘示但其摘示は当事者の口頭演述に基き殊に其提出したる申立を表示して之を為す

第三 裁判の理由

第四 判決主文

第五 裁判所の名称、裁判を為したる判事の官氏名

第二百三十七条 判決の原本には裁判を為したる判事署名捺印す若し陪席判事署名捺印するに差支あるときは其理由を開示して裁判長其旨を附記し裁判長差支あるときは官等最も高き陪席判事之を附記す

二 判決の原本は言渡の日より起算して七日内に裁判所書記に之を交付す可し

三 裁判所書記は言渡の日及ひ原本領収の日を原本に附記し且其附記に署名捺印す可し

第二百三十八条 各当事者は判決の送達あらんことを申立つることを得其申立ありたるときは判決の正本を送達す可し

第二百三十九条 未た判決を言渡さす又は未た判決の原本に署名捺印せさる間は裁判所書記は其正本、抄本及ひ謄本を付与することを得す

二 裁判所書記は判決の正本、抄本及ひ謄本に署名捺印し且裁判所の印を捺して之を認証す可し

第二百四十条 裁判所は其言渡したる終局判決及ひ中間判決の中に包含したる裁判に羈束せらる

第二百四十一条 裁判所は申立に因り又は職権を以て何時にても判決中の違算、書損及ひ之に類する著しき誤謬を更正す

二 此更正に付ては口頭弁論を経すして裁判を為すことを得

三 右更正の申立を却下する決定に対しては上訴を為すことを得す更正を宣言する決定に対しては即時抗告を為すことを得

第二百四十二条 主たる請求若くは附帯の請求又は費用の全部若くは一分の裁判を為すに際し脱漏したるときは申立に因り追加の裁判を以て判決を補充す可し

二 判決の言渡後直ちに追加裁判の申立を為ささるときは遅くとも判決の正本を送達したる日より起算して七日の期間内に之を為すことを要す

三 追加裁判の申立あるときは即時に又は新期日を定めて口頭弁論を為さしむ可し其弁論は訴訟の完結せさる部分に限り之を為す

第二百四十三条 判決を更正し又は補充する裁判は判決の原本及ひ正本に之を追加し若し正本に之を追加することを得さるときは更正又は補充の裁判の正本を作る可し

第二百四十四条 判決は其主文に包含するものに限り確定力を有す

第二百四十五条 口頭弁論に基き為す裁判所の決定は之を言渡すことを要す

二 第二百三十三条、第二百三十四条の規定は裁判所の決定に之を準用し又第二百三十五条、第二百三十九条及ひ第二百四十条の規定は裁判所の決定及ひ裁判長並に受命判事又は受託判事の命令に之を準用す

三 言渡を為ささる裁判所の決定及ひ言渡を為ささる裁判長並に受命判事又は受託判事の命令は職権を以て之を当事者に送達す可し

   第三節 闕席判決

第二百四十六条 原告若くは被告口頭弁論の期日に出頭せさる場合に於ては出頭したる相手方の申立に因り闕席判決を為す

第二百四十七条 出頭せさる一方か原告なるときは裁判所は闕席判決を以て其訴の却下を言渡す可し

第二百四十八条 出頭せさる一方か被告なるときは裁判所は被告か原告の事実上の口頭供述を自白したるものと看做し原告の請求を正当と為すときは闕席判決を以て被告の敗訴を言渡し又其請求を正当と為ささるときは其訴の却下を言渡す可し

第二百四十九条 延期したる口頭弁論の期日又は口頭弁論を続行する為に定むる期日も亦第二百四十六条の弁論期日に同し

第二百五十条 原告若くは被告出頭するも弁論を為ささるとき又は弁論を為さすして任意に退廷したるときは出頭せさるものと看做す

第二百五十一条 原告若くは被告か本案の弁論を為したるときは各箇の事実、証書又は発問に付き陳述を為さす又は任意に退廷するも本節の規定を適用せす

第二百五十二条 左の場合に於ては闕席判決の申立を却下す然れとも出頭したる原告若くは被告は口頭弁論の延期を申立つることを得

第一 出頭したる原告若くは被告か裁判所の職権上調査す可き事情に付き必要なる証明を為す能はさるとき

第二 出頭せさる原告若くは被告に口頭上事実の供述又は申立を適当なる時期に書面を以て通知せさるとき

二 弁論を延期したるときは出頭せさる原告若くは被告を新期日に呼出す可し

第二百五十三条 闕席判決の申立を却下する決定に対しては即時抗告を為すことを得又其決定を取消したるときは出頭せさりし原告若くは被告を新期日に呼出さすして闕席判決を為す

第二百五十四条 裁判所は左の場合に於ては職権を以て闕席判決の申立に付ての弁論を延期することを得

第一 出頭せさる原告若くは被告か合式に呼出されさりしとき

第二 出頭せさる原告若くは被告か天災其他避く可からさる事変の為に出頭する能はさることの真実と認む可き事情あるとき

二 出頭せさりし原告若くは被告は新期日に之を呼出す可し

第二百五十五条 闕席判決を受けたる原告若くは被告は其判決に対し故障を申立つることを得

二 故障申立の期間は十四日とす此期間は不変期間にして闕席判決の送達を以て始まる

三 故障申立は判決の送達前と雖も之を為すことを得

四 外国に於て送達を為す可きとき又は公の告示を以て之を為す可きときは裁判所は闕席判決に於て故障期間を定め又は後日決定を以て之を定む此決定は口頭弁論を経すして為すことを得

第二百五十六条 故障申立は闕席判決を為したる裁判所に書面を差出して之を為す

二 此書面には左の諸件を具備することを要す

第一 故障を申立てられたる闕席判決の表示

第二 其判決に対する故障の申立

三 此書面には本案に付ての口頭弁論準備の為に必要なる事項あるときも亦之を掲く可し

第二百五十七条 判然許す可からさる故障又は判然法律上の方式に適せす若くは其期間の経過後に起したる故障は裁判長の命令を以て之を却下す可し

二 此却下の命令に対しては即時抗告を為すことを得

第二百五十八条 前条の場合を除く外裁判所は故障申立の書面を相手方に送達し且故障に付き口頭弁論の新期日を定め当事者の双方を呼出す可し

第二百五十九条 裁判所は職権を以て故障を許す可きや否や又法律上の方式に従ひ若くは其期間に於て故障を申立てたるや否やを調査す可し

二 若し此要件の一を欠くときは判決を以て故障を不適法として棄却す

第二百六十条 故障を適法とするときは訴訟は闕席前の程度に復す

第二百六十一条 新弁論に基き為す可き判決か闕席判決と符合するときは闕席判決を維持することを言渡し其符合せさる場合に於ては新判決に於て闕席判決を廃棄す

第二百六十二条 法律に従ひ闕席判決を為したるとき闕席に因りて生したる費用は相手方の不当なる異議に因り生せさるものに限り故障の為め闕席判決を変更する場合に於ても其闕席したる原告若くは被告に之を負担せしむ

第二百六十三条 故障を申立てたる原告若くは被告口頭弁論の期日又は弁論延期の期日に出頭せさるときは第二百五十二条及ひ第二百五十四条に規定したる場合を除く外出頭したる相手方の申立に因り故障を棄却する新闕席判決を言渡す

二 新闕席判決に対しては故障を申立つることを得す

第二百六十四条 故障の抛棄及ひ其取下に付ては控訴の抛棄及ひ其取下に付ての規定を準用す

第二百六十五条 本節の規定は反訴又は既に原因の確定したる請求の数額の定を目的物とする訴訟手続に之を準用す

二 中間訴訟の弁論の為め期日を定めたるときは其闕席訴訟手続及ひ闕席判決は其中間訴訟を完結するに止まり本節の規定を之に準用す

   第四節 計算事件、財産分別及ひ此に類する訴訟の準備手続

第二百六十六条 計算の当否、財産の分別又は此に類する関係を目的とする訴訟に於て計算書又は財産目録に対し許多の争ある請求の生し又は許多の争ある異議の生したるときは受訴裁判所は受命判事の面前に於ける準備手続を命することを得

第二百六十七条 準備手続を命する決定を言渡すに際し裁判長は受命判事を指定し決定施行の期日を定む可し若し裁判長此期日を定めさるときは受命判事之を定む又受命判事其委任を施行するに差支あるときは裁判長更に他の判事を任す

第二百六十八条 準備手続に於ては調書を以て左の諸件を明確にす可し

第一 如何なる請求を為すや及ひ如何なる攻撃、防禦の方法を主張するや

第二 如何なる請求及ひ如何なる攻撃、防禦の方法を争ふや又は之を争はさるや

第三 争と為りたる請求及ひ争と為りたる攻撃、防禦の方法に付ては其事実上の関係及ひ当事者の表示したる証拠方法、主張したる証拠抗弁、証拠方法並に証拠抗弁に関して為したる陳述及ひ提出したる申立

二 此手続は受訴裁判所に於て訴訟又は中間訴訟か判決又は証拠決定を為すに熟するまて之を続行す可し

第二百六十九条 原告若くは被告か期日に於て受命判事の面前に出頭せさるときは受命判事は前条の規定に依り調書を以て出頭したる原告若くは被告の提供を明確にし且新期日を定め出頭せさる原告若くは被告には調書の謄本を付与して新期日に之を呼出す可し

二 原告若くは被告か新期日にも亦出頭せさるときは送達せし調書に掲けたる相手方の事実上の主張を自白したりと看做し其主張に付ての準備手続は完結したるものとす

第二百七十条 受訴裁判所は準備手続の終結後に口頭弁論の期日を定め之を当事者に通知す可し

第二百七十一条 当事者は口頭弁論に於て準備手続の結果を調書に基き演述す可し

二 原告若くは被告か出頭せさるときは準備手続に於て争はさる請求は一分判決を以て之を完結す其他に付ては申立に因りて闕席判決を為す可し

第二百七十二条 受命判事の調書を以て明確にす可き事実又は証書に付き陳述を為さす又は之を拒みたるときは口頭弁論に於て之を追完することを得す

二 請求、攻撃若くは防禦の方法、証拠方法及ひ証拠抗弁にして受命判事の調書を以て之を明確にせさるものに付ては後日に至り始めて生し又は後日に至り始めて原告若くは被告の知りたることを疏明するときに限り口頭弁論に於て之を主張することを得

   第五節 証拠調の総則

第二百七十三条 証拠調は受訴裁判所に於て之を為すを以て通例とす

二 証拠調は此法律に定めたる場合に限り受訴裁判所の部員一名に之を命し又は区裁判所に之を嘱託することを得

三 此証拠調を命する決定に対しては不服を申立つることを得す

第二百七十四条 当事者の申立てたる数多の証拠中其調ふ可き限度は裁判所之を定む

二 当事者の演述に引続き直ちに証拠調を為さすして受訴裁判所に於て新期日に之を為し又は受命判事若くは受託判事の面前に於て之を為す可きときは証拠決定に因り之を命す可し

