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新体制準備会第一回会議に於ける近衛内閣総理大臣声明 1940年08月28日

 新体制準備会第一回会議に於ける近衛内閣総理大臣声明(一部新字体化)


新體制準備會第一囘會議に於ける近衛內閣總理大臣聲明

 今や我が国は世界的大動乱の渦中に於て、東亜新秩序の建設といふ未曾有の大事業に邁進しつつある。この秋に当り世界情勢に即応しつつ能く支那事変の処理を完遂すると共に、進んで世界新秩序の建設に指導的役割を果す為には、国家国民の総力を最高度に発揮してこの大事業に集中し、如何なる事態が発生するとも独自の立場に於て迅速果敢且有効適切に之に対処し得るやう、高度国防国家の体制へ整へねばならぬ。而して高度国防国家の基礎は強力なる国内体制にあるのであつて、ここに政治、経済、教育、文化等あらゆる国家国民生活の領域に於ける新体制確立の要請があるのである。

 この要請は一内閣一党派一個人の要請を遥に超えたる国家的要請であり、又何等か特定の政策の為にのみ必要とされる一時的な要請でも無く必要に応じて如何なる政策をも強力に遂行し得る為の恒常的なる要請である。今我が国が、かくの如き強力なる国内新体制を確立し得るや否やは、正に国運興隆の成否を決定するものといはねばならぬ。

 かかる新体制に含まるるものとしては、先づ、統帥と国務との調和、政府部門の統合及能率の強化、議会翼賛体制の確立等が挙げられねばならぬ。之等の事項については、政府の立場に於ても鋭意その実現を期しつつある。併しながら更に重要なるは之等の基底を為す万民翼賛の所謂国民組織の確立であつて、ここに準備会を招請し協議協力を求めんとするのも、正にとの問題についてである。

 この国民組織の目標は、国家国民の総力を集結し、一億同胞をして生きた一体として等しく大政翼賛の臣道を完うせしむるにある。かかる目標を逹成するには、全国民がその日常生活の職場々々に於て翼賛の実を挙げ得るやうにせねばならぬのである。思ふに従来の如く国民の大多数が、三年か四年に一度の投票により選举に参加するのみを以て、政治と関係する唯一の機会とするが如き状態にあつては、国民全部が国家の運命に熱烈なる関心を持ち得なかつたのも寧ろ当然といふべきであらう。

 国民組織は国民が日常生活に於て国家に奉公する組織なるが故に、それは経済及文化の各領域に亘つて樹立されねばならぬ。即ち経済に於ても文化に於ても、あらゆる部門がそれぞれ縦に組織化され、更に各種の組織を横に結んで統合するところの全国的なる組織が作られねばならぬ。今日経済文化両方面に於て、政策を樹立する当局者が国民の実際活動について真の理解を有せず、又国民の側に於ても国家の政策決定に無関心であり、かくて取締るものと取締られるものとが対立的関係に置かるる如き傾向あるは、正しく万民翼賛の実を挙ぐべき組織なき処より生まるる欠陥である。かく考ふる時、いふ所の国民組織の眼目が奈辺にあるかは自ら明白である。即ちそれは国民をして国家の経済及文化政策の樹立に内面より参与せしむるものであり、同時にその樹立されたる政策をあらゆる国民生活の末梢に至るまで行渡らせるものなのである。かかる組織の下に於て始めて、下意上達、上意下達、国民の総力が政治の上に集結されるのである。

 以上の如き国民組織が完成される為には一つの国民運動が必要である。元来かくの如き国民運動は国民の間から自発的に盛り上つて来たるべきであつて、政府がこの種の運動を企画指導し、又は之を行政機構化することは国民の自発的総力の発揮を妨ぐるの虞があるのである。併しながら現下の情勢はかかる運動の自然発生的展開にのみ期待するを許さず、且又下からの運動は動もすれば分派的抗争に陥り真実の国民運動となり得ぬ虞がある。兹に於て政府も亦この運動に対して当然積極的に之を育成指導する必要があるのである。

