スキップしてメイン コンテンツに移動

ハーグ陸戦条約(陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約) 1899年07月29日

 ハーグ陸戦条約(ひらがな、一部新字体化)


   陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約

(前文及び署名省略)

第一条 締盟国は各各其の陸軍に対し本条約附属の陸戦の法規慣例に関する規則に遵依する所の訓令を発すへし

第二条 締盟国中の二国又は数国の間に戦を開きたる場合に限り締盟国は第一条に掲けたる規則の規定を遵守するの義務あるものとす

 右規定を遵守するの義務は締盟国間の戦闘に於て一の非締盟国か交戦国の一方に加はりたる時より消滅するものとす

第三条 本条約は成るへく速に批准すへし

 批准書は海牙に保管す

 各批准書に付一通の保管証書を作り其の認証謄本を外交上の手続に依り各締盟国に交付すへし

第四条 非記名国は本条約に加盟することを得へし

 非記名国か其の加盟を締盟国に通知するには書面を以て和蘭国政府に通告し同国政府より更に之を爾余の締盟国に通知すへし

第五条 若締盟国中の一国に於て本条約を廃棄するときは書面を以て其の旨を和蘭国政府に通告したる後一箇年を経過するに非されは廃棄の効力を生することなし右通告は和蘭国政府より直に爾余の締盟国に通知す

 右廃棄の効力は之を通告したる国のみに止るものとす

右証拠として各全権委員は本条約に記名調印するものなり

(以下省略)



条約附属書

陸戦の法規慣例に関する規則

   第一款 交戦者

    第一章 交戦者の資格

第一条 戦闘の法規及権利義務は独り之を軍に適用するのみならす左記の条件を具備する所の民兵及義勇兵団にも亦之を適用す

  第一 部下の為に責任を負ふ者其の頭にあること

  第二 遠方より看別し得へき固著徽章を有すること

  第三 公然武器を携帯すること

  第四 其の動作に於て戦闘の法規慣例を遵守すること

 民兵又は義勇兵団を以て軍の全部又は一部を組織する国に於ては之を軍の名目中に包含す

第二条 未た占領せられさる地方の人民にして敵の接近するに方り第一条に遵て編成するの遑なく自然武器を操りて侵入軍隊に抗敵する者にして戦闘の法規慣例を遵守する者は交戦者と看做すへし

第三条 交戦国の兵力は戦闘員及非戦闘員を以て之を編成することを得敵に捕獲せられたる場合には二者均く俘虜の取扱を受くるの権利を有す

    第二章 俘虜

第四条 俘虜は敵国政府の権内に属し之を捕獲したる個人又は軍団の権内に属することなし

 俘虜は博愛の心を以て之を取扱ふへきものとす

 兵器馬匹及軍用書類を除き凡そ俘虜の一身に属するものは依然其の所有たるへし

第五条 俘虜は之を市邑城寨陣営其の他の場所に留置し一定の境界以外に出てさる義務を負はしむることを得へし但し已むを得さる保安手段に出つる場合の外之を幽閉することを得す

第六条 国家は俘虜を其の階級及技能に応して労務者として使役することを得但し其の労務は過度なるへからす又一切作戦動作に関係を有すへからす

 俘虜は公衙一個人又は自己の為に労務することを許可せらるることあるへし

 国家の為にする労務は内国陸軍軍人を同一労務に使役する場合に適用すると同一の割合にて賃銀を支給すへし

 他の公衙又は一個人の為にする労務に関しては陸軍官衙と協議の上条件を定むへし

 俘虜の賃銀は其の境遇の艱苦を軽減するの用に供し剰余は其の解放の時之を交付す但し其の中より給養の費用を控除すへし

第七条 政府は其の権内に在る俘虜を給養すへき義務あり

 交戦国間に特別の協定なき場合には食料寝具及被服に関し俘虜は之を捕獲したる政府の軍隊と対等の取扱を受くへし

第八条 俘虜は之を権内に属せしめたる国の陸軍現行法律規則及命令に服従すへし

 総て不従順の行為あるときは俘虜に対して必要なる厳重手段を施すことを得

 逃走したる俘虜にして其の軍に達する前又は之を捕獲したる軍の占領せる地方を離るる前に再ひ捕へられたる者は懲罰に付せらるへし

 俘虜逃走を遂けたる後再ひ俘虜と為りたる者は前の逃走に対しては何等罰を受くることなし

第九条 俘虜其の氏名及階級に付訊問を受けたるときは実を以て答ふへきものとす若之に背くときは同種の俘虜に相応する利益を減殺せらるることあるへし

第十条 俘虜は其の本国の法律か之を許すときは宣誓の後解放せらるることあるへし此の場合に於ては本国政府並之を捕獲したる国の政府に対し一身の名誉を賭して誓約を厳密に履行するの義務を有す

