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開戦以降物的国力の推移並今後に於ける見通説明資料 1944年08月10日

 開戦以降物的国力の推移並今後に於ける見通説明資料(ひらがな化、一部新字体化、附属資料省略、不明文字あり)


   開戰以降物的國力ノ推移竝ニ今後ニ於ケル見透

一、 判  決

 大東亜戦争勃発以来物的国力は開戦直前の見透に対し主として敵潜水艦に依る船舶の損害予想外に増大し造船量を遥に突破して保有船腹は大幅に逓減せる上に累次に亘るABの船舶増微に依りC船輸送力の激減せると一方特別及繰上輸入等に依る在庫物資よりの給源涸渇に依り逐年減少せり、然れとも国民生活を中心とする民需部門の犠牲により漸増せる軍需を充足し来れるも既に現状に於て主要食糧は一応確保し得るも爾余の諸産業は全面的に操業を短縮若は中止せられあるの実状にして徹底的に重点を形成せる軍需生産に於ても十九年度初頭を頂点として爾後は低下の傾向にあるを否定し得す又現状程度の国民生活を維持することも逐次困難となる趨勢に在り即ち戦争第四年たる十九年末には国力の弾発性は概ね喪失するものと認めらる

 更に二十年度の物的国力を現状見透に依り按ずるに空襲に依る被害を考慮外とするも本年度に比し相当低下すへく直接的戦力の造出も低調とならさるを得す、特に万一南方資源の運送杜絶するか如き事態生起せんか液体燃料の供給不足は輸送生産部門に対し正に致命的打撃を与ふべく、アルミニウム生産亦激減すべし、右窮状打開の為日満支資源利用に依る転換を図らんとするも所要資材捻出の見透より勘案し大規模なる措置は実現不可能にして有効適切なる方策を迅速に案出し得す

 即ち南方占領地との連絡確保は物的国力の維持培養の為絶対要件と謂ふへく南方資源特に石油を放棄せは爾後の戦争遂行に重大な影響を与ふへし

二、 説  明

 (一) 海上輸送力、開戦以降本年七月迄の間に於ける新造船喪失大破船は(一部推定を含む)左の如く

       新 造 船    二○九万総噸

       喪失大破船    四五〇 〃

       差   引  △ 二四一 〃

   損害は造船の約二倍半に達し国力逓減の最大原因を形成しあり

    C船輸送力の状況を開戦前見透及年度当初計画と対比するに左の通にして

           開戦前見透    年度当初計画(イ)     実 施(ロ)   (ロ)/(イ)

    十七年度   五、〇八三万瓲    五、三七五万瓲    四、一三六万瓲  七七

    十八年度 約 六、〇〇〇〃     三、四一二〃     三、〇三八〃   八八

    十九年度 約 七、〇〇〇〃     二、六一六〃 現状見透二、二一八〃   八四

    二十年度          現状見透二、三一〇〃

   特定機帆船に依る輸送力は木造船の竣工遅延未稼働、一般機帆船よりの動員量の減少、更に最近に於けるAB徴傭並燃料油不足に依り左の如く計画量に対し減少しあり

          年度当初計画(イ)      実 施(ロ)      (ロ)/(イ)

    十七年度   一、六〇〇万瓲      一、六〇〇万瓲    一〇〇

    十八年度   一、六一〇〃       一、四七六〃      九二

    十九年度   一、五九六〃       一、一七九〃      七四

    二十年度     二四七〃

   AB船支援量は戦局の推移と直接関係ありて累次変更を見たるも年度当初計画に対する実施状況左の如し

          年度当初計画(イ)       実 施(ロ)     (ロ)/(イ)

    十七年度     二八九万瓲        二一〇万瓲     七三

    十八年度     一一二〃         一一二〃     一〇〇

    十九年度     一五九〃

 (二) 鉄道輸送力

   船舶稼行率の向上と船舶の安全保持を目途とし十七年十二月より実施せる海上輸送物資の大陸鉄道転移(南鮮中継)は逐年其の輸送量を増加しありて現在既に満洲物資に付ては転移の極限に達しあり

