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憲法改正草案要綱 1946年03月06日

 

憲法改正草案要綱(新字体化、ひらがな化)



憲法改正草案要綱

日本国民は、国会に於ける正当に選挙せられたる代表者を通して行動し、我等自身及子孫の為に諸国民との平和的協力の成果及此の国全土に及ふ自由の福祉を確保し、且政府の行為に依り再ひ戦争の惨禍の発生するが如きことなからしめんことを決意す。乃ち茲に国民至高意思を宣言し、国政を以て其の権威は之を国民に承け、其の権力は国民の代表者之を行使し、其の利益は国民之を享有すベき崇高なる信託なりとする基本的原理に則り此の憲法を制定確立し、之と抵触する一切の法令及詔勅を廃止す。

日本国民は永世に亙り平和を希求し、人間関係を支配する高邁なる理想を深く自覚し、我等の安全及生存を維持する為世界の平和愛好諸国民の公正と信義に信倚せんことを期す。

日本国民は平和を維持し且専制、隷従、圧抑及偏狭を永遠に払拭せんとする国際社会に伍して名誉ある地位を占めんことを庶幾ふ。我等は万国民均しく恐怖と欠乏より解放せられ、平和の裡に生存する権利を有することを主張し且承認す。

我等は何れの国も単に自己に対してのみ責任を有するに非すして、政治道徳の法則は普遍的なるが故に、之を遵奉することは自国の主権を維持し他国との対等関係を主張せんとする各国の負ふベき義務なりと信す。

日本国民は国家の名誉を賭し全力を挙けて此等の高遠なる目的を達成せんことを誓ふ。

第一 天皇

第一 天皇は日本国民至高の総意に基き日本国及其の国民統合の象徴たるベきこと

第二 皇位は国会の議決を経たる皇室典範の定むる所に依り世襲して之を継承すること

第三 天皇の国務に関する行為は凡て内閣の輔弼賛同に依り内閣は其の責に任すること

第四 天皇は此の憲法の定むる国務を除くの外政治に関する権能を有することなきこと

天皇は法律の定むる所に依り其の権能を委任することを得ること

第五 皇室典範の定むる所に依り摂政を置くときは摂政は天皇の名に於て其の権能を行ふものとし此の場合に於ては前記第四第一項に準すること

第六 天皇は国会の指名に基き内閣総理大臣を任命すること

第七 天皇は内閣の輔弼賛同に依り国民の為に左の国務を行ふこと

一 憲法改正、法律、政令及条約の公布

二 国会の召集

三 衆議院の解散

四 衆議院議員総選挙を行ふベき旨の宣布

五 国務大臣、大使及法律の定むる其の他の官吏の任免の認証

六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の停止及復権の認証

七 栄典の授与

八 外国の大使及公使の接受

九 式典の挙行

第八 皇室の為す金銭其の他の財産の授受は国会の議決なくして之を為すことを得ざること

第二 戦争の放棄

第九 国の主権の発動として行ふ戦争及武力に依る威嚇又は武力の行使を他国との間の紛争の解決の具とすることは永久に之を放棄すること

陸海空軍其の他の戦力の保持は之を許さす国の交戦権は之を認めざること

第三 国民の権利及義務

第十 国民は凡ての基本的人権の享有を妨けらるることなきものとし此の憲法の保障する国民の基本的人権は永遠にる不可侵の権利として現在及将来の国民に賦与せらるベきこと

第十一 此の憲法の保障する自由及権利は国民に於て不断に之が保持に努むると共に国民は其の濫用を自制し常に公共の福祉の為に之を利用するの責務を負ふこと

第十二 凡て国民の個性は之を尊重し其の生命、自由及幸福希求に対する権利に付ては公共の福祉に抵触せざる限り立法其の他の諸般の国政の上に於て最大の考慮を払ふベきこと

第十三 凡そ人は法の下に平等にして人種、信条、性別、社会的地位、又は門地に依り政治的、経済的又は社会的関係に於て差別を受くることなきこと

将来何人と雖も華族たるの故を以て国又は地方公共団体に於て何等の政治的権力をも有することなく華族の地位は現存の者の生存中に限り之を認むることとし栄誉、勲章又は其の他の栄典の授与には何等の特権を伴ふことなく此等の栄典の授与は現に之を有し又は将来之を受くる者の一代に限り其の効力を有すベきこと

