北満鉄道讓渡協定(北満鉄道に関する「ソヴィエト」社会主義共和国連邦の権利を満洲国に譲渡する為の満洲国「ソヴィエト」社会主義共和国連邦間協定)(訳文、ひらがな化、一部新字体化、一部省略)
(訳文)
北滿鐵道(東支鐵道)ニ關スル「ソヴィエト」社會主義共和國聯邦ノ權利ヲ滿洲國ニ譲渡スル爲ノ滿洲國「ソヴィエト」社會主義共和國聯邦間協定
(前文省略)
第一条
「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府は同政府が北満鉄道(東支鉄道)に関して有する一切の権利を満洲国政府に譲渡すべく満洲国政府は右に対する代償として日本国通貨一億四千万(一四〇、〇〇〇、〇〇〇)円の額を「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府に支払ふべし
第二条
北満鉄道(東支鉄道)に関する「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府の一切の権利は本協定実施と同時に満洲国政府に移転すべく且之と同時に北満鉄道(東支鉄道)は満洲国政府の完全なる占有及単独の管理の下に置かるべきものとす
第三条
一 本協定実施と同時に「ソヴィエト」社会主義共和国連邦人民たる北満鉄道(東支鉄道)管理機関の高級職員は其の職を解かるべし右鉄道管理機関の右高級職員は其の管掌せる記録、帳簿、文書及書類を種類の如何を問はず総て右鉄道の新管理機関に於ける夫々の後任者に引渡すべし
本条に使用せらるる「北満鉄道(東支鉄道)管理機関の高級職員」なる語は左の者を表示するものとす
(甲) 各理事及監事
(乙) 管理局長及副管理局長
(丙) 稽核局副局長
(丁) 理事会、監事会、稽核局及管理局の各処長及副処長 各特務委員及特務工程師 各科及各分科の高等委員、顧問、科長及分科長
二 右鉄道の平常の機能を確保する目的を以て「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府は「ソヴィエト」社会主義共和国連邦人民たる右鉄道管理機関の高級職員中より左の者を本協定実施の日より一月間顧問として新管理機関の用に供することに同意す
(甲) 管理局長
(乙) 管理局総務処長
(丙) 管理局機務処長
(丁) 管理局財務処長
(戊) 管理局商務処長
三 本協定実施後に於ては何時にても満洲国政府は左の者の何れか又は全部を解雇することを得
(甲) 鉄道管区、停車場及機関庫の各主任
(乙) 右鉄道の左記各附帯事業の主任
イ 林区及伐出作業
ロ 炭坑
ハ 発電所
ニ 印刷所
ホ 商務処付帯事業
ヘ 在哈爾濱苗圃及温室
ト 総工廠
チ 洗毛工場及水壓梱包工場
リ 哈爾濱水道
ヌ 清涼飲料製造工場
ル 製材所
ヲ 大豆混合保管業
ワ 屑物浄化工場
カ 「グランド、ホテル」
ヨ 休養所及療養所
タ 病院及診療所
レ 図書館
ソ 経済調査局
四 本条一に掲げらるる者は本協定実施後一月間満洲国に留り且其の鉄道宿舎を保持するの権利を有すべし
本条二に掲げらるる者は本協定実施後二月間満洲国に留り且其の鉄道宿舎を保持するの権利を有すべし
本条三に依り解雇せられたる者は解雇の日より一月間正規の俸給を受くるの権利を有すべし右の者は解雇の日より二月間満洲国に留り且其の鉄道宿舎を保持するの権利を有すべし
第四条
満洲国政府は千九百三十四年三月二十二日「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府の代表部が日本国外務大臣を通じて満洲国政府の代表部に提出したる北満鉄道(東支鉄道)の千九百三十三年十二月三十一日現在の資産及負債表に基き右鉄道の資産及負債を継承すべし尤も右表は之に掲げられたる資産及負債が同表の日付より最後の表の日付に至る迄に受けたる変化を示す為且千九百三十四年一月一日及其の後発生したる新なる資産及負債を示す為千九百三十五年三月十七日及三月二十一日作成せられたる表に依り補足せられたるものとす
