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山東懸案解決に関する条約 1922年02月04日

山東懸案解決に関する条約(原文:ひらがな、一部新字体化)

条約第三号
   山東懸案解決ニ關スル條約
日本国及支那国は共に山東に関する懸案を友誼的に且両国の共同利益に適応して解決せむとする真摯なる希望に促され該懸案解決の為条約を締結することに決し之か為左の如く其の全権委員を任命せり
(省略)

    第一章
     旧独逸膠州租借地の還付
       第一条
日本国は旧独逸膠州租借地を支那国に還付すへし
       第二条
日本国政府及支那共和国政府は旧独逸膠州租借地の行政の移転及該地域内の公有財産の移転に関する細目の取極を作成実施し且均しく調整を要する他の事項を解決するの権限を有する共同委員会を組織する為各三名の委員を任命すへし
共同委員会は前記の目的の為本条約実施後直に会合すへし
       第三条
旧独逸膠州租借地の行政の移転及該地域内の公有財産の移転並前条に定むる他の事項は調整は成るへく速に且如何なる場合に於ても本条約実施の日より六月を超えさる間に之を完了すへし
       第四条
日本国政府は旧独逸膠州租借地の行政を支那国に移転するに際し右行政の移転に必要なるへき日本国所持の記録、登録、図面、証書其の他の文書又は右の認証謄本並支那国か爾後該地域及膠州湾の周囲五十基米地帯の行政を為すに付有用なるへき前記書類を支那共和国政府に引渡すことを約す
    第二章
     公有財産の移転
       第五条
日本国政府は旧独逸膠州租借地内の一切の公有財産(土地、建物、工場又は営造物を含む)は嘗て独逸国官憲か所有したるものなると該地域の日本国行政の期間内に日本国官憲か買収し又は建造したるものなるとを問わす之を支那共和国政府に移転することを約す但し本条約第七条に規定するものは此の限に在らす
       第六条
前条に依る公有財産の移転に付ては支那共和国政府は何等補償を要求せらるることなかるへし尤も日本国官憲か買収又は建造したるものに付及嘗を独逸国官憲か所有したるものに対する改良又は添加に付ては支那共和国政府は日本国政府か現実に支出したる費用に対し減損及存続価格の原則を考量し公正且衡平なる額を償還すへし
       第七条
旧独逸膠州租借地内の公有財産中青島に設置せらるへき日本国領事館の為必要なるものは日本国政府之を保有すへく又日本人居留民団体の福祉の為特に必要なるもの(公立学校、神社及墓地を含む)は右居留民団体に保有せしむへし
       第八条
前三条に掲くる事項の細目は本条約第二条に規定する共同委員会之を協定すへし
    第三章
     日本国軍隊の撤退
       第九条
青島済南府鉄道及其の支線の沿線に現在駐屯する日本国軍隊(憲兵を含む)は支那国の巡警又は軍隊か該鉄道の保護を引受くる為派遣せらるるに至らは直に撤退すへし
       第十条
前条に規定する支那国の巡警又は軍隊の配置及日本国軍隊の撤退は区間を分けて之を行うことを得
各区間に於ける右手続の完了期日は日本国及支那国当該官憲の間に予め之を協定すへし
右日本国軍隊の全部撤退は本条約署名の日より成るへく三月内に且如何なる場合に於ても六月を超えさる間に之を実行すへし
       第十一条
青島に於ける日本国守備隊は成るへく旧独逸膠州租借地内の行政を支那国に移転すると同時に且如何なる場合に於ても右移転の日より三十日を超えさる間に全部撤退すへし
    第四章
     青島海関
       第十二条
青島税関は本条約の実施と共に全然支那海関の一部と為るへし
       第十三条
青島支那海関の再開に関する千九百十五年八月六日の日支暫行取極は本条約実施と共に其の効力を失ふへし
    第五章
     青島済南府鉄道
       第十四条
日本国は青島済南府鉄道及其の支線を之に付属する他の一切の財産(埠頭、倉庫及他の同種の財産を含む)と共に支那国に移転すへし
       第十五条
支那国は前条に掲くる一切の鉄道財産の現実価格を日本国に償却することを約す
右償却せらるへき現実価格とは五千三百四十万六千百四十一(五三、四〇六、一四一)金貨「麻」(前掲財産中独逸人の遺留せる部分の査定額)又は其の相当額に日本国か右鉄道の管理中前掲財産に加へたる永久的の改良又は添加の為現実に支出したる額(相当の減損価格を控除す)を加へたるものとす
前条に掲くる埠頭、倉庫及他の同種の財産に関しては日本国か鉄道管理中之に加へたる永久的の改良又は添加の費用(相当の減損価格を控除す)を除くの外何等の負担を課せさるものとす
       第十六条
日本国政府及支那共和国政府は前条に定むる基礎に依り鉄道財産の現実価格を評価し且右財産の移転を協定するの権限を有する鉄道共同委員会を組織する為各三名の委員を任命すへし
