天羽声明(原文:一部新字体化)
日本は支那問題については日本の立場及び主張が列國と一致せざるものがあるかも知れぬが、日本は東亞における使命を果し責任を遂行するためには全力を盡さなければならぬ立塲にある、さきに日本が聯盟の脱退を余儀なくされたのはその東亞における日本の地位に對する見解が聯盟と相違を來たした結果によるのであつてこれは日本の支那に對する態度も又外國とは必ずしも一致せざるところがあるかも知れぬが、これは日本の東亞における地位使命より來るやむを得ざる事である。日本は諸外國に對しては常に友好關係の維持增進につとめてゐるはいふまでもないが、東亞における平和及び秩序を維持するためには日本の責任において單獨になすことは當然の歸結と考へる、又これを遂行することが日本の使命で日本はこれを決行する決意を有する。
しかして右の使命を遂行するためには日本は支那と共に東亞における平和維持の責任を分たざるを得ざる次第で又支那以外に責任を分つものはない、從つて支那の保全統一乃至國內秩序の回復は東亞平和の見地から見るも日本の最も切望するところである。しかして支那の保全統一及び秩序の回復は支那自身の自覺又は努力にまつ外なき過去の歷史の示すところで、現在においても將來においても又然りである。
この見地より支那側がもし日本を他國を利用して排斥し東亞平和に反する如き手段に出るとか或は以夷制夷の對外策に出づるが如きことあらば、日本としてもやむなくこれを排撃しなくてはならぬ。又列國側においても滿洲事變上海事件により形成せられた狀勢を顧慮して支那に對して共同動作を執らんとするが如きありとせば、たとへその名目は財政的援助といひ技術的援助であるにせよ、つまりこれは支那においては政治的意味を帶ぶることは必然にして、その形勢が助長せらるるときは遂に支那における勢力範圍の設定・國際管理又は分割の端諸を開くのでたゞ支那に對して大不幸を來たすのみならず、東亞の保全惹いては日本のためにも重大なる結果を及ぼすべき虞あり、從つて日本としては主義としてこれに反對せざるを得ぬ。しかし各國が各々別々に支那との經濟貿易上から交涉するが如きは事實上においては支那に對する援助となるも東亞の平和維持に支障を來さざる限りこれに干涉するの必要がない。然しもし右の如き處置が東亞の平和維持を紛亂するが如きことあらばこれに反對せざるを得ない。例へば最近外國が支那に軍用飛行機・軍事敎育顧問等を派遣し又は政治借欵を起すが如きは結局支那と日本その他の國との間の關係を離間し東亞の平和維持に反する結果を生ずることが明白であるから、日本としてはこれに反對せざるを得ない。
右の方針は日本の從來の方針より當然演繹せらるべきものであるが、最近外國が支那において共同動作援助の如き種々の名目で積極的に動いてゐるから、この際我が立塲を明かにするも徒爾ならざるべしと信ずる。
(国立国会図書館:日本大陸政策の発展 P27)
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