支払猶予に関する緊急勅令(原文:ひらがな、一部新字体化)
支拂猶豫ニ関スル緊急勅令
朕茲に緊急の必要ありと認め枢密顧問の諮詢を経て帝国憲法第八条第一項に依り私法上の金銭債務の支払延期及手形等の権利保存行為の期間延長に関する件を裁可し之を公布せしむ
御 名 御 璽
摂 政 名
大正十二年九月七日
内閣総理大臣
各省大臣
勅令第四百四号
第一条 大正十二年九月一日以前に発生し同日より同年同月三十日迄の間に於て支払を為すへき私法上の金銭債務にして債務者か東京府、神奈川県、静岡県、埼玉県、千葉県及震災の影響に因り経済上の不安を生する虞ある勅令を以て指定する地区に住所又は営業所を有するものに付ては三十日間其の支払を延期す但し債務者か其の地区外に他の営業所を有する場合に於て該営業所の取引に関する債務に付ては此限に在らす
震災の影響に因り必要ある■は勅令の定むる所に依り前項の規定は大正十二年十月一日以後に支払の為すへき私法上の金銭債務に付き之を適用することを得
前項の規定中三十日の期間は之を延長することを得
第二条 左に揚くる支払に付ては前条の規定を適用せす
一 国、府県其他の公共団体の債務の支払
二 給料及労銀の支払
三 給料及労銀の支払の為にする銀行預金の支払
四 前号以外の銀行預金の支払にして一日百以下のもの
第三条 手形其の他之に準すへき有価証券に関し大正十二年九月一日より同年同月三十日迄の間に第一条に規定する地区に於て権利保存の為に為すへき行為は其の行為を為すへき時期より三十日内に之を為すに因りて其の効力を有す
第一条第二項の規定は前項の場合に之を準用す
附則
本令は公布の日より之を施行す
理由書
今回の大震災に因り被害各地を始め我一般経済界に及ぼせる影響深甚を極め就中震災地方に於ける金融は全然梗塞するに至れるを以て政府は曩に支払猶予に関する緊急勅令の発布を仰き以て一寸■急の策を講したりと■右は永く其の効力を有せしむへきに■す而かも該勅令の有効期限の経過すると同時に再ひ極端なる金融上の困難を来すへきは明白なるを以て此等梗塞せる金融を流通し経済界の困難を緩和する為日本銀行をして臨機非常の手段として幸例に依らすして手形の割引を為さしむるの必要あり而かも之か為我中央銀行として経済上最も重要なる同行の地位を危殆ならしむるか如きことあらは目前の急に迫られて却て後々に大害を■すの■なしとせす是を以て此際日本銀行をして右臨機の処置を採られむると同時に之に因りて将来同行の受くることあるへき損失に対しては相当の程度に於て政府より之が補償を為すこととし以て一面の現下金融界の大難局を救済すると同時に他面に於て我中央銀行の地位を確保するの緊切なるを認む而して此等財政上必要の処方を為すか為には目下の■形に照し憲法第七十条に依る勅令の発布を仰ふの必要あり是れ本案を提出する所以なり
(国立公文書館:昭和財政史資料第1号第138冊 支払猶予に関する緊急勅令及同理由書)
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