第三次日英同盟(口語訳)
日本及びイギリスは1905年8月12日の日英協約締結以来事態に重大な変遷があることに顧みて当該協約を改訂し、もってその変遷に適応せしむるは全局の静寧安固に資するべきことを信じ、前記協約に代わりこれと同じく
(イ)東亜及びインドの地域における全局の平和を確保すること
(ロ)清国の独立及び領土保全並びに清国における列国の商工業に対する機会均等主義を確実にし、もって清国における列国の共通利益を維持すること
(ハ)東亜及びインドの地域における両締盟国の領土権を保持し、並びに当該地域における両締盟国の特殊利益を防護することを目的とする以下の条を約定する
第一条 日本又はイギリスにおいて本協約前文に記述された権利及び利益のなかいずれか危殆に迫るものがあると認められるときは、両国政府は相互に十分にかつ隔意なく通告し、その侵迫されている権利又は利益を擁護するために執るべき措置を協同に考量しなければならない。
第二条 両締盟国の一方が、挑発することなくして一国若しくは数国より攻撃を受けるにより、又は一国若しくは数国の侵略的行動により当該締盟国において本協約前文に記述されるその領土権又は特殊利益を防護せんがために交戦するに至るときは、前記の攻撃又は侵略的行動がいずれの地において発生するを問わず他の一方の締盟国は直ちに来たりてその同盟国に援助を与え、協同戦闘に当たり、講和もまた双方合意の上においてこれをなさなければならない。
第三条 両締盟国はいずれも他の一方と協議をえずして、他国と本協約前文に記述される目的を害すべき別約をしないことを約定する。
第四条 両締盟国の一方が第三国と総括的仲裁裁判条約を締結した場合には、本協約は当該仲裁裁判条約が有効に存続する限り、上第三国と交戦するの義務を前記締盟国に負わせることはない。
第五条 両締盟国の一方が、本協約中に規定する場合に際し、他の一方に兵力的援助を与えるべき条件及び当該援助の実行方法は両締盟国陸軍当局者において協定すべく、又当該当局者は相互利害の問題に関し、相互に充分にかつ隔意なく随時協議するものとする。
第六条 本協約は、調印の日より直ちに実施し、十年間効力を有する。各十年の終了に至る十二ヶ月前に両締盟国のいずれよりも本協約を廃棄する意思を通告しないときは、本協約は両締盟国の一方が廃棄の意思を表示したる当日より一年の終了に至るまで、引き続き効力を有する。然れどももし上終了期日に至り同盟国の一方が現に交戦中のときは、本同盟は講和の成立に至るまで当然継続するものとする。
右証拠として、下名は各々の政府よりる委任を受け、本協約に署名調印するものである。
一九一一年七月十三日ロンドンにおいて本書二通を作る
グレートブリテン王国駐在日本国皇帝陛下の特命全権公使 加藤高明
グレートブリテン王国皇帝陛下の外務大臣 イー、グレー
日英協約(原文:一部新字体化)
協約前文
日本國政府及大不列顛國政府ハ千九百五年八月十二日ノ日英協約締結以來事態ニ重大ナル變遷アリタルニ顧ミ該協約ヲ改訂シ以テ其ノ變遷ニ適應セシムルハ全局ノ静寧安固ニ資スヘキコトヲ信シ前記協約ニ代ハリ之ト同シク
(イ) 東亞及印度ノ地域ニ於ケル全局ノ平和ヲ確保スルコト
(ロ) 清帝國ノ獨立及領土保全竝清國ニ於ケル列國ノ商工業ニ對スル機會均等主義ヲ確實ニシ以テ清國ニ於ケル列國ノ共通利益ヲ維持スルコト
(ハ) 東亞及印度ノ地域ニ於ケル兩締盟國ノ領土權ヲ保持シ竝該地域ニ於ケル兩締盟國ノ特殊利益ヲ防護スルコト
ヲ目的トスル左ノ條款ヲ約定セリ
第一條
日本國又ハ大不列顛國ニ於テ本協約前文ニ記述セル權利及利益ノ中何レカ危殆ニ迫ルモノアルヲ認ムルトキハ兩國政府ハ相互ニ充分ニ且隔意ナク通告シ其ノ侵迫セラレタル權利又ハ利益ヲ擁護セムカ爲ニ執ルヘキ措置ヲ協同ニ考量スヘシ
第二條
兩締盟國ノ一方カ挑發スルコトナクシテ一國若ハ數國ヨリ攻撃ヲ受ケタルニ因リ又ハ一國若ハ數國ノ侵略的行動ニ因リ該締盟國ニ於テ本協約前文ニ記述セル其ノ領土權又ハ特殊利益ヲ防護セムカ爲交戰スルニ至リタルトキハ前記ノ攻撃又ハ侵略的行動カ何レノ地ニ於テ發生スルヲ問ハス他ノ一方ノ締盟國ハ直ニ來リテ其ノ同盟國ニ援助ヲ與へ協同戰鬪ニ當リ講和モ亦雙方合意ノ上ニ於テ之ヲ爲スヘシ
第三條
兩締盟國ハ孰レモ他ノ一方ト協議ヲ經スシテ他國ト本協約前文ニ記述セル目的ヲ害スヘキ別約ヲ爲ササルヘキコトヲ約定ス
第四條
兩締盟國ノ一方カ第三國ト總括的仲裁裁判條約ヲ締結シタル場合ニハ本協約ハ該仲裁裁判條約ノ有效ニ存續スル限右第三國ト交戰スルノ義務ヲ前記締盟國ニ負ハシムルコトナカルヘシ
第五條
兩締盟國ノ一方カ本協約中ニ規定スル場合ニ際シ他ノ一方ニ兵力的援助ヲ與フヘキ條件及該援助ノ實行方法ハ兩締盟國陸海軍當局者ニ於テ協定スヘク又該當局者ハ相互利害ノ問題ニ關シ相互ニ充分ニ且隔意ナク隨時協議スヘシ
第六條
本協約ハ調印ノ日ヨリ直ニ實施シ十年間效力ヲ有ス
右十年ノ終了ニ至ル十二月前ニ兩締盟國ノ孰レヨリモ本協約ヲ廢棄スルノ意思ヲ通告セサルトキハ本協約ハ兩締盟國ノ一方カ廢棄ノ意思ヲ表示シタル當日ヨリ一年ノ終了ニ至ル迄引續キ效力ヲ有ス然レトモ若右終了期日ニ至リ同盟國ノ一方カ現ニ交戰中ナルトキハ本同盟ハ講和ノ成立ニ至ル迄當然繼續スヘシ
右證據トシテ下名ハ各其ノ政府ノ委任ヲ受ケ本協約ニ署名調印ス
千九百十一年七月十三日倫敦ニ於テ本書二通ヲ作ル
大不列顛國駐剳日本帝國皇帝陛下ノ特命全權大使 加藤高明 印
大不列顛國皇帝陛下ノ外務大臣 イー、グレー 印
(国立公文書館:日英協約(第三次)報告ノ件)
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