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粛軍に関する意見書 1935年07月11日

 粛軍に関する意見書(ひらがな化、一部新自体化、附属文書省略)


   肅軍ニ關スル意見

謹みて卑見を具申す

現下帝国内外の情勢は「真に稀有の危局に直面せるを想はしむるもの」あるは曩に師団長会同席上陸軍大臣の口演せられし所の如く深憂危惧一日も晏如たり難く「時難匡救の柱軸たり国運打開の権威たらさるへからさる皇軍」の重責は愈々倍加せられたりと謂ふへし

此秋に臨み「挙軍の結束鉄よりも堅く一糸紊れさる統制の下に其の使命に邁進するは現下の重大時局に鑑み其の要特に切実」なるは固より多言を要せさる所なり 然るに現大臣就任以来軍統制に関する屡次の訓示、要望ありしに拘らす「各般の事象に徴するに遺憾乍ら更に一段の戒慎を要す」と云ふよりも寧ろ軍の統制乱れて麻の如く蓬乱流離殆んと収拾すへからさる状態に在るは実に長嘆痛慨に堪へさる所なりとす

固より社会の乱離混沌は変革期に於ける歴史的必然の現象にして軍部軍人と雖も此の大原則より除外せらるへきものに非す亦是れ社会進化当然の過程なるは達観すへしと雖も是れを自然として放任し皇天に一人して拱手傍観するはとらさる所、飽く迄も人事の最善を画して而して後天命の決する所を俟たすんはあるへからす 是れを以て逐年訓示し口演し処罰処分し或は放逐し投獄すると雖も愈々出てて愈々非統制状態を露呈し来れり 郷党的或は兵科的に対峙し天保無天に暗争を継続せる後最近は之れに国家革新の信念方針の異同を加へ来つて「党同異伐朋党比周」し甚しきは満洲事変、十月事件、五・一五事件等を惹起せる時代の潮流に躍り国民の愛国的戦時的興奮の頭上に野郎自大的に不謹慎を敢てし国家改造は自家独占の事業と誇負して他の介入協力を許さす或は清軍と自称して異伐排擠に寧日なき徒あり或は統制の美名を乱用し私情を公務に装ひて公権を擅断し上は下に臨むに「感情的妄動の徒」を以てし下は上を視るに政治的策謀の疑を以てす左右信和を欠き上下相剋を事とす実に危機厳頭に立つ顧みて慄然たらさるを得さる所なり

噫、皇軍の現状斯くの如くにして何によりて「時難匡救の柱軸たり国運打開の権威」たるを得へき 窃に思ふ此の難局打開の途は他なし本年度参謀長会同席上に於ける軍務局長所説の如く「信賞必罰、懲罰の適正」を期し軍紀を粛清するに在るのみと

実に皇軍最近の乱脈は所謂三月事件、十月事件なる逆臣行動を偽瞞陰蔽せるを動因として軍内外の撹乱其極に達せり 然も其の思想に於て其の行動に於て一点の看過斟酌を許すへからさる大逆不逞のものなりしは世間周知の事実にして附録第五「○○少佐の手記」によりて其の大体を察し得へし 而して上は時の陸軍大臣を首班とし中央部幕僚群を網羅せる此の二大陰謀事件を皇軍の威信保持に藉口して掩覆不問に附するは其の事自体、上軍御親率の 至尊を欺瞞し奉る大不忠にして建軍五十年未曾有の此の二大不祥事件を公正厳粛に処置することを敢てせさりしは実に大権の無視、「天機関説」の現実と謂ふへく断して臣子の道股肱の分を踏み行へるものに非す 軍内撹乱の因は正に三月、十月の両事件にあり而して両大逆事件の隠蔽糊塗は亦実に今日伏魔殿視さるる軍不統制の果を結へるものと謂はさるへからす 之れを剔抉処断し以て懲罰の適正を期するは軍粛清の為め採るへき第一の策なりと信す

爾余の些事は是れを省略す

昨冬以来問題となりし所謂十一月廿日事件に対する措置に至つては最も公正を欠くものと云はさるへからす最近に於ける訓示、諭告は総てを青年将校の妄動に帰すと雖も統制破壊の本源は実に自ら別個に存在せり

以下十一月事件に関し歪曲せられ陰蔽せられある経緯を明かにし以て御高鑑に資せんとす

別紙添附せる左記附録に就き真相御究明を冀望す

 一、附録第一 陸軍大臣及第一師団軍法会議長官宛上申書

 二、附録第二 片倉少佐、辻大尉に関する告訴状中告訴理由

 三、附録第三 片倉少佐、辻大尉に対する告訴追加(以上村中大尉)

 四、附録第四 告訴状並陳述要旨(磯部主計)

以上を以て事件推移の真相梗概を明かにし得へし 実に十一月廿日事件に関する限り軍司法権の運用に於て懲罰の適用に於て共に公明適正を欠き将又公的地位を擁して擅権自恣の策謀妄動するものあり軍内撹乱の本源は実に中央部内軍当局者の間に伏在するものと断言するも敢て過言にあらさるを信す

切言す 皇軍現下の紛乱は三月事件(筆者注:事を挿入)、十月事件の剔抉処断と両事件の思想行動を今に改悛自悔することなくして陰謀を是れ事とする徒の芟除とを断行するに非すんは遂に底止収拾する所を知らさるへし

不肖か一身の毀誉褒貶を顧みす告訴を提起せる所以のものは実に叙上の英断決行により粛軍の目的を達すへき機会を呈供せんとする大乗的意図に立ちしか故なり

今や国体問題朝野に論議せられ講壇に著書に三十年論説せられ信奉せられ来りし反逆亡国的邪説と是れに基き施設され運営せられ来りし制度機構なるものか「国体明徴」の国民的信仰の前に雲散霧消を厳命せられ「国体明徴」より「国体顕現」へ、「国体に関する国民的信仰の恢復、国民の国体覚醒」より「挙国維新の聖業翼賛」へと必然的過程を踏まんとするとき「時難匡救の柱軸たり国運打開の権威たらさるへからさる皇軍」のみ独り依然たる「天皇機関説、大元帥機関論」的思想と内容との残滓を包んて恥なきを得るや「陸軍は維新阻止の反動中枢」なりとする国民的非難に永く耳を掩ふは救ふへからさる危殆を誘引するもの今や断乎として猛省英断を要する秋に際会せり 不肖衷々として茲に憂ふるか故に非難貶黜の一身に集るへきを顧みす敢て暴言蕪辞を連ねて私見を具申するものなり

黜陟は伏して是れを待つ 唯々冀くは国家と皇軍の為明察英断あらんことを

                            頓首再拜


(附録第一)上申書

(省略)


(附録第二(筆者注:三を二に修正))片倉少佐、辻大尉に対する告訴状中告訴理由

(省略)


(附録第三) 片倉少佐、辻大尉に対する告訴追加

(省略)


(附録第四) 告訴状及陳述要旨

(省略)


(附録第五) 所謂十月事件に関する手記

(省略)

(国立国会図書館:粛軍に関する意見書 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3947480)

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