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軍機保護法 1937年08月13日

 軍機保護法(ひらがな、一部新字体化)


法律第七十二号

   軍機保護法

第一条 本法に於て軍事上の秘密と称するは作戦、用兵、動員、出師其の他軍事上秘密を要する事項又は図書物件を謂ふ

 前項の事項又は図書物件の種類範囲は陸軍大臣又は海軍大臣命令を以て之を定む

第二条 軍事上の秘密を探知し又は収集したる者は六月以上十年以下の懲役に処す

 軍事上の秘密を公にする目的を以て又は之を外国若は外国の為に行動する者に漏泄する目的を以て前項に規定する行為を為したる者は二年以上の有期懲役に処す

第三条 業務に因り軍事上の秘密を知得し又は領有したる者之を他人に漏泄したるときは無期又は三年以上の懲役に処す

 業務に因り軍事上の秘密を知得し又は領有したる者之を公にし又は外国若は外国の為に行動する者に漏泄したるときは死刑又は無期若は四年以上の懲役に処す

第四条 軍事上の秘密を探知し又は収集したる者之を他人に漏泄したるときは無期又は二年以上の懲役に処す

 軍事上の秘密を探知し又は収集したる者之を公にし又は外国若は外国の為に行動する者に漏泄したるときは死刑又は無期若は三年以上の懲役に処す

第五条 偶然の原由に因り軍事上の秘密を知得し又は領有したる者之を他人に漏泄したるときは六月以上十年以下の懲役に処す

 偶然の原由に因り軍事上の秘密を知得し又は領有したる者之を公にし又は外国若は外国の為に行動する者に漏泄したるときは無期又は二年以上の懲役に処す

第六条 軍事上の秘密を探知し、収集し又は漏泄することを目的として団体を組織したる者又は其の団体の指導者たる任務に従事したる者は無期又は三年以上の懲役に処す

 情を知りて前項の団体に加入したる者は六月以上七年以下の懲役に処す

第七条 業務に因り軍事上の秘密を知得し又は領有したる者過失に因り之を他人に漏泄し又は公にしたるときは千円以下の罰金に処す

第八条 陸軍大臣又は海軍大臣は軍事上の秘密保護の為必要あるときは命令を以て左に掲ぐるものに付測量、撮影、模写、模造若は録取又は其の複写若は複製を禁止し又は制限することを得

一 軍港、要港又は防禦港

二 堡塁、砲台、防備衛所其の他の国防の為建設したる防禦営造物

三 軍用艦船、軍用航空機若は兵器又は陸軍大臣若は海軍大臣所管の飛行場、電気通信所、軍需品工場、軍需品貯蔵所其の他の軍事施設

 前項の規定に依る禁止又は制限に違反したる者は七年以下の懲役又は三千円以下の罰金に処す

第九条 陸軍大臣又は海軍大臣は軍事上の秘密保護の為必要あるときは命令を以て前条第一項の防禦営造物又は軍事施設の周囲の地域にして陸軍大臣又は海軍大臣所管のものに付区域を定め其の区域に付測量、撮影、模写、模造若は録取又は其の複写若は複製を禁止し又は制限することを得

 前項の規定に依る禁止又は制限に違反したる者亦前条第二項に同じ

第十条 許可を得ず若は許可に附したる条件に違反し又は詐偽の方法を以て許可を得て第八条第一項第二号若は第三号に掲ぐるものにして同条の禁止若は制限に係るもの又は前条第一項の区域に侵入したる者は五年以下の懲役又は二千円以下の罰金に処す

第十一条 第八条第一項又は第九条第一項の規定に依る禁止又は制限に違反する行為より生じたる図書物件を他人に交付したる者は七年以下の懲役又は三千円以下の罰金に処す

 前項の図書物件を公にし又は外国若は外国の為に行動する者に交付したる者は十年以下の懲役又は三千円以下の罰金に処す

第十二条 陸軍大臣又は海軍大臣は防空其の他国土防衛の為軍事上の秘密保護の必要あるときは命令を以て空域、土地又は水面に付区域を定め左に掲ぐる行為を禁止し又は制限することを得