第二百七十五条 証拠調に付き不定時間の障碍あるときは申立に因り相当の期間を定む可し此期間の満了後と雖も訴訟手続を遅滞せしめさる限りは其証拠方法を用いることを得

第二百七十六条 証拠決定には左の諸件を掲く可し

第一 証す可き係争事実の表示

第二 証拠方法の表示殊に証人又は鑑定人を訊問す可きときは其表示

第三 証拠方法を申出てたる原告若くは被告の表示

第二百七十七条 証拠決定の変更は其決定の施行完結前に在りて新なる弁論に基くときに限り之を申立つることを得

二 証拠決定の施行は職権を以て之を為す

第二百七十八条 受訴裁判所の部員か証拠調を為す可きときは裁判長証拠決定言渡の際受命判事を指名し且証拠調の期日を定む若し其期日を定めさるときは受命判事之を定む

二 受命判事其命を施行するに差支あるときは裁判長更に他の部員を命す

第二百七十九条 他の裁判所に於て証拠調を為す可きときは裁判長は其嘱託書を発す可し

二 証拠調に関する書類は原本を以て受託判事より受訴裁判所書記に之を送致し其書記は之を受領したることを当事者に通知す可し

第二百八十条 受命判事又は受託判事か証拠調の期日を定めたるときは其期日及ひ場所を当事者に通知す可し

第二百八十一条 外国に於て為す可き証拠調は外国の管轄官庁又は其国駐在の帝国の公使若くは領事に嘱託して之を為す其嘱託に付ては第百五十二条及ひ第百五十五条の規定を準用す

第二百八十二条 受命判事又は受託判事は他の裁判所に於て証拠調を為す可きことの至当なる原因の爾後に生したるときは其裁判所に証拠調を嘱託することを得此嘱託を為したるときは当事者に之を通知す可し

第二百八十三条 受命判事又は受託判事の面前に於て証拠調の際に争を生し其争の完結するに非されは証拠調を続行することを得す且其判事之を裁判する権なきときは其完結は受訴裁判所之を為す

第二百八十四条 当事者の一方又は双方証拠調の期日に出頭せさるときは事件の程度に因り為し得ヘき限りは証拠調を為す可し

二 原告若くは被告の出頭せさるか為に証拠調の全部又は一分を為すことを得さる場合に於ては其追完又は補充は此か為め訴訟手続の遅滞せさるとき又は挙証者其過失に非すして前期日に出頭する能はさりしことを疏明するときに限り判決に接著する口頭弁論の終結に至るまて申立に因り之を命す

第二百八十五条 裁判所は事件の未た判決を為すに熟せすと認むるときは証拠調の補充を決定することを得

第二百八十六条 証拠調又は其続行の為め新期日を定むる必要あるときは挙証者又は当事者双方前期日に出頭せさりしときと雖も職権を以て之を定む

第二百八十七条 受訴裁判所に於て証拠調を為すときは其期日は同時に口頭弁論を続行する期日なりとす

二 受命判事又は受託判事の面前に於て証拠調を為す可きことを命したるときは受訴裁判所は証拠決定中に併せて口頭弁論続行の期日を定むることを得若し之を定めさるときは証拠調の終結後職権を以て其期日を定め之を当事者に通知す可し

第二百八十八条 挙証者は裁判所の定むる期間内に証拠調の費用を予納す可し若し其期間内に予納せさるときは証拠調を為さす但期間の満了後と雖も予納したるときは訴訟手続の遅滞を生せさる場合に限り証拠調を許す

   第六節 人証

第二百八十九条 何人を問はす法律に別段の規定なき限りは民事訴訟に関し裁判所に於て証言する義務あり

第二百九十条 官吏、公吏は退職の後と雖も其職務上黙秘す可き義務ある事情に付ては其所属庁又は其最後の所属庁の許可を得たるときに限り証人として之を訊問することを得大臣に付ては勅許を得ることを要す

二 此許可は証言か国家の安寧を害する恐あるときに限り之を拒むことを得

三 右許可は受訴裁判所より之を求め且証人に之を通知す可し

第二百九十一条 人証の申出は証人を指名し及ひ証人の訊問を受く可き事実を表示して之を為す

第二百九十二条 証人の呼出状には左の諸件を具備することを要す

第一 証人及ひ当事者の表示

第二 証拠決定の旨趣に依り訊問を為す可き事実の表示

第三 証人の出頭す可き場所及ひ日時

第四 出頭せさるときは法律に依り処罰す可き旨

第五 裁判所の名称

第二百九十三条 予備、後備の軍籍に在らさる軍人、軍属を証人として呼出すには其所属の長官又は隊長に嘱託して之を為す其長官又は隊長は期日を遵守せしむる為に其呼出を受けたる者の闕勤を許す可し若し軍務上之を許す能はさるときは其旨を裁判所に通知し且他の期日を定むる求を為す義務あり

第二百九十四条 合式に呼出されたる証人にして正当の理由なく出頭せさる者に対しては申立なしと雖も決定を以て其不参に因り生したる費用の賠償及ひ二十円以下の罰金を言渡す可し

二 証人か再度出頭せさる場合に於ては更に費用の賠償及ひ罰金を言渡す可し又其勾引を命することを得

三 証人は右の決定に対して抗告を為すことを得此抗告は執行を停止する効力を有す

四 予備、後備の軍籍に在らさる軍人、軍属に対する罰金の言渡及ひ執行は軍事裁判所又は所属の長官又は隊長に嘱託して之を為す其勾引に付ても亦同し

第二百九十五条 証人其出頭せさりしことを後日に正当の理由を以て弁解するときは罰金及ひ賠償の決定を取消す可し

二 証人の不参届及ひ決定取消の申請は書面又は口頭を以て之を為すことを得

第二百九十六条 皇族証人なるときは受命判事又は受託判事其所在に就き訊問を為す

二 各大臣に付ては其官庁の所在地に於て之を訊問す若し其所在地外に滞在するときは其現在地に於て之を訊問す

三 帝国議会の議員に付ては開会期間其議会の所在地に滞在中は其所在地に於て之を訊問す

第二百九十七条 左に掲くる者は証言を拒むことを得

第一 原告若くは被告又は其配偶者と親族なるとき但姻族に付ては婚姻の解除したるときと雖も亦同し

第二 原告若くは被告の後見を受くる者

第三 原告若くは被告と同居する者又は雇人として之に仕ふる者

二 裁判長は訊問前に前項の者に証言を拒む権利ある旨を告く可し

第二百九十八条 左の場合に於ては証言を拒むことを得

第一 官吏、公吏又は官吏、公吏たりし者か其職務上黙秘す可き義務ある事情に関するとき

第二 医師、薬商、穏婆、弁護士、公証人、神職及ひ僧侶か其身分又は職業の為め委託を受けたるに因りて知りたる事実にして黙秘す可きものに関するとき

第三 問に付ての答弁か証人又は前条に掲けたる者の恥辱に帰するか又は其刑事上の訴追を招く恐あるとき

第四 問に付ての答弁か証人又は前条に掲けたる者の為め直接に財産権上の損害を生せしむ可きとき

第五 証人か其技術又は職業の秘密を公にするに非されは答弁すること能はさるとき

第二百九十九条 証人は第二百九十七条第一号及ひ第二百九十八条第四号の場合に於て左の事項に付き証言を拒むことを得す

第一 家族の出産、婚姻又は死亡

第二 家族の関係に因り生する財産事件に関する事実

第三 証人として立会ひたる場合に於ける権利行為の成立及ひ旨趣

第四 原告若くは被告の前主又は代理人として係争の権利関係に関し為したる行為

二 前条第一号、第二号に掲けたる者其黙秘す可き義務を免除せられたるときは証言を拒むことを得す

第三百条 証言を拒む証人は其訊問の期日前に書面又は口頭を以て又は期日に於て其拒絶の原因たる事実を開示し且之を疏明す可し

二 期日前に証言を拒みたる証人は期日に出頭する義務なし

三 裁判所書記は拒絶の書面を受領し又は其陳述に付き調書を作りたるときは之を当事者に通知す可し

第三百一条 拒絶の当否に付ては受訴裁判所当事者を審訊したる後決定を以て其裁判を為す但第二百九十八条第一号の場合に於て為したる拒絶の当否に付ては所属庁又は最後の所属庁の裁定に任す

二 原告若くは被告か出頭せさるときは出頭したる者の申述を斟酌して決定を為す

三 右決定に対しては即時抗告を為すことを得此抗告は執行を停止する効力を有す

第三百二条 原因を開示せすして証言を拒み又は開示したる原因の棄却確定したる後に之を拒みたるときは申立を要せすして決定を以て証人に対し其拒絶に因りて生したる費用の賠償及ひ四十円以下の罰金を言渡す

二 証人は費用の賠償及ひ罰金の言渡に対し抗告を為すことを得此抗告は執行を停止する効力を有す

三 予備、後備の軍籍に在らさる軍人、軍属に対する罰金の言渡及ひ執行は軍事裁判所に嘱託して之を為す

第三百三条 原告若くは被告は相手方と相手方の証人との間に第二百九十七条第一号乃至第三号の関係あるときは其証人を忌避することを得

第三百四条 忌避の申請は証人の訊問前に之を為す可し此時限後は其前に忌避の原因を主張するを得さりしことを疏明するときに限り其証人を忌避することを得

二 忌避の申請は書面又は口頭を以て之を為すことを得

三 忌避の原因は之を疏明す可し

第三百五条 忌避の申請に付ての裁判は口頭弁論を経すして之を為すことを得

二 忌避の原因ありと宣言する決定に対しては上訴を為すことを得す忌避の原因なしと宣言する決定に対しては即時抗告を為すことを得

第三百六条 各証人には其携帯す可き呼出状其他適当の方法を以て人違ならさることを判然ならしめたる後訊問前各別に宣誓を為さしむ可し

二 然れとも宣誓は特別の原因あるとき殊に之を為さしむ可きや否やに付き疑の存するときは訊問の終るまて之を延ふることを得

第三百七条 証人は訊問前に宣誓を為す可き場合に於ては良心に従ひ真実を述ヘ何事をも黙秘せす又何事をも附加せさる旨の誓を宣ふ可し

二 又訊問後に宣誓を為す可き場合に於ては良心に従ひ真実を述ヘ何事をも黙秘せす又何事をも附加せさりし旨の誓を宣ふ可し

第三百八条 判事は宣誓前に相当なる方法を以て宣誓者に偽証の罰を諭示す可し

第三百九条 宣誓を拒む証人に付ては第三百条乃至第三百二条の規定を適用す

第三百十条 左の者は宣誓を為さしめすして参考の為め之を訊問することを得

第一 訊問の時未た満十六歳に達せさる者

第二 宣誓の何物たるやを了解するに必要なる精神上の発達の欠くる者

第三 刑事上の判決に因り公権を剥奪又は停止せられたる者

第四 第二百九十七条及ひ第二百九十八条第三号並に第四号の規定に依り証言を拒絶する権利ありて之を行使せさる者但第二百九十八条第三号並に第四号の場合に於ては拒絶の権利に関する事実に付き証言を為す可きことを申立てられたるときに限る

第五 訴訟の成績に直接の利害関係を有する者

第三百十一条 証人訊問は後に訊問す可き証人の在らさる場所に於て各別に之を為す

二 証人の供述互に齟齬したるときは之を対質せしむることを得

第三百十二条 証人訊問は証人に其氏名、年齢、身分、職業及ひ住居を問ふを以て始まる又必要なる場合に於ては其事件に於て証言の信用に関する事情殊に当事者との関係に付ての問を為す可し

