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戦時刑事特別法 1943年10月31日

 戦時刑事特別法(ひらがな化、一部新字体化)


法律第五十八号

戦時刑事特別法中左の通改正す

第一章中第十八条の次に左の六条を加ふ

第十八条の二 戦時に際し公務員刑法第百九十七条第一項前段、第百九十七条第二項、第百九十七条の二又は百九十七条の三第三項の罪を犯したるときは十年以下の懲役に処す

 戦時に際し公務員刑法第百九十七条第一項後段の罪を犯したるときは一年以上の有期懲役に処す

 戦時に際し公務員刑法第百九十七条の三第一項又は第二項の罪を犯したるときは無期又は二年以上の懲役に処す

第十八条の三 戦時に際し官公署の職員其の地位を利用し他の官公署の職務に属する事項に関し斡旋を為すこと又は斡旋を為したることに付不当の利益を収受し、要求し又は約束したるときは収賄の罪と為し七年以下の懲役に処す

第十八条の四 犯人又は情を知りたる第三者の収受したる賄賂は之を没収す其の全部又は一部を没収すること能はざるときは其の価額を追徴す

第十八条の五 第十八条の二及第十八条の三に規定する賄賂を供与し又は其の申込若は約束を為したる者は五年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処す

 前項に掲ぐる行為を為さしむる目的を以て金銭若は物品の交付を為し又は情を知りて其の交付を受けたる者の罰亦前項に同じ

 前項の場合に於て交付を受けたる金銭又は物品は之を没収す其の全部又は一部を没収すること能はざるときは其の価額を追徴す

第十八条の六 第十八条の二、第十八条の四及前条の規定の適用に付ては公務に従事する職員は法令に依らざる者と雖も之を公務員と看做す

第十八条の七 第十八条の二の規定は他の法令に於て官吏と看做さるる者を除くの外他の法令に於て法令に依り公務に従事する職員と看做さるる者に付ては之を適用せず

第十九条但書を削る

第二十二条の二 刑事訴訟法第六十条第二項第七号の規定に依り公判調書に被告人、証人、鑑定人、通事又は翻訳人の訊問及供述を記載するには其の供述の要領のみを明確にするを以て足る

第二十二条の三 裁判所又は予審判事相当と認むるときは証人又は鑑定人の訊問に代へ書面の提出を為さしむることを得

第二十五条の二 検事事案の内容に照し相当と認むるときは区裁判所の管轄に属する事件に付地方裁判所に公判を請求することを得此の場合に於ては刑事訴訟法第三百五十六条但書の規定は之を適用せず

第二十七条 裁判所構成法戦時特例第四条第二項の上告は第二審の判決に対し上告を為すことを得る理由ある場合に於て之を為すことを得

 上告裁判所は第二審の判決に対する上告事件に関する手続に依り裁判を為すべし

第二十九条の二 区裁判所は事案の内容単純にして犯罪の成立明白なりと認むる事件に付略式命令を以て一年以下の懲役若は禁錮又は拘留を科すことを得

 左に掲ぐる罪に関する事件に付前項と同一の条件あるときは前項の規定に拘らず略式命令を以て三年以下の懲役を科することを得

 一 第五条第一項の窃盗の罪

 二 第十七条の罪

 三 刑法第百八十六条の罪

 四 刑法第二百三十五条の罪及其の未遂罪

 五 昭和五年法律第九号第二条及第三条の窃盗の罪

 前二項の場合に於て刑の執行猶予は刑の言渡と同時に略式命令を以て其の言渡を為すべし

第二十九条の三 略式命令に付ては検事の謄本の送達ありたる日より七日内に正式裁判の請求を為すことを得

 正式裁判の請求は略式命令を為したる裁判所に書面を以て之を為すべし正式裁判の請求ありたるときは裁判所は速に其の旨を被告人に通知すべし

第二十九条の四 刑事訴訟法第五百二十三条乃至第五百二十八条の規定は第二十九条の二の場合に付、同法第五百二十九条乃至第五百三十三条の規定は前二条の場合に付之を準用す