 前項の場合に於て俘虜の本国政府は之に対し其の宣誓に違反する勤務を命し又は之に服せむとの申出を受諾すへからさるものとす

第十一条 俘虜を強迫して宣誓解放を受けしむることを得す又敵国政府は必すしも宣誓解放を得むとする俘虜の請願に応するの義務なし

第十二条 宣誓解放を受けたる俘虜にして其の名誉を賭して誓約を為したる政府又は其の政府の同盟国に対して兵器を操り再ひ捕へられたる者は俘虜の取扱を受くるの権利を失ひ軍法会議に付せらるることあるへし

第十三条 新聞通信員及探訪者酒保用達人等の如き直接に軍の一部を為ささる従軍者にして敵の権内に陥る所と為り敵に於て之を抑留するを有益なりと認むるときは其の所属陸軍官衙の証認状を携帯する者に限り俘虜の取扱を受くるの権利を有す

第十四条 戦争開始の時より各交戦国及場合に依りては交戦者を版図内に収容する中立国にも俘虜情報局を設置す該局は俘虜に関する一切の問合に答ふるの任務を有し各俘虜に関する銘銘票を作る為各当該官衙より総て必要なる通報を受領す俘虜の留置移動入院並死亡に関する現況は該局をして之を知悉せしむ

 情報局は尚戦場に於て発見せられ又は病院若は繃帯所に於て死亡せし俘虜の遺したる一切の自用品有価証券書状等を収拾して之を其の関係者に伝送することを担任す

第十五条 慈善行為の媒介者たる目的を以て其の国の法律に従ひ正当に組織せられたる俘虜救恤協会及其の正当の委任を受けたる代理者は其の博愛なる業務を有効に遵行せむか為軍事上の必要及行政上の規則に依りて定めたる範囲内に於て交戦国より一切の便宜を受くることを得へし右協会派出員は陸軍官衙より当人へ交付したる免許状に拠り且該官衙の定めたる一切の秩序及風紀維持に関する法則に服従すへき旨書面を以て約するときは俘虜の留置所及其の送還途中の休泊所に於て救恤品を分配することを許さるへし