第三百十三条 証人には其訊問事項に付き知りたるものを牽連して供述せしむ可し

二 証人の供述を明白及ひ完全ならしめ且其知り得たる原因を穿鑿する為め必要なる場合に於ては尚ほ他の問を発す可し

第三百十四条 証人は其供述に換ヘて書類を朗読し其他覚書を用いることを得す但算数の関係に限り覚書を用いることを得

第三百十五条 陪席判事は裁判長に告けて証人に問を発することを得

二 当事者は証人に対し自ら問を発することを得す然れとも当事者は証人の供述を明白ならしむる為に其必要なりとする問を発せんことを裁判長に申立つることを得

三 発問の許否に付き異議あるときは裁判所は直ちに之を裁判す

第三百十六条 調書には証人か其訊問の前若くは後に宣誓したるや又は宣誓せすして訊問を受けたるやを記載す可し

第三百十七条 受訴裁判所は左の場合に於て証人の再訊問を命することを得

第一 証人訊問か法律上の規定に違ひたるとき

第二 証人訊問の完全ならさるとき

第三 証人の供述か明白ならす又は両義に渉るとき

第四 証人か其供述の補充又は更正を申立つるとき

第五 此他裁判所か再訊問を必要とするとき

第三百十八条 左の場合に於て証人に依れる証拠調は受訴裁判所の部員一名に之を命し又は区裁判所に之を嘱託することを得

第一 真実を探知する為め現場に就き証人を訊問するの必要なるとき

第二 証人か疾病其他の事由の為め受訴裁判所に出頭する能はさるとき

第三 証人か受訴裁判所の所在地より遠隔の地に在りて其裁判所に出頭するに付き不相応の時日及ひ費用を要するとき

第三百十九条 第二百九十四条、第二百九十五条、第三百二条及ひ第三百九条に掲けたる証人に対する受訴裁判所の権は受命判事又は受託判事にも属す

二 証人か受命判事又は受託判事の面前に於て理由を開示して証言を拒み又は宣誓を拒み又は職権若くは申立に因り発したる問に答ふることを拒むときは此拒絶の当否に付き裁判を為す権は受訴裁判所に属す

三 受命判事又は受託判事か原告若くは被告より申立てたる問を発することを否むときは原告若くは被告は其当否に付き受訴裁判所の裁判を求むることを得

四 証人の再訊問は受命判事又は受託判事の意見を以て之を命することを得

第三百二十条 証人を申出てたる原告若くは被告は其訊問の開始まては此証拠方法を抛棄することを得其後は相手方の承諾を得るときに限り之を抛棄することを得

第三百二十一条 各証人は日当の弁済及ひ其出頭の為に旅行を要するときは旅費の弁済を請求することを得

二 此金額の払渡は訊問期日の終りたる後直ちに之を求むることを得

三 挙証者の予納したる金額不足するときは職権を以て其不足額を取立つ可し

   第七節 鑑定

第三百二十二条 鑑定に付ては以下数条に於て別段の規定を設けさる限りは人証に付ての規定を準用す

第三百二十三条 鑑定の申出は鑑定す可き事項を表示して之を為す

第三百二十四条 立会ふ可き鑑定人の選定及ひ其員数の指定は受訴裁判所之を為す其裁判所は鑑定人の任命を一名まてに制限し又は何時にても既に任命したる者に代ヘ他の鑑定人を任命することを得

二 裁判所は鑑定人として訊問を受くるに適当なる者を指名す可き旨を当事者に催告することを得

三 当事者か一定の者を鑑定人に為すことを合意したるときは裁判所は其合意に従ふ可し然れとも裁判所は当事者の為す可き選定を一定の員数に制限することを得

第三百二十五条 外国の書類又は産物の審査を要する場合に於て必要なる能力を有する本邦人の在らさるときは裁判所は外国人を鑑定人に任命することを得

第三百二十六条 左に掲くる者鑑定を命せられたるときは之を為す義務あり

第一 必要なる種類の鑑定を為す為に公に任命せられたる者

第二 鑑定を為すに必要なる学術、技芸若くは職業に常に従事する者又は学術、技芸若くは職業に従事する為に公に任命せられ若くは授権せられたる者

二 右の外鑑定を為す可き旨を裁判所に於て述ヘたる者は鑑定人たる義務なきときと雖も鑑定を為す義務あり

第三百二十七条 鑑定人は証人か証言を拒むことを得ると同一の原因に依り鑑定を拒む権利あり

二 官吏、公吏は其所属庁に於て異議あるときは之を鑑定人として訊問することを得す

第三百二十八条 鑑定を為す義務ある鑑定人出頭せす又は鑑定を拒みたる場合に於ては其者に対し此か為に生したる費用の賠償及ひ罰金を言渡す可し但其鑑定人を勾引することを得す

第三百二十九条 鑑定人は其鑑定を為す前に其鑑定人たる義務を公平且誠実に履行す可き旨の誓を宣ふ可し

第三百三十条 受訴裁判所は其意見を以て左の諸件を定む可し

第一 鑑定人の意見は口頭又は書面にて之を述ヘしむ可きや

第二 数名の鑑定人を訊問す可き場合に於て各意見か異なるときは共同にて鑑定書を作らしむ可きや又は各別に之を作らしむ可きや

第三 口頭弁論の際鑑定人の総員又は其一名をして鑑定書を説明せしむ可きや

第四 鑑定の結果か不十分なるときは同一又は他の鑑定人をして再ひ鑑定を為さしむ可きや

第三百三十一条 受訴裁判所は鑑定人の任命を受命判事又は受託判事に委任することを得此場合に於ては受命判事又は受託判事は第三百二十四条及ひ第三百三十条第一号並に第二号の規定に依り受訴裁判所に属する権を有す

第三百三十二条 鑑定人は日当、旅費及ひ立替金の弁済を請求することを得

二 此場合に於ては第三百二十一条の規定を準用す

第三百三十三条 特別の智識を要せし過去の事実又は事情にして其実験ある者の訊問に因りて確定す可きときは人証に付ての規定を適用す

   第八節 書証

第三百三十四条 書証の申出は証書を提出して之を為す

第三百三十五条 挙証者其使用せんとする証書か相手方の手に存する旨を主張するときは書証の申出は相手方に其証書の提出を命せんことを申立てて之を為す可し

第三百三十六条 相手方は左の場合に於て証書を提出する義務あり

第一 挙証者か民法の規定に従ひ訴訟外に於ても証書の引渡又は其提出を求むることを得るとき

第二 証書か其旨趣に因り挙証者及ひ相手方に共通なるとき

第三百三十七条 相手方は其手に存する証書にして其訴訟に於て挙証の為め引用したるものを提出する義務あり準備書面中にのみ引用したるときと雖も亦同し

第三百三十八条 証書の提出を命せんことの申立には左の諸件を掲く可し

第一 証書の表示

第二 証書に依り証す可き事実の表示

第三 証書の旨趣

第四 証書か相手方の手に存する旨を主張する理由たる事情

第五 証書を提出す可き義務の原因の表示

第三百三十九条 裁判所は証書に依り証す可き事実の重要にして且申立を正当なりと認むる場合に於て相手方か証書の其手に存することを自白するとき又は申立に対し陳述せさるときは証拠決定を以て証書の提出を命す

第三百四十条 相手方か証書を所持せさる旨を申立つるときは此申立の真実なるや否やを定むる為め又は証書の所在を穿鑿する為め又は挙証者の使用を妨くる目的を以て故意に証書を隠匿し若くは使用に耐ヘさらしめたるや否やを穿鑿する為め本章第十節の規定に従ひて相手方本人を訊問す可し

二 相手方か官庁なるときは証書か其官庁の保蔵に係らす又は其所在を開示することを得さる旨の長官の証明書を以て訊問に換ふ裁判所は此証明書を差出さしむる為め相当の期間を定む可し

第三百四十一条 証書を所持することを自白し又は之を所持せすと申立てさる相手方か其証書を提出す可しとの命に従はす又は相手方か所持せすと申立てたる証書に付き訊問を受けて供述を為すことを拒みたるとき又は挙証者の使用を妨くる目的を以て故意に証書を隠匿し若くは使用に耐ヘさらしめたることの明確なるときは挙証者の差出したる証書の謄本を正当なるものと看做す若し謄本を差出ささるときは裁判所は其意見を以て証書の性質及ひ旨趣に付き挙証者の主張を正当なりと認むることを得

二 前条第二項に掲けたる証明書を裁判所の定めたる期間内に差出ささるときは相手方たる官庁に対し前項と同一の結果を生す

第三百四十二条 挙証者其使用せんとする証書か第三者の手に存する旨を主張するときは書証の申出は其証書を取寄する為め期間を定めんことを申立てて之を為す

第三百四十三条 第三者は挙証者の相手方に於けると同一なる理由に因り証書を提出する義務あり然れとも強て証書を提出せしむることは訴を以てのみ之を為すことを得

第三百四十四条 第三百四十二条に従ひ申立を為すには第三百三十八条第一号乃至第三号及ひ第五号の要件を履み且証書か第三者の手に存することを疏明す可し

第三百四十五条 証書に依り証す可き事実の重要にして且其申立か前条の規定に適するときは裁判所は証書提出の期間を定む可し

二 第三者に対する訴訟の完結したるとき又は挙証者か訴の提起、訴訟の継続又は強制執行を遅延したるときは相手方は前項の期間の満了前と雖も訴訟手続の継続を申立つることを得

第三百四十六条 挙証者其使用せんとする証書か官庁又は公吏の手に存する旨を主張するときは書証の申出は証書の送付を官庁又は公吏に嘱託せられんことを申立てて之を為す

二 此規定は当事者か法律上の規定に従ひ裁判所の助力なくして取寄することを得ヘき証書には之を適用せす

三 官庁又は公吏か第三百三十六条の規定に基き証書を提出する義務ある場合に於て其送付を拒むときは第三百四十二条乃至第三百四十五条の規定を適用す

第三百四十七条 証拠決定を為したる後第三百四十二条及ひ第三百四十六条の規定に従ひ書証を申出てたる場合に於て証書取寄の手続の為に訴訟の完結を遅延するに至る可く且裁判所に於て原告若くは被告か訴訟を遅延する故意を以て又は甚しき怠慢に因り書証を早く申出てさりしことの心証を得たるときは申立に因り其書証の申出を却下することを得

第三百四十八条 口頭弁論の際証書を提出するに於ては其毀損若くは紛失の恐あり又は他の顕著なる障碍あるときは受命判事又は受託判事の面前に証書を提出す可き旨を命することを得

二 受命判事又は受託判事は証書の明細書及ひ其謄本を調書に添附し又証書の一分のみ必要なるときは第百七条第二項の規定に従ひて作りたる抄本を之に添附す可し

第三百四十九条 公正証書は正本又は認証を受けたる謄本を以て之を提出することを得然れとも裁判所は挙証者に正本の提出を命することを得

二 私署証書は原本を以て之を提出す可し若し当事者か未た提出せさる原本の真正に付き一致し只其証書の効力又は解釈に付てのみ争を為すときは謄本を提出するを以て足る然れとも裁判所は職権を以て挙証者に原本の提出を命することを得

三 提出したる謄本に換ヘて正本又は原本を提出す可き旨の命に従はさるときは裁判所は心証を以て謄本に如何なる証拠力を付す可きやを裁判す

第三百五十条 挙証者は証書を提出したる後は相手方の承諾を得るときに限り此証拠方法を抛棄することを得

第三百五十一条 公正証書又は検真を経たる私署証書を偽造若くは変造なりと主張する者は其証書の真否を確定せんことの申立を為す可し

二 此場合に於ては裁判所は其証書の真否に付き中間判決を以て裁判を為す可し

第三百五十二条 私署証書の真否に付き争あるときは裁判所は挙証者の申立に因り検真を為すことを得

第三百五十三条 私署証書の検真は総ての証拠方法及ひ手跡若くは印章の対照に因りて之を為す

二 証書の真否を証せんとする当事者は裁判所の定むる期間内に手跡若くは印章を対照する為に適当なる書類を提出す可し

三 真正なりと自白又は証明したる適当の対照書類なきときは対照の為め原告若くは被告に対し裁判所に於て一定の語辞の手記を命することを得其手記したる語辞は調書の附録として之に添附す可し