   今後増強の見透としては華北物資中特に石炭、礬土頁岩の輸送に重点を指向するを要するも華北並朝鮮鉄道能力を増強せされは実現困難なり

   南鮮中継輸送計画

                   華北物資  満洲物資  朝鮮物資  計

    十七年度(十二月-三月の三倍) 二七万瓲 一二〇万瓲  -  一四七万瓲

    十八年度            三八〃  一四八〃   -  一八六〃

    十九年度           一五五〃  三二一〃 三八万瓲 五一四〃

   国有鉄道に付ては

   (イ) 国内資源増産に依る増送

   (ロ) 海上輸送物資陸運転移及中継輸送増に依る増送

   (ハ) 青函航送、関門隧道に依る増送(特に石炭)等に重点を指向し海上輸送力の減少に伴ひ之が負担量逐年左の如く増強を見たり、二十年度に於ける要輸送量は益々増加すべきも之に対する施設増強、車両増備用資材の配給殆ど不可能なる現状見透なるを以て二十年度以降は殆んど増強を期待し得す

   (イ) 総輸送量(十六年を一〇〇とせる比)

               輸送量     輸送■粁     内石炭輸送量

   十六年度(実績)      一〇〇     一〇〇      一〇〇

   十七年度(〃 )      一一四     一〇四      一〇一

   十八年度(〃 )      一四三     一一六      一〇七

   十九年度(計画)      一六五     一二九      一一六

   (ロ) 関門及青函石炭輸送量(千 瓲)

                 関 門       青 函

   十六年度(実績)       四一         三

   十七年度(〃 )    一、〇五九        二二

   十八年度(〃 )    四、五一五       五九六

   十九年度(計画)    六、五〇〇     二、〇〇〇  

 (三) 南方物資(除石油)還送量

開戦前見透に依る南方物資開発計画に基く還送計画量に対し其の実施は船腹不足生産量の不足等に依り何れも低下しあり特に本年下期以降に於ける南方配船中絶の場合を想定するに左記物資の供給力は激減するに至るべく之が為先般南方物資の繰上輸入に関し為し得る限りの措置を講することとなりたるも二十年度に繰越し得るものは極めて僅少なる見込なり

                                (千 瓲)

          開戦前見透に依る 十七年度  十八年度   十九年度

          十七年度計画   (実 績) ( 〃 )  ( 〃 )

   ボーキサイト    四〇〇   三二三    七九二    五六五

   生 ゴ ム     二〇〇    六五     七八     六八

   マニラ麻       八〇    八〇     八一     一五

   マンガン鉱     一〇〇    七一     八九     六七

     錫        二〇    一三     一八     一八

   クローム鉱      五〇    三〇     一二     二五

   コ プ ラ     三五〇   一〇五    一五六     三二

   ニッケル鉱     一〇〇   一〇〇     八四     四二

   キニーネ      〇・一   〇・一   〇・一二   〇・九五

   其 の 他 一、二一一・九 七二六・九 二七〇・八八  七六・〇五

     計    二、五一二  一、五一四  一、五八一    九〇九

(四) 外国米、外地米、満洲糧穀の輸移入

  十六年度以降外国米の輸入量は左の通逓減す

                     (百分比)

  十六米穀年度   一、四九四・二千瓲  一〇〇

  十七 〃     一、三三一・〇〃    八九

  十八 〃       七九九・五〃    五四

  十九 〃       五〇・〇 〃     三

右輸入減補填の方策として満洲糧穀類の主食化を図り十八年度四万瓲、十九年度三万瓲を見込みあり

外国米、外地米、満洲糧穀類中主食用を合算せる総輸移入量は左の如し

                     (百分比)