第十六条 情報局は郵便免除の特典を享有す凡そ俘虜に宛て又は俘虜より発送する書状郵便為替有価物並小包郵便物は発受の両国並通過国に於て総て郵税を免除せらるへし

 俘虜に宛てたる贈与及救恤の現品は輸入税其の他の諸税及国有鉄道の運賃を免除せらるへし

第十七条 俘虜将校は本国の規則に其の規定あるときは俘虜の地位に在りて給与せらるへき給料を受くることを得但し右は其の本国政府より償還すへきものとす

第十八条 俘虜は陸軍官衙の定めたる秩序及風紀維持に関する法則に服従するの範囲内に於て宗教を遵行するの自由を許され且其の宗門の礼拝式にも亦参与することを許さるへし

第十九条 俘虜の遺言書は内国陸軍軍人と同一の条件を以て之を収領し又は調製す

 俘虜の死亡証書及埋葬に関しても亦同一の規則に遵ひ且其の身分階級に相当したる取扱を為すへし

第二十条 和約締結の上は成るへく速に俘虜を其の本国に送還すへし

    第三章 病者及傷者

第二十一条 病者及傷者の取扱に関する交戦者の義務は千八百六十四年八月二十二日「ジェネヴァ」条約及将来之に加ふることあるへき修正に拠る

   第二款 戦闘

    第一章 害敵手段攻囲及砲撃

第二十二条 交戦者は害敵手段の選択上無限の権利を有することなし

第二十三条 特別の条約を以て定めたる禁止の外特に禁止するもの左の如し

 (イ)毒又は毒を施したる兵器を使用すること

 (ロ)敵の国民又は軍に属する者を欺罔の行為を以て殺傷すること

 (ハ)兵器を捨て又は自衛の手段尽きて降を乞へる敵兵を殺傷すること

 (ニ)助命せさるの宣言を為すこと

 (ホ)無益の苦痛を与ふへき兵器弾丸其の他の物質を使用すること

 (ヘ)濫に軍使旗及国旗其の他軍用の標章並敵兵の制服及「ジェネヴァ」条約の徽章を使用すること

 (ト)戦争の必要上万已むを得さるの外敵の財産を破壊し又は押収すること

第二十四条 奇計並敵情地形探知の為必要なる手段の行使は適法と看做す

第二十五条 防守せさる市府町村落居宅又は建物を攻撃又は砲撃するを禁す

第二十六条 攻撃軍隊の指揮官は強襲の場合の外砲撃を始むる前に其の旨を官庁に通告する為凡そ其の権内に属する総ての手段を尽すへきものとす

第二十七条 攻囲及砲撃に於ては宗教技芸学術及慈善の為設けられたる建物病院並病者傷者の収容所は其の現に軍事上の目的に供せられさるに於ては成るへく之に害を加えさる為必要の手段を施すへし

 被囲者は予め攻囲者に通知したる看易き特別の徽章を以て此等の建物又は収容所を表示するの義務あり

第二十八条 突撃を以て攻抜したる市府又は其の他の地域と雖掠奪を行ふことを禁す

    第二章 間諜

第二十九条 一方の交戦者に通知するの意思を以て他の一方の作戦地帯内に於て隠密に行動し又は虚妄の口実を構へて各種の情報を収集し若は収集せむとする者の外之を間諜と看做すことを得す

 故に仮扮せさる軍人にして情報を収集せむか為敵軍の作戦地帯内に進入したる者は之を間諜と看做さす又軍人たると否とを問はす自国の軍又は敵国の軍に宛てたる信書を伝達するの任務を公然執行する者も亦之を間諜と看做さす信書を伝達する為及総て一軍又は一地方の各部間の聯絡を通する為軽気球にて派遣せられたる者も均く此の部類に属するものとす

第三十条 現行中捕へられたる間諜は先つ裁判に付したる上に非されは之を罰することを得す

第三十一条 一旦所属軍に復帰したる後に至り敵の為に捕へられたる間諜は俘虜として取扱はるへく其の前の間諜行為に対しては何等の責を負ふことなし

    第三章 軍使

第三十二条 交戦者の一方の命を帯ひ他の一方と談判を開く為白旗を掲けて来る者は之を軍使とす軍使並之に随従することあるへき喇叭手鼓手旗手及通訳者は不可侵権を有す

第三十三条 軍使を差向けられたる軍隊の司令官は必すしも之を受くるの義務なきものとす

 司令官は軍使か其の使命を利用して軍情を探知するを防くに必要なる一切の手段を施すことを得

 司令官は軍使か其の特権を濫用したる場合には一時之を抑留するの権利を有す

第三十四条 軍使特権を利用して欺罔の行為を為し又は之を教唆したるの証迹分明掩ふへからさるときは其の不可侵権を失ふ

    第四章 降伏規約

第三十五条 双方の間に協定する降伏規約には軍人の名誉に関する慣例を参酌すへきものす

 降伏規約確定の上は双方に於て厳密に之を遵守すへきものとす

    第五章 休戦

第三十六条 休戦は交戦者双方の合意を以て作戦動作を中止す若其の期限の定めなきときは交戦者は何時にても再ひ之を開始することを得但し休戦の条件に遵依し約定の時期に於て其の旨を敵に通告すへきものとす

第三十七条 休戦は全部に亘り又は一局部に限ることを得其の全部に亘るものは普く交戦国間の作戦動作を中止し其の一局部に限るものは単に特定の地域内に於て交戦軍の或る一部間に之を中止するものとす