四 裁判所は手跡若くは印章を対照したる結果に付き自由なる心証を以て裁判を為し又必要なる場合に於ては鑑定を為さしめたる後之を為す

五 原告若くは被告か裁判所の定めたる期間内に対照書類を提出せさるとき又は対照す可き語辞を手記す可き裁判所の命に対し十分なる弁解を為さすして之に従はさるとき又は書様を変して手記したるときは証書の真否に付ての相手方の主張は其他の証拠を要せすして之を真正なりと看做すことを得

第三百五十四条 提出したる証書は直ちに之を還付し又適当なる場合に於ては其謄本を記録に留めて之を還付す可し

二 然れとも証書の偽造又は変造なりと争ふときは検事の意見を聴きたる後に非されは之を還付することを得す

第三百五十五条 公正証書の偽造若くは変造なることを真実に反きて主張したる原告若くは被告に悪意若くは重過失の責あるときは五十円以下の過料を言渡す

二 又私署証書の真正なることを真実に反きて争ふときは前項と同一なる条件を以て二十円以下の過料を言渡す

第三百五十六条 本節の規定は事件の性質に於て許す限りは事跡の紀念又は権利の証徴の為め作りたる割符、界標等の如きものにも之を準用す

   第九節 検証

第三百五十七条 検証の申出は検証物を表示し及ひ証す可き事実を開示して之を為す

第三百五十八条 受訴裁判所は検証を為すに際し鑑定人の立会を命することを得

二 受訴裁判所は検証及ひ鑑定人の任命を其部員一名に命し又は区裁判所に嘱託することを得

第三百五十九条 検証を為す際発見したる事項は調書に記載して之を明確ならしめ又必要なる場合に於ては調書の附録として添附す可き図面を作り之を明確ならしむ可し

二 若し既に記録に図面の存するときは之を検証物に対照し必要なる場合に於ては之を更正す可し

   第十節 当事者本人の訊問

第三百六十条 当事者の提出したる許す可き証拠を調ヘたる結果に因り証す可き事実の真否に付き裁判所か心証を得るに足らさるときは申立に因り又は職権を以て原告若くは被告の本人を訊問することを得

第三百六十一条 裁判所は原告若くは被告を訊問することを決定し且原告若くは被告の自身か決定言渡の際在廷するときは直ちに其訊問を為すを以て通例とす

第三百六十二条 訊問を受くる原告若くは被告は供述に換ヘて書類を朗読し其他覚書を用いることを得す但算数の関係に限り覚書を用いることを得

第三百六十三条 原告若くは被告か十分なる理由なくして供述することを拒み又は訊問期日に出頭せさるときは裁判所は其意見を以て訊問に因りて挙証す可き相手方の主張を正当なりと認むることを得

第三百六十四条 訴訟無能力者の法律上代理人か訴訟を為すときは法律上代理人若くは訴訟無能力者を訊問す可きや又は此等の者を共に訊問す可きや裁判所の意見を以て之を決定す

二 法律上代理人数人あるときは其一人を訊問す可きや又は数人を訊問す可きやも亦前項に同し

   第十一節 証拠保全

第三百六十五条 証拠を紛失する恐あり又は之を使用し難き恐あるときは証拠保全の為め証人若くは鑑定人の訊問又は検証を申立つることを得

第三百六十六条 訴訟か既に繋属したるときは此申請は受訴裁判所に之を為す可し

二 切迫なる危険の場合に於ては訊問を受く可き者の現在地又は検証す可き物の所在地を管轄する区裁判所に申請を為すことを得

三 訴訟の未た繋属せさるときは前項に記載したる区裁判所に申請を為すことを要す

四 右申請は書面又は口頭を以て之を為すことを得

第三百六十七条 申請には左の諸件を具備することを要す

第一 相手方の表示

第二 証拠調を為す可き事実の表示

第三 証拠方法殊に証人若くは鑑定人の訊問を為す可きときは其表示

第四 証拠を紛失する恐あり又は之を使用し難き恐ある理由此理由は之を疏明す可し

第三百六十八条 申請に付ての決定は口頭弁論を経すして之を為すことを得

二 申請を許容する決定には証拠調を為す可き事実及ひ証拠方法殊に訊問す可き証人若くは鑑定人の氏名を記載す可し此決定に対しては不服を申立つることを得す

第三百六十九条 証拠調の期日には申立人を呼出し又決定及ひ申請の謄本を送達して其権利防衛の為に相手方をも呼出す可し

二 切迫なる危険の場合に於ては適当なる時間に相手方を呼出すことを得さりしときと雖も証拠調を妨くること無し

第三百七十条 証拠調は本章第六節、第七節及ひ第九節の規定に従ひて之を為す

二 証拠調の調書は証拠調を命したる裁判所に之を保存す可し各当事者は証拠調の調書を訴訟に於て使用する権利あり

三 受訴裁判所は申立に因り又は職権を以て再度の証拠調を命し又は既に調ヘたる証拠の補充を命することを得

第三百七十一条 証拠調は第三百六十五条の条件なきときと雖も相手方の承諾に因り之を許すことを得

第三百七十二条 申立人か相手方を指定せさるときは申立人自己の過失に非すして相手方を指定し能はさることを疏明する場合に限り其申請を許す

二 申請を許容したるときは裁判所は其知れさる相手方の権利防衛の為に臨時代理人を任することを得

  第二章 区裁判所の訴訟手続

   第一節 通常の訴訟手続

第三百七十三条 区裁判所の通常の訴訟手続に付ては区裁判所の構成又は第一編及ひ本節の規定に依り差異の生せさる限りは地方裁判所の訴訟手続に付ての規定を適用す

第三百七十四条 訴は書面又は口頭を以て裁判所に之を為すことを得

第三百七十五条 起訴ありたるときは裁判所書記は訴状を被告に送達する手続を為す

二 準備書面の交換は之を為すことを要せす

第三百七十六条 原告若くは被告は其申立及ひ事実上の主張にして予め通知するに非されは相手方に於て之に対し陳述を為し得ヘからさるものを口頭弁論の前直接に相手方に通知することを得

第三百七十七条 口頭弁論の期日と訴状送達との間に少なくとも三日の時間を存することを要す急迫なる場合に於ては此時間を二十四時まてに短縮することを得

二 送達を外国に於て為す可きときは事情に応して時間を定む可し

第三百七十八条 当事者は通常の裁判日に於ては予め期日の指定なくして裁判所に出頭し訴訟に付き弁論を為すことを得

二 此場合に於て訴の提起は口頭の演述を以て之を為す

第三百七十九条 数箇の妨訴の抗弁を本案の弁論前同時に提出す可き規定は裁判所管轄違の抗弁に限り之を適用す

二 被告は妨訴の抗弁に基き本案の弁論を拒む権利なし然れとも裁判所は職権を以て右抗弁に付き分離したる弁論を命することを得

第三百八十条 第二百二十二条、第二百六十六条乃至第二百七十二条の規定は区裁判所の訴訟手続に之を適用せす

二 然れとも原告若くは被告の申立及ひ陳述は裁判所の意見に従ひ訴訟関係を十分に明確ならしむる為め必要なるものに限り調書を以て之を明確ならしむ可し

第三百八十一条 訴を起さんとする者は和解の為め請求の目的物を開示して相手方を其普通裁判籍を有する区裁判所に呼出す可きことを申立つることを得其申立は書面又は口頭を以て之を為すことを得

二 当事者双方出頭し和解の調ひたるときは調書を以て之を明確ならしむ可し

三 和解の調はさるときは当事者双方の申立に因り其訴訟に付き直ちに弁論を為す此場合に於ける訴の提起は口頭の演述を以て之を為す

四 相手方か出頭せす又は和解の調はさるときは此か為に生したる費用は訴訟費用の一分と看做す

   第二節 督促手続

第三百八十二条 一定の金額の支払其他の代替物若くは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求に付き債権者は通常の訴訟手続に依らすして督促手続に依り条件附の支払命令を債務者に対し発せんことを申立つることを得

二 申請の旨趣に依れは申請者反対給付を為すに非されは其請求を主張することを得さるとき又は支払命令の送達を外国に於て為し若くは公示送達を以て為す可きときは督促手続を許さす

第三百八十三条 支払命令は区裁判所之を発す

二 此命令は区裁判所の第一審の事物の管轄の制限なきものと看做し通常の訴訟手続に於ける訴の提起に付き普通裁判籍又は不動産上裁判籍の属す可き区裁判所の管轄に専属す

第三百八十四条 支払命令を発することの申請は書面又は口頭を以て之を為すことを得

二 此申請は左の諸件を具備することを要す

第一 当事者及ひ裁判所の表示

第二 請求の一定の数額、目的物及ひ原因の表示若し請求の数箇なるときは其各箇の一定の数額、目的物及ひ原因の表示

第三 支払命令を発せんことの申立

第三百八十五条 裁判所は申請を調査し其申請か前三条の規定に適当せす又は申請の旨趣に於て請求の理由なく又は現時理由なきことの顕はるるときは其申請を却下す

二 請求の一分のみに付き支払命令を発することを得さるときは亦其申請を却下す然れとも数箇の請求中或るものに理由なくして其他のものに理由ありと見ゆるときは其理由ありと見ゆるものに限り申請を許容す

三 右却下の命令に対しては不服を申立つることを得す然れとも通常の訴訟手続に依り訴追するを妨くること無し

第三百八十六条 支払命令は予め債務者を審訊せすして之を発す

二 支払命令には第三百八十四条第一号及ひ第二号に掲けたる申請の要件を記載し且即時の強制執行を避けんと欲せは此命令送達の日より十四日の期間内に請求を満足せしめ及ひ其手続の費用に付き定むる数額を債権者に弁済す可く又は裁判所に異議を申立つ可き旨の債務者に対する命令を記載す可し

三 前項の期間は為替より生する請求に付ては二十四時間其他の請求に付ては申立に因り三日まてに之を短縮することを得

第三百八十七条 権利拘束の効力は支払命令を債務者に送達するを以て始まる

二 支払命令の送達は之を債権者に通知す可し

第三百八十八条 債務者は支払命令に対し書面又は口頭を以て異議の申立を為すことを得

第三百八十九条 債務者か請求の全部又は一分に対し適当なる時間に異議を申立つるときは支払命令の効力を失ふ然れとも権利拘束の効力を存続す

二 数箇の請求中或るものに対し異議を申立てたるときは支払命令は其他の請求及ひ之に相当する費用の部分に付き効力を有す

第三百九十条 適当なる時間に異議を申立てたる場合に於て請求に付き起す可き訴か区裁判所の管轄に属するときは其訴は支払命令の送達と同時に区裁判所に之を起したるものと看做す其口頭弁論の期日は第三百七十七条の規定に従ひて之を定む

第三百九十一条 請求に付き起す可き訴か地方裁判所の管轄に属する場合に於ては適当なる時間に異議の申立ありたることを債権者に通知す可し

二 債権者其通知書の送達ありたる日より起算し一个月の期間内に管轄裁判所に訴を起ささるときは権利拘束の効力を失ふ

第三百九十二条 督促手続の費用は適当なる時間に異議の申立ありたる場合に於ては起す可き訴訟の費用の一分と看做す

二 前条の場合に於て期間内に訴を起ささるときは手続の費用は債権者の負担に帰す

第三百九十三条 支払命令は其命令中に掲けたる期間の経過後債権者の申請に因り之を仮に執行し得ヘきことを宣言す但仮執行の宣言前債務者異議を申立てさるときに限る

二 右仮執行の宣言は支払命令に付す可き執行命令を以て之を為す其執行命令には債権者に於て計算する手続の費用を掲く可し

三 債権者の申請を却下する決定に対しては即時抗告を為すことを得

第三百九十四条 執行命令は仮執行の宣言を付したる闕席判決と同一なりとす其執行命令に対しては第二百五十五条乃至第二百六十四条の規定に従ひて故障を申立つることを得請求か区裁判所の管轄に属せさるときは区裁判所は其故障を法律上の方式及ひ期間に於て申立てたるやの点のみに付き弁論及ひ裁判を為す此場合に於ては第三百九十一条第二項に定めたる期間は故障を許す判決の確定を以て始まる