第二十九条の五 検事又は被告人は略式命令を為したる裁判所に書面を以て正式裁判の請求を放棄することを得

 正式裁判の請求の放棄に因り略式命令は確定判決と同一の効力を有す

第三十一条中「此の場合に於て」の下に「刑事訴訟法第六十条第二項第七号とあるは陸軍軍法会議法第百十二条第二項第六号又は海軍軍法会議法第百十二条第二項第六号とし」を加ふ

   附 則

本法施行の期日は勅令を以て之を定む

第十九条及第二十九条の二乃至第二十九条の五の改正規定は本法施行前公訴を提起したる事件に付ては之を適用せず

第二十七条の改正規定は本法施行前第一審の弁論の集結ありたる事件に付ては之を適用せず

改正前の戦時刑事特別法第二十七条の規定は本法施行前第一審の弁論の集結ありたる事件に付ては本法施行後と雖も仍其の効力を有す



改正後条文


   第一章 罪

第一条 戦時に際し灯火管制中又は敵襲の危険其の他人心に動揺を生ぜしむべき状態ある場合に於て火を放ちて現に人の住居に使用し又は人の現在する建造物、汽車、電車、自動車、艦船、航空機若は鉱坑を焼燬したる者は死刑又は無期若は十年以上の懲役に処す

 戦時に際し灯火管制中又は敵襲の危険其の他人心に動揺を生ぜしむべき状態ある場合に於て火を放ちて現に人の住居に使用せず又は人の現在せざる建造物、汽車、電車、自動車、艦船、航空機若は鉱坑を焼燬したる者は無期又は三年以上の懲役に処す

 前項の物自己の所有に係るときは一年以上の有期懲役に処す但し公共の危険を生ぜざるときは之を罰せず

 第一項及第二項の未遂罪は之を罰す

 第一項又は第二項の罪を犯す目的を以て其の予備又は通謀を為したる者は十年以下の懲役に処す

第二条 戦時に際し灯火管制中又は敵襲の危険其の他人心に動揺を生ぜしむべき状態ある場合に於て火を放ちて前条第一項及第二項に記載したる以外の物を焼燬し因て公共の危険を生ぜしめたる者は一年以上の有期懲役に処す

 前項の物自己の所有に係るときは十年以下の懲役に処す

第三条 第一条第二項及前条第一項に記載したる物自己の所有に係るときと雖も差押を受け、物権を負担し又は賃貸し若は保険に付したるものを焼燬したるときは他人の物を焼燬したる者の例に同じ

第四条 戦時に際し灯火管制中又は敵襲の危険其の他人心に動揺を生ぜしむべき状態ある場合に於て刑法第百七十六条若は同条の例に依る同法第百七十八条の罪又は此等に関する同法第百七十九条の罪を犯したる者は三年以上の有期懲役に処し同法第百七十七条若は同条の例に依る同法第百七十八条の罪又は此等に関する同法第百七十九条の罪を犯したる者は無期又は七年以上の懲役に処す

 前項の罪を犯し因て人を傷害に致したる者は死刑又は無期若は十年以上の懲役に処し死に致したる者は死刑に処す

 刑法第百八十条の規定は第一項の罪に付ては之を適用せず

第五条 戦時に際し灯火管制中又は敵襲の危険其の他人心に動揺を生ぜしむべき状態ある場合に於て刑法第二百三十五条、第二百三十六条、第二百三十八条若は第二百三十九条の罪又は此等に関する同法第二百四十三条の罪を犯したる者窃盗を以て論ずべきときは無期又は三年以上の懲役、強盗を以て論ずべきときは死刑又は無期若は十年以上の懲役に処す

