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国民優生法 1940年04月30日

 国民優生法(ひらがな化、一部新字体化)


法律第百七号

   國民優生法

第一条 本法は悪質なる遺伝性疾患の素質を有する者の増加を防遏すると共に健全なる素質を有する者の増加を図り以て国民素質の向上を期することを目的とす

第二条 本法に於て優生手術と称するは生殖を不能ならしむる手術又は処置にして命令を以て定むるものを謂ふ

第三条 左の各号の一に該当する疾患に罹れる者は其の子又は孫医学的経験上同一の疾患に罹る虞特に著しきときは本法に依り優生手術を受くることを得但し其の者特に優秀なる素質を併せ有すと認めらるるときは此の限に在らず

一 遺伝性精神病

二 遺伝性精神薄弱

三 強度且悪質なる遺伝性病的性格

四 強度且悪質なる遺伝性身体疾患

五 強度なる遺伝性畸形

四親等以内の血族中に前項各号の一に該当する疾患に罹れる者を各自有し又は有したる者は相互に婚姻したる場合(届出を為さざるも事実上婚姻関係と同様の事情に在る場合を含む)に於て将来出生すべき子医学的経験上同一の疾患に罹る虞特に著しきとき亦前項に同じ

第一項各号の一に該当する疾患に罹れる子を有し又は有したる者は将来出生すべき子医学的経験上同一の疾患に罹る虞特に著しきとき亦第一項に同じ

第四条 前条の規定に依り優生手術を受くることを得る者は優生手術の申請を為すことを得此の場合に於て本人配偶者(届出を為さざるも事実上婚姻関係と同様の事情に在る者を含む以下之に同じ)を有するときは其の配偶者の同意を、三十歳に達せざるとき又は心神耗弱者なるときは其の家に在る父母(婚姻に依り其の配偶者の家に入りたる者に在りては其の配偶者の父母とす以下之に同じ)の同意を得ることを要す

 前条の規定により優生手術を受くることを得る者心神喪失者なるときは優生手術の申請は前項の規定に拘らず其の家に在る父母之を為すことを得但し本人配偶者を有するときは其の配偶者及其の家に在る父母之を為すことを得

 第一項及前項但書の場合に於て其の配偶者知れざるとき又は其の意思を表示すること能はざるときは第一項の場合に在りては其の家に在る父母の同意を以て配偶者の同意に代へ前項但書の場合に在りては其の家に在る父母のみにて申請を為すことを得るものとす

 前三項の規定に依り其の家に在る父母の同意を要すとせられ又は其の家に在る父母が申請を為す場合に於て父母の一方が知れざるとき、死亡したるとき、家を去りたるとき又は其の意思を表示すること能はざるときは他の一方のみの同意又は申請を以て足り父母共に知れざるとき、死亡したるとき、家を去りたるとき又は其の意思を表示すること能はざるときは後見人の、後見人知れざるとき、なきとき又は其の意思を表示すること能はざるときは戸主の、戸主知れざるとき、未成年者なるとき又は其の意思を表示すること能はざるときは親族会の同意又は申請を以て父母の同意又は申請に代ふるものとす但し後見人及親族会は第二項に規定に依る申請をなすことを得ず

第五条 第三条第一項の規定に依り優生手術を受くることを得る者に対し監護上の処置、保健上の指導又は診療を為したる精神病院法に依る精神病院(同法第七条の規定に依り代用する精神病院を含む)若は保健所の長又は命令を以て定むる医師は本人の同意を得て優生手術の申請を為すことを得此の場合に於て本人配偶者を有するときは其の配偶者の同意をも、三十歳に達せざるとき又は心神耗弱者なるときは其の家に在る父母の同意をも得ることを要す

 前項の規定に依り優生手術の申請を為す場合に於て本人心神喪失者なるときは其の家に在る父母の同意を以て本人の同意に代ふるものとす

 前条第三項及第四項の規定は前二項の場合に之を準用す

第六条 前条の規定に依り優生手術の申請を為すことを得る者本人の疾患著しく悪質なるとき又は其の配偶者本人と同一の疾患に罹れるものなるとき等其の疾患の遺伝を防遏することを公益上特に必要ありと認むるときは同条の規定に依る必要なる同意を得ること能はざる場合と雖も其の理由を附して優生手術の申請を為すことを得