第三百九十五条 時期に後れて申立てたる異議は命令を以て之を却下す

二 此却下の命令に対しては不服を申立つることを得す

 第三編 上訴

  第一章 控訴

第三百九十六条 控訴は区裁判所又は地方裁判所の第一審に於て為したる終局判決に対して之を為す

第三百九十七条 終局判決前に為したる裁判は亦控訴裁判所の判断を受く但此法律に於て不服を申立つることを得すと明記したるとき又は抗告を以て不服を申立つることを得るときは此限に在らす

第三百九十八条 闕席判決に対しては期日を懈怠したる者より控訴を以て不服を申立つることを得す但故障を許ささる闕席判決に対しては懈怠なかりしことを理由とするときに限り控訴を以て不服を申立つることを得

第三百九十九条 控訴は口頭弁論の前に於ては被控訴人の承諾なくして之を取下くることを得

二 控訴の取下は上訴権を喪失する結果を生す

第四百条 控訴期間は一个月とす此期間は不変期間にして判決の送達を以て始まる

二 判決の送達前に提起したる控訴は無効とす

三 第二百四十二条の規定に従ひ控訴期間内に追加裁判を以て判決を補充したるときは控訴期間の進行は最初の判決に対する控訴に付ても追加裁判の送達を以て始まる

第四百一条 控訴の提起は控訴状を控訴裁判所に差出して之を為す

二 此控訴状には左の諸件を具備することを要す

第一 控訴せらるる判決の表示

第二 此判決に対し控訴を為す旨の陳述

三 此他控訴状は準備書面に関する一般の規定に従ひて之を作り且判決に対し如何なる程度に於て不服なるや及ひ判決に付き如何なる変更を為す可きやの申立を掲け若し新に主張せんとする事実及ひ証拠方法あるときは其新なる事実及ひ証拠方法をも掲く可し

第四百二条 判然許す可からさる控訴又は判然法律上の方式に適せす若くは其期間の経過後に起したる控訴は裁判長の命令を以て之を却下す

二 此却下の命令に対しては即時抗告を為すことを得

第四百三条 控訴状の送達と口頭弁論の期日との間に存することを要する時間に付ては第百九十四条の規定を適用し答弁書を差出す可き期間の催告に付ては第百九十九条の規定を適用す

二 前項の場合に於ても亦第二百三条の規定を適用することを得

第四百四条 答弁書は準備書面に関する一般の規定に従ひて之を作り且被控訴人の一定の申立及ひ其主張せんとする新なる事実及ひ証拠方法を掲く可し

第四百五条 被控訴人は自己の控訴を抛棄したるとき又は控訴期間の経過したるときと雖も附帯控訴を為すことを得

二 闕席判決に対し附帯控訴を以て不服を申立つることに付ては第三百九十八条の規定に従ふ

第四百六条 左の場合に於ては附帯控訴は其効力を失ふ

第一 控訴を不適法として判決を以て棄却したるとき

第二 控訴を取下けたるとき

二 然れとも被控訴人か控訴期間内に附帯控訴を為したるときは之を独立の控訴と看做す

第四百七条 答弁書に新なる事実若くは証拠方法を掲け又は附帯控訴を為す旨の陳述を掲けたるときは之を控訴人に送達す可し

第四百八条 右の外控訴の訴訟手続には地方裁判所の第一審の訴訟手続の規定を準用す但本章の規定に依り差異の生するものは此限に在らす

第四百九条 当事者の双方より控訴を起したるときは其両控訴に付き弁論及ひ裁判を同時に為すを以て通例とす

第四百十条 口頭弁論は其期日に於て被控訴人の控訴期間の未た経過せさるときは其申立に因り期間の満了まて之を延期す

二 闕席判決を受けたる原告若くは被告より其判決に対し故障を申立て相手方より控訴を起したるときは控訴に付ての弁論及ひ裁判は故障の完結まて職権を以て之を延期す

第四百十一条 控訴裁判所に於ける訴訟は不服の申立に因り定まりたる範囲内に於て更に之を弁論す

第四百十二条 当事者は其控訴の申立及ひ不服を申立てられたる裁判の当否を明瞭ならしむる為め必要なる限りは口頭弁論の際第一審に於ける弁論の結果を演述す可し

二 演述の不正確又は不完全なる場合に於ては裁判長は其更正若くは補完を為さしめ又必要なる場合に於ては弁論を再開して之を為さしむ可し

第四百十三条 訴の変更は相手方の承諾あるときと雖も之を許さす

第四百十四条 妨訴の抗弁は職権を以て調査す可からさるものにして且原告若くは被告か其過失に非すして第一審に於て提出し能はさりしことを疏明するときに限り之を主張することを得

二 本案の弁論は妨訴の抗弁に基き之を拒むことを得す然れとも裁判所は職権を以て妨訴の抗弁に付き分離したる弁論を命することを得

第四百十五条 当事者は第一審に於て主張せさりし攻撃防御の方法殊に新なる事実及ひ証拠方法を提出することを得

第四百十六条 新なる請求は第百九十六条第二号及ひ第三号の場合又は相殺することを得ヘきものにして且原告若くは被告か其過失に非すして第一審に於て提出し能はさりしことを疏明するときに限り之を起すことを得

第四百十七条 事実又は証書に付き第一審に於て為ささりし陳述又は拒みたる陳述は第二審に於て之を為すことを得

第四百十八条 第一審に於て為したる裁判上の自白は第二審に於ても亦其効力を有す

第四百十九条 控訴裁判所は控訴を許す可きや否や又控訴を法律上の方式に従ひ若くは其期間に於て起したるや否やを職権を以て調査す可し若し此要件の一を欠くときは判決を以て控訴を不適法として棄却す可し

第四百二十条 第一審の裁判は変更を申立てたる部分に限り之を変更することを得

第四百二十一条 第一審に於て是認し又は非認したる請求に関する総ての争点にして申立に従ひ弁論及ひ裁判を必要とするものは第一審に於て此争点に付き弁論及ひ裁判を為ささるときと雖も控訴裁判所に於て其弁論及ひ裁判を為す

第四百二十二条 控訴裁判所は左の場合に於て事件に付き尚ほ弁論を必要とするときは其事件を第一審裁判所に差戻す可し

第一 不服を申立てられたる判決か闕席判決なるとき

第二 不服を申立てられたる判決か闕席判決に対する故障を不適法として棄却したるものなるとき

第三 不服を申立てられたる判決か妨訴の抗弁のみに付き裁判を為したるものなるとき

第四 請求か其原因及ひ数額に付き争ある場合に於て不服を申立てられたる判決か先つ其原因に付き裁判を為したるものなるとき

第五 不服を申立てられたる判決か証書訴訟及ひ為替訴訟に於て敗訴の被告に別訴訟を以て追行を為す権を留保したるものなるとき

第四百二十三条 第一審に於て訴訟手続に付ての規定に違背したるときは控訴裁判所は其判決及ひ違背したる訴訟手続の部分を廃棄し事件を第一審裁判所に差戻すことを得

第四百二十四条 控訴を理由なしとするときは判決を以て控訴の棄却を言渡す可し

第四百二十五条 判決を控訴人の不利益に変更することは相手方か控訴又は附帯控訴の方法を以て判決に付き不服を申立てたる部分に限り之を為すことを得

第四百二十六条 第二百十条の規定に従ひて防禦の方法を却下するときは其防禦の方法を主張する権は之を被告に留保す可し

二 判決に此留保を掲けさるときは第二百四十二条の規定に従ひて判決の補充を申立つることを得

三 留保を掲けたる判決は上訴及ひ強制執行に付ては終局判決と看做す

第四百二十七条 防禦の方法にして被告に其主張を留保するものに付ては其訴訟は第二審に繋属す

二 爾後の手続に於て訴を以て主張したる請求の理由なかりしことの顕はるるときは前判決を廃棄して其訴を棄却し且申立に因り判決に基き支払ひたるもの又は給付したるものを返還す可きことを言渡し並に費用に付き裁判を為す可し

第四百二十八条 控訴人か口頭弁論の期日に出頭せさるときは出頭したる被控訴人の申立に因り闕席判決を以て控訴の棄却を言渡す可し

第四百二十九条 被控訴人口頭弁論の期日に出頭せさる場合に於て出頭したる控訴人より闕席判決の申立を為すときは第一審裁判の憑拠と為りたるものに牴触せさる控訴人の事実上の供述は被控訴人之を自白したるものと看做し且第一審裁判所の事実上の確定を補充し若くは弁駁する為め控訴人の申立てたる適法の証拠調は既に之を為し及ひ其結果を得たるものと看做し闕席判決を為す

第四百三十条 判決中の事実の摘示に付ては前審の判決を引用することを得

第四百三十一条 控訴裁判所の書記は控訴状の提出より二十四時間に第一審裁判所の書記に訴訟記録の送付を求む可し

二 控訴完結の後其記録は第二審に於て為したる判決の認証ある謄本と共に第一審裁判所の書記に之を返還す可し

  第二章 上告

第四百三十二条 上告は地方裁判所及ひ控訴院の第二審に於て為したる終局判決に対して之を為す

第四百三十三条 終局判決前に為したる裁判は亦上告裁判所の判断を受く但此法律に於て不服を申立つることを得すと明記したるとき又は抗告を以て不服を申立つることを得るときは此限に在らす

第四百三十四条 上告は法律に違背したる裁判なることを理由とするときに限り之を為すことを得

第四百三十五条 法則を適用せす又は不当に適用したるときは法律に違背したるものとす

第四百三十六条 裁判は左の場合に於ては常に法律に違背したるものとす

第一 規定に従ひ判決裁判所を構成せさりしとき

第二 法律に依り職務の執行より除斥せられたる判事か裁判に参与したるとき但忌避の申請又は上訴を以て除斥の理由を主張したるも其効なかりしときは此限に在らす

第三 判事か忌避せられ且忌避の申請を理由ありと認めたるに拘はらす裁判に参与したるとき

第四 裁判所か其管轄又は管轄違を不当に認めたるとき

第五 訴訟手続に於て原告若くは被告か法律の規定に従ひ代理せられさりしとき

第六 訴訟手続の公行に付ての規定に違背したる口頭弁論に基き裁判を為したるとき

第七 裁判に理由を付せさるとき

第四百三十七条 上告期間は一个月とす此期間は不変期間にして判決の送達を以て始まる

二 判決の送達前に提起したる上告は無効とす

第四百三十八条 上告の提起は上告状を上告裁判所に差出して之を為す

二 此上告状には左の諸件を具備することを要す

第一 上告せらるる判決の表示

第二 此判決に対し上告を為す旨の陳述

三 此他上告状は準備書面に関する一般の規定に従ひて之を作り特に判決に対し如何なる程度に於て不服なるや及ひ判決に付き如何なる程度に於て破毀を為す可きやの申立を掲け且法則を適用せす若くは不当に適用したることを上告の理由とするときは其法則の表示又は訴訟手続に付ての規定に違背したることを上告の理由とするときは其欠缺を明かにする事実の表示又は法律に違背して事実を確定し若くは遺脱し若くは提出したりと看做したることを上告の理由とするときは其事実の表示を掲く可し

