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東京条約(フランス国タイ国間平和条約) 1941年05月09日

 東京条約(フランス国タイ国間平和条約:ひらがな化、一部新字体化、附属文等省略)


   「フランス」國「タイ」國間平和條約

(前文省略)

   第一条

「フランス」国「タイ」国間に千九百三十七年十二月七日の友好通商航海条約の基礎に於て友好関係恢復せらる

依て紛争より生じたる一切の懸案の解決の為成るべく速に「バンコック」に於て直接外交交渉を開始すべし

   第二条

仏領印度支那「タイ」国間国境は左の通再調整せらるべし

 北方より始まり国境は仏領印度支那、「タイ」国及「ビルマ」の国境の接合点より発し「メコン」河に沿ひ同河が十五度の緯線を切る地点に至る(印度支那測量部五十万分の一地図参照)

 右部分の全部に於て国境は主たる航路の中央線を以て構成せらるべし但し「コン」島は引続き仏領印度支那の領域たるべく「コーヌ」島は「タイ」国に帰属すべきものとす

 国境は其れより西方に向ひ十五度の緯線に沿ひ次で南方に向ひ「シエムレアプ」州と「バッタンバン」州との現境界が「グラン、ラック」に終る地点(「スツン、コンボト」の河口)を通過する経線に沿ふ

 右部分の全部に於て第四条に規定せらるる国境画定委員会は必要あるに於ては将来の実際的困難を能ふ限り避くる様国境を前記の線に隣接せる自然的境界線又は行政区画に合致せしむることに努むべし

 「グラン、ラック」上に於ては国境は「シエムレアプ」州と「バッタンバン」州との現州境が同湖に終る地点(「スツン、コンボト」の河口)と「バッタンバン」州と「プルサト」州との現州境が同湖に終る地点(「スツン、ドントリ」の河口)とを結ぶ半径二十キロメートルの円弧に依り構成せらるべし

 「グラン、ラック」の全部に於て航行及漁業は両締約国の国民に対し自由たるべし但し岸に沿ひて設置せられたる漁業用固定設備を尊重することを要す右精神に基き締約国は成るべく速に「グラン、ラック」水域の警察、航行及漁業に関する共同の規則を作成すべきものとす

 「スツン、ドントリ」の河口より新国境は南西の方向に「バッタンバン」州と「プルサト」州との現州境に沿ひ右州境と仏領印度支那「タイ」国間の現国境との会合点(「カオ、クウプ」)に至り其れより国境は現国境に変更を加ふることなくして之に沿ひ海に至る

   第三条

仏領印度支那「タイ」国間の現国境と第二条に定められたる新国境線との間に含まるる地域は本条約附属議定書(附属書一)に規定せらるる態様に従ひ撤退せられ且引渡さるべし

   第四条

第二条に規定せられたる仏領印度支那「タイ」国間の国境の画定事業は右国境の陸上の部分に付ても又河川上の部分に付ても本条約の実施後一週間以内に構成せられ且一年以内に事業を完了すべき国境画定委員会に依り為さるべし

右委員会の組織及運用は本条約附属議定書(附属書二)に於て之を定む

   第五条

割譲地域は左の条件に従ひ「タイ」国に編入せらるべし

一 右地域は其の全部に亙り非武装地帯とす但し従前仏領「ラオス」の一部を成せる「メコン」河沿岸地域を除く

二 右地域の全部に於て「フランス」国国民(市民、人民及保護民)は入国、居住、企業に付「タイ」国国民に許与せらるべき所と絶対に平等の待遇を享有すべし

 「フランス」国国民に関しては利権、不動産貸借及認可より生じたる既得の権利にして千九百四十一年三月十一日に取得せられ居るものは割譲地域の全部に於て尊重せらるべきものとす

三 「ルアン、プラバン」前面の「メコン」河右岸に於ける王室陵に対し「タイ」国政府は充分尊敬の意を表し保存及参拝に関し「ルアン、プラバン」の王室及宮内官に対し一切の便宜を供与すべし

