日華基本条約(原文:ひらがな化、一部新字体化)
条約第十号
日本國中華民國基本關係ニ關スル条約
大日本帝国政府及
中華民国国民政府は
両国相互に其の本然の特質を尊重し東亜に於て道義に基く新秩序を建設するの共同の理想の下に善隣として緊密に相提携し以て東亜に於ける恒久的平和を確立し之を核心として世界全般の平和に貢献せんことを希望し
之が為両国間の関係を律する基本的原則を訂立せんと欲し左の通協定せり
第一条
両国政府は両国間に永久に善隣友好の関係を維持する為相互に其の主権及領土を尊重しつつ政治、経済、文化等各般に亙り互助敦睦の手段を構ずべし
両国政府は政治、外交、教育、宣傅、交易等諸般に亙り相互に両国間の好誼を破壊するが如き措置及原因を撤廃し且将来に亙り之を禁絶することを約す
第二条
両国政府は文化の融合、創造及発展に付緊密に協力すべし
第三条
両国政府は両国の安寧及福祉を危殆ならしむる一切の共産主義的破壊工作に対し共同して防衛に当ることを約す
両国政府は前項の目的を達成する為各其の領域内に於ける共産分子及組織を芟除すると共に防共に関する情報、宣傅等に付緊密に協力すべし
日本国は両国共同して防共を実行する為所要期間中両国間に別に協議決定せらるる所に従ひ所要の軍隊を蒙疆及華北の一定地域に駐屯せしむべし
第四条
両国政府は中華民国に派遣せられたる日本国軍隊が別に定むる所に依り撤去を完了するに至る迄共通の治安維持に付緊密に協力することを約す
共通の治安維持を必要とする間に於ける日本国軍隊の駐屯地域其の他に関しては両国間に別に協議決定せらるる所に據る
第五条
中華民国政府は日本国が従前の慣例に基き又は両国共通の利益を確保する為所要期間中両国間に別に協議決定せらるる所に従ひ其の艦船部隊を中華民国領域内に於ける特定地域に駐留せしめ得ることを承認すべし
第六条
両国政府は長短相補ひ有無相通ずるの趣旨に基き且平等互恵の原則に依り両国間の緊密なる経済提携を行ふべし
中華民国政府は華北及蒙疆に於ける特定資源就中国防上必要なる埋蔵資源に関し両国緊密に協力して之を開発することを約諾す中華民国政府は其の他の地域に於ける国防上必要なる特定資源の開発に関し日本国及日本国臣民に対し必要なる便宜を提供すべし
前項の資源の利用に関しては中華民国の需要を考慮し中華民国政府は日本国及日本国臣民に対し積極的に充分なる便宜を提供するものとす
両国政府は一般通商を振興し及両国間の物資需給を便宜且合理的ならしむる為必要なる措置を構ずべし両国政府は揚子江下流地域に於ける通商交易の増進並に日本国と華北及蒙疆との間に於ける物資需給の合理化に付ては特に緊密に協力すべし
日本国政府は中華民国に於ける産業、金融、交通、通信等の復興発達に付両国間の協議に依り中華民国に対し必要なる援助乃至協力を為すべし
第七条
本条約に基く日華新関係の発展に照応し日本国政府は中華民国に於て日本国の有する治外法権を撤廃し及其の租界を還付すべく中華民国政府は自国領域を日本国臣民の居住営業の為開放すべし
第八条
両国政府は本条約の目的を達成する為必要なる具体的事項に関し更に約定を締結するものとす
第九条
本条約は署名の日より実施せらるべし
右証拠として下名は各本政府より正当の委任を受け本条約に署名調印せり
昭和十五年十一月三十日即ち中華民国二十九年十一月三十日南京に於て
日本文及漢文を以て本書各二通を作成す
大日本帝国特命全権大使 阿部信行 (印)
中華民国国民政府行政院院長 汪兆銘 (印)
附属議定書
本日日本国中華民国間基本関係に関する条約に署名するに当り両国全権委員は左の通協定せり
第一条
中華民国政府は日本国が中華民国領域内に於て現に遂行しつつある戦争行為を継続する期間中右戦争行為遂行に伴ふ特殊事態の存在すること及日本国が右戦争行為の目的達成上必要なる措置を執ることを諒解し之に応じ必要なる措置を講ずるものとす
前項の特殊事態は戦争行為継続中と雖も戦争行為の目的達成上支障なき限り情勢の推移に応じ条約及附属文書の趣旨に準拠して調整せらるべきものとす
第二条
従前中華民国臨時政府、中華民国維新政府等の弁じたる事項は中華民国政府に依り継承せられ差当り現状を維持せられたるものなるに依り右事項の中調整を要するものにして未だ調整せられざるものは事態之を許すに伴ひ両国間の協議に依り条約及附属文書の趣旨に準拠して速に調整せらるべきものとす
第三条
両国間の全般的平和克復し戦争状態終了したるときは日本国軍隊は本日署名せられたる日本国中華民国間基本関係に関する条約及両国間の現行約定に基き駐屯するものを除き撤去を開始し治安確立と共に二年以内に之を完了すべく中華民国政府は本期間に於て治安の確立を保障するものとす
第四条
中華民国政府は事変発生以来中華民国に於て事変に因り日本国臣民の蒙りたる権利利益の損害を補償すべし
日本国政府は事変の為生じたる中華民国難民の救済に付中華民国政府に協力すべし
第五条
本議定書は条約と同時に実施せらるべし
右証拠として両国全権委員は本議定書に署名調印せり
昭和十五年十一月三十日即ち中華民国二十九年十一月三十日南京に於て
日本文及漢文を以て本書各二通を作成す
大日本帝国特命全権大使 阿部信行 (印)
中華民国国民政府行政院院長 汪兆銘 (印)
附属議定書に関する日華両国全権委員間了解事項
本日日本国中華民国間基本関係に関する条約に署名するに当り右条約附属議定書第一条及第二条の規定に関連し両国全権委員間に左の了解成立せり
第一 中華民国に於ける各種徴税機関にして目下軍事上の必要に依り特異なる状態に在るものに付ては中華民国の財政独立尊重の趣旨に基き速に之が調整を計るものとす
第二 目下日本軍に於て管理中の公営、私営の工場、鉱山及商店は敵性を有するもの及軍事上の必要等已むを得ざる特殊の事情に在るものを除き合理的方法に依り速に之を中華民国側に移管する為必要なる措置を講ずるものとす
第三 日華合弁事業にして固有資産の評価、出資比率其の他に付修正を要するものあるに於ては両国間に別に協議決定せらるる所に従ひ之が是正の措置を講ずるものとす
第四 中華民国政府は対外貿易に関し統制を必要とする場合は自主的に之を行ふものとす但し条約第六条に掲げられたる日華経済提携の原則と抵触することを得ず又事変継続中に於ては右統制に付日本国側と協議すべきものとす
第五 中華民国に於ける交通、通信に関する事項にして調整を要するものに付ては両国間に別に協議決定せらるる所に従ひ事態之を許す限り速に之が調整を計るものとす
昭和十五年十一月三十日即ち中華民国二十九年十一月三十日南京に於て
日本文及漢文を以て本書各二通を作成す
大日本帝国特命全権大使 阿部信行 (印)
中華民国国民政府行政院院長 汪兆銘 (印)
(日本公文書館:日華基本条約並日満華共同宣言ニ関スル帝国政府公表・昭和十五...)(19401130日華基本条約.PDF)
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