第四百三十九条 上告裁判所は上告人を呼出し其陳述を聴き上告を許す可からさるものなるとき又は法律上の方式及ひ期間に於て起ささるとき又は第四百三十四条の規定に依らさるときは判決を以て之を棄却す可し

二 上告人か呼出の期日に出頭せさるときは上告を取下けたるものと看做す但出頭せさりしことを期日より七日の期間内に十分なる理由を以て弁解したるときは更に期日を定む

第四百四十条 上告状の送達と口頭弁論の期日との間に存することを要する時間に付ては第百九十四条の規定を適用し答弁書を差出す可き期間の催告に付ては第百九十九条の規定を適用す

二 前項の場合に於ても亦第二百三条の規定を適用することを得

第四百四十一条 答弁書は準備書面に関する一般の規定に従ひて之を作り且一定の申立を掲く可し

第四百四十二条 被上告人は附帯上告を為すことを得

二 此附帯上告に付ては附帯控訴の規定を準用す

第四百四十三条 答弁書に附帯上告を為す旨の陳述を掲けたるときは之を上告人に送達す可し

第四百四十四条 右の外上告の訴訟手続には地方裁判所の第一審の訴訟手続の規定を準用す但本章の規定に依り差異の生するものは此限に在らす

第四百四十五条 上告裁判所は当事者の為したる申立のみに付き調査を為す

第四百四十六条 上告裁判所は裁判を為すに付き控訴裁判所か其裁判の憑拠としたる事実を標準とす此事実の外は第四百三十八条第三項に掲けたる事実に限り之を斟酌することを得

二 証拠調を必要とするときは上告裁判所は之を命す可し

第四百四十七条 上告を理由ありとするときは不服を申立てられたる判決を破毀す可し

二 訴訟手続に関する規定に違背したるに因り判決を破毀するときは其違背したる部分に限り訴訟手続をも亦破毀す可し

第四百四十八条 判決を破毀する場合に於ては第四百五十一条の規定を除く外更に弁論及ひ裁判を為さしむる為め事件を控訴裁判所に差戻し又は之を他の同等なる裁判所に移送す可し

二 事件の差戻又は移送を受けたる裁判所は新口頭弁論に基き裁判を為すことを要す

第四百四十九条 当事者は破毀せられたる判決の以前に於ける口頭弁論に当り提出することを得ヘかりし事項を新口頭弁論に際し提出する権利あり

第四百五十条 事件の差戻又は移送を受けたる裁判所は上告裁判所の為したる法律に係る判断にして判決を破毀する基本と為したるものを以て新なる弁論及ひ裁判の基本と為す義務あり

第四百五十一条 上告裁判所は左の場合に於て事件に付き裁判を為す可し

第一 確定したる事実に法律を適用するに当り法律に違背したる為に判決を破毀し且其事件か裁判を為すに熟するとき

第二 無訴権の為め又は裁判所の管轄違なる為に判決を破毀するとき

第四百五十二条 上告を理由なしとするときは之を棄却す可し

第四百五十三条 裁判か其理由に於て法律に違背したるときと雖も他の理由に因り裁判の正当なるときは上告を棄却す可し

第四百五十四条 左の諸件に関する控訴の規定は上告に之を準用す

第一 闕席判決に対する不服の申立

第二 控訴の取下

第三 当事者の双方より控訴を起したる場合に於ける訴訟手続及ひ控訴と故障とを同時に為したるときの訴訟手続

第四 口頭弁論の延期

第五 口頭弁論の際に於ける当事者の演述

第六 妨訴の抗弁に付ての弁論

第七 控訴を起したる者の不利益と為る裁判を為す可からさること

第八 記録の送付並に返還

  第三章 抗告

第四百五十五条 抗告は訴訟手続に関する申請を口頭弁論を経すして却下したる裁判に対し其他此法律に於て特に掲けたる場合に限り之を為すことを得

第四百五十六条 抗告に付ては直近の上級裁判所其裁判を為す

二 抗告裁判所の裁判に対しては其裁判に因り新なる独立の抗告理由を生したるときに非されは更に抗告を為すことを得す

第四百五十七条 抗告は不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所又は裁判長の属する裁判所に抗告状を差出して之を為す

二 訴訟か区裁判所に繋属し若くは嘗て繋属したるとき又は証人、鑑定人より若くは証書を提出する義務ありと宣言を受けたる第三者より抗告を為すときは口頭を以て之を為すことを得

第四百五十八条 抗告は新なる事実及ひ証拠方法を以て憑拠と為すことを得

第四百五十九条 不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所又は裁判長か再度の考案若くは新なる提供に基き抗告を理由ありとするときは不服の点を更正し又理由なしとするときは裁判所又は裁判長は意見を付して三日の期間内に抗告を抗告裁判所に送付し又適当とする場合に於ては訴訟記録をも送付す可し

第四百六十条 抗告は此法律に於て別段の規定を設けたる場合に限り執行停止の効力を有す

二 然れとも不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所又は裁判長は抗告に付ての裁判あるまて其執行の中止を命することを得

三 抗告裁判所は抗告に付ての裁判を為す前に不服を申立てられたる裁判の執行中止を命することを得

第四百六十一条 抗告は急迫なる場合に限り直ちに抗告裁判所に之を為すことを得

二 抗告裁判所は裁判を為す前に不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所又は裁判長の意見及ひ記録を要求することを得

三 抗告裁判所は事件を急迫ならすと認むるときは不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所又は裁判長に其事件を送付し且其旨を抗告人に通知す可し

第四百六十二条 抗告裁判所は口頭弁論を経すして裁判を為すを以て通例とす

二 抗告裁判所は抗告人と反対の利害関係を有する者に抗告を通知して書面上の陳述を為さしむることを得

三 陳述は口頭を以て抗告を為し得ヘき場合に於ては亦口頭を以て之を為すことを得

四 抗告裁判所は口頭弁論の為に当事者を呼出すことを得

第四百六十三条 抗告裁判所は抗告を許す可きや否や又法律上の方式に従ひ若くは其期間に於て提出したるや否やを職権を以て調査す可し

二 若し此要件の一を欠くときは抗告を不適法として棄却す可し

第四百六十四条 抗告を適法にして且理由ありとするときは抗告裁判所は不服を申立てられたる裁判を廃棄して自ら更に裁判を為し又は不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所又は裁判長に委任して裁判を為さしむることを得

二 抗告裁判所の裁判は不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所又は裁判長に之を通知す可し

第四百六十五条 受命判事若くは受託判事の裁判又は裁判所書記の処分の変更を求むるには先つ受訴裁判所の裁判を求む可し

二 抗告は受訴裁判所の裁判に対して之を為すことを得

三 第一項の規定は大審院にも亦之を適用す

第四百六十六条 即時抗告の場合に於ては左の特別の規定に従ふ

二 抗告は七日の不変期間内に之を為す可し其期間は裁判の送達より始まり第二百五十三条、第六百八十条及ひ第七百六十九条第三項の場合に於ては裁判の言渡より始まる抗告裁判所に抗告を提出したるときは急迫ならすと認めたる場合に於ても亦不変期間を保存す

三 再審を求むる訴に付ての要件存するときは不変期間の満了後と雖も此訴の為め定めたる期間内は抗告を為すことを得

四 前条第一項の場合に於ては抗告提出の為め定めたる方法に依り不変期間内に受訴裁判所の裁判を求むることを要す受訴裁判所は其申請を正当と認めさるときは之を抗告裁判所に送付す可し

 第四編 再審

第四百六十七条 確定の終局判決を以て終結したる訴訟は取消の訴又は原状回復の訴に因り之を再審することを得

二 当事者の一方又は双方より此両訴を起したるときは原状回復の訴に付ての弁論及ひ裁判は取消の訴に付ての裁判か確定するまて之を中止す可し

第四百六十八条 左の場合に於ては取消の訴に因り再審を求むることを得

第一 規定に従ひ判決裁判所を構成せさりしとき

第二 法律に依り職務の執行より除斥せられたる判事か裁判に参与したるとき但忌避の申請又は上訴を以て除斥の理由を主張したるも其効なかりしときは此限に在らす

第三 判事か忌避せられ且忌避の申請か理由ありと認められたるに拘はらす裁判に参与したりしとき

第四 訴訟手続に於て原告若くは被告か法律の規定に従ひ代理せられさりしとき

二 第一号及ひ第三号の場合に於て上訴若くは故障を以て取消を主張し得ヘかりしときは取消の訴を許さす

第四百六十九条 左の場合に於ては原状回復の訴に因り再審を求むることを得

第一 刑法に掲けたる職務上の義務に違背したる罪を訴訟に関し犯したる判事か裁判に参与したりしとき

第二 原告若くは被告の法律上代理人若くは訴訟代理人又は相手方若くは其法律上代理人若くは訴訟代理人か罰せらる可き行為を訴訟に関して為したりしとき

第三 判決の憑拠と為りたる証書か偽造又は変造なりしとき

第四 証人若くは鑑定人か供述に因り又は通事か判決の憑拠と為りたる通訳に因り偽証の罪を犯したりしとき

第五 判決の憑拠と為りたる刑事上の判決か他の確定と為りたる刑事上の判決を以て廃棄若くは破毀せられたりしとき

第六 原告若くは被告か同一の事件に付ての判決にして前に確定と為りたるものを発見し其判決か不服を申立てられたる判決と牴触するとき

第七 相手方若くは第三者の所為に依り以前に提出することを得さりし証書にして原告若くは被告の利益と為る可き裁判を為すに至らしむ可きものを発見したるとき

二 第一号乃至第四号の場合に於ては罰せらる可き行為に付て判決か確定と為りたるとき又は証拠欠缺外なる理由を以て刑事訴訟手続の開始若くは実行を為し得さるときに限り再審を求むることを得

第四百七十条 原状回復の訴は原告若くは被告か自己の過失に非すして前訴訟手続に於て殊に故障又は控訴若くは附帯控訴に依り原状回復の理由を主張すること能はさりしときに限り之を為すことを得

第四百七十一条 不服を申立てられたる判決前に同一の裁判所又は下級の裁判所に於て為したる裁判に関する不服の理由は再審を求むる訴と共に之を主張することを得但不服を申立てられたる判決か其裁判に根拠するときに限る

第四百七十二条 再審を求むる訴は不服を申立てられたる裁判を為したる裁判所の管轄に専属す

二 同一の事件に付き一分は下級の裁判所又一分は上級の裁判所に於て為したる数箇の判決に対する訴は上級の裁判所の管轄に専属す

三 督促手続に依りて区裁判所の発したる執行命令に対し再審を求むる訴は其命令を発したる区裁判所の管轄に専属す然れとも其請求か区裁判所の管轄に属せさるときは請求に付ての訴訟を管轄する裁判所に専属す

第四百七十三条 訴の提起及ひ其後の訴訟手続には以下数条に於て別段の規定を設けさる限りは其訴に付き弁論及ひ裁判を為す可き裁判所の訴訟手続に関する規定を準用す

第四百七十四条 訴は一个月の不変期間内に之を起す可し

二 此期間は原告若くは被告か不服の理由を知りたる日を以て始まる若し原告若くは被告か判決の確定前に不服の理由を知りたるときは判決の確定を以て始まる

三 判決確定の日より起算して五个年の満了後は訴を為すことを得す

四 前二項の規定は第四百六十八条第四号の場合に之を適用せす此場合に於て其訴の提起の期間は原告若くは被告又は其法律上代理人か送達に因り判決ありたることを知りたる日を以て始まる

