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今後採るべき戦争指導の大綱に基く対外政略指導要領 1944年08月08日

 今後採るべき戦争指導の大綱に基く対外政略指導要領(ひらがな化、一部新字体化)


   今後採ルヘキ戰争指導ノ大綱ニ基ク對外政略指導要領

                 昭一九・八・八


一、対「ソ」、支積極方策

1.概ね本秋頃を其の結実の目途とし「ソ」をして帝国と重慶(延安を含む)との終戦を、已むを得さるも延安政権との停戦妥協を斡旋せしめ且独「ソ」に対し独「ソ」間の国交快復を勧奨す

2.速かに有力なる帝国使節を先つ「ソ」に派遣す

  其の出発の時期は遅くも八月下旬と予定す

  之か為日「ソ」経済提携等を提議し其の折衝の間帝国の新企図達成の為の機を作為するものとす

  但し帝国の弱体を暴露し「ソ」の対日態度を悪化するか如きこと無からしむ

3.日「ソ」関係の好転を図り且為し得れは帝国と重慶との終戦を仲介せしむる為特派使節を派遣すへき旨を独に通告す

4.特派使節赴「ソ」後に於ける日「ソ」交渉の進展に応し適時独に対し独「ソ」国交快復を勧奨すへき帝国の真意を通達し独の意向を聴取す

  独か帝国の斡旋に容易に応せさる場合と雖も「ソ」にして独「ソ」和平の意思あるに於ては帝国は独を強力に指導し同調するに至らしむ

5.日蒋和平条件、独「ソ」和平斡旋の為独をして「ソ」に譲歩せしむへき条件並に帝国の対「ソ」譲歩条件別紙第一、第二、第三の如し

6.此の間重慶に対しては其の抗戦態勢の破摧衰亡に努むると共に其の動向偵諜に努めつつ対「ソ」交渉の成果に即応し対重慶直接交渉を行ふ場合あるを予期し所要の準備を整ふ

7.「ソ」を介して行ふ対中共工作を促進する如く「昭一九・七・三連絡会議決定対支作戦に伴ふ宣伝要領」の趣旨を拡充する等所要の措置を講す

8.本項工作の準備並に実行は帝国政府之を行ひ大本営は密に協力す


二、大東亜戦争協力態勢の強化方策

1.大東亜戦争協力を確保増進する為速かに支那、泰、仏印、比島、緬甸に於ける帝国代表(指導)機構に二位一体制を確立す大使の選定に当りては現地の実情に即せしむ

2.国民政府に対しては既定方針を堅持するも対重慶政治工作の進展度如何に依りては之を発展的に解消することあり

  汪精衛死没せる場合は国民政府に急激なる動揺を与へさるを主旨とし事態を収拾す

  但し政府主席の地位は差し当り代理とし支那問題の解決促進に資するものとす

3.「インドネシヤ」民族に対し独立を許容する方針を機を見て速かに闡明し爾後現地軍の直接指導に依り逐次独立性を付与しつつ其の独立態勢の完整を図る

  其の範囲は馬来を除く東印度全域とし要すれは連邦側とし独立後と雖も帝国は軍事、政治、経済に亘り強力に之を指導把握す

4.比島民心を強力に対米戦に帰一し大東亜戦争強力に邁進せしむる為米国軍の比島領域に対する爆撃に即応し比島をして対米宣戦を布告せしむる如く指導す

5.華僑を利導して大東亜戦争完遂就中南方圏自給自戦体制の促進並に支那問題解決に積極的に寄与せしむる如く十分其の能力を発揮せしむ

  華僑の国籍改編は現住国の国策に従はしめ軍政地域にありては現住民に準して取扱ふ 差し当り独立国に於ける華僑に対する領事事務は帝国官憲代行す

  右に伴ひ「昭和一七・二・一四大本営政府連絡会議決定華僑対策要綱」に所要の改定を加ふ

6.猶太人に対しては「昭和一七・三・一一大本営政府連絡会議決定時局に伴ふ猶太人対策」に拠るものとす

7.半島人・本島人に対しては徹底的皇民強化を図る

  之か為帝国臣民としての権利、義務を与ふるも独立運動に対しては峻烈なる弾圧を加ふ


三、世界政局急変に対処する措置

1.世界政局の変転に対処する為日「ソ」国交の好転敦睦を図ると共に穏(原文ママ)密裡に先つ英に対し政治的接触を獲得する如く努む

  之か為対英措置に関しては差し当り在西、班牙、在瑞西帝国使臣を活用し要すれは其の陣容を整備す

2.独か帝国の意図に拘はることなく単独行動に出たる場合の措置を概定すること左の如し

(イ)、独と英米との和平の場合

 A.独側より提議する妥協和平の場合

  機を失せす独の真意を確むると共に独の屈伏に依る場合は三国同盟、防共協定を廃棄し日「ソ」提携に関し「ソ」を全面的に利導して世界和平導入に努め已むを得さる場合帝国は独力戦争完遂に邁進す

  但し「ソ」英米相通し先つ欧州和平を図り帝国を孤立に陥らしむることあるを予期し独「ソ」の動向を厳に警戒す

 B.英米側より提議する妥協和平の場合

  機を失せす独「ソ」和平斡旋を図ると共に独「ソ」の仲介に依り世界和平導入に努む

(ロ)、独「ソ」和平の場合

 A.独より提議する和平の場合

  独ソ屈伏に依り欧州和平へ転移拡大するの算大なるを以て速かに「ソ」をして世界和平に導入せしむる如く着意す

 B.「ソ」側より提議する和平の場合

  速かに「ソ」との脈絡を図り独と協議の上要すれは防共協定を廃棄し「ソ」の利導に努む


別紙第一

   日蒋和平条件

一、日華同盟条約を廃棄し新に日華永遠の平和を律すへき日華友好条約を締結す

二、南京、重慶の合作を認む

  其の方法に関しては支那の内政問題として取扱ひ帝国は之に干渉せす

三、大東亜戦争間支那は対米英厳正中立を保持せしむ

四、帝国は支那に於て対米英戦争行為の必要なきに至らは支那事変前の状態に撤兵復帰す


別紙第二

   独「ソ」和平の為独に譲歩せしむへき条件

一、沿婆三国及「ポーランド」は「ソ」の絶対勢力下たることを認む(要すれは「ソ」領)

二、北欧「バルカン」「トルコ」伊太利に於ける「ソ」の優先的勢力を認む

  但し独の対米英戦争に必要なる最小限の資源を独に供給することを約せしむ


別紙第三

 対「ソ」交渉の為帝国の譲歩すへき条件

日蒋和平の仲介若くは独「ソ」和平斡旋の為左記条件を以て日「ソ」国交を調整す

(本密約は独「ソ」不調に終る場合に於ても日「ソ」国交保全の保証たらしむ)

    左   記

一、防共協定廃棄の用意あることを確約す

二、南樺太を「ソ」に譲渡す

三、満洲を「ソ」に対して非武装地帯とするか満洲北半部(概ね賓綏、賓洲線以北)を「ソ」に譲渡す

四、重慶地区は全面的に「ソ」の勢力圏とし爾他の支那に於ける我か占領地域(現国民政府治下の地域)は日「ソ」勢力の混淆地帯とす

  此の際汪、蒋、共合作促進に努め蒋応せさる場合に於ては中共を支援して重慶に代位せしむることを認む

五、戦争間及戦後を通し日「ソ」間特恵的経済交易提携を促進す

(国立公文書館:今後採るへき戦争指導の大綱に基く対外政略指導要領 C12120291700) 

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