  十六米穀年度   二、三五七・九千瓲  一〇〇

  十七 〃     二、四五九・二〃   一〇五

  十八 〃     一、一二一・四〃    四八

  十九 〃     一、五五三・八〃    六六

内地主食の需要は近年頓に増加の傾向あるも各年共八千万石(一、三〇〇万瓲)程度に抑制し需給の均衡保持に努めあるも、内地米麦、輸移入穀類に依る不足量は相当大にして馬鈴薯、甘藷、雑穀等に依り極力補填するも尚不足の虞ある実状なり

(五) 石 炭

海上輸送物資の大宗たる石炭の供給力が輸送力の減少に伴ひ最大なる影響を受くる免れざる虞にして、之を石炭配船の推移に見るに左の如し

            配船量(O船及機帆船)    (百分比)

  十七年度       三、二九二万瓲        一〇〇

  十八年度       二、三一四〃          七七

  十九年度       一、六六四〃          五一

  現状見透(二十年度) 一、〇一五〃          三一

次に配船に依り著しく配炭量に変動ある本州四国地区に於ける出炭量は殆ど各年増減なく

僅かに青函航送、関門隧道に依る鉄道輸送力の増強に依り若干の補填をなし居る実状にして其の配炭量は左の如く逓減し一般産業に著しき規正を加ふるも尚需要量激増せる最重点産業に対しても相当の削減を為さざるを得ず

今后 更に強化せらるべき石炭配船減の我国産業 中枢地域に与ふる打撃は真に深刻なり

              本州四国配炭量       百分比

  十六年度       三、七三三万瓲        一〇〇

  十七年度       四、〇一七〃         一〇七

  十八年度       三、五七四〃          九六

  十九年度(見透)   三、一七六〃          八五

二十年度に関しては石炭の有力なる輸送力たる機帆船輸送力のB重油不足に依る減送を考慮せは産業活動に与ふる影響は一層深刻にして全面的企業整備は必至なるへし

(六) 石 油    南方石油の還送量は

  十七年度     一、四二八千竏

  十八年度     二、六一三〃

  十九年度(見透) 一、五〇〇〃

にして十七年度に於ては右の外相当量の国内貯油よりの補填あり右に依る■配当量は

  十七年度     二、〇八五千竏     一〇〇

  十八年度     一、六二一〃       七八

  十九年度(見透)   九六二〃       四六

にして現在船舶、自動車等輸送部門並鉄工業其の他関係に於て著しき規正を行ひつつあるも更に本年度下期見透に依れば一層の窮屈化を免れず輸送量の激減に依る影響甚大なるは既述せる処なり二十年度に於ては万一南方輸送路杜絶の場合を想定するに液体燃料の総供給力は国内資源の徹底的動員を図るも四〇乃至四五万竏にして十九年度■分に対してすら其の五〇%程度となり請■の緊急需要に対し九牛の一毛に過ぎず之が窮状突破こそ正に喫緊の急務にして石油還送は万難を排し国力を傾けて飽く迄之を確保するを要するものと認めらる尚内地民需船舶用重油及自動車用揮発油の配当量推移次の如し

              船舶用重油   自動車用揮発油

  十七年度          一〇〇       一〇〇

  十八年度           六九        八八

  十九年度(見込)       四六        五九

(七) 特別、繰上、調整輸入物資の在庫補填、十五年初期米英及其の植民地の我に対する態度益々悪化の徴あるを看取せられ資産凍結、一部物資の輸出制限乃至禁止の意図瞭となりたるに依り、十五年六月より十六年二月に至る間米国、カナダ、濠洲、印度、南米■より総額六億円の重要物資の輸入をなし、戦争用予備資材として之を保留せしめたり

