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安奉鉄道改築並びに吉長鉄道借款細目に関する件　1909年06月22日

安奉鉄道改築並びに吉長鉄道借款細目に関する件（原文：一部ひらがな、新字体化）

　明治四十二年六月二十二日閣議決定
　　安奉鉄道改築並吉長鉄道借款細目に關する件
滿洲ニ關スル懸案ニ付テハ曩ニ廟議ノ決定ニ基キ淸國政府トノ間ニ交涉ヲ開始シタル處淸國政府ハ誠意ヲ以テ之ヲ迎フルノ意ナク徒ニ從來ノ主張ヲ固執シテ和衷ノ実ヲ示サス終ニ三月下旬ニ及ヒ仲裁々判附託ノ提議ヲ爲スニ至レリ其後同政府ハ形勢ノ己レニ非ナルヲ察シ其仲裁々判ニ關スル提議ヲ撤回シタリト雖同政府ニシテ全然其態度ヲ一変スルニアラサル限リハ仮令談判再始ノ運ニ至ルモ容易ニ懸案ノ解決ヲ見ルコト能ハサルハ豫期セサルヘカラサル所ナリ然ルニ帝國政府カ曩ニ一括シテ淸國政府ニ提出セシ案件ハ其事項何レモ既ニ我ノ把握ニ屬スルモノニシテ談判ノ繼續スル限リ我ニ於テ現状ヲ維持スル時ハ之カ爲帝國ニ於テハ何等失フ所ナキノミナラス却テ淸國ヲシテ益々苦痛ニ堪ヘサラシムルノ結果ヲ生スヘシ尤滿洲一地方ニ關スル問題ノ爲日淸兩國ノ親交ヲ阻害スルハ東亞ノ大局ニ鑑ミ帝國政府ノ之ヲ避止セサルヘカラサル所ナルヲ以テ帝國政府カ今後ニ於テモ尙引續キ是等懸案ノ妥結ニ努力スヘキハ勿論ナリト雖淸國政府ニ於テ和衷ノ誠意ヲ表セサル限リハ我ニ於テ暫ク現狀ヲ維持シ以テ淸國反省ノ時期ヲ待ツモ亦已ムヲ得サル所ナリトス然レトモ是等問題ノ外淸國ニ對スル交涉案件ニシテ現狀維持ヲ以テ滿足スヘカラサルモノニアリ一ハ安奉鉄道改築ノ件ニシテ一ハ吉長鉄道借款細目ノ件ナリ
　　一、安奉鉄道改築ノ件
安奉鉄道ノ改築ハ条約上我權利ニ屬スル事項ナルノミナラス軍事上並經濟上一日モ速ニ之ヲ実行スルノ必要ナルハ言ヲ俟タサル所ナリ殊ニ同鉄道ハ韓國鉄道ヲ南滿東淸兩鉄道ニ連結スルモノナルヲ以テ韓國鉄道ノ改善ヲ実行スルト共ニ速ニ之カ改築ヲ完了シ釜山ヲ最南終點トスル欧亜交通ノ大道ヲ闢キ以テ大ニ帝國ノ活動ニ資スルノ必要アルモ亦贅言ヲ要セサル次第ナリ然ルニ淸國政府ハ我条約上ノ權利ヲ無視シ或ハ守備兵若ハ警察ノ問題ヲ提起シ甚シキニ至リテハ淸國ニ於テ軌道ヲ改メテ廣軌ト爲スコト並ニ技術上必要ナル線路ノ更正ニモ異議ヲ挾マントスルカ如ク徒ラニ言ヲ左右ニ託シ改築ノ実行ヲ阻止セントスルノ色アリ帝國政府ハ目下在淸公使ヲシテ嚴ニ同政府ニ交涉セシメツツアリト雖目下既ニ工事着手ノ必要ナル時機ニ迫ルニ拘ラス尙同政府ニ於テ我ニ對シテ回答ヲ爲サス又ハ回答ヲ爲スモ其主旨徒ラニ改築ノ実行ヲ妨害スルニ在ルモノナルトキハ帝國政府ハ条約上ノ權利ニ基キ自ラ改築工事ヲ施行スルコト必要ナリトス尤モ工事ノ着手ニ先チ帝國政府カ淸國政府ノ不當ナル態度ニ依リ自ラ条約上ノ權利ヲ実行スルノ已ムヲ得サルニ至リシ旨ヲ通牒シ且成ルヘク清国官民の反抗を軽減せんか為奉天陳相屯間の線路変更は暫く之を後日の問題に譲り差当り改築工事の施行を陳相屯以東に止め尚改築の為使用すへき土地の区域を軌道の敷設及停車場設備の為絶対的に必要なる程度に止むることとし又工事の施行に関しても可成穩和ノ方法ヲ取リ地方官民ノ惡感ヲ激發セシメサルヲ期スルコトヲ要ス此ノ如ク我ニ於テハ淸國官民ノ反抗ヲ挑發セシメサルヲ努ムヘシト雖尙其反抗ヲ免レサルコトアルヘキヲ予想シ都督府ヲシテ其警察官ヲ■道ニ增派シ且必要ノ場合ニハ何時ニテモ鉄道守備兵ノ增員ヲ実行スルヲ得ルノ準備ヲ爲サシムルコトヲ必要トス
前記ノ如ク我ニ於テ安奉鉄道改築ノ權利ヲ実行スルトキハ淸國政府ハ我ニ對シ惡感ヲ懷キ其結果彼我交涉ノ案件ハ益々解決ノ困難ヲ見ルニ至ルコトアルヘク又列國中日淸兩國反目ノ隙ニ乘シ其間ニ離間中傷ヲ試ミ以テ自國ノ利ヲ謀ルモノヲ生スルコトアルヘク淸國官民ハ又或ハ消極的反抗ノ手段ニ依リ日貨排斥等ノ行動ニ出ツルコトナキヲ保シ難ク廣東ノ一隅ニ於ケル抵制運動スラ尙且我貿易業及航海業ニ重大ナル損害ヲ与へたることに鑑ミルトキハ北淸又ハ淸國全体ニ亙ルヘキ日貨排斥ハ其結果恐ルヘキモノアルヘシト思考ス依テ出來得ル限リ是等ノ不利益ヲ避クル爲前記權利ノ実行ヲナスニ當リ成ルヘク愼重ノ態度ヲ取リ其手段ノ如キモ努メテ之ヲ穩和ナラシメ一方ニ於テ我被ルヘキ不利益ヲ輕減スルト同時ニ國家ノ急務ニ屬スル安奉鉄道改築ノ遂行ヲ期スルコトヲ要ス
　　二、吉長鉄道借款細目ノ件
吉長鉄道ノ敷設ハ軍事上及商業上帝國ノ爲最必要ナルノミナラス南滿洲ニ於ケル我鉄道經營ノ爲ニモ亦成ルヘク之カ急設ヲ要スル次第ナリ然ルニ該鉄道ニ關スル外交上ノ交涉ハ既ニ終了シ目下南滿鉄道會社委員ト淸國委員トノ間ニ借款細目ニ關シ議定中ナル處右交涉ノ最困難ナル点ハ同鉄道ニ關スル協約第三条（己）ニ依リ同鉄道ノ收入ヲ我正金銀行ニ預入ルル方法如何ノ問題ニ在リ故ニ此点ニ關シ双方委員間ノ協議纒マルトキハ借款細目ノ協定ハ多分容易ナルヘシト思考ス元來右第三条（己）ノ規定ハ我借款ノ權利ヲ確保スル爲必要ナルハ勿論ナリト雖吉長鉄道布設ノ急ナルモ亦前記ノ如クナルヲ以テ此際縱令此權利ヲ放棄スルモ尙ホ成ルヘク速ニ細目ノ協定ヲ了シ同鉄道敷設ノ權利ヲ確実ナラシメ他日ノ發展ヲ俟ツコト得策ナリト思考ス依テ若シ前記第三条（己）ニ依ル我權利ノ全部又ハ一部ヲ放棄スレハ之カ爲速ニ本件借款細目ノ協定ヲ完了シ得ル見込確実ナルトキハ吉長鉄道ニ關スル限リ我ニ於テ右ノ權利ヲ放棄スルコトトシ之カ爲必要ナル措置ヲ取ラントス
（国立公文書館：安奉鉄道改築並吉長鉄道借款細目ニ関スル件（明治四十二年六月二十二・・・）
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