今後採るべき戦争指導の大綱(原文:ひらがな、一部新字体化)
今後採ルヘキ戰争指導ノ大綱
昭和十九年八月十九日
最高戦争指導会議
方 針
一、帝国は現有戦力及本年末頃迄に戦力化し得る国力を徹底的に結集して敵を撃破し以て其の継戦企図を破摧す
二、帝国は前項企図の成否及国際情勢の如何に拘らす一億鉄石の団結の下必勝を確信し皇土を護持して飽く迄戦争の完遂を期す
三、帝国は徹底せる対外施策に依りて世界戦政局の好転を期す
要 領
一、本年後期国軍戦力を最高度に発揮して決戦を指導し敵の企図を撃摧す之か為概ね左記に據り作戦を遂行す
イ、太平洋方面に於ては来攻する米軍主力を撃滅す
ロ、南方重要地域を確保し且万難を排して圏内海上交通の保全を期す
ハ、印度洋方面に於ては概ね現態勢を保持す
ニ、支那に於ては極力敵の本土空襲企図を封殺すると共に海上交通の妨害を制扼す
二、速かに左の施策を断行す
イ、国体護持の精神を徹底せしめ敵愾心を激成し闘魂を振起して飽く迄闘ふ如く国内を指導す
ロ、統帥と国務との連繋を益々緊密にす
之か為最高戦争指導会議の運営を愈々活発にす
ハ、決戦戦力特に航空戦力の急速増強を期す
之か為各般に亘り生産隘路を強力に打開す
ニ、国内防衛態勢を急速に確立す
之か為特に重要なる生産機関の防空施設を促進す
ホ、極力日、満、支を通する地域及南方地域の自活自戦態勢を促進す
之か為先つ日、満、支開発を重視す
三、世界各国の動向を注視しつつ作戦に呼応し左の対外施策に依り世界政局の変転に対処す
イ、「ソ」に対しては中立関係を維持し更に国交の好転を図る
尚ほ速かに独「ソ」間の和平実現に努む
ロ、重慶に対しては速かに統制ある政治工作を発動し支那問題の解決を図る
之か為極力「ソ」の利用に努む
ハ、独に対しては緊密なる連絡の下に共同戦争完遂に邁進せしむる為凡有手段を講す
但し日「ソ」戦を惹起することなし
万一独か崩壊若くは単独和平を為す場合に於ては機を失せす「ソ」を利用して情勢の好転に努む
ニ、大東亜の諸国家諸民族に対しては其の民心を把握し帝国に対する戦争強力を確保増進する如く強力に指導す
比島に対しては比島大統領の希望を容れ適時米英に対し宣戦せしむ
将来東印度を独立せしむることを成る可く速かに宣明す
ホ、対敵宣伝謀略は一貫せる方針の下に組織的且不断執拗に之を行ひ其の重点を我か戦争目的の闡明並に米英の戦意喪失米英「ソ」支の離間に指向すると共に敵側の政謀略攻勢に対しては機を失せす之を破摧す
(国立公文書館:今後採るへき戦争指導の大綱 昭和19年8月19日)
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