第十四 国民は其の公務員を選定及罷免するの権利を専有すること公務員は凡て全体の奉仕者にして其の一部の奉仕者に非ざること

凡そ選挙に於ける投票の秘密は之を侵すベからす選挙人は其の選択に関し公的にも私的にも責を問はるることなかるベきこと

第十五 何人と雖も損害其の他に関する救済、公務員の罷免及法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正に関し平穏に請願を為す権利を有し何人も斯かる請願を為したるの故を以て如何なる差別待遇をも受くることなきこと

第十六 何人と雖も如何なる奴隷的役務にも服せしめらるることなく犯罪に因る処罰の場合を除くの外其の意に反する苦役は之を禁すること

第十七 思想及良心の自由は侵すベからざること

第十八 信教の自由は何人に対しても之を保障することとし如何なる宗教団体も国家より特権を受くることなく且政治上の権力を行使することなかるベきこと

何人と雖も宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制せられざるベきこと

国及其の機関は宗教教育其の他如何なる宗教的活動をも為すベからざること

第十九 集会、結社及言論、出版其の他一切の表現の自由は之を保障し検閲は之を禁し通信の秘密は之を侵すベからざること

第二十 国民は凡て公共の福祉に抵触せざる限り居住、移転及職業選択の自由を有すること

国民は外国に移住し又は国籍を離脱するの自由を侵さるることなきこと

第二十一 国民は凡て研学の自由を保障せらるること

第二十二 婚姻は両性双方の合意に基きてのみ成立し且夫婦が同等の権利を有することを基本とし相互の協力に依り維持せらるベきこと

配偶の選択、財産権、相続、住所の選定、離婚並に婚姻及家族に関する其の他の事項に関し個人の権威及両性の本質的平等に立脚する法律を制定すベきこと

第二十三 法律は有らゆる生活分野に於て社会の福祉及安寧、公衆衛生、自由、正義並に民主主義の向上発展の為に立案せらるベきこと

第二十四 国民は凡て法律の定むる所に依り其の能力に応し均しく教育を受くるの権利を有すること

国民は凡て其の保護に係る児童をして初等教育を受けしむるの義務を負ふものとし其の教育は無償たること

第二十五 国民は凡て勤労の権利を有すること

賃金、就業時間其の他の勤労条件に関する基準は法律を以て之を定むること

児童の不当使用は之を禁止すベきこと

第二十六 勤労者の団結及団体交渉其の他の集団行為を為すの権利は之を保障すベきこと

第二十七 財産権は侵さるることなきこと

財産権の内容は法律を以て之を定め公共の福祉に適応せしむること

私有財産は正当なる補償を以て之を公共の用に供せらるることあるベきこと

第二十八 何人と雖も現行犯として逮捕せらるる場合を除くの外権限ある司法官憲が発する令状にして訴追の理由たる犯罪を明示するものに依るに非ざれは逮捕せらるることなきこと

第二十九 何人と雖も訴追の趣旨を直ちに告けらるることなく又は直に弁護人に依頼するの権利を与ヘらるることなくして逮捕又は拘留せらるることなく何人も正当の理由なくして拘留せらるることなく要求あるときは其の理由は直に本人及其の弁護人の出席する公開の法廷に於て之を示すベきこと

第三十 何人と雖も国会の定むる手続に依るに非ざれは其の生命若は自由を奪はれ又は刑罰を科せらるることなかるベく何人も裁判所に於て裁判を受くるの権利を奪はることなかるベきこと

第三十一 国民が其の身体、家庭、書類及所持品に付侵入、捜索、拘禁及押収を受けざる権利は相当の理由に基き且捜索すベき場所及拘禁又は押収すベき人又は物を明示する令状を発するに非ざれは侵さるることなかるベきこと

