松岡=アンリ協定
(仏国大使来翰訳文)
以書翰啓上致候陳者本使は仏蘭西国政府は極東の経済的及政治的分野に於ける日本国の優越的利益を認むる旨閣下に通報するの光栄を有し候
依て仏蘭西国政府は帝国政府に於て日本国が極東に於ける仏蘭西国の権利及利益特に印度支那の領土保全並に印度支那連邦の全部に対する仏蘭西国の主権を尊重するの意向を有する旨の保障を仏蘭西国政府に与へられんことを期待するものに有之候
経済的分野に関しては仏蘭西国は印度支那及日本国間の交易を増進すると共に印度支那に於て日本国及其の臣民に対し出来得る限り最も有利にして且如何なる場合にも他の第三国の地位に比し優越する地位を保障するの方法に付速に商談するの用意有之候
日本国に於て仏蘭西国に要求せられたる軍事上の特殊の便宜供与に付ては仏蘭西国は右便宜供与は帝国政府の趣旨とする所は専ら蒋介石将軍との紛争解決を図らんとするに在ること従て右は臨時的にして該紛争解決せられたるときは消滅すへきものなること並に右は支那に境する印度支那の州に限り適用せらるるものなることを了承致候
右条件の下に仏蘭西国政府は印度支那に於ける仏蘭西国軍司令官に対し日本国軍司令官との間に右軍事的問題を処理すへき旨命するの用意有之候
帝国政府に於て提出せられたる要求は其の何れも予め除外せらるることなかるへく且仏蘭西国軍当局に発せらるる訓令は右の点に付其の権限を制限することなかるへきものに有之候
前記交渉は左記条件に依り行はるへく候
両国軍司令官は軍人の名誉に掛け日本国軍の必要とする所のもの及之を満足せしめ得へき方法を正確に知らしむへき情報を交換するものとす右日本国軍の必要とする所のものは印度支那に境する支那諸州に於ける作戦行動に関するものに限らるるものとす
右情報交換ありたる後日本国軍に対する所要の軍事的便宜供与の為日本国及仏蘭西国軍当局間に相互信頼的接触行はるるものとす
仏蘭西国政府は日本国軍に提供せらるへき各種便宜供与に伴ふ財政的負担は何等之を負はさるへきものとす右便宜供与は軍事占領の性質を有するものに非すして厳に作戦上の必要に限らるるものとし仏蘭西国軍当局の仲介に依り且其の監理の下に行はるるものとす
最後に帝国政府は自己の戦争行為に依り並に日本国軍隊の存在自体か印度支那に誘致することあるへき敵部隊の行為に依り印度支那の蒙ることあるへき損害に付賠償の責に任することを約するものとす
右申進旁本使は茲に重ねて閣下に向つて敬意を表し候 敬具
昭和十五年八月三十日
仏蘭西国特命全権大使「シャルル、アルセーヌ、アンリー」
外務大臣 松岡洋右閣下
(以下省略:松岡外相からアンリ全権大使への書簡)
(国立公文書館:仏領印度支那ノ共同防衛ニ関スル日仏間議定書関係1)
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