第三十八条 休戦は時機を失はす之を関係官衙及軍隊に公然通告すへし通告の後即時に又は約定の時機に至り戦闘を中止す

第三十九条 戦地に於て交戦者と人民との間及交戦者相互間に為し得へき交通は規約者に於て休戦規約の条項を以て規定するものとす

第四十条 休戦規約者の一方に於て容易ならさる規約違反あるときは他の一方は規約廃棄の権利あるのみならす緊急の場合に於ては直に戦闘を開始することを得

第四十一条 一個人か自己の発意を以て休戦規約の条款に違反したるときは唯其の違反者の処罰を要求し若損害を受けたるときは其の賠償を要求するの権利を生するに止るへし

   第三款 敵国の版図内に於ける軍衙の権力

第四十二条 一地方にして事実上敵軍の権力内に帰したるときは之を占領せられたるものと看做す

 占領は右権力を成立して且行使せらるへき地域を以て限とす

第四十三条 正当の権力事実上占領者の手に移りたる以上は占領者は万已むを得さる場合の外占領地の現行法律を尊重して成るへく公の秩序及衆庶の生活を回復保障するの目的を以て其の権内に属する総ての手段を施すへし

第四十四条 占領地の人民を強迫して其の本国に敵対すへき作戦動作に加はらしむることを禁す

第四十五条 占領地の人民を強迫して其の敵国に臣従の誓を為さしむることを禁す

第四十六条 家族の名誉及権利個人の生命私有の財産並宗教の信仰及其の遵行は之を尊重せさるへからす

 私有財産は之を没収することを得す

第四十七条 掠奪は之を厳禁す

第四十八条 占領者若占領地内に於て従来国家の為に設けたる租税賦課金及通行税を徴収するときは成るへく現行の賦課規則に依て之を徴収すへし此の場合に於ては占領者は占領地行政の費用を支弁すること一に正当政府か支弁せし所と同様の程度に於てするの義務あるものとす

第四十九条 占領者若占領地に於て前条に掲けたる租税の外他の取立金を命する場合には軍又は占領地行政上の需要に応するの外之を為すことを得す

第五十条 人民に対し其の聨帯の責ありと認むへからさる一個人の行為の為金銭其の他の連坐罰を科すへからす

第五十一条 凡そ取立金は高級司令官の責任の下に命令書を以てするの外之を徴収することを得す

 右取立金は成るへく現行の租税賦課規則に拠るに非されは之を徴収すへからす

 凡そ取立金に対しては其の納付者に領収証を交付すへし

第五十二条 現品の徴発及課役は占領軍需要の為にするに非されは市町村又は住民に対して之を要求することを得す徴発は其の地方の資力に相応し且人民をして其の本国に敵対する作戦動作に与るの義務を負はしめさる性質のものたることを要す

 右徴発及課役は占領したる一局地に於ける司令官の許可あるに非されは之を要求することを得す

 現品の供給は成るへく即金にて之を支払ふへく否らされは領収証を与へて之を証明すへし

第五十三条 一地方を占領したる軍は本来国有に属する現金基金有価証券兵器廠輸送材料倉庫糧秣其の他総て作戦動作に供することを得へき国有動産の外之を押収することを得す

 鉄道材料陸上電信電話海上法の規定外に在る汽船其の他の船舶兵器廠其の他一切の軍需品は会社若は個人に属するものたりとも均く作戦動作に供すへき性質を有するものに属す然れとも平和回復の際には之を返還し及之か補償を為すへきものとす

第五十四条 中立国より来れる鉄道材料は該国の国有たると会社又は個人の所有たるとを問わす成るへく速に之を還送すへし

第五十五条 占領者たる国は敵国の国有に属し其の占領地内に存在する公有の建物不動産森林及農作地の管理者たり且其の用益権者たるに過きさるものと心得此等財産の基本を保護し用益権の規則に依りて之を管理せさるへからす

第五十六条 市町村の財産並宗教慈善教育技芸及学術の為設けられたる営造物所属の財産は国有に属するものと雖私有財産同様之を取扱ふへし

 総て這般の営造物歴史上の記念建造物技芸及学術上の製作品を故意に押収し破壊し又は毀損することを禁す犯す者は之を訴追すへきものとす

   第四款 中立国内に留置する交戦者及救護する傷者

第五十七条 交戦軍に属する軍隊を其の版図内に収容したる中立国は成るへく之を戦場より遠隔したる地に留置すへし

 中立国は此等軍隊を陣営内に監守し又は城寨若は特に之か為に設備したる場所に幽閉することを得へし

 将校をして許可なくして中立国の版図以外に出てさる旨を宣誓せしめ以て解放すると否とは中立国の決する所とす

第五十八条 特別の条約なきときは中立国は其の留置したる人員に食料被服を給与し人情に訴へて必要と認むる救助を与ふへし

 留置の為に生したる費用は平和回復の上償却せらるへし

第五十九条 中立国は交戦軍に属する傷者及病者か其の版図内を通過するを許すことを得へし但し之を輸送する列車には戦闘の人員及材料を搭載せさるを条件とすへし斯の如き場合に於ては中立国は之か為必要なる保安及監督の処置を施すへきものとす

