粛軍演説 我国の歴史に拭うことの出来ない一大汚点を添えたる彼の叛乱事件の後を承けて広田内閣が成立し、身を挺して国政一新の衝に当らるることは、吾々の最も歓迎する所であり、同時に国家の為に衷心より其成功を祈るものであります、広田首相は曩に大命を拝せられ、組閣に入るに先立って天下に向って一の声明書を発表して、将来に対する決意を明にせられたのでありまするが、其声明書を見ますると云ふと、旧来の積弊を芟除し、庶政を一新し、確乎不抜の国策を樹立して、以て其実現を期す、昨日此所に於ての御演説に於きましても、此趣旨を敷衍せられて居るのでありまして、洵に我意を得たるものであるのであります、 御説の如く今日我国内外の情勢を見ますれば、最早旧来の陋習を追うて優柔不断の政治は許されない、速に此陋態を打破して一大革新を為すべき、国家的、国民的要求は澎湃として吾々の眼前に押寄せて来て居るのである(拍手)それ故に今日何人が政治の局に立つと雖も、此決心と此覚悟を以て当らねばならぬことは当然の次第であります、固より是迄歴代の政府に於きましても其考がなかったのではありますまい、 其証拠には何れの内閣も成立直後に於きましては、或は施政の方針を声明する、或は政綱政策を発表して、国民の前には政治の革新を誓ひまするけれども、それ等の方針、それ等の政綱政策が全部は愚か、其幾分たりとも実行の跡を残さずして、一両年経てば内閣は崩壊してしまふのであります、 是は何故であるかと言へば、畢竟するに総理大臣を初めとして、閣僚全体が真に今日我国内外の情勢を認識して、国政改革を断行するだけの熱意もなけれは気魄もない、勇気もなければ真剣味もない、唯目前に現はるる所の国務を弥縫して以て一日の安きを貪る、斯の如き弛緩せる政治状態が過去幾年かの間継続致しました結果、遂に今日の現状を惹起したのであります、此秋に方りまして広田首相が組閣の大命を拝せられ、敢然して国政改革の断行を誓はるるに当りましては、天下何人と雖も之を歓迎しない者はないのである、併ながら翻って考へて見ますると云ふと、国政の改革、国策の樹立、之を唱へることは極めて易いのでありまするが、之を行うことは中々困難であります、 固より是等の題目は今日初めて現はれたのではない、又現内閣の新発明でも何でもない、従来政府之を唱へ、政党之を唱へ、又有ゆる政治家が之を唱へて、国民に向...