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現情勢下に於て帝国海軍の執るべき態度 1941年06月05日

現情勢下に於て帝国海軍の執るべき態度(原文:ひらがな、一部新字体化)

一 原則的事項
 帝国の自存自衛上我慢し得る限界を明かにすると共に、右限界を超ゆる場合の武力行使に関して明確なる決意を顕示し、且之に伴ふ準備を完整し置くこと
二 欧州情勢変化に対する態度
 帝国は独の対米屈服工作長引き、米の欧州問題介入深入を希望する。之が為、
 (1)三国枢軸の強化は絶対緊要なり
 (2)対米調整は之を焦慮することなく継続し、米をして欧州介入態勢を促進せしむるを可とする
 独の対英上陸作戦決行せられたる場合、帝国は急速事後の対策に着手するの要あり
 (1)日米共同の態勢にて講和斡旋に乗出すことは害あり。飽迄三国枢軸の共同態勢を以て臨まざるべからず
 (2)講和時の発言力を確実ならしむる為、少くとも泰・仏印に帝国の政治的及軍事的地歩を確立し置くを要す
 上陸後英政府他地域に逃避するを予想せらるる場合
 (1)英米の極東進攻即ち対日重圧加重は必至なるを以て、速に自衛上所要の戦略態勢を確保するを要す
  此の場合に於ては、泰・仏印両域の確保は勿論、更に進んで蘭印方面に於ても必要な場合、其の一部要域を確保するの準備を必要とす
三 N工作に関する態度
 帝国は南方武力行使の制扼を受くることなく、且支那事変終息に関し米の和平交渉介入を許さざる条件に於て工作の成立を希望す。但し帝国は日支和平成立問題を除外せば、米と殊更に調整するの絶対的必要を認めあらず
 N工作成立せば国内情勢は急激に英米依存に復帰すべく、惹ては国防国家体制の建設、統制経済等に一大動揺を来す虞極めて大なるを以て、事前非常立法を立案準備するを要す
四 米独戦争状態展開したる場合の方策
 帝国は必ずしも直に対米参戦するを要せずと雖も、其の儘放任し置くを得ず
 之が為左の諸策を考慮若くは研究し置くを要す
 (1)三国同盟軍事的援助の条項に基き、米国が対英援助に於て実行したると同様の手段を以て、「スエズ」若くは「イラク」迄独伊必需物資の海上輸送を断行す
 (2)援独伊物資の獲得及海上輸送達成の為、米国と同様蘭印に所要基地を獲得す
五 武力行使に関する決意
 帝国海軍は左記の場合は猶予なく武力行使を決意するを要す
 (イ)米(英)蘭が石油供給を禁じたる場合
 (ロ)蘭印・泰・仏印が生「ゴム」・米・錫・「ニッケル」の全面禁輸をなしたる場合
 (ハ)帝国が自衛上必要とする軍事的協力を、仏印・泰が拒否したる場合
 (ニ)米英蘭の極東増派兵力が作戦上許容し難き程度に達したる場合
 (ホ)対支交戦権発動後英米が帝国の軍事行動を妨害したる場合
 (ヘ)英米が泰に軍事行動を起したる場合
六 結論
 (イ)帝国海軍は皇国安危の重大時局に際し、帝国の諸施策に動揺を来さしめざる為直に戦争(対米を含む)決意を明定し、強気を以て諸般の対策に臨むを要す
  注 従来の如く、戦争は絶対避くる方針なるも、万一其の事態起ることあるべきを予想し諸準備をなすべしとの態度は、国内全般施策に堅実性を欠き、右顧左眄の結果却って窮境を招来し、逆に戦争に近づく危険大なり
 (ロ)泰・仏印に対する軍事的進出は一日も速に之を断行する如く努むるを要す
(戦史叢書101・大本営海軍部大東亜戦争開戦経緯<2> P323-324)

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