       第十七条
本条約第十四条に依る一切の鉄道財産の移転は成るへく速に且如何なる場合に於ても本条約実施の日より九月を超えさる間に之を完了すへし
       第十八条
本条約第十五条に依る償却を実行する為支那国は鉄道財産の移転完了と同時に支那国政府の国庫証券を日本国に交付すへし該国庫証券は鉄道の財産及収入を担保とし其の期限は十五年とするも支那国の選択に依り右証券交付の日より五年の終に又は其の後何時にても六月の予告を以て全部又は一部を償却することを得へきものとす
       第十九条
前条に依る国庫証券の償還期限中支那共和国政府は該国庫証券の一部にても償還せられさる間は日本国臣民一名を運輸主任に、他の日本国臣民一名を支那会計主任と共同し且対等の職権を有する会計主任に選択任用すへし
前項の職員は総て支那管理局長の指揮、管理及監督の下に属すへく正当理由に因り免せらるることあるへし
       第二十条
前記国庫証券に関する専門的なる財政上の細目にして本章に規定せさるものは成るへく速に且如何なる場合に於ても本条約実施の日より六月を超えさる間に日本国及支那国の官憲に於て協同して之を決定すへし
    第六章
     青島済南府鉄道の延長線
       第二十一条
青島済南府鉄道の二延長線即ち済南府順徳線及高密徐州府線に関する特権は支那共和国政府及国際財業団間に協定せらるへき条件に従ひ右財業団の共同事業に開放せらるへし
    第七章
     鉱 山
       第二十二条
曩に支那国か独逸国に採掘権を許与したる淄川、坊子及金嶺鎮の鉱山は支那共和国政府の特許に依り設立せらるへき会社に引渡さるへく同会社に対する日本側の出資額は支那側の出資額を超過すへからす
右取極の様式及条件は本条約第二条に規定する共同委員会之を定むへし
    第八章
     旧独逸膠州租借地の開放
       第二十三条
日本国政府は旧独逸膠州租借地に於て日本専管居留地又は国際居留地の設置を要求せさるへきことを声明す
支那共和国政府は之に対し旧独逸膠州租借地全地域を外国貿易の為に開放すへきこと及外国人は右地域内に於て自由に居住し且商業、工業其の他一切の合法の業務に従事することを許さるへきことを声明す
       第二十四条
支那共和国政府は旧独逸膠州租借地に於て外国人か独逸国施政の下に於けると日本国行政の期間内に於けるとを問はす合法且公正に取得したる既得権を尊重すへきことを併せて声明す
日本国臣民又は日本会社の取得したる右既得権の地位又は効力に関する一切の問題は本条約第二条に規定する共同委員会之を調整すへし
    第九章
     製塩業
       第二十五条
支那国に於て製塩業は政府の専売事業に属するに鑑み膠州湾沿岸に於て現に右事業に従事する日本国臣民又は日本会社の利益は公正なる補償を支払ひを支那共和国政府之を買収すへく且前記沿岸に於ける該事業の産出に係る一定量の塩を日本国に輸出することは適当の条件を以て之を許可すへきことに協定す
前記利益を支那共和国政府に移転することを含む前項目的の為にする取極は本条約第二条に規定する共同委員会之を作成すへし右取極は成るへく速に且如何なる場合に於ても本条約実施の日より六月を超えさる間に之を完了すへし
    第十章
     海底電信線
       第二十六条
日本国政府は青島芝罘間及青島上海間の旧独逸海底電信線に関する一切の権利、権原及特権は右両線中日本国政府か青島佐世保間の海底電信線敷設の為に利用したる部分を除くの外支那国に帰属することを声明す尤も前記青島佐世保間の海底電信線の青島に於ける陸揚及運用に関する問題は支那国を一方の当事者とする現存契約の条件を留保し本条約第二条に規定する共同委員会之を調整すへきものとす
    第十一章
     無線電信局
       第二十七条
日本国政府は青島及済南府に於ける日本無線電信局は前記両地に於ける各日本国軍隊の撤退と共に此等無線電信局の価格に対し公正なる補償を得て之を支那共和国政府に移転することを約す
右の移転及補償に関する細目は本条約第二条に規定する共同委員会之を協定すへし
       第二十八条
本条約(附属書を含む)は批准を要す其の批准書は成るへく速に且署名の日より四月を超えさる間に北京に於て之を交換すへし
本条約は批准書交換の日より実施せらるへし

右証拠として各全権委員は英吉利語の本条約二通に署名調印す
千九百二十二年二月四日華盛頓に於て之を作成す
(署名省略)


    附 属 書
(以下省略)
(国立公文書館:山東懸案解決ニ関スル条約・御署名原本・大正十一年・条約第三号)

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