第四百七十五条 訴状には左の諸件を具備することを要す

第一 取消又は原状回復の訴を受くる判決の表示

第二 取消又は原状回復の訴を起す旨の陳述

二 此他訴状は準備書面に関する一般の規定に従ひて之を作り且不服の理由の表示、此理由及ひ不変期間の遵守を明白ならしむる事実に付ての証拠方法又如何なる程度に於て不服を申立てられたる判決を廃棄若くは破毀す可きやの申立又本案に付き更に如何なる裁判を為す可きやの申立をも掲く可し

第四百七十六条 判然許す可からさる訴又は判然法律上の方式に適せす若くは其期間の経過後に起したる訴は裁判長の命令を以て之を却下す可し

二 此却下の命令に対しては即時抗告を為すことを得

第四百七十七条 原告は口頭弁論の期日に於て相手方の陳述の有無に拘はらす再審を求むる理由及ひ法律上の期間の遵守を明白にする事実を疏明す可し

第四百七十八条 許す可からさる訴又は法律上の方式に適せす若くは其期間の経過後に起したる訴は職権を以て判決に因り不適法として之を棄却す可し

第四百七十九条 本案に付ての弁論及ひ裁判は不服申立の理由の存する部分に限り更に之を為す可し

二 裁判所は本案に付ての弁論前に再審を求むる理由及ひ許否に付き弁論及ひ裁判を為すことを得此場合に於ては本案に付ての弁論は再審を求むる理由及ひ許否に付ての弁論の続行と看做す

第四百八十条 原告の不利益と為る判決の変更は相手方か再審を求むる訴を起して変更を申立てたるときに非されは之を為すことを得す

第四百八十一条 訴か上告裁判所に属するときは上告裁判所は再審を求むる理由及ひ其許否に付ての弁論の完結か係争事実の確定及ひ斟酌に繋るときと雖も其完結を為す可し

第四百八十二条 上訴は訴に付き裁判を為したる裁判所の判決に対し一般に為すことを得ヘきときに限り之を為すことを得

第四百八十三条 第三者か原告及ひ被告の共謀に因り第三者の債権を詐害する目的を以て判決を為さしめたりと主張し其判決に対し不服を申立つるときは原状回復の訴に因れる再審の規定を準用す

二 此場合に於ては原告及ひ被告を共同被告と為す

 第五編 証書訴訟及ひ為替訴訟

第四百八十四条 一定の金額の支払其他の代替物若くは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求は其請求を起す理由たる総ての必要なる事実を証書に依り証することを得ヘきときは証書訴訟を以て之を主張することを得

第四百八十五条 訴状には証書訴訟として訴ふる旨の陳述を掲け且証書の原本又は謄本を添ふることを要す

第四百八十六条 本案の弁論は妨訴の抗弁に基き之を拒むことを得す然れとも裁判所は申立に因り又は職権を以て此抗弁に付き弁論の分離を命することを得

第四百八十七条 反訴は之を為すことを得す

二 証書の真否及ひ第四百八十四条に掲けたる以外の事実に関しては書証のみを以て適法の証拠方法と為すことを得

三 書証の申出は証書の提出を以てのみ之を為すことを得

第四百八十八条 原告は口頭弁論の終結に至るまては被告の承諾を要せすして通常の手続にて訴訟を繋属せしめて証書訴訟を止むることを得

第四百八十九条 訴を以て主張したる請求か理由なしと見エ又は被告の抗弁に因り理由なしと見ゆるときは原告の請求を却下す可し

二 証書訴訟を許す可からさるとき殊に適法の証拠方法を以て原告の義務たる証拠を申出てす又は完全に之を挙けさる場合に於ては被告か口頭弁論の期日に出頭せす又は法律上の理由なき異議若くは証書訴訟に於て許ささる異議のみを以て訴に対し抗弁したるときと雖も此訴訟に於ては其訴を許ささるものとして之を却下す可し

第四百九十条 証書訴訟に於て適法の証拠方法を以て被告の義務たる証拠を申出てす又は完全に之を挙けさるときは被告の異議は証書訴訟に於て許ささるものとして之を却下す可し

第四百九十一条 主張したる請求を争ひたる被告には敗訴の言渡を受けたる総ての場合に於て其権利の行使を留保す可し

二 判決に此留保を掲けさるときは第二百四十二条の規定に依り判決の補充を申立つることを得

三 留保を掲けたる判決は上訴及ひ強制執行に付ては之を終局判決と看做す

第四百九十二条 被告に権利の行使を留保したるときは訴訟は通常の訴訟手続に於て繋属す

二 此手続に於て証書訴訟を以て主張したる請求の理由なかりしことの顕はるるときは前判決を廃棄し原告の請求を却下し且其生せしめたる費用の全部又は一分の弁済を原告に言渡し又前判決に基き被告より支払ひ又は給付したるものの弁済を申立に因り原告に言渡す可し

三 右手続に於て原告若くは被告か出頭せさるときは闕席判決に関する規定を準用す

第四百九十三条 第四百二十六条及ひ第四百二十七条の規定は証書訴訟に之を適用せす

第四百九十四条 商法に規定したる手形に因る請求を証書訴訟を以て主張するときは為替訴訟として以下二条に掲くる特別の規定を適用す

第四百九十五条 為替の訴は支払地の裁判所又は被告か其普通裁判籍を有する地の裁判所に之を起すことを得

二 数人の為替義務者か共同にて訴を受く可きときは支払地の裁判所又は被告の各人か其普通裁判籍を有する地の裁判所各之を管轄す

第四百九十六条 訴状には為替訴訟として訴ふる旨を掲くることを要す

二 訴の許す可きものなるときは直ちに口頭弁論の期日を定む

三 口頭弁論の期日と訴状送達との間には少なくとも二十四時の時間を存することを要す

 第六編 強制執行

  第一章 総則

第四百九十七条 強制執行は確定の終局判決又は仮執行の宣言を付したる終局判決に因りて之を為す

第四百九十八条 判決は適法なる故障の申立又は適法なる上訴の提起に付き定めたる期間の満了前には確定せさるものとす

二 判決の確定は故障若くは上訴を其期間内に申立若くは提起するに因り之を遮断す

第四百九十九条 原告若くは被告か判決の確定に付き証明書を求むるときは第一審裁判所の書記は記録に基き之を付与す

二 訴訟か猶ほ上級審に於て繋属中なるときは上級裁判所の書記は判決の確定と為りたる部分のみに付き証明書を付与す

三 判決に対し上訴の提起なき場合に非されは証明書を付与することを得さるときに限り上訴を管轄する裁判所の書記か不変期間内に上訴の提起なきことを認めたる証明書を以て足る

第五百条 原状回復又は再審を求むる申立あるときは裁判所は申立に因り保証を立てしめ又は保証を立てしめすして強制執行を一時停止す可きことを命し又は保証を立てしめて強制執行を為す可きことを命し及ひ保証を立てしめて其為したる強制処分を取消す可きを命することを得

二 保証を立てしめすして為す強制執行の停止は其執行に因り償ふこと能はさる損害を生す可きことを疏明するときに限り之を許す

三 右裁判は口頭弁論を経すして之を為すことを得其裁判に対しては不服を申立つることを得す

第五百一条 左の判決に付ては職権を以て仮執行の宣言を為す可し

第一 認諾に基き敗訴を言渡す判決

第二 証書訴訟又は為替訴訟に於て言渡す判決

第三 同一審に於て同一の原告若くは被告に対し本案に付き言渡したる第二又は其後の闕席判決

第四 仮差押又は仮処分を取消す判決

第五 養料を支払ふ義務を言渡す判決但訴の提起後の時間及ひ其提起前最後の三个月間の為に支払ふ可きものなるときに限る

第五百二条 左の場合に於ては申立に因り仮執行の宣言を為す可し

第一 総ての住家其他の建物又は其或る部分の受取、明渡、使用、占拠若くは修繕に関し又は賃借人の家具若くは所持品を賃貸人の差押ヘたることに関し賃貸人と賃借人との間に起りたる訴訟

第二 占有のみに係る訴訟

第三 雇主と雇人との間に雇期限一个年以下の契約に関り起りたる訴訟

第四 左に掲けたる事項に付き旅人と旅店若くは飲食店の主人との間に又は旅人と水陸運送人との間に起りたる訴訟

イ 賄料又は宿料又は旅人の運送料又は之に伴ふ手荷物の運送料

ロ 旅店若くは飲食店の主人又は運送人に旅人より保護の為め預けたる手荷物、金銭又は有価物

第五 此他財産権上の請求に関し金額又は価額に於て弐拾円を超過せさる訴訟但其物の価額に付ては第三条乃至第六条の規定を適用す

第五百三条 前二条に掲けたる外左の場合に於ては財産権上の請求に関する判決に限り債権者の申立に因り仮執行の宣言を為す可し

第一 債権者か執行の前に保証を立てんと申出つるとき

第二 債権者か判決の確定と為るまて執行を中止せは償ひ難き損害又は計り難き損害を受く可きことを疏明するとき

第五百四条 債務者か判決の確定と為る前に判決を執行せは回復することを得さる損害を受く可きことを疏明したるときは其申立に因り左の宣言を為す可し

第一 第五百一条の場合に於ては判決を仮に執行す可からさること

第二 第五百二条及ひ第五百三条の場合に於ては債権者の仮執行の申立を却下すること

第五百五条 総ての場合に於て裁判所は債務者の申立に因り債権者予め保証を立つるときは仮執行を為し得ヘき旨を宣言することを得

二 債権者か執行の前に保証を立つることを申出てさるときは債務者の申立に因り債務者に保証を立てしめ又は供託を為さしめて執行を免かるることを許す可し

第五百六条 仮執行に関する申立は判決に接著する口頭弁論の終結前に之を為す可し

第五百七条 仮執行に付ての裁判は判決主文に之を掲く可し

第五百八条 職権を以て判決の仮執行を宣言す可き場合に於て仮執行に付ての裁判を為ささるとき又は判決の仮執行を宣言す可き債権者の申立を看過したるときは第二百四十二条及ひ第二百四十三条の規定に従ひ判決の補充を為すことを得

第五百九条 第一審又は第二審の判決にして仮執行の宣言なかりしもの又は条件附の仮執行の宣言ありたるものは上訴を以て不服を申立てさる部分に限り口頭弁論の進行中に為したる原告若くは被告の申立に因り上級審に於て其判決に仮執行の宣言を付す可し

第五百十条 本案の裁判又は仮執行の宣言を廃棄若くは破毀又は変更する判決の言渡あるときは仮執行は其廃棄若くは破毀又は変更を為す限度に於て効力を失ふ

二 仮執行の宣言ありたる本案の判決を廃棄若くは破毀又は変更するときは判決に基き被告の支払又は給付したるものの弁済を被告の申立に因り判決を以て原告に言渡す可し

第五百十一条 第二審に於ては申立に因り先つ仮執行に付き弁論及ひ裁判を為す可し

二 口頭弁論の延期に付ての第四百十条の規定は此場合に於ては之を適用せす

三 第二審に於て仮執行に付き為したる裁判に対しては不服を申立つることを得す

第五百十二条 仮執行の宣言を付したる判決に対し故障を申立又は上訴を起したるときは第五百条の規定を準用す

第五百十三条 本編の規定に従ひ原告若くは被告に保証を立つる義務を負はしめ若くは保証を立て又は供託を為すことを許したる場合に於ては原告若くは被告は其普通裁判籍を有する地の区裁判所又は執行裁判所に保証を立て又は供託を為すことを得