右在庫物資は大東亜戦争勃発と共に逐次消費し供給力の補填を行ひ国力の急激なる低下を阻止し来りたるも十七年度末(一部は十八年度末)を以て在庫も涸渇するに至りたり

八 普通鋼々材

 (イ) 供給力

昭和十五年十月米国屑鉄の供給杜絶に遭遇するや予め準備せる所に基き第三国依存を脱却し鉄鋼の自給態勢を確立せるも普通鋼々材の供給力は十四年度の実績五一〇万瓲に対し開戦当時の十六年度は十七%の減少となれり十七年度以降に於ては物的戦力の基礎を成形する鋼材の重要性に鑑み極力満洲銑の対日増送、国内鉱石の開発増産、満支及南方占領地鉄鉱石の利用を強化する外屑鉄特別回収の促進其の他凡有の施策を講じ之が増強を図りたるも船腹の激減に依る原料供給量の圧縮に伴ひ十九年度中期以降供給力は大巾に低下すべき状況なり

昭和十六年度乃至昭和二十年度に至る供給力推移左の如し

   十六年度実績 四四二万瓲     一〇〇とせる場合

   十七年度実績 四二五万瓲      九六

   十八年度実績 四五一万瓲     一〇二

   十九年度計画 四九六万瓲     一一三

       見込 三二六万瓲      七四

   二十年度見透 二一〇-二六〇万瓲 四八-五九

 (ロ) 配当

供給力逐年減少の一途を辿るに反し軍需は逐年増大せり之か為民需の圧縮は激甚にして十六年度と十九年度計画を比較するに生拡六三%官需六一%一般民需三六%となるも現状見透より推移するに更に極度の圧縮を余儀なくせらるるものと認めらる斯くては生拡に於ては特殊産業を除き拡充は勿論維持補修資材にすら大なる不足を告げ之か生産に及ほす影響甚大なるものあり一般民需に至りては更に甚しく現状の国民生活を維持することも困難となる趨勢にあり

昭和十六年度配当を一〇〇とせる場合の軍民需の各年度推移左の如し

         軍 需   甲造船   民 需

   十六年度  一〇〇   一〇〇   一〇〇 

   十七年度  一一〇   一六〇    九三

   十八年度  一〇二   三一〇    八一

   十九年度   九〇   五二〇    六〇

更に二十年度の供給力を現状見透に依り按するに二一〇万瓲乃至二六〇万瓲程度となり仮に二四〇万瓲とし之か軍民需配当を十九年度年間基準に拠り按分するとせは軍需に於ては八八万瓲、甲造船八二万瓲、民需七〇万瓲程度となり軍備の増強は勿論生産部門及国民生活の上に対し致命的打撃を与ふへし

九 電気鋼

支那事変勃発以降の需要増加の結果国内生産のみを以てしては到底需要を充足するを得ず地金、鉱石共に相当量を輸入せり然るに大東亜戦争勃発以降需要激増に因り其の需給均衡は破局的状態に立至り鋼不足の軍需、造船は勿論各産業に及ほす影響甚大なるものあり

昭和十六年度以降の供給力推移を示せは次の如し

  十六年度実績  一三八千瓲

  十七年度実績  一一八

  十八年度実績  一一二

  十九年度計画  一二二

      見透   九四

  二十年度見透   八七

十  アルミニウム

アルミニウムの自給態勢は十五年度に於て確立せるも大東亜戦争勃発直前に於ては南方ボーキサイト取得困難に陥りたる為原料対策に相当苦悩せるも開戦と共にビンタン、ジョホール等ボーキサイト生産地を確保せるを以て原料に関しては何等の不安なく逐年増産の一途を辿れり

特に十九年度に於ては航空戦力増強の緊急なる要請に鑑みアルミニウムの大増産を企図し極力南方ボーキサイトを還送し他方緊急事態に対処し国産原料、転換対策を強化すると共に満洲よりの対日増送、貨幣回収等を促進し総供給力一九七千瓲を以て計画せり

然るに戦局の重大化に伴ひ南方ボーキサイト還送は逐次困難に陥りアルミニウム生産は激減せんとする状況なり之か為日満支原料への急速転換は凡有の施策を講し強行するの要あるも航空機用を初め爾他の部門に於ける需要は極度の圧縮を余儀なくせらるるものと認めらる

