帝国陸海軍作戦計画大綱(ひらがな化、一部新字体化、一部省略)
帝国陸海軍作戦計画大綱(昭和二十年一月二十日)
目 次(略)
第一 作戦方針
帝国陸海軍は機微なる世界情勢の変転に莅み重点を主敵米軍の進攻破摧に指向し随処縦深に亙り敵戦力を撃破して戦争遂行上の要域を確保し以て敵戦意を挫折し以て戦争目的の達成を図る
第二 作戦の指導大綱
一 陸海軍は戦局愈々至難なるを予期しつつ既成の戦略態勢を活用し敵の進攻を破摧し速に自主的態勢の確立に努む
右自主的態勢は今後の作戦推移を洞察し速に先つ皇土及之か防衛に緊切なる大陸要域に於て不抜の邀撃態勢を確立し敵の来攻に方りては随時之を撃破すると共に其の間状況之を許す限り反撃戦力特に精錬なる航空戦力を整備し以て積極不羈の作戦遂行に努むるを以て其の主眼とす
二 陸海軍は比島方面に来攻中の米軍主力に対し靭強なる作戦を遂行し之を撃破して極力敵戦力に痛撃を加ふると共に敵戦力の牽制抑留に努め此の間情勢の推移を洞察し之に即応して速に爾他方面に於ける作戦準備を促進す
三 陸海軍は主敵米軍の皇土要域方面に向ふ進攻特に其の優勢なる空海戦力に対し作戦準備を完整し之を撃破す
之か為比島方面より皇土南陲に来攻する敵に対し東支那海周辺に於ける作戦を主眼とし二、三月頃を目途とし同周辺要地に於ける作戦準備を速急強化す
敵の小笠原諸島来攻(硫黄島を含む)に対し極力之か防備強化に努む
又敵一部の千島方面進攻を予期し又状況に依り有力なる敵の直接本土に暴進することあるを考慮し之に対処し得るの準備に遺憾なからしむ
四 陸海軍は進攻する米軍主力に対し陸海特に航空戦力を総合発揮し敵戦力を撃破し其の進攻企図を破摧す 此の間他方面に在りては優勢なる敵空海戦力の来攻を予想しつつ主として陸上部隊を以て作戦を遂行するものとす
敵戦力の撃破は渡洋進攻の弱点を捕へ洋上に於て痛撃を加ふるを主眼とし爾後上陸せる敵に対しては補給遮断と相俟つて陸上作戦に於て其の目的を達成す 此の際火力の集団機動を重視す
尚敵機動部隊に対しては努めて不断に好機を捕捉し之を求めて漸減す
五 支那大陸方面に在りては左に準拠し主敵米軍に対する作戦を指導す
(一) 支那大陸に於ける戦略態勢を速に強化し東西両正面より進攻する敵特に米軍を撃破して其の企図を破摧し皇土を中核とする大陸に於ける国防要域を確保す
(二) 東南支那沿岸要地の戦備を強化し南西諸島及台湾と相俟つて東支那海周辺に於ける作戦特に航空戦力の発揮に遺憾なからしむ
(三) 帝国本土進攻に先たち若くは之に併行し米国主力又は有力なる一部の大陸進攻あるを予期し上海及広東方面の作戦準備を促進強化す
(四) (略)
六 南方方面に在りては自活自戦態勢を確立し敵の資源及空海基地奪回企図を破摧するを主眼とし努めて戦略態勢を集約す 敵の来攻に方りては之を撃破し所要の要域を確保し全軍の作戦を容易ならしむ
七 対蘇作戦準備に関しては依然現方針に拠る
八 陸海軍は愈々熾烈化する敵の空襲に対し努めて其根拠を奇襲し之か制圧を図るの他主として帝国本土に於ける生産及交通を防衛し治安を維持す
近く小笠原諸島方面に敵空襲基地の進出することあるを予期し之か利用妨害の対策を準備すると共に特に帝都の防空準備を速に強化促進す
九 以上の外 国軍作戦遂行上主要なる事項左の如し
(一) 国軍は敵の妨害を排除し極力南方よりする帝国燃料資源の還送作戦を遂行すると共に特に日満支間海上交通を重視し之か確保を期す
(二) 国軍は長遠なる敵の作戦線に対し不断之を擾乱脅威し補給妨害に努む
(三) 作戦目的完遂の為当面の作戦必成を図るの外必勝兵備を画期的に増強整備することに努む
(四) 戦法、編成、兵器の創意に努め特に奇襲特攻を作戦上の要素とし愈々増加する彼我物的相対戦力の隔絶に対処す
第三 各方面作戦指導の準拠
其の一 皇土要域に於ける作戦
一 皇土要域に於ける作戦の目的は敵の進攻を破摧し皇土特に帝国本土を確保するに在り
二 敵空襲に対しては努めて其の航空基地及機動部隊を制圧し又本土枢要部の防空態勢を強化し不断敵機の撃破を図る
積極防空は航空を主体とし特に之か為所要の航空基地を整備し且之か秘匿掩護に遺憾なからしむ
三 皇土要域に於ける空海よりする敵の海陸交通破壊に対し交通幹線、港湾の防衛を強化す
四 皇土防衛の為縦深作戦遂行上の前縁は南千島、小笠原諸島(硫黄島を含む)沖縄本島以南の南西諸島、台湾及上海付近とし之を確保す
右前縁地帯の一部に於て状況真に止むを得す敵の上陸を見る場合に於ても極力敵の出血消耗を図り且敵航空基盤造成を妨害す
五 帝国本土、南鮮及上海付近に対する敵の来攻上陸に際しては陸海空戦力を総合発揮して之を排擠撃滅す又千島、小笠原、南西諸島及台湾に在りては敵の進攻に先たち予め所要に戦力を投入して作戦準備を整ふると共に機を失せす所要の航空戦力を集中増加して之を撃破す
六 皇土特に本土及朝鮮の作戦準備は万難を排し速急且根本的に刷新強化に着手し予期する敵の熾烈なる空襲に即応する戦場態勢を整へつつ概ね本年初秋迄に之を概成す 敵の上陸企図に対する作戦準備は情勢の推移に即応せしむへきも関東地方、九州及南鮮方面に於て先つ速に完整す
其の二 支那大陸方面に於ける作戦(略)
其の三 南方作戦(略)
其の四 中南部太平洋方面に於ける作戦(略)
其の五 海上交通保護作戦
一 海上交通保護作戦の目的は皇土要域特に朝鮮海峡、東支那海及日本海に於ける制空、制海権を確保し又南北海上突破輸送特に燃料資源還送を掩護し以て戦争及作戦遂行を容易ならしむるに在り
二 海上交通保護は交通幹線の防衛を主とするも要時要域に於ける航空部隊及護衛艦艇を以てする局地輸送の直接掩護に遺憾無からしむ
三 情報連絡の周密適切を図ると共に支那、仏印沿岸に於ける敵の前進秘密基地を索出し之を撲滅す
(戦史叢書51 本土決戦準備<1>P175~)
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