保安条例(ひらがな化、一部新字体化)
朕惟ふに今の時に当り大政の進路を開通し臣民の幸福を保護する為に妨害を除去し安寧を維持するの必要を認め茲に左の条例を裁可して之を公布せしむ
御 名 御 璽
明治二十年十二月二十五日
内閣総理大臣伯爵伊藤博文
内務大臣伯爵山縣有朋
司法大臣伯爵山田顕義
勅令第六十七号
保安条例
第一条 凡そ秘密の結社又は集会は之を禁す犯す者は一月以上二年以下の軽禁錮に処し十円以上百円以下の罰金を附加す其の首魁及教唆者は二等を加ふ
内務大臣は前項の秘密結社又は集会又は集会条例第八条に載する結社集会の聯結通信を阻遏する為に必要なる予防処分を施すことを得其処分に対し其命令に違犯する者罰前項に同し
第二条 屋外の集会又は群集は豫め許可を経たると否とを問わす警察官に於て必要と認むるときは之を禁することを得其命令に違ふ者首魁教唆者及情を知りて参会し勢を助けたる者は三月以上三年以下の軽禁錮に処し十円以上百円以下の罰金を附加す其附和随行したる者は二円以上二十円以下の罰金に処す
集会者に兵器を携帯せしめたる者又は各自に携帯したる者は各本刑に二等を加ふ
第三条 内乱を陰謀し又は教唆し又は治安を妨害するの目的を以て文書又は図画を印刷又は板刻したる者は刑法又は出版条例に依り処分するの外仍其犯罪の用に供したる一切の器械を没収すへし
印刷者は其情を知らさるの故を以て前項の処分を免るることを得す
第四条 皇居又は行在所を距る三里以内の地に住居又は寄宿する者にして内乱を陰謀し又は教唆し又は治安を妨害するの虞ありと認むるときは警視総監又は地方長官は内務大臣の認可を経期日又は時間を限り退去を命し三年以内同一の距離内に出入寄宿又は住居を禁することを得
退去の命を受けて期日又は時間内に退去せさる者又は退去したるの後更に禁を犯す者は一年以上三年以下の軽禁錮に処し仍五年以下の監視に付す
監視は本籍の地に於て之を執行す
第五条 人心の動乱に由り又は内乱の予備又は陰謀を為す者あるに由り治安を妨害するの虞ある地方に対し内閣は臨時必要なりと認むる場合に於て其一地方に限り期限を定め左の各項の全部又は一部を命令することを得
一 凡そ公衆の集会は屋内屋外を問はす及何等の名義を以てするに拘らす豫め警察官の許可を経さるものは総て之を禁する事
ニ 新聞紙及其他の印刷物は豫め警察官の検閲を経すして発行するを禁する事
三 特別の理由に因り官庁の許可を得たる者を除く外銃器短銃火薬刀剣仕込杖の類総て携帯運搬販売を禁する事
四 旅人の出入を検査し旅券の制を設くる事
第六条 前条の命令に対する違犯者は一月以上二年以下の軽禁錮又は五円以上二百円以下の罰金に処す其刑法又は其他特別の法律を併せ犯したるの場合に於ては各本法に照し重きに従い処断す
第七条 本条例は発布の日より施行す
(官報18871225)
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