捜索又は拘禁若は押収は権限ある司法官憲の発する各別の令状に依り之を行ふベきこと

第三十二 公務員に依る拷問及残虐なる刑罰は絶対に之を禁すベきこと

第三十三 凡そ刑事事件に於ては被告人は公平なる裁判所の迅速なる公開裁判を受くるの権利を享有すベきこと

刑事被告人は総ての証人に対し訊問の行はるる有らゆる機会を与ヘられ且公費を以て自己の為に証人を求むるの強制的手続に付ての権利を有すベきこと

被告人は如何なる場合に於ても資格ある弁護人を依頼し得ベく若し自ら之を依頼すること能はざるときは国に於て之を付するものとすること

第三十四 何人と雖も自己に不利益なる証言を強要せられざること

強制、拷問若は脅迫の下に又は長期の逮捕若は拘禁の後に為したる自白は之を証拠と為すを得ざること

何人と雖も自己に不利益なる唯一の証拠が本人の自白なる場合に於ては有罪とせられ又は処罰せらるベきことなかるベきこと

第三十五 何人と雖も実行の時に於て適法なりし行為又は既に無罪とせられたる行為に因り刑事上の責任を問はるることなかるベきものとすること

第四 国会

第三十六 国会は国権の最高機関にして国の唯一の立法機関とすること

第三十七 国会は衆議院及参議院の両院を以て構成すること

第三十八 両議院は国民に依り選挙せられ全国民を代表する議員を以て之を組織すること

両議院の議員の員数は法律を以て之を定むるものとすること

第三十九 両議院の議員及其の選挙人たるの資格は法律を以て之を定むること但し性別、人種、信条又は社会的地位に依りて差別を附することを得ざること

第四十 衆議院議員の任期は四年とすること但し衆議院解散の場合に於ては其の期間満了前に終了すること

第四十一 両議院の議員の選挙、選挙区及投票の方法に関する事項は法律を以て之を定むること

第四十二 参議院議員の任期は第一期の議員の半数に当る者の任期を除くの外六年とし三年毎に議員の半数を改選すること

第四十三 何人と雖も同時に両議院の議員たることを得ざること

第四十四 両議院の議員は法律の定むる所に依り国庫より相当額の歳費を受くること

第四十五 両議院の議員は法律の定むる場合を除くの外国会の会期中逮捕せらるることなく会期前に逮捕せられたる議員は其の院の要求あるときは会期中之を釈放すベきこと

第四十六 両議院の議員は議院に於て為したる演説、討論又は表決に付院外に於て責を負ふことなきこと

第四十七 国会は少くとも毎年一之を召集すること

第四十八 内閣は国会の臨時会の召集を決定することを得るものとし何れかの議院の総議員四分の一以上に当る者の要求ありたるときは其の召集を決定することを要すること

第四十九 衆議院解散を命せられたるときは解散の日より四十日以内に衆議院議員の総選挙を行ひ其の選挙の日より三十日以内に国会を召集すベきこと

衆議院解散を命せられたるときは参議院は同時に閉会せらるベきものとすること

第五十 両議院は各々其の議員の選挙又は資格に関する争訟を裁判すること

当選したることを証せられたる者の議席を失はしむるには出席議員三分の二以上の多数に依る議決を為すことを要すること

第五十一 両議院は各々其の総員三分の一以上出席するに非ざれは議事を開き議決を為すことを得ざること

両議院の議事は此の憲法に特例を定めたる場合を除くの外出席議員の過半数を以て之を決し可否同数なるときは議長の決する所に依ること

第五十二 両議院の議事は公開し秘密会を開くことを得ざること

両議院は其の議事の記録を保存し、且之を公刊して一般に頒布すベきこと

出席議員の五分の一以上の要求あるときは各議員の表決は之を議事録に記載すベきこと

第五十三 両議院は各々議長其の他の役員を選任すること

両議院は各々其の会議及議事に関する規則を定め議員にして紀律を紊るものあるときは之を処罰することを得ること但し議員を除名するには出席議員三分の二以上の多数を以て議決を為すことを要すること

