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日墨修好通商航海条約 1888年11月30日

 日墨修好通商航海条約(ひらがな化、一部新字体化)


日墨修好通商航海條約

日本皇帝陛下及墨西哥合衆國大統領は兩國間竝に其臣民及人民間の修好通商に關し永久堅固の基礎を定めんことを欲し修好通商条約を締結することに決し日本皇帝陛下は亞米利加合衆國華盛頓府に駐劄する日本皇帝陛下の特命全權公使從四位勳三等陸奥宗光を其全權委員に命し墨西哥合衆國大統領は亞米利加合衆國華盛頓府に駐劄する墨西哥合衆國の特命全權公使マチアス、ロメロ、を其全權委員に命したり因て雙方の全權委員は互に其委任狀を示し其正實適當なるを確認し左の条々を合議決定せり

第一条  日本帝國と墨西哥合衆國との間竝に兩國臣民及ひ人民の間に永遠無窮の平和親睦あるヘし

第二条  日本皇帝陛下は其便宜に從ひ其外交官を墨西哥合衆國に駐劄せしむることを得墨西哥合衆國政府も亦其便宜に從ひ其外交官を日本國に駐劄せしむることを得又両締約国は各々通商上便宜の爲め他の一方の領地に於て最惠國領事官の駐在し得ヘき各港各所に總領事、領事、副領事及ひ領事代理を駐在せしむるの權を有すヘし然れも右總領事、領事、副領事及ひ領事代理は其職務を行ふに先ち定式に從ひ其赴任國政府の認可を經ヘきものとす而して両締約国の一方の外交官及び領事官は本条約の各条款に抵触せざる外他の一方の領地內に於て最惠國の同格の外交官及ひ領事官に現に許與し若くは將來許與すべき一切の權利特權及び免除を享有すヘし

第三条  両締約国の領地及ひ其所屬地の間には相互に通商及ひ航海の自由あるべし両締約国の一方の臣民若くは人民は他の一方の領地及び所屬地にして最惠國の臣民若くは人民の到り得ヘき各所各港ヘは其船舶貨物を以て自由安全に到ることを得且つ最惠國の臣民若くは人民の滯在住居し得ヘき各所各港に滯在住居することを得又右臣民若くは人民は其住居地に在て家屋倉庫を借受け總て正業に屬する天產物、製造品及ひ其他商品の卸賣若くは小賣營業に從事することを得

第四条  日本皇帝陛下は本条約前条に依り日本國に渡來する墨西哥國人民に附與したる特權の外茲に此条約に記載せる數箇の条款に對し別に同國人民に許與するに皇帝陛下の領地內及ひ其所屬地各所に入來し又は滯在住居し同所に於て家屋倉庫を借受け又は總て正業に屬する天產物、製造品及び各種商品の卸賣若くは小賣營業及び其他一切合法の職業に從事するの特權を以てす

第五条  両締約国は其一方の領地に於て通商航海旅行及び住居の事に關し他の外國の臣民若くは人民に現に許與し若くは將來許與すヘき一切の殊遇、特權及び免除は他の一方の臣民若くは人民にも之を許與し而して右殊遇、特權及ひ免除は報酬を要せすして他の外國の臣民若くは人民に許與したるものに係れは又均しく報酬を要せすして之を許與し若し別段の約束に依て許與したる者に係れは則ち同一の約束又は之と同一の價値を有する報酬に對して之を許與すヘきことを約す

第六条  噸稅、燈稅、港稅、水先案內費、難破救助費及ひ其他の諸稅に就きては日本各港に於ける墨西哥合衆國の船舶又墨西哥合衆國各港に於ける日本國の船舶に對し最惠國の船舶に現に賦課し又は將來賦課すヘき諸稅に異なるか又は之より多額の稅金を賦課することなかるヘし

第七条  墨西哥合衆國の天產物及ひ製造品を日本國に輸入し又は日本國の天產物及ひ製造品を墨西哥合衆國に輸入するときは他の外國の產出若くは製造に係る同種類の物品に對し現に賦課し若くは將來賦課すヘき輸入稅に異なるか又は之より多額の稅を賦課することなかるヘし又両締約国の一方の領地若くは所屬地より他の一方の領地若くは所屬地へ向け輸出する物品に就ては他の外國へ向け輸出する同種類の物品に對し現に賦課し若くは將來賦課すヘき諸税金に異なるか又は之より多額の稅を賦課することなかるヘし又両締約国の一方の領地の天産物若くは製造品を他の一方の領地若くは所屬地に輸入するを禁するは他の外國の產出若くは製造に係る同種類の物品の輸入を禁する場合に限るヘし又両締約国の一方の領地より他の一方の領地若くは所屬地へ向け物品を輸出するを禁するは他の外國の領地へ向け同種類の物品の輸出を禁する場合に限るヘし

第八条  日本國又は其領海に來る墨西哥合衆國の人民及ひ船舶は日本國又は其領海に在る間は墨西哥合衆國及ひ其領海に到る日本皇帝陛下の臣民及び船舶か墨西哥國の法律及ひ其裁判管轄に服從すると同樣日本國の法律を遵奉し且つ其裁判管轄に服從すヘきものとす

第九条  本条約は其批准書交換後直に實行すヘし而して両締約国の一方より本条約を廢棄するの意を他の一方へ通知したる日より六ヶ月間其效力を有し此期限を經過したる上は直に其效力を失ふヘし

第十条  本条約は日本文、西班牙文、及び英文の三國文に記すべし若し日本文と西班牙文との間に文意相異なるときは英文に從り之を斷定すべきことを雙方政府約束す

第十一条  本条約は可成丈け早き時期に両締約国に於て互に批准し亞米利加合衆國華盛頓府に於て其批准書を交換すべし

(以下署名等省略)



機密特別条款(一千八百八十八年十一月三十日墨西哥合衆國と日本帝國との間に締約の一部分なり)

日本皇帝陛下の政府は向後何時も墨西哥合衆國政府と日本皇帝陛下の政府との間に本日締結したる本条約第四条に依て墨西哥國人民に許與したる特權を撤去するを便宜と認むる場合に於て日本国皇帝陛下は前以て通報せず何時も特に右第四条を廢止するの權利あることを約定す日本皇帝陛下の政府は此權利を實行する際右第四条に基き享有したる利益を虧損せしか爲めに生したるとの充分なる證據ある一切の損失にして且つ其損失は滿足に認定し得ヘき實地の損失たるに於ては之に對しては相當の賠償を支給すヘきことを同意す

此機密特別条款は本日記名せる本条約第九条中に全文を其儘記入したると同樣の資格を有し且つ本条約と同時に批准すヘし

右證據として雙方全權委員本条約と同樣の手續を以て此機密特別条款六通に記名調印するものなり

(以下署名等省略)

(参考:https://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/pw/18881130.T1J.html)

(国立公文書館:日墨修好通商条約 B13091017900)

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