台湾蕃地処分要略(ひらがな、一部新字体化)
七年一月上旬大久保参議大隈参議台湾蕃地処分取調を命せられ因て左の要件を上陳す
台湾蕃地処分要略
第一条
一台湾土蕃の部落は清国政府権逮はさるの地にして其証は従来清国刊行の書籍にも著しく殊に昨年前参議副島種臣使清の節彼の朝官吏の答にも判然たれは無主の地と見做すへきの道理備れり就ては我藩属たる琉球人民の殺害せられしを報復すへきは日本帝国政府の義務にして討蕃の公理も茲に大基を得へし然して処分に至ては著実に討蕃撫民の役を遂るを主とし其件に付清国より一二の議論生し来るを容とすへし
第二条
一北京に公使を派し公使館を備へ交際を辯知せしむへし清人若し琉球の属否を問はヽ即ち昨年出使の口蹟に照準し琉球は古来我帝国の所属たるを言い並へ現今弥々恩波に浴せしむるの実を明にすへし
第三条
一清官若し琉球の自国に遣使献貢するの故を以て両属の説を発せは更顧て関係せす其議に応せさるを佳とす如何となれは琉球を控御するの実権皆我帝国に在て且遣使献貢の非礼を止めしむるは追て台湾処分の後に目的あれは空く清政府と弁論するは不可とす
第四条
一清政府より台湾処分に付論説を来さは昨年の議を確守し判然蕃地に政権不逮の証蹟を集て動かさヽるへし若し土地連境の故に付論すへき者生せは和好を以て弁すへし其事件至難に渉らは是を本邦政府に質して可ならん唯推託して時日遷延の間に即事を成し和を失はさるの機謀交際の一術なり
第五条
一土蕃の地は無主の域と見做と雖とも清国版圏と犬牙接連の地勢なれは隣境の関係生し葛藤も発すへけれは福建省に属する台湾港に領事一員を置き淡水事務を兼轄せしめ征蕃の時に方りて船艦往来に付ての諸用を弁せしむへし右職掌の外に台蕃処分に付清国地方官との応接を担当せしめ極々和好を保護するを長策とすへし但清国視察福島九成に領事を任すへし
第六条
一領事は蕃地の征撫に関せす征撫に任する者は応接に関せす蓋し其分界を明かにし和好を維持せん為めなり若し事至重に渉らは是を北京在勤公使に傳致するを可とす
第七条
一福州は福建の一大港なれとも台蕃処分の便路は台湾及ひ淡水を要地とす且福州には琉球館あれは暫く是を度外に置き嫌忌を避るを佳とすへし
第八条
一福島九成成富清風吉田清貫児玉利国田中綱常池田道輝右六名を先に台湾へ発遣し熟蕃の地へ立入土地形勢を探偵し且土人を懐柔綏撫せしめ佗日生蕃を処分する時の諸事に便ならしむへし
第九条
一探偵の心得は熟蕃の地琅橋社寮の港より兵を上陸せしむる積りに付兼て此辺の地勢其他停泊上陸等の便利なる事に注意すべし
二月 大隈重信
大久保利通
(国立公文書館:大久保大隈両参議ヨリ台湾蕃地処分要略九箇条上陳)
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