対「ソ」外交交渉要綱(原文:ひらがな、一部新字体化)
対「ソ」外交交渉要綱
昭和十六年八月四日
連絡会議決定
一、差当り左記要件に付対「ソ」折衝を行ふ但帝国将来の企図に拘束を与へさる様留意す
1.極東危険水域の撤廃乃至は右水域の帝国に及ほす損害の除去
2.東亜に於ける「ソ」領に付第三国に対する割譲、売却、租借、軍事的拠点提供等を為ささること
3.「ソ」連邦と第三国との軍事同盟の適用範囲を東亜に及ほささること及第三国との間に帝国を目標とする同盟等を締結せさること
4.援蒋行為の中止及中国共産党に対する抗日指令及援助の中止
5.北樺太利権事業の完全嫁行確保
6.満「ソ」抑留人員及物件交換
7.「ノモンハン」地方国境確定作業は従来通継続す満「ソ」、満蒙間全般的国境に関する交渉は之を見合はす
(註)(イ)以上の中特に2.3.及5.に重点を置く
(ロ)「ソ」側に於て中立条約を厳守し又極東に於て脅威を与へさる限り帝国は日「ソ」中立条約の義務を守るへき旨を明にす
二、前項外交交渉の経過、我対「ソ」武力的準備進捗の度、独「ソ」戦の推移及国際情勢並に其後の我方企図との連繋を考慮しつつ左記案件の一部又は全部に付交渉す
1.漁業条約(従来の交法経緯を離れ我方当初の主張を貫徹するを目的とす)
2.北樺太買収又は割譲
3.「カムチャツカ」地方の帝国への租借、割譲等
4.黒竜江以東の「ソ」領の帝国への租借割譲又は非武装地帯化等
5.其の他の極東「ソ」領の非武装地帯化等
三、交渉方針
1.北方問題の解決は大東亜共栄圏確立の国策完遂に資する為北方よりの脅威を芟除し且北方資源を確保するを目標とす右目標は先つ外交に依りて之を達成するに努む可く武力に依る解決は既定の国策に従ひ形勢我方にとり有利なる場合にのみ行ふへきものとす
2.「ソ」連邦に対する外交交渉は直に之を開始し日「ソ」間の正当なる国交関係を阻害する如き、又大東亜共栄圏確立の妨害となる如き一切の事情及原因の排除を要求す
之か為には帝国としては日「ソ」中立条約上の義務の履行を明言する事とす
3.対「ソ」外交交渉を行ふに当りては独逸に対し帝国の立場及役割を腹蔵なく説明し置くこととす尚独「ソ」か休戦する場合独逸の対「ソ」要求か極東に関する事項(例へは西比利鉄道、浦潮港)に及ふ惧あるを以て此の点にも留意して対独話合を行ふこととす
4.如何なる変局にも対処し得る様至急対「ソ」武力的準備を整ふるも偶発的事件に依りて対「ソ」戦の開始に至ることを厳に戒め既定の国策に従ひ内外の情勢我方に有利となるに非れは「ソ」連に対する武力の行使を行はす
(国立公文書館:昭和16年8月4日 対「ソ」外交交渉要綱)
コメント
コメントを投稿