第五十四 法律案は此の憲法に特別の定を為したる場合を除くの外両議院に於て可決したる時法律として成立すること

衆議院に於て可決し参議院に於て否決したる法律案は衆議院に於て出席議員三分の二以上の多数を以て再度可決するときは法律として成立するものとすること

参議院が衆議院の可決したる法律案を受領したる後議会休会中の期間を除き六十日以内に議決を為すに至らざるときは衆議院は参議院が右法律案を否決したるものと看做すことを得ること

第五十五 予算は前に衆議院に提出すベきこと

予算に関し参議院に於て衆議院と異りたる議決を為したる場合に於て、法律の定むる所に依り両議院の協議会を開くも仍意見一致せざるときは衆議院の決議を以て国会の決議とすること

第五十六 条約、国際約定及協定の締結に要する国会の協賛に付ても亦前記第五十五第二項に準すること

第五十七 両議院は各々国務に関する調査を為し之に関する証人の出頭、証言の供述及記録の提出を要求することを得るものとし此の場合に於ては法律の定むる所に依り其の要求に応せざる者を処罰することを得るものとすること

第五十八 内閣総理大臣及国務各大臣は両議院の一に議席を有すると否とを問はす何時にても法律に付討論を為す為出席することを得るものとし答弁又は説明の為出席を求められたるときは出席することを要すること