千九百二十四年五月三十一日北京に於て署名せられたる「ソヴィエト」社会主義共和国連邦及支那共和国間諸問題の解決の為の大綱に関する協定第九条(四)の規定及千九百二十四年九月二十日奉天に於て署名せられたる「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府及支那共和国東三省自治政府間の協定第一条(三)の規定は引続き有効なるものとす
第五条
「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府は在哈爾濱同連邦総領事館用として左の財産を永久且無償の貸付に依り維持するの権利を有すべし
イ 現在右総領事館に依り占有せられ居る土地及建物
所在地 秦家崗耀景街
面積 一四、八七三・六八平方メートル
建物 事務所第千四十九号 二、一七四・九〇平方メートル
官舎第千四十七号 六八五・三七平方メートル
官舎第千四十八号 一、四四七・六一平方メートル
自動車車庫及附属家屋第千五十一号 二四五・八八平方メートル
守衛詰所第千五十二号 三八・九〇平方メートル
ロ 現在右総領事館の職員に依り占有せられ居る土地及建物
所在地 秦家崗海城街
面積 二、五三〇平方メートル
建物 第九百三十四号 二五八・五一平方メートル
左の財産は本協定実施の日に於て在哈爾濱「ソヴィエト」社会主義共和国連邦総領事に対し無償且無期限にて貸付らるべく左に定むる目的にのみ使用せらるる為直に在哈爾濱「ソヴィエト」社会主義共和国連邦居留民団の占有及管理の下に置かるべし
イ 右居留民団の初等及中等教育の為に使用せらるべき哈爾濱道裡商務街第三十五号に在る北満鉄道(東支鉄道)第四学校並に同所所在の建物及財産
ロ 第九百四十九号の番号にて知られ居る土地(哈爾濱道裡高士街と警察街との角)及右土地に在る一切の建物にして将来病院として使用せらるべきもの
本協定実施の日より一月以内に在哈爾濱北満鉄道(東支鉄道)図書館の蔵書中より満洲国の地方官憲と在哈爾濱「ソヴィエト」社会主義共和国連邦総領事との合意に依り前記第四学校用として図書を選定すべし斯く選定せられたる図書は右学校に譲渡せらるべきものとす
第六条
北満鉄道(東支鉄道)に依り占有せらるる財産にして「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府に依り同政府に属し且右鉄道に属せずと主張せらるるもの及「ソヴィエト」社会主義共和国連邦の領域内に在る財産にして満洲国政府に依り北満鉄道(東支鉄道)に属すと主張せらるるものは夫々の政府に依り互に他方の政府の為に放棄せられたるものと看做され将来何れの政府も右財産に関し他方の政府に対して何等の要求を提起せざるべし
右規定は現在満洲里に在る「トランスバイカル」鉄道の財産(建物及其の敷地並に他の鉄道財産)及現在綏芬河に在る「ウスリー」鉄道の財産にして現に夫々右両鉄道に依り占有せられ且右鉄道の管理下に於て其の財産として残るべきものには適用せられざるべし
第七条
本協定第一条に掲げらるる日本国通貨一億四千万(一四〇、〇〇〇、〇〇〇)円の額の中四千六百七十万(四六、七〇〇、〇〇〇)円の額は本協定第八条の規定に従ひ現金にて支払はるべく残額九千三百三十万(九三、三〇〇、〇〇〇)円の決済は本協定第九条の規定に従ひ「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府に引渡さるる物品に対する満洲国政府の支払を以て行はるべし
第八条
本協定第七条の規定に従ひ現金にて支払はるべき四千六百七十万(四六、七〇〇、〇〇〇)円の額の中二千三百三十万(二三、三〇〇、〇〇〇)円の額は本協定の署名と同時に支払はるべし