十六年度以降生産の推移を示せは左の如し

  十六年度     七二千瓲  一〇〇とせる場合

  十七年度    一〇三    一四三

  十八年度    一四一    一九六

  十九年度計画  一八五    二六〇

      見透  一二〇    一六七

更に二十年度見透に付ては前述の如く日満支資源利用に依る転換を図るものとし所要鋼材本年度第二四半期に於て既割当一一、〇〇〇瓲の外更に一五、〇〇〇瓲を確保することとし国内生産一〇五千瓲其の他輸入等を含め総供給力一二三千瓲程度となる見込なるも所要資材捻出及海上輸送力の見透より勘案し之れ以上の大規模なる措置は至難なり

十一 繊 維

紡績用綿花、人造絹糸、「ス、フ」を中心とし十六年度以降の供給力の推移及此等物資の占むる地位を考察すれば左表の如し

        全供給力      紡績   人絹   ス、フ

  十六年度 一、〇七四百万封度  六五%  一二%  二三%

  十七年度   九〇六      六二   一三   二五

  十八年度   六九二      七五    五   二〇

  十九年度   五六七      七二    五   二三

十九年度見透に付ては紡綿は配船及支那に於ける蒐荷の状況により推移し計画に対し四〇%人絹は配炭及ソーダの配当状況より計画に対し三五%乃至四〇%ス、フに於ては四五%乃至五〇%程度の減少となる見込なり

斯くして供給力逐年減少の一途を辿るに反し軍需は逐次増大し之か為民需の圧縮は激甚となり国民生活用の必需量は遥かに下回るは勿論軍需充足すら困難なる実状に立至れり

十六年度を一〇〇とせる場合の各年度軍民需の比率左の如し

        軍 需   民 需

  十六年度  一〇〇   一〇〇 

  十七年度  一二七    七六

  十八年度  一六三    四七

  十九年度  一九四    二七



開戦以降物的国力の推移並今後に於ける見通参考資料

(省略、PDFファイルあり)

(国立公文書館:開戦以降物的国力の推移竝今後に於ける見透説明資料 昭和19年8月10日 C12120198700) 

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内容見直し点:口語訳中途 修好条規(口語訳、前文署名省略) 第一条 この条約締結のあとは、大日本国と大清国は弥和誼を敦うし、天地と共に窮まり無るべし。又両国に属したる邦土も、各礼を以て相待ち、すこしも侵越する事なく永久安全を得せしむべし。 第二条 両国好を通ぜし上は、必ず相関切す。若し他国より不公及び軽藐する事有る時、其知らせを為さば、何れも互に相助け、或は中に入り、程克く取扱い、友誼を敦くすべし。 第三条 両国の政事禁令各異なれば、其政事は己国自主の権に任すべし。彼此に於て何れも代謀干預して禁じたる事を、取り行わんと請い願う事を得ず。其禁令は互に相助け、各其商民に諭し、土人を誘惑し、聊違犯あるを許さず。 第四条 両国秉権大臣を差出し、其眷属随員を召具して京師に在留し、或は長く居留し、或は時々往来し、内地各処を通行する事を得べし。其入費は何れも自分より払うべし。其地面家宅を賃借して大臣等の公館と為し、並びに行李の往来及び飛脚を仕立書状を送る等の事は、何れも不都合がないように世話しなければならない。 第五条 両国の官位何れも定品有りといえども、職を授る事各同じからず。因彼此の職掌相当する者は、応接及び交通とも均く対待の礼を用ゆ。職卑き者と上官と相見るには客礼を行い、公務を辨ずるに付ては、職掌相当の官へ照会す。其上官へ転申し直達する事を得ず。又双方礼式の出会には、各官位の名帖を用う。凡両国より差出したる官員初て任所に到着せば、印証ある書付を出し見せ、仮冒なき様の防ぎをなすべし。 第六条 今後両国を往復する公文について、清国は漢文を用い、日本国は日本文を用いて漢訳文を副えることとする。あるいはただ漢文のみを用い、その記載に従うものとする。 (これ以下まだ) 第七条 両国好みを通ぜし上は、海岸の各港に於て彼此し共に場所を指定め、商民の往来貿易を許すべし。猶別に通商章程を立て、両国の商民に永遠遵守せしむべし。 第八条 両国の開港場には、彼此何れも理事官を差置き、自国商民の取締をなすべし。凡家財、産業、公事、訴訟に干係せし事件は、都て其裁判に帰し、何れも自国の律例を按して糾辨すべし。両国商民相互の訴訟には、何れも願書体を用う。理事官は先ず理解を加え、成丈け訴訟に及ばざる様にすべし。其儀能わざる時は、地方官に掛合い双方出会し公平に裁断すべし。尤盗賊欠落等の事件は、両国の地方官より...