第五十九 国会は罷免の訴追を受けたる裁判官を裁判する為両議院の議員を以て組織する弾劾裁判所を設くベきものとし弾劾に関する事項は法律を以て之を定むること

第六十 衆議院は此の憲法の実施の日より参議院の正式に成立する迄の間国会としての権限を行ふものとすること

第五 内閣

第六十一 行政権は内閣之を行ふこと

第六十二 内閣は其の首長たる内閣総理大臣及法律を以て定むる其の他の国務大臣を以て組織すること

内閣は行政権の行使に付国会に対し連帯して其の責に任すること

第六十三 内閣総理大臣は国会の決議を以て選定すること此の選定は他の凡ての議事に先ち之を行ふベきこと

衆議院と参議院とが異りたる選定を為したる場合に於て法律の定むる所に依り両議院の協議会を開くも仍意見一致せざるときは衆議院の決議を以て国会の決議とすること

第六十四 内閣総理大臣は国会の協賛を以て国務大臣を選定すること此の協賛に付ては前記第六十三第二項に準すること

内閣総理大臣は任意に国務大臣の罷免を決定することを得ること

第六十五 内閣は衆議院に於て不信任の決議案を可決し又は信任の決議案を可決せざるときは十日以内に衆議院の解散なき限り総辞職を為すことを要すること

第六十六 内閣総理大臣欠くるに至りたるとき又は衆議院議員総選挙の後に於て初めて国会の召集ありたるときは内閣は総辞職を為すことを要すること

第六十七 前記第六十五及第六十六の場合に於ては内閣は新に内閣総理大臣の任命せらるる迄の間仍其の職務を行ふこと

第六十八 内閣総理大臣は内閣を代表して法律案を提出し、一般国務及外交関係の状況を国会に報告し並に行政各部を監視董督すること

第六十九 内閣は他の一般政務の外左の事務を行ふこと

一 法律を誠実に執行し国務を掌理すること

二 外交関係を処理すること

三 条約、国際約定及協定を締結すること但し時宜に依り事前又は事後に於て国会の協賛を経ることを要すること

四 国会の定むる規準に従ひ官吏に関する事務を掌理すること

五 予算を作成して国会に提出すること

六 此の憲法及法律の規定を実施する為命令及規則を制定公布すること但し其の命令及規則には特に当該法律の委任ある場合を除くの外刑罰規定を設くることを得ざること

七 大赦、特赦、減刑、刑の執行停止及復権を決定すること

第七十 法律及命令は凡て主務大臣署名し内閣総理大臣之に副署することを要すること

第七十一 国務各大臣は其の在任中は内閣総理大臣の許諾なくして訴追せらるることなきこと但し之に因りて訴追の権利を害することを得ざること

第六 司法

第七十二 司法権は凡て最高裁判所及法律を以て定むる下級裁判所之を行ふこと

特別裁判所は之を設置することを得す行政機関は終審として裁判を行ふことを得ざること

裁判官は凡て其の良心に従ひ独立して其の職権を行ひ此の憲法及法律に依るの外其の職務の執行に付他の干渉を受くることなきこと

第七十三 最高裁判所は訴訟手続、弁護士に関する事項、裁判所の内部規律、司法事務処理及司法権の自由なる行使に関する事項に付規則を定むるの権限を有すること

検察官は最高裁判所の定むる規則に従ふことを要し最高裁判所は下級裁判所に関する規則を定むるの権限を之に委任することを得ること

第七十四 裁判官は裁判に依り心神の耗弱又は身体の故障の為職務を執ること能はすと決定せられたる場合を除くの外公開の弾劾に依るに非ざれは罷免することを得す裁判官は行政官庁の懲戒処分を受くることなきこと

第七十五 最高裁判所は法律の定むる員数の裁判官を以て之を構成し此等の裁判官は凡て内閣に於て之を任命し満七十歳に達したる時退官するものとすること

最高裁判所の裁判官の任命は其の任命後最初に行はるる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し爾後十年を経過したる後最初に行はるる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し其の後に於て亦同しきこと

前項の場合に於て投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは当該裁判官は罷免せらるベきものとすること

審査に関する事項は法律を以て之を定むること

此等の裁判官は凡て定期に適当の報償を受くるものとす此の報償は在任中之を減額することを得ざること

第七十六 下級裁判所の裁判官は最高裁判所の指名したる者の名簿に就き内閣に於て之を任命し此等の裁判官は十年を以て任期とし再任を妨けざること裁判官は凡て定期に適当の報償を受くるものとすること此の報償は在任中之を減額することを得ざること裁判官は満七十歳に達したる後は在任することを得ざること

第七十七 最高裁判所は最終裁判所とし一切の法律、命令、規則又は処分の憲法に適合する否を決定するの権限を有すること

第七十八 裁判の対審及判決は公開法廷に於て之を行ふベきこと但し裁判所が全員一致を以て公の秩序又は善良の風俗を害するの虞ありと決したる場合に於ては対審は公開せすして之を行ふことを得ること政治に関する犯罪、出版物に関する犯罪及此の憲法第三の保障する国民の権利に係る事件の対審は常に之を公開することを要すること