残額二千三百四十万(二三、四〇〇、〇〇〇)円及年三分の単利は満洲国政府の国庫証書を以て満洲国政府より「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府に支払はるべし右国庫証書は後記の額にて後記の日を支払期日として発行せらるべし即ち千九百三十五年十二月二十三日を支払期日とする六百三十七万六千五百(六、三七六、五〇〇)円、千九百三十六年九月二十三日を支払期日とする六百二十四万四千八百七十五(六、二四四、八七五)円、千九百三十七年六月二十三日を支払期日とする六百十一万三千二百五十(六、一一三、二五〇)円、千九百三十八年三月二十三日を支払期日とする五百九十八万千六百二十五(五、九八一、六二五)円 前記の満洲国政府の国庫証書は「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府の為に発行せられ且本協定の署名と同時に満洲国政府の代表者より「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府の代表者に交付せらるべく株式会社日本興業銀行に於て支払はるべし
本条に規定せらるる第二回及其の後の各割賦金の支払期日の前日の「ロンドン」に於ける円及瑞西「フラン」の各為替相場に基き算出せらるる瑞西「フラン」にて示さるる円の為替相場が本協定実施の日の「ロンドン」に於ける円及瑞西「フラン」の各為替相場に基き算出せらるる瑞西「フラン」にて示さるる円の為替相場に比較して八分以上低きか又は高きときは前記割賦金の額は瑞西「フラン」にて示さるる割賦金の価値を本協定実施の日に於けるものと同一ならしむるが如く場合に応じて増加又は減少せらるべし
瑞西「フラン」の現在の金平価(一瑞西「フラン」は純金一グラム三十一分の九に相当す)が変更せられ又は瑞西「フラン」の金兌換が停止せらるるときは前項に規定せらるる方法に代り左の方法が採用せらるべし
本条に規定せらるる第二回及其の後の各割賦金の支払期日の前日の「ロンドン」に於ける金の価格及円の為替相場に基き算出して当該割賦金の額に等しき価値を有する純金の重量が本協定実施の日の「ロンドン」に於ける金の価格及円の為替相場に基き算出して右割賦金に等しき価値を有する純金の重量に比較して八分以上少きか又は多きときは右賦課金の額は純金にて示さるる割賦金の価値を本協定実施の日に於けるものと同一ならしむるが如く場合に応じて増加又は減少せらるべし
第九条
(支払方法に関する規定、省略)
第十条
(解雇される従業員に関する規定、省略)
第十一条
(解雇される従業員の退職金に関する規定、省略)
第十二条
「北満鉄道(東支鉄道)」なる語は之に属する一切の権利、事業及財産を包含するものとす
第十三条
満洲国政府及「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府は両国間の交通及運輸を増進し且容易ならしむる目的を以て本協定実施後三月以内に旅客、手荷物及貨物の通過輸送、「ソヴィエト」社会主義共和国連邦の鉄道停車場と北満鉄道(東支鉄道)停車場との間に於ける旅客、手荷物及貨物に付ての直通輸送並に技術的条件の許す限り「ウスリー」鉄道と北満鉄道(東支鉄道)との間に於ける貨物の積換なき綏芬河停車場経由の直通輸送に関する問題の解決に付規定する別約を締結すべし
右三月の期間内に両国政府は更に従来北満鉄道(東支鉄道)の運用せる電信路と「ソヴィエト」社会主義共和国連邦の電信路との間に於ける電信連絡に付規定する別約を締結すべし
第十四条
本協定は署名の日より実施せらるべし
(以下署名等省略)
(国立公文書館:標題:五、北満鉄道(東支鉄道)ニ関スル「ソヴィエト」社会主義共和国連邦ノ権利・・・ B02130950100)
満洲國及「ソヴィエト」社會主義共和國聯邦ノ各代表者ト共ニ署名調印シタル議定書
条約第二号
議定書
(前文省略)
第一条
「ソヴィエト」社会主義共和国連邦通商代表部が北満鉄道(東支鉄道)に関する「ソヴィエト」社会主義共和国連邦の権利を満洲国に譲渡する為の満洲国「ソヴィエト」社会主義共和国連邦間協定第九条に従ひ日本国又は満洲国に於て生産又は製造せられたる物品を右両国の何れかの臣民又は法人より購入する場合には日本国及満洲国の政府は前記協定実施の日より六月以内に購入契約が締結せらるることを確保する様商議が公正且正常に行はるる為及購入契約が正確に履行せらるる為通商代表部に対し能ふ限の便宜及援助を供与すべし