二 保証を立て又は供託を為したることに付ては求に因り証明書を付与す可し

 第七編 公示催告手続

第七百六十四条 請求又は権利の届出を為さしむる為めの裁判上の公示催告は其届出を為ささるときは失権を生する効力を以て法律に定めたる場合に限り之を為すことを得

二 公示催告手続は区裁判所之を管轄す

第七百六十五条 公示催告の申立は書面又は口頭を以て之を為すことを得

二 此申立に付ての裁判は口頭弁論を経すして之を為すことを得

三 申立を許す可きときは裁判所は公示催告を為す可く其公示催告には殊に左の諸件を掲く可し

第一 申立人の表示

第二 請求又は権利を公示催告期日まてに届出つ可きことの催告

第三 届出を為ささるに因り生す可き失権の表示

第四 公示催告期日の指定

第七百六十六条 公示催告に付ての公告は裁判所の掲示板に掲示し及ひ官報又は公報に掲載して之を為し其他法律に別段の規定を設けさるときは第百五十七条第三項の規定に従ひて之を為す

第七百六十七条 公示催告を官報又は公報に掲載したる日と公示催告期日との間には法律に別段の規定を設けさるときは少なくとも二个月の時間を存することを要す

第七百六十八条 公示催告期日の終りたる後と雖も除権判決前に届出を為すときは適当なる時間に之を為したるものと看做す

第七百六十九条 除権判決は申立に因りて之を為す

二 右判決前に詳細なる探知を為す可き旨を命することを得

三 除権判決の申立を却下する決定及ひ除権判決に付したる制限又は留保に対しては即時抗告を為すことを得

第七百七十条 申立人の申立の理由として主張したる権利を争ふことの届出ありたるときは其事情に従ひ届出てたる権利に付ての裁判確定するまて公示催告手続を中止し又は除権判決に於て届出てたる権利を留保す可し

第七百七十一条 申立人か公示催告期日に出頭せさるときは其申立に因り新期日を定む可し此申立は公示催告期日より六个月の期間内に限り之を為すことを許す

第七百七十二条 公示催告手続を完結する為め新期日を定めたるときは其期日の公告を為すことを要せす

第七百七十三条 裁判所は除権判決の重要なる旨趣を官報又は公報に掲載して公告を為すことを得

第七百七十四条 除権判決に対しては上訴を為すことを得す

二 除権判決に対しては左の場合に於て申立人に対する訴を以て催告裁判所の所在地を管轄する地方裁判所に不服を申立つることを得

第一 法律に於て公示催告手続を許す場合に非さるとき

第二 公示催告に付ての公告を為さす又は法律に定めたる方法を以て公告を為ささるとき

第三 公示催告の期間を遵守せさるとき

第四 判決を為す判事か法律に依り職務の執行より除斥せられたるとき

第五 請求又は権利の届出ありたるに拘はらす判決に於て其届出を法律に従ひ顧みさるとき

第六 第四百六十九条第一号乃至第五号の場合に於て原状回復の訴を許す条件の存するとき

第七百七十五条 不服申立の訴は一个月の不変期間内に之を起す可し此期間は原告か除権判決を知りたる日を以て始まる然れとも前条第四号及ひ第六号に掲けたる不服申立の理由の一に基き訴を起し且原告か右の日に其理由を知らさりし場合に於ては其期間は不服の理由の原告に知れたる日を以て始まる

二 除権判決の言渡の日より起算して五个年の満了後は此訴を起すことを得す

第七百七十六条 裁判所は第百二十条の条件の存せさるときと雖も数箇の公示催告の併合を命することを得

第七百七十七条 盗取せられ又は紛失若くは滅失したる手形其他商法に無効と為し得ヘきことを定めたる証書の無効宣言の為に為す公示催告手続に付ては以下数条の特別規定を適用す

二 此規定は法律上公示催告手続を許す他の証書に付き其法律中に特別規定を設けさる限りは之を適用す

第七百七十八条 無記名証券又は裏書を以て移転し得ヘく且略式裏書を付したる証書に付ては最終の所持人公示催告手続を申立つる権あり

二 此他の証書に付ては証書に因り権利を主張し得ヘき者此申立を為す権あり

第七百七十九条 公示催告手続は証書に表示したる履行地の裁判所之を管轄す若し証書に其履行地を表示せさるときは発行人か普通裁判籍を有する地の裁判所之を管轄し其裁判所なきときは発行人か発行の当時普通裁判籍を有せし地の裁判所之を管轄す

二 証書を発行する原因たる請求を登記簿に記入したるときは其物の所在地の裁判所の管轄に専属す

第七百八十条 申立人は申立の憑拠として左の手続を為す可し

第一 証書の謄本を差出し又は証書の重要なる旨趣及ひ証書を十分に認知するに必要なる諸件を開示すること

第二 証書の盗難、紛失、滅失及ひ公示催告手続を申立つることを得るの理由たる事実を疏明すること

第七百八十一条 公示催告中に公示催告期日まてに権利を裁判所に届出て且其証書を提出す可き旨を証書の所持人に催告す可く又失権として証書の無効宣言を為す可き旨を戒示す可し

第七百八十二条 公示催告の公告は裁判所の掲示板に掲示し且官報又は公報に掲載し及ひ新聞紙に三回掲載して之を為す

二 公示催告裁判所の所在地に取引所あるときは取引所にも亦此公告を掲示す可し

第七百八十三条 公示催告を官報又は公報に掲載したる日と公示催告期日との間には少なくとも六个月の時間を存することを要す

第七百八十四条 除権判決に於ては証書を無効なりと宣言す可し

二 除権判決の重要なる旨趣は官報又は公報を以て之を公告す可し

三 不服申立の訴に因り判決を以て無効宣言を取消したるときは其判決の確定後官報又は公報を以て之を公告す可し

第七百八十五条 除権判決ありたるときは其申立人は証書に因り義務を負担する者に対して証書に因れる権利を主張することを得

第八編 仲裁手続

第七百八十六条 一名又は数名の仲裁人をして争の判断を為さしむる合意は当事者か係争物に付き和解を為す権利ある場合に限り其効力を有す

第七百八十七条 将来の争に関する仲裁契約は一定の権利関係及ひ其関係より生する争に関せさるときは其効力を有せす

第七百八十八条 仲裁契約に仲裁人の選定に関する定なきときは当事者は各一名の仲裁人を選定す

第七百八十九条 当事者の双方か仲裁人を選定する権利を有するときは先に手続を為す一方は書面を以て相手方に其選定したる仲裁人を指示し且七日の期間内に同一の手続を為す可き旨を催告す可し

二 右期間を徒過したるときは管轄裁判所は先に手続を為す一方の申立に因り仲裁人を選定す

第七百九十条 当事者の一方は相手方に仲裁人選定の通知を為したる後は相手方に対して其選定に羈束せらる

第七百九十一条 仲裁契約を以て選定したるに非さる仲裁人か死亡し又は其他の理由に因り欠缺し又は其職務の引受若くは施行を拒みたるときは其仲裁人を選定したる当事者は相手方の催告に因り七日の期間内に他の仲裁人を選定す可し此期間を徒過したるときは管轄裁判所は其催告を為したる者の申立に因り仲裁人を選定す可し

第七百九十二条 当事者は判事を忌避する権利あると同一の理由及ひ条件を以て仲裁人を忌避することを得

二 此他仲裁契約を以て選定したるに非さる仲裁人か其責務の履行を不当に遅延するときは亦之を忌避することを得

三 無能力者、聾者、唖者及ひ公権の剥奪又は停止中の者は之を忌避することを得

第七百九十三条 仲裁契約は当事者の合意を以て左の場合の為め予定を為ささりしときは其効力を失ふ

第一 契約に於て一定の人を仲裁人に選定し其仲裁人中の或る人か死亡し又は其他の理由に因り欠缺し又は其職務の引受を拒み又は仲裁人の取結ひたる契約を解き又は其責務の履行を不当に遅延したるとき

第二 仲裁人か其意見の可否同数なる旨を当事者に通知したるとき

第七百九十四条 仲裁人は仲裁判断前に当事者を審訊し且必要とする限りは争の原因たる事件関係を探知す可し

二 仲裁手続に付き当事者の合意あらさる場合に於ては其手続は仲裁人の意見を以て之を定む

第七百九十五条 仲裁人は其面前に任意に出頭する証人及ひ鑑定人を訊問することを得

二 仲裁人は証人又は鑑定人をして宣誓を為さしむる権なし

第七百九十六条 仲裁人の必要と認むる判断上の行為にして仲裁人の為すことを得さるものは当事者の申立に因り管轄裁判所之を為す可し但其申立を相当と認めたるときに限る

二 証人又は鑑定人に供述を命したる裁判所は証拠を述ふること又は鑑定を為すことを拒みたる場合に於て必要なる裁判をも亦為す権あり

第七百九十七条 仲裁人は当事者か仲裁手続を許す可からさることを主張するとき殊に法律上有効なる仲裁契約の成立せさること、仲裁契約か判断す可き争に関係せさること又は仲裁人か其職務を施行する権なきことを主張するときと雖も仲裁手続を続行し且仲裁判断を為すことを得

第七百九十八条 数名の仲裁人か仲裁判断を為す可きときは過半数を以て其判断を為す可し但仲裁契約に別段の定あるときは此限に在らす

第七百九十九条 仲裁判断には其作りたる年月日を記載して仲裁人之に署名捺印す可し

二 仲裁人の署名捺印したる判断の正本は之を当事者に送達し其原本は送達の証書を添ヘて管轄裁判所の書記課に之を預け置く可し

第八百条 仲裁判断は当事者間に於て確定したる裁判所の判決と同一の効力を有す

第八百一条 仲裁判断の取消は左の場合に於て之を申立つることを得

第一 仲裁手続を許す可からさりしとき

第二 仲裁判断か法律上禁止の行為を為す可き旨を当事者に言渡したるとき

第三 当事者か仲裁手続に於て法律の規定に従ひ代理せられさりしとき

第四 仲裁手続に於て当事者を審訊せさりしとき

第五 仲裁判断に理由を付せさりしとき

第六 第四百六十九条第一号乃至第五号の場合に於て原状回復の訴を許す条件の存するとき

二 仲裁判断の取消は当事者か別段の合意を為したるときは本条第四号及ひ第五号に掲けたる理由に因り之を為すことを得す

第八百二条 仲裁判断に因り為す強制執行は執行判決を以て其許す可きことを言渡したるときに限り之を為すことを得

二 右執行判決は仲裁判断の取消を申立つることを得ヘき理由の存するときは之を為すことを得す

第八百三条 執行判決を為したる後は仲裁判断の取消は第八百一条第六号に掲けたる理由に因りてのみ之を申立つることを得但当事者か自己の過失に非すして前手続に於て取消の理由を主張する能はさりしことを疏明したるときに限る

第八百四条 仲裁判断取消の訴は前条の場合に於ては一个月の不変期間内に之を起す可し

二 右期間は当事者か取消の理由を知りたる日を以て始まる然れとも執行判決の確定前には始まらさるものとす但執行判決の確定と為りたる日より起算して五个年の満了後は此訴を起すことを許さす

三 仲裁判断を取消すときは執行判決の取消をも亦言渡す可し

第八百五条 仲裁人を選定し若くは忌避すること、仲裁契約の消滅すること、仲裁手続を許す可からさること、仲裁判断を取消すこと又は執行判決を為すことを目的とする訴に付ては仲裁契約に指定したる区裁判所又は地方裁判所之を管轄し其指定なきときは請求を裁判上主張する場合に於て管轄を有す可き区裁判所又は地方裁判所之を管轄す

二 前項に依り管轄を有する裁判所数箇あるときは当事者又は仲裁人か最初に関係せしめたる裁判所之を管轄す

(参照:http://nomenclator.la.coocan.jp/ip/j/minso/m240101j.htm )

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