第七 会計

第七十九 国の財政を処理する権限の行使は国会の議決に基くことを要すること

第八十 新に租税を課し又は現行の租税を変更するは国会の協賛又は国会の定むる条件に依るに非ざれは之を為することを得ざること

此の憲法施行の際現に行はるる租税は国会が之を変更するに至る迄は現行の法令に従ひ之を徴収すること

第八十一 国費を支出し又は国に於て債務を負担するは国会の議決に基くに非ざれは之を為すことを得ざること

第八十二 内閣は毎会計年度の予算を調製し提出して其の審議及協賛を受くベきこと

第八十三 予見し難き予算の不足に充つる為国会の協賛を経て予備費を設け内閣の責任を以て之を支出することを得ること

予備費の支出に付ては凡て内閣に於て国会の承諾を受くることを要すること

第八十四 世襲財産を除くの外皇室の財産は凡て国に属す皇室財産より生する収益は凡て国庫の収入とし法律の定むる皇室経費の支出は予算に由り国会の協賛を経ベきこと

第八十五 公金其の他の公の財産は宗教制度若は宗教団体の使用、便益若は維持の為又は国の管理に属せざる慈善、教育若は博愛の事業に対し之を出捐することを得ざること

第八十六 国の収入支出の決算は凡て毎年会計検査院之を検査し内閣は次年度に於て其の検査報告と共に之を国会に提出すベきこと

会計検査院の組織及権限は法律を以て之を定むベきこと

第八十七 内閣は国会及国民に対し定期に且少くとも毎年一国の財政状況に付報告を為すベきこと

第八 地方自治

第八十八 地方公共団体の組織及運営に関する事項は地方自治の本旨に基き法律を以て之を定むベきこと

第八十九 地方公共団体には法律の定むる所に依り其の議事機関として議会を設くベきこと

地方公共団体の長、其の議会の議員及法律の定むる其の他の吏員は当該地方公共団体の住民に於て直接之を選挙すベきこと

第九十 地方公共団体は其の財産を管理し、行政を執行し及事務を処理するの権能を有し、且法律の範囲内に於て条例を制定することを得ベきこと

第九十一 一の公共団体にのみ適用ある特別法は法律の定むる所に依り当該地方公共団体の住民多数の承認を得るに非ざれは国会之を制定することを得ざること

第九 改正

第九十二 此の憲法の改正は各議院の総議員三分の二以上の賛成を以て国会之を発議し国民に提案して其の承認を経ベきこととし国民の承認は国会の定むる所に依り行はるる投票に於て其の多数の賛成あることを要すること

憲法改正に付前項の承認を経たるときは天皇は国民の名に於て憲法の一部を成すものとして直に之を公布すベきこと

第十 最高法規

第九十三 此の憲法並に之に基きて制定せられたる法律及条約は国の最高法規とし、其の条規に矛盾する法律、命令、詔勅及其の他の政府の行為の全部又は一部は其の効力を失ふこと

第九十四 此の憲法の日本国民に保障する基本的人権は人類の多年にる自由獲得の努力の成果にして、此等の権利は過去幾多の試錬に堪へ現在及将来の国民に対し永劫不磨のものとして賦与せられたるものとすること

天皇又は摂政及国務大臣、両議院の議員、裁判官其の他の公務員は此の憲法を尊重擁護するの義務を負ふこと

第十一 補則

第九十五 此の憲法実施の際現に存する国務大臣、両議院の議員、裁判官其の他の公務員は此の憲法の条規に拘らす後任者の選挙又は任命に至る迄現行法令の定むる所に従ひ仍其の任に留まるものとすること

Source国立国会図書館 https://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/093/093tx.html

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内容見直し点:口語訳中途 修好条規(口語訳、前文署名省略) 第一条 この条約締結のあとは、大日本国と大清国は弥和誼を敦うし、天地と共に窮まり無るべし。又両国に属したる邦土も、各礼を以て相待ち、すこしも侵越する事なく永久安全を得せしむべし。 第二条 両国好を通ぜし上は、必ず相関切す。若し他国より不公及び軽藐する事有る時、其知らせを為さば、何れも互に相助け、或は中に入り、程克く取扱い、友誼を敦くすべし。 第三条 両国の政事禁令各異なれば、其政事は己国自主の権に任すべし。彼此に於て何れも代謀干預して禁じたる事を、取り行わんと請い願う事を得ず。其禁令は互に相助け、各其商民に諭し、土人を誘惑し、聊違犯あるを許さず。 第四条 両国秉権大臣を差出し、其眷属随員を召具して京師に在留し、或は長く居留し、或は時々往来し、内地各処を通行する事を得べし。其入費は何れも自分より払うべし。其地面家宅を賃借して大臣等の公館と為し、並びに行李の往来及び飛脚を仕立書状を送る等の事は、何れも不都合がないように世話しなければならない。 第五条 両国の官位何れも定品有りといえども、職を授る事各同じからず。因彼此の職掌相当する者は、応接及び交通とも均く対待の礼を用ゆ。職卑き者と上官と相見るには客礼を行い、公務を辨ずるに付ては、職掌相当の官へ照会す。其上官へ転申し直達する事を得ず。又双方礼式の出会には、各官位の名帖を用う。凡両国より差出したる官員初て任所に到着せば、印証ある書付を出し見せ、仮冒なき様の防ぎをなすべし。 第六条 今後両国を往復する公文について、清国は漢文を用い、日本国は日本文を用いて漢訳文を副えることとする。あるいはただ漢文のみを用い、その記載に従うものとする。 (これ以下まだ) 第七条 両国好みを通ぜし上は、海岸の各港に於て彼此し共に場所を指定め、商民の往来貿易を許すべし。猶別に通商章程を立て、両国の商民に永遠遵守せしむべし。 第八条 両国の開港場には、彼此何れも理事官を差置き、自国商民の取締をなすべし。凡家財、産業、公事、訴訟に干係せし事件は、都て其裁判に帰し、何れも自国の律例を按して糾辨すべし。両国商民相互の訴訟には、何れも願書体を用う。理事官は先ず理解を加え、成丈け訴訟に及ばざる様にすべし。其儀能わざる時は、地方官に掛合い双方出会し公平に裁断すべし。尤盗賊欠落等の事件は、両国の地方官より...