   第六条

前条一に依り設置せられたる非武装地帯に付ては本条約附属議定書(附属書三)に規定せらるる条件に従ひ左の原則を適用す

一 非武装地帯に於ては「タイ」国は安寧及秩序の維持に必要なる警察隊以外の武装部隊を維持することを得ず

 尤も「タイ」国は非常警察行動の必要とする範囲に於て其の警察隊を一時的に増強する権利を留保す同様に「タイ」国は隣接区画に於ける警察行動又は第三国に対する軍事行動の要求することあるべき軍隊及資材の輸送を非武装地帯を通過し自国領域内に於て行ふ権能を留保す

 最後に非武装地帯内に於て「タイ」国は武装せざる軍用航空機を常に駐屯せしむることを得べし

二 非武装地帯内に於ては要塞、軍用営造物、軍隊専用の飛行場、武器、弾薬又は軍用器材の貯蔵所を存置することを得ず但し武装せざる軍用航空機に必要なる通常の器材及燃料の貯蔵所は此の限に在らず

 警察隊の各種の営舎は其の安全の為通常必要なる防衛組織を備ふることを得べし

   第七条

締約国は「メコン」河が仏領「ラオス」「タイ」国間の国境を成す部分に於ける同河の両側に現存する非武装地帯を廃止することに合意す

   第八条

「タイ」国に割譲せられたる地域に対する主権の移転が決定的と為りたるとき直に右地域に居住する「フランス」国国民は当然に「タイ」国国籍を取得すべし

尤も主権の決定的移転後一年以内に「フランス」国国民は「フランス」国の国籍を選擇する権能を有すべし

右選擇は左の方法に依り行はるべし

一 「フランス」国市民に付ては権限ある行政官憲の前にて行ふ宣言に依る

二 「フランス」国人民及保護民に付ては「フランス」国領域への住居の移転に依る

「タイ」国は右「フランス」国人民及保護民の撤退に対し又は帰還することあるべきときは之に対し理由の如何に拘らず如何なる妨碍をも為さざるべし殊に右人民及保護民は出発前其の動産及不動産を自由に処分することを得べし右人民及保護民は其の一切の種類の動産、家畜、農産物、貨幣又は紙幣を関税を免除せられて搬出し又は搬出せしむる権能を有すべし如何なる場合に於ても右人民及保護民は「タイ」国に編入せられたる地域に於て其の不動産の所有権を保有することを得べし

   第九条

「フランス」国及「タイ」国は「タイ」国の「フランス」国への六百万印度支那「ピアストル」の額の支払に依り第二条に規定せらるる地域の移転より生ずる国家間の一切の財政上の主張を決定的に放棄することに合意す右額の支払は本条約実施より六年に亙り等分に分くるべし

前項の適用を確保する為並に本条約の目的を成す地域の割譲の結果生じ得べき通貨及有価証券移転に関する一切の問題を解決する為仏領印度支那及「タイ」国の権限ある官憲は成るべく速に商議を開始すべし

   第十条

本条約の規定の解釈又は其の適用に関し両締約国間に発生することあるべき一切の紛争は外交手段に依り友好的に解決せらるべし

右の方法に依り解決すること能わざるときは紛争は日本国政府の調停に付託せらるべし

   第十一条

「フランス」国「タイ」国間に存する条約及協定の規定にして本条約の規定と抵触せざるものは引続き有効とす

   第十二条

本条約は批准せらるべく批准書は署名の日より二月以内に東京に於て交換せらるべし「フランス」国政府は已むを得ざる場合には批准の通報書を以て批准書に代ふることを得此の場合には「フランス」国政府は成るべく速に批准書を「タイ」国政府に送付すべし

本条約は批准書交換の日より実施せらるべし

(以下、署名等省略)



    地域の撤退及引渡の態様に関する議定書

(省略)

(国立公文書館:7 「タイ」国国仏領印度支那間国境紛争関係諸条約 3)

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