 前記の条件に依りて甲交戦国か乙交戦国に属する傷者及病者を中立国の版図内に伴れ来るときは中立国は之を監守して再ひ作戦動作に与ること能はさらしむへし甲交戦国より依頼を受けたる傷者及病者に対しても亦同一の義務を有すへし

第六十条 「ジェネヴァ」条約は中立国の版図内に留置したる病者及傷者にも亦之を適用す

(参考:https://web.archive.org/web/20020212011607/http://homepage1.nifty.com/SENSHI/data/haug.htm)

(国立公文書館:陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約・御署名原本・明治三十三年・条約...)

コメント

このブログの人気の投稿

日清修好条規 1871年09月13日

内容見直し点:口語訳中途 修好条規(口語訳、前文署名省略) 第一条 この条約締結のあとは、大日本国と大清国は弥和誼を敦うし、天地と共に窮まり無るべし。又両国に属したる邦土も、各礼を以て相待ち、すこしも侵越する事なく永久安全を得せしむべし。 第二条 両国好を通ぜし上は、必ず相関切す。若し他国より不公及び軽藐する事有る時、其知らせを為さば、何れも互に相助け、或は中に入り、程克く取扱い、友誼を敦くすべし。 第三条 両国の政事禁令各異なれば、其政事は己国自主の権に任すべし。彼此に於て何れも代謀干預して禁じたる事を、取り行わんと請い願う事を得ず。其禁令は互に相助け、各其商民に諭し、土人を誘惑し、聊違犯あるを許さず。 第四条 両国秉権大臣を差出し、其眷属随員を召具して京師に在留し、或は長く居留し、或は時々往来し、内地各処を通行する事を得べし。其入費は何れも自分より払うべし。其地面家宅を賃借して大臣等の公館と為し、並びに行李の往来及び飛脚を仕立書状を送る等の事は、何れも不都合がないように世話しなければならない。 第五条 両国の官位何れも定品有りといえども、職を授る事各同じからず。因彼此の職掌相当する者は、応接及び交通とも均く対待の礼を用ゆ。職卑き者と上官と相見るには客礼を行い、公務を辨ずるに付ては、職掌相当の官へ照会す。其上官へ転申し直達する事を得ず。又双方礼式の出会には、各官位の名帖を用う。凡両国より差出したる官員初て任所に到着せば、印証ある書付を出し見せ、仮冒なき様の防ぎをなすべし。 第六条 今後両国を往復する公文について、清国は漢文を用い、日本国は日本文を用いて漢訳文を副えることとする。あるいはただ漢文のみを用い、その記載に従うものとする。 (これ以下まだ) 第七条 両国好みを通ぜし上は、海岸の各港に於て彼此し共に場所を指定め、商民の往来貿易を許すべし。猶別に通商章程を立て、両国の商民に永遠遵守せしむべし。 第八条 両国の開港場には、彼此何れも理事官を差置き、自国商民の取締をなすべし。凡家財、産業、公事、訴訟に干係せし事件は、都て其裁判に帰し、何れも自国の律例を按して糾辨すべし。両国商民相互の訴訟には、何れも願書体を用う。理事官は先ず理解を加え、成丈け訴訟に及ばざる様にすべし。其儀能わざる時は、地方官に掛合い双方出会し公平に裁断すべし。尤盗賊欠落等の事件は、両国の地方官より