帝国陸海軍作戦計画大綱 1945年01月25日

 帝国陸海軍作戦計画大綱(ひらがな化、一部新字体化、一部省略)  帝国陸海軍作戦計画大綱(昭和二十年一月二十日)    目 次(略)    第一 作戦方針  帝国陸海軍は機微なる世界情勢の変転に莅み重点を主敵米軍の進攻破摧に指向し随処縦深に亙り敵戦力を撃破して戦争遂行上の要域を確保し以て敵戦意を挫折し以て戦争目的の達成を図る    第二 作戦の指導大綱 一 陸海軍は戦局愈々至難なるを予期しつつ既成の戦略態勢を活用し敵の進攻を破摧し速に自主的態勢の確立に努む   右自主的態勢は今後の作戦推移を洞察し速に先つ皇土及之か防衛に緊切なる大陸要域に於て不抜の邀撃態勢を確立し敵の来攻に方りては随時之を撃破すると共に其の間状況之を許す限り反撃戦力特に精錬なる航空戦力を整備し以て積極不羈の作戦遂行に努むるを以て其の主眼とす 二 陸海軍は比島方面に来攻中の米軍主力に対し靭強なる作戦を遂行し之を撃破して極力敵戦力に痛撃を加ふると共に敵戦力の牽制抑留に努め此の間情勢の推移を洞察し之に即応して速に爾他方面に於ける作戦準備を促進す 三 陸海軍は主敵米軍の皇土要域方面に向ふ進攻特に其の優勢なる空海戦力に対し作戦準備を完整し之を撃破す   之か為比島方面より皇土南陲に来攻する敵に対し東支那海周辺に於ける作戦を主眼とし二、三月頃を目途とし同周辺要地に於ける作戦準備を速急強化す   敵の小笠原諸島来攻(硫黄島を含む)に対し極力之か防備強化に努む   又敵一部の千島方面進攻を予期し又状況に依り有力なる敵の直接本土に暴進することあるを考慮し之に対処し得るの準備に遺憾なからしむ 四 陸海軍は進攻する米軍主力に対し陸海特に航空戦力を総合発揮し敵戦力を撃破し其の進攻企図を破摧す 此の間他方面に在りては優勢なる敵空海戦力の来攻を予想しつつ主として陸上部隊を以て作戦を遂行するものとす   敵戦力の撃破は渡洋進攻の弱点を捕へ洋上に於て痛撃を加ふるを主眼とし爾後上陸せる敵に対しては補給遮断と相俟つて陸上作戦に於て其の目的を達成す 此の際火力の集団機動を重視す   尚敵機動部隊に対しては努めて不断に好機を捕捉し之を求めて漸減す 五 支那大陸方面に在りては左に準拠し主敵米軍に対する作戦を指導す (一) 支那大陸に於ける戦略態勢を速に強化し東西両正面より進攻する敵特に米軍を撃破して其の企図を破摧し皇土を中核とする大...