帝国陸海軍作戦計画大綱 1945年01月25日

 帝国陸海軍作戦計画大綱(ひらがな化、一部新字体化、一部省略)  帝国陸海軍作戦計画大綱(昭和二十年一月二十日)    目 次(略)    第一 作戦方針  帝国陸海軍は機微なる世界情勢の変転に莅み重点を主敵米軍の進攻破摧に指向し随処縦深に亙り敵戦力を撃破して戦争遂行上の要域を確保し以て敵戦意を挫折し以て戦争目的の達成を図る    第二 作戦の指導大綱 一 陸海軍は戦局愈々至難なるを予期しつつ既成の戦略態勢を活用し敵の進攻を破摧し速に自主的態勢の確立に努む   右自主的態勢は今後の作戦推移を洞察し速に先つ皇土及之か防衛に緊切なる大陸要域に於て不抜の邀撃態勢を確立し敵の来攻に方りては随時之を撃破すると共に其の間状況之を許す限り反撃戦力特に精錬なる航空戦力を整備し以て積極不羈の作戦遂行に努むるを以て其の主眼とす 二 陸海軍は比島方面に来攻中の米軍主力に対し靭強なる作戦を遂行し之を撃破して極力敵戦力に痛撃を加ふると共に敵戦力の牽制抑留に努め此の間情勢の推移を洞察し之に即応して速に爾他方面に於ける作戦準備を促進す 三 陸海軍は主敵米軍の皇土要域方面に向ふ進攻特に其の優勢なる空海戦力に対し作戦準備を完整し之を撃破す   之か為比島方面より皇土南陲に来攻する敵に対し東支那海周辺に於ける作戦を主眼とし二、三月頃を目途とし同周辺要地に於ける作戦準備を速急強化す   敵の小笠原諸島来攻(硫黄島を含む)に対し極力之か防備強化に努む   又敵一部の千島方面進攻を予期し又状況に依り有力なる敵の直接本土に暴進することあるを考慮し之に対処し得るの準備に遺憾なからしむ 四 陸海軍は進攻する米軍主力に対し陸海特に航空戦力を総合発揮し敵戦力を撃破し其の進攻企図を破摧す 此の間他方面に在りては優勢なる敵空海戦力の来攻を予想しつつ主として陸上部隊を以て作戦を遂行するものとす   敵戦力の撃破は渡洋進攻の弱点を捕へ洋上に於て痛撃を加ふるを主眼とし爾後上陸せる敵に対しては補給遮断と相俟つて陸上作戦に於て其の目的を達成す 此の際火力の集団機動を重視す   尚敵機動部隊に対しては努めて不断に好機を捕捉し之を求めて漸減す 五 支那大陸方面に在りては左に準拠し主敵米軍に対する作戦を指導す (一) 支那大陸に於ける戦略態勢を速に強化し東西両正面より進攻する敵特に米軍を撃破して其の企図を破摧し皇土を中核とする大...