 かく観じ来れば国民組織の運動は実に官民協同の国家的事業であり、全国的なる国民翼賛運動に外ならぬのである。而してそれは単に狭き意味に於ける精神運動ではなく、実に政治理想と政治意識の高揚を目的とするものである。之が為には広く朝野有名無名の人材を登用して運動の中核体を組織し、そこに強力なる政治力と実践力を結集せしむることがこの運動に不可欠の要件となるのである。

 かくの如くこの運動は高度の政治性を有するものではあるが、それは断じて所謂政党運動では無い。政党は抑々個別的分化的なる部分の利益、立場を代表することをその本質の中に蔵してゐる。勿論部分なき全体はないのであるから政党がその中に部分的要素を持つといふことのみを以て之を非難するは必ずしも当らぬ。殊に経済活勒の基礎が自由主義の原理にあつた時代に於ては、かかる政党の存立もその意味があつたのであつて、我が国に於ても政党が藩閥官僚勢力に対し民意を伸張したことは之を認めねばならぬ。併しながら同時に政党の過去に於ける行動が動もすれば、我が議会協賛の本然の姿から逸脱する憾みの少くなかつたことも亦之を否定すべくもない。

 国民組織の運動はかかる自由主義を前提とする分立的政党政治を超克せんとする運動であつて、その本質はあくまで挙国的、全体的、公的なるものである。それは国民総力の集結一元化を促進することを目的とするものであり、従つてその活動分野は国民の全生活領域に及ぶものである。国民組織運動はその故に、仮りに民間運動として始められた場合に於ても、既に本質上は、従来の概念に於ける政党運動ではない。むしろ政党も政派も、経済団体も文化団体も、凡てを包括して公益優先の精神に帰一せしめんとする超政党の国民運動たるべきものである。況や此の運動が政府の立場に於て為さるる場合には、それは如何なる意味に於ても政党運動ではあり得ない。苟も廟堂に立って輔弼の重責に任ずる者は、あくまで全体の立場に立つものであつて、自ら部分的対立的抗争性をその本質の中に含む政党運動に従事することは許されぬものと考ふるのである。

 国民組織、特に政府に依つて為さるる国民組織の運動が、政党運動の形を取るべきものでないこと上述の如くであるが、さればと言つて所謂一国一党の形をとることも亦到底許されぬ。何となれば一国一党は一つの「部分」を以て直ちに「全体」となし、国家と党を同一視し、「党」に反対するものを以て国家に対する叛逆と断じ、「党」の権力的地位を恒久化し、党首を以て恒久的なる権力の把持者となすことを意味するからである。かかる形態が他国に於て如何に優秀なる実績を示したりとはいへ、その形態を直ちに日本に於て認むることは、一君万民の我が国体の本義を紊るものと謂ふべきである。我が国に於ては万民斉しく翼賛の責に任ずるのであつて、一人若くは一党が権力によつて翼賛を独占することは絶対に許されぬ。万一翼賛の意思に於て異るものありとすれば、それこそ 聖断に仰ぐべきであり、一度び 聖断の下されたるときは凡ての臣僚が「承詔必謹」の大義に帰一することが日本政治の真の姿でなければならぬ。

 要之新なる国民組織は、国民があらゆる部門に於て大政翼賛の誠を致さんとする国家的且恒常的なる組職である。素より之が完成は至難の事に属するとはいへ、而も政府は之を以て時艱を克服するに最善の途なりと信ずる。本年二月十一曰には畏くも 大詔を渙発せられ非常の世局に際し我々臣民の処すべき道を明かにし給ふたのであるが、政府は茲に 聖旨を奉戴し、挺身してかかる国民翼賛運動の先頭に起ち、現下我が国の直面する大試練を突破して、以て皇運扶翼の重責を完うせんとするものである。

 新体制準備会は軍、官、民各方面の権威者に参集を請ひ、かくの如き国民組織の一般的構成、国民運動の中核体の組織、それと現存諸団体との調整、国家機構との連繋等につき協議協力を乞はんとするものである。

(国立公文書館:新体制準備会第一回会議に於ける近衛内閣総理大臣声明(昭和一五.八.二八) A15060009900)

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