第七条 優生手術の申請は命令の定むる所に依り地方長官に之を為すべし

 前項の申請には本人の健康診断書及遺伝に関する調査書並に本人(本人心神喪失者なるときは其の家に在る父母とす但し本人配偶者を有するときは其の配偶者及其の家に在る父母とす)が優生手術が生殖を不能ならしむるものなることを了知したる旨の医師の証明書を添附すべし

 第四条第三項及第四項の規定は前項の場合に之を準用す

第八条 地方長官は優生手術の申請を受理したるときは優生手術を行ふべきものと認むるや否を決定す

 地方長官前項の決定を為さんとするときは予め地方優生審査会の意見を徴すべし

 地方長官第一項の決定を為したるときは第四条又は第五条の規定に依り優生手術の申請を為すことを得る者及優生手術の申請に付同意を得ることを要すとせられたる者に之を通知すべし

第九条 前条第三項の規定に依り通知を受くべき者は同条の決定に不服あるときは厚生大臣に之を申立つることを得

 前項の申立は決定の通知を受けたる後(通知を受けざる者に付ては決定ありたる後)三十日を経過したるときは之を為すことを得ず

 厚生大臣宥恕すべき事由ありと認むるときは前項の期限経過後に於ても仍之を受理することを得

第十条 厚生大臣は前条の申立を受理したる場合に於て申立を理由なしと認むるときは之を却下し申立を理由ありと認むるときは地方長官の決定を取消し且優生手術を行ふべきものと認むるや否を決定す

 厚生大臣前項の却下又は取消及決定を為さんとするときは予め中央優生審査会の意見を徴すべし

 第八条第三項の規定は第一項の却下並に取消及決定に之を準用す

第十一条 第四条又は第五条の規定に依り優生手術の申請を為すことを得る者及優生手術の申請に付同意を得ることを要すとせられたる者は書面又は口頭を以て中央優生審査会又は地方優生審査会に対し事実又は意見を申述することを得

 厚生大臣又は地方長官は中央優生審査会又は地方優生審査会の審査の為必要ありと認むるときは命令の定むる所に依り第三条の規定に依り優生手術を受くることを得る者をして審査会に出頭の上事実を申述せしめ又は医師の健康診断を受けしむることを得

第十二条 中央優生審査会及地方優生審査会に関する規程は勅令を以て之を定む

第十三条 優生手術を行ふべきものと認むる決定確定したるときは第三条の規定に依り優生手術を受くることを得る者は命令の定むる所に依り優生手術を受くべし

 優生手術は厚生大臣又は地方長官の命に依り命令を以て定むる医師命令を以て定むる場所に於て之を行ふ

 前項の規定に依り優生手術を行ひたる医師は命令の定むる所に依り其の経過を地方長官に報告すべし

第十四条 優生手術に関する費用に付ては勅令の定むる所に依る

第十五条 故なく生殖を不能ならしむる手術又は放射線照射は之を行ふことを得ず

第十六条 第十三条の規定に依る場合を除くの外医師生殖を不能ならしむる手術若は放射線照射又は妊娠中絶を行はんとするときは予め其の要否に関する他の医師の意見を聴取し且命令の定むる所に依り予め行政官庁に届出づべし但し特に急施を要する場合は此の限に在らず

 前項の届出ありたる場合に於て行政官庁必要ありと認むるときは其の指定したる医師の意見を更に聴取せしむることを得

 第一項但書の場合に於て届出を為さずして生殖を不能ならしむる手術若は放射線照射又は妊娠中絶を行ひたるときは命令の定むる所に依り行政官庁に届出づべし

第十七条 更生手術を受けたる者婚姻せんとするときは相手方の要求に依り優生手術を受けたる旨を通知すべし

第十八条 第十五条の規定に違反し生殖を不能ならしむる手術又は放射線照射を行ひたる者は一年以下の懲役又は千円以下の罰金に処す因て人を死に致したるときは三年以下の懲役に処す

第十九条 中央優生審査会及地方優生審査会の委員若は委員たりし者又は優生手術に関する審査若は施行の事務に従事し若は従事したる公務員若は公務員たりし者故なく其の職務上取扱ひたることに付知得したる人の秘密を漏泄したるときは六月以下の懲役又は千円以下の罰金に処す

 前項の罪は告訴を待て之を論ず

第二十条 第十六条第一項又は第三項の規定に違反し届出を為さず又は虚偽の届出を為したる者は百円以下の罰金に処す

   附 則

本法施行の期日は各規定に付勅令を以て之を定む

(国立公文書館:御署名原本・昭和十五年・法律第一〇七号・国民優生法(昭和十六年勅令第六百八十号参看) A03022439800)

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