本議定書に於て「日本国又は満洲国に於て製造せられたる物品」及「日本国又は満洲国の法人」なる語は夫々前記協定第九条に依り定められたる意味に使用せらるるものとす
第二条
日本国政府及満洲国政府は前記臣民又は法人が通商代表部との契約に関する商議に於て不当に高き価格を要求し以て契約の締結を不可能ならしめざる為関係官憲を通じ必要なる措置を執るの用意あることを宣言す
「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府は通商代表部が日本国又は満洲国の臣民又は法人との契約に関する商議に於て不当に低き価格を要求し以て契約の締結を不可能ならしめざる為通商代表部に対し必要なる措置を執るの用意あることを宣言す
第三条
購入契約の締結に関する商議に於て通商代表部及日本国又は満洲国の臣民又は法人が物品の価格並に物品に対する支払及其の引渡に関する他の条件に付意見の一致を見るに至らざる場合には商議の当事者は共同又は単独にて常設調停委員会に対し意見の不一致に関し調停を申請することを得右委員会は本議定書実施後十日以内に設置せらるべく右委員会は日本国政府に依り任命せらるる一名の委員、満洲国政府に依り任命せらるる一名の委員及「ソヴィエト」社会主義共和国連邦政府に依りにんめいせらるる二名の委員を以て構成せらるべし
調停員会は右申請を受理したるときは其の公正と認むる意見を定め商議の当事者の何れか一方又は双方に対し右意見に従ひ契約を締結することを勧奨すべし物品の価格に関する申請の場合に在りては委員会は右意見の決定に当り基準として日本国又は満洲国の適当なる取引所に於ける当該物品の価格を採用し右価格なき場合には輸出価格を採用し輸出価格なき場合には各場合に応じ日本国又は満洲国の適当なる主要市場に於ける一般卸売価格を採用すべく右に掲げられたる取引所に於ける価格、輸出価格又は卸売価格を基礎として価格を定むること能はざる物品に関しては委員会は当該物品に関し入手し得らるる情報の全部を基礎として公正なる価格を定むべし
調停委員会に依る一切の事件の審理は委員会が申請を受理したる日より六週間以内に完了せらるべし
第四条
通商代表部及日本国又は満洲国の臣民又は法人が其の間に締結せる購入契約に依り規定せらるる義務の履行に関し意見の不一致を来したる場合には当事者は共同又は単独にて第三条第一項に掲げらるる調停委員会に対し意見の不一致に関し調停を申請することを得但し当該契約中に各当事者が右申請を為すことを得る旨の規定ある場合に限る
調停委員会は右申請を受理したるときは当該契約の規定及意見の不一致に関係ある一切の事項を審査し其の公正と認むる意見を定め当事者の何れか一方又は双方に対し右意見に従ひ意見の不一致を解決することを勧奨すべし
本条の場合に於ける調停委員会の事件審理期間は第三条の場合に同じ
第五条
調停委員会が所定の審理期間内に決定に到達し得ざる場合又は到達する決定が二週間以内に困難を除去し得ざるときは事件は意見不一致の当事者の何れか一方又は双方の申請に依り公正且妥当なる解決の為関係締約政府間の商議に移さるべし但し右は当事者間に予め其の旨の合意ある場合に限る
第六条
両関係当事者が希望するときは契約其の他に於て本議定書第三条、第四条及第五条の規定に従ひ調停委員会に依り又は関係締約政府間の商議に依り到達せる決定は両当事者を拘束すべき旨を定むる取極を設定することを得るものとす此の場合に於ては右決定は右取極に依り予見せらるる態様に於て効力を生ずべし
第七条
本議定書は署名の日より実施せらるべし
右証拠として下名は各本国政府より正当の委任を受け本議定書に署名調印せり
(以下、日付署名省略)
(官報:1935年03月25日)
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