チャーチル英首相より松岡外相への書簡(ひらがな化、一部新自体化)
チャーチル英首相より松岡外相への書簡
(此書簡は在ソ英国大使を経て松岡外相にモスクワで送られたものである)
チャーチル氏より松岡洋右氏へ
一九四一年四月二日
私は日本帝国政府と国民の注意に値すると思われるいくつかの質問を試みたいと思ます。
一、ドイツは制海権または英国における昼間制空権なくして、一九四一年の春か夏か秋に英国に侵入し征服できるでしようか、ドイツはそうしようと試みるでしようか、これらの問題に解答が出て来るまで待つのが日本の利益ではないでせうか。
二、英国の海運に対するドイツの攻撃は英米が全工業を戦争目的に転換しても、米国の援助が英国の海岸に届くのを阻止するほど強くなるでしようか。
三、日本の三国協定加盟は米国が現在の戦争に参加する加能性を大きくしましたか小さくしましたか。
四、米国が英国側に立つて参戦し、日本が枢軸側に与した場合、この二つの英語圏の海軍の優勢は、その結合した力を日本へ向ける前に英米の欧洲枢軸国処理を可能ならしめないでしようか。
五、イタリヤはドイツにとつて力ですか、それとも重荷ですか、イタリヤ艦隊は海上においても、紙上におけると同様に強力でしようか、それは紙上においてもいつもと同様に強力でしようか。
六、英国空軍は一九四一年の末までにドイツ空軍より強力になり、一九四二年の末までには遥かに強力になるとは思いませんか。
七、ドイツ陸軍と国家秘密警察によつて抑圧されている多くの国は、年がたつにつれて一層ドイツ人が好きになるでしようか、それとも段々きらいになるでしようか。
八、米国の鉄鉱生産が一九四一年中には七千五百万トンになり英国では約千二百五十万トン合計九千万トン近くになるのを信じませんか。
ドイツが前大戦におけると同様に敗北するようなことがあつたら、日本の鉄鉱生産七百万トンでは単独戦争に不十分ではないでしようか。
これらの問題に対する解答から、日本による重大破局の回避、日本と西方二大海軍国の関係における著しい改善が生れ出るかも知れません。
〔注 この書簡に対し松岡外相は帰朝后閣議に報告して居ない、又軍部当局にも回示して居ない〕
(国立公文書館:考証資料第19号 チャーチル英首相より松岡外相への書簡 C16120627100)
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