ダンバートン・オークス提案(一般的国際機構設立に関する提案) 1944年10月09日

 ダンバートン・オークス提案(一般的国際機構設立に関する提案)(訳文)     一般的国際機構設立に関する提案 (「ダンバートン、オークス」会議の結果「ソ」連邦、米国、英国及重慶政権に依り提案せられ千九百四十四年十月九日発表せられたるもの) (本提案の英文は千九百四十四年十月十一日附「モスコー、ニュース」より之を採り「ストックホルム」電報等に依り長短相補ひたるものなり) 「国際連合」なる名称の下に一の国際機構設立せらるべく其の憲章は左の提案を具現するに必要なる規定を掲ぐべし    第一章 目的 本機構の目的は左の如くなるべし 一、国際平和及安寧を保持すること、右目的の為平和に対する脅威の防止及除去並に侵略行為又は他の平和侵害行為の抑圧を目的とする効果的且集団的措置を執ること及平和の侵害に至るの虞ある国際紛争を平和的方法に依り調整又は解決すること 二、各国間の友好関係を発展せしめ且世界平和を強化すべき他の適当なる措置を執ること 三、各国間の経済的、社会的及他の人道上の問題の解決の為国際協力を完成すること及 四、右共同目的完成の為各国の行動を調整すべき中心たるべきこと    第二章 原則 第一章に掲げたる目的を遂行せんが為本機構及其の締盟国は以下の原則に従ひ行動すべし 一、本機構は一切の平和愛好国の主権平等の原則に其の基礎を置くものとす 二、本機構の一切の締盟国は締盟国全部に対し締盟国たるの地位に基く権利及利益を保障する為憲章に従ひ負担したる義務を履行することを約す 三、本機構の一切の締盟国は其の紛争を国際平和及安寧を危殆ならしめざるが如き平和的方法に依り解決すべきものとす 四、本機構の一切の締盟国は其の国際関係に於て本機構の目的と両立せざる如何なる方法に於ても脅威又は兵力の行使を避くるものとす 五、本機構の一切の締盟国は本機構が憲章の規定に従ひ執るべき如何なる行動に於ても之に対し有らゆる援助を与ふるものとす 六、本機構の一切の締盟国は本機構が防遏的又は強制的行動を執行中なる如何なる国家に対しても援助を与ふることを避くるものとす 本機構は、国際平和及安寧保持に必要なる限り本機構の非締盟国が右原則に従ひ行動することを確実ならしむべし    第三章 締盟国 一切の平和愛好国は本機構の締盟国たり得べし    第四章 主要機関 一、本機構は其の主要機関として左記を有すべし  イ

第二次近衛声明(東亜新秩序建設の声明) 1938年11月03日

 第二次近衛声明(東亜新秩序建設の声明)                     (昭和十三年十一月三日)  今や 陛下の御稜威に依り帝国陸海軍は、克く広東、武漢三鎮を攻略して、支那の要域を戡定したり。国民政府は既に地方の一政権に過ぎず。然れども、尚ほ同政府にして抗日容共政策を固執する限り、これが潰滅を見るまで、帝国は断じて矛を収むることなし。  帝国の冀求する所は、東亜永遠の安定を確保すべき新秩序の建設に在り。今次征戦究極の目的亦此に存す。  この新秩序の建設は日満支三国相携へ、政治、経済、文化等各般に亘り互助連環の関係を樹立するを以て根幹とし、東亜に於ける国際正義の確立、共同防共の達成、新文化の創造、経済結合の実現を期するにあり。是れ実に東亜を安定し、世界の進運に寄与する所以なり。  帝国が支那に望む所は、この東亜新秩序建設の任務を分担せんことに在り。帝国は支那国民が能く我が真意を理解し、以て帝国の協力に応へむことを期待す。固より国民政府と雖も従来の指導政策を一擲し、その人的構成を改替して更生の実を挙げ、新秩序の建設に来り参ずるに於ては敢て之を拒否するものにあらず。  帝国は列国も亦帝国の意図を正確に認識し、東亜の新情勢に適応すべきを信じて疑はず。就中、盟朋諸国従来の厚誼に対しては深くこれを多とするものなり。  惟ふに東亜に於ける新秩序の建設は、我が肇国の精神に淵源し、これを完成するは、現代日本国民に課せられたる光栄ある責務なり。帝国は必要なる国内諸般の改新を断行して、愈々国家総力の拡充を図り、万難を排して斯業の達成に邁進せざるべからず。  茲に政府は帝国不動の方針と決意とを声明す。 (国立公文書館:「近衛首相演述集」(その二)/1 第一章 「声明、告諭、訓令、訓辞」 B02030031600)