支那事変処理要綱(原文:ひらがな化、一部新字体化)
昭和十五年十一月十三日御前会議決定
方 針
支那事変の処理は昭和十五年七月決定「世界情勢の推移に伴ふ時局処理要綱」に準拠し
一、武力戦を続行する外英米援蒋行為の禁絶を強化し且日蘇国交を調整する等政戦両略の凡居手段を尽して極力重慶政権の抗戦意志を衰滅せしめ速に之か屈服を図る
二、適時内外の態勢を積極的に改善して長期大持久戦の遂行に適応せしめ且大東亜新秩序建設の為必要とする帝国国防力の弾撥性を快復増強す
三、以上の為特に日独伊三国同盟を活用す
要 領
一、重慶政権の屈服を促進し之を対手とする息戦和平を図る為の諸工作は次の如し
本工作は新中央政府承認迄に実効を収むることを目途として之を行ふ
(一)和平工作は帝国政府に於て之を行ひ関係各機関之に協力するものとす
「注」従来軍民に依りて行はれたる和平の為の諸工作は一切之を中止す
右工作の実施に当りては両国交渉従来の経緯に鑑み特に帝国の真意を明らかにし信義を恪持する如く善処するものとす
(二)和平条件は新中央政府との間に成立を見んとする基本条約(之と一体をなすへき艦船部隊の駐留及海南島の経済開発に関する秘密協約を含む)に準拠するものとし日本側要求基礎条件は別紙の如し
(三)右和平交渉は汪蒋合作を立前とし日支間の直接交渉に依り之を行ふを以て本則とするも之を容易ならしむる為独逸をして仲介せしむると共に対蘇国交調整をも利用す
支那側の実施する南京及重慶の合作工作は之を促進せしむるものとし帝国政府は之に対し側面的援助を為す
(四)新中央政府に対する条約締結は遅くも昭和十五年十一月末迄に完了するものとす
二、昭和十五年末に至るも重慶政権との間に和平成立せさるに於ては情勢の如何に拘らす概ね左記要領に依り長期戦方略への転移を敢行し飽く迄も重慶政権の屈服を期す
長期戦態勢転移後重慶政権屈服する場合に於ける条件は当時の情勢に依り定む
(一)一般情勢を指導しつつ適時長期武力戦態勢に転移す
長期武力戦態勢は一般情勢大なる変化なき限り蒙疆、北支の要域及漢口附近より下流揚子江流域の要域並広東の一角及南支沿岸要点を確保し常に用兵的弾撥力を保持しつつ占領地域内の治安を徹底的に粛正すると共に封鎖並航空作戦を続行す
(二)新中央政府に対しては一意帝国総合戦力の強化に必要なる諸施策に協力せしむることを主眼とし主として我占拠地域内への政治力の浸透に努力せしむる如く指導す
重慶側は究極に於て新中央政府に合流せしむるも新中央政府をして之か急速なる成功に焦慮するか如き措置は採らしめさるものとす
(三)支那に於ける経済建設は日満両国の事情と関連し国防資源の開発取得に徹底すると共に占領地域の民心の安定に資するを以て根本方針とす
(四)長期大持久の新事態に即応する為速に国内体制を積極的に改善す在支帝国諸機関の改善改廃を断行し施策の統制を強化す
別 紙
日本側要求基礎条件
一、支那は満洲国を承認すること
(本項具現の方式並時期に付ては別途考慮することを得)
二、支那は抗日政策を放棄し日支善隣友好関係を樹立し世界の新情勢に対応する為日本と共同して東亜の防衛に当ること
三、東亜共同防衛の見地より必要と認める期間支那は日本か左記駐兵を行ふことを認むること
(一)蒙彊及北支三省に軍隊を駐屯す
(二)海南島及南支沿岸特定地点に艦船部隊を留駐す
四、支那は日本か前項地域に於て国防上必要なる資源を開発利用することを認むること
五、支那は日本か揚子江下流三角地帯に一定期間保障駐兵をなすこと認むること(情況に依り適時取捨す)
「註」右条件の外左記我方要求は実質的に之を貫徹するに務むるを要す
左 記
一、汪蒋両政権の合作は日本の立場を尊重しつつ国内問題として処理すること
二、日支の緊密なる経済提携を具現すること
経済合作の方法に関しては従来の方法を固執せす平等主義により形式的には努めて支那側の面子を尊重するものとす
三、経済に関する現状の調整は日支双方に混乱を生せしめさる様充分なる考慮を以て処理すること
(国立公文書館:支那事変処理要綱 (昭和15年11月13日 御前会議に於て決定))
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