一 其の区域に於ける航空

二 其の区域内の気象の観測又は其の区域内の水陸の形状若は施設物の状況の測量若は空中、高所よりの撮影又は其の複写若は複製

 前項第一号の規定に依る禁止又は制限に違反したる者は五年以下の懲役に処し同項第二号の規定に依る禁止又は制限に違反したる者は三年以下の懲役又は千円以下の罰金に処す

 第一項第二号の規定に依る禁止又は制限に違反する行為より生じたる図書を他人に交付したる者は五年以下の懲役又は二千円以下の罰金に処す

 前項の図書を公にし又は外国若は外国の為に行動する者に交付したる者は七年以下の懲役又は三千円以下の罰金に処す

第十三条 陸軍大臣又は海軍大臣は演習又は兵器実験等に際し軍事上の秘密保護の為必要あるときは命令を以て演習又は実験等を行ふ空域、土地又は水面及其の周囲の地域に付区域及期間を定め之に出入することを一時禁止し又は制限することを得

 前項の規定に依る禁止又は制限に違反したる者は二年以下の懲役又は千円以下の罰金に処す

第十四条 陸軍大臣又は海軍大臣は軍事上の秘密保護の為必要あるときは命令を以て開港場以外の水面に付区域を定め外国船舶の之に出入することを禁止し又は制限することを得

 前項の規定に依る禁止又は制限に違反したる船舶の長又は其の職務を執る者は五年以下の懲役又は三百円以上二千円以下の罰金に処す

 前項の場合に於て情状重きときは其の船舶を没収す

第十五条 第二条乃至第六条、第八条第二項、第九条第二項、第十条、第十一条、第十二条第二項乃至第四項及第十三条第二項の未遂罪は之を罰す

第十六条 第二条乃至第五条の罪を犯す目的を以て其の予備又は陰謀を為したる者は三月以上七年以下の懲役に処す

 第二条乃至第五条の罪を犯さしむる為他人を誘惑し又は煽動したる者亦前項に同じ

第十七条 第六条、第八条第二項、第九条第二項、第十条、第十一条、第十二条第二項乃至第四項又は第十三条第二項の罪を犯さしむる為他人を誘惑し又は煽動したる者は一年以下の懲役又は五百円以下の罰金に処す

第十八条 本法の罪を犯し因て得たる財物は犯人以外の者に属せざるときに限り之を没収す其の財物が犯人以外の者に属し又は消費其の他の事由に因り其の全部又は一部を没収すること能はざるときは其の価額を追徴す

第十九条 第二条乃至第五条、第七条、第八条第二項、第九条第二項、第十一条又は第十二条第二項乃至第四項に規定する犯罪行為(未遂罪の場合を含む)を組成したる物又は其の犯罪行為より生じたる物は裁判に依り没収する場合を除くの外何人の所有を問はず行政の処分を以て之を没収することを得

 前項の没収に関する手続は命令を以て之を定む

第二十条 第二条、第六条、第八条第二項、第九条第二項、第十二条第二項、第十五条又は第十六条第一項の罪を犯したる者未だ官に発覚せざる前自首したるときは其の刑を減軽し又は免除す

第二十一条  第二条乃至第七条、第八条第二項、第九条第二項、第十一条、第十二条第二項乃至第四項及第十五条乃至前条の規定は何人を問はず本法施行地外に於て其の罪を犯したる者に亦之を適用す

   附 則

本法施行の期日は勅令を以て之を定む

刑法施行法第二十六条第一号を左の如く改む

 一 削除

(参照:中野文庫 https://geolog.mydns.jp/www.geocities.jp/nakanolib/hou/hs12-72.html)

(国立公文書館:軍機保護法改正刑法施行法中改正(勅令第五百七十八号参看 A03022076900)

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