 戦時に際し灯火管制中又は敵襲の危険其の他人心に動揺を生ぜしむべき状態ある場合に於て刑法第二百四十条前段若は第二百四十一条前段の罪又は此等に関する同法第二百四十三条の罪を犯したる者は死刑又は無期懲役に処し同法第二百四十条後段若は第二百四十一条後段の罪又は此等に関する同法第二百四十三条の罪を犯したる者は死刑に処す

 第一項の強盗を為す目的を以て其の予備又は通諜を為したる者は一年以上十年以下の懲役に処す

第六条 戦時に際し灯火管制中又は敵襲の危険其の他人心に動揺を生ぜしむべき状態ある場合に於て刑法第二百四十九条の罪又は之に関する同法第二百五十条の罪を犯したる者は二年以上の有期懲役に処す

第七条 戦時に際し国政を変乱することを目的として人を殺したる者は死刑又は無期の懲役若は禁錮に処す

 前項の未遂罪は之を罰す

 第一項の罪を犯す目的を以て其の予備又は陰謀を為したる者は二年以上の有期の懲役又は禁錮に処す

 第一項の罪を犯すことを教唆し又は幇助したる者は被教唆者又は被幇助者其の実行を為すに至らざるときは二年以上の有期の懲役又は禁錮に処す

 第一項の罪を犯さしむる為他人を煽動したる者の罰亦前項に同じ

第七条の二 戦時に際し国政を変乱することを目的として人を傷害し、逮捕し又は監禁したる者は一年以上の有期の懲役又は禁錮に処す因て人を死に致したる者は死刑又は無期若は十年以上の懲役若は禁錮に処す

 戦時に際し国政を変乱することを目的として人に対し暴行又は脅迫を加へたる者は十年以下の懲役又は禁錮に処す

 刑法第二百八条第二項の規定は前項の暴行の罪に付ては之を適用せず

第七条の三 戦時に際し国政を変乱することを目的として騒擾の罪其の他治安を害すべき罪の実行に関し協議を為し又は其の実行を煽動したる者は七年以下の懲役又は禁錮に処す

第七条の四 戦時に際し国政を変乱し其の他安寧秩序を紊乱することを目的として著しく治安を害すべき事項を宣伝したる者の罰亦前条に同じ

第七条の五 第七条第三項乃至第五項又は前二条の罪を犯したる者自首したるときは其の刑を減軽又は免除す

第八条 戦時に際し防空の実施に従事する公務員の当該職務を執行するに当り之に対して暴行又は脅迫を加へたる者は七年以下の懲役に処す

第九条 戦時に際し刑法第百六条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す

 一 首魁は死刑又は無期若は三年以上の懲役に処す

 二 他人を指揮し又は他人に率先して勢を助けたる者は一年以上の有期懲役に処す

 三 附和随行したる者は三年以下の懲役又は千円以下の罰金に処す

 戦時に際し暴行又は脅迫を為す為多衆聚合し当該公務員より解散の命令を受くるも仍解散せざるときは首魁は十年以下の懲役に処し其の他の者は三年以下の懲役又は千円以下の罰金に処す

第十条 戦時に際し公共の防空の為の建造物、工作物其の他の設備を損壊し又は其の他の方法を以て公共の防空の妨害を生ぜしめたる者は死刑又は無期若は三年以上の懲役に処す

 戦時に際し気象の観測の為の建造物、工作物其の他の設備を損壊し又は其の他の方法を以て気象の観測の妨害を生ぜしめたる者は十年以下の懲役に処す

第十一条 戦時に際し郵便又は電気通信の用に供する建造物、工作物其の他の設備を損壊し又は其の他の方法を以て公共の通信の妨害を生ぜしめたる者は無期又は一年以上の懲役に処す

第十二条 戦時に際し瓦斯又は電気の用に供する建造物、工作物其の他の設備を損壊し又は其の他の方法を以て瓦斯又は電気の公共の利用の妨害を生ぜしめたる者は無期又は一年以上の懲役に処す

第十三条 戦時に際し国防上重要なる生産事業の設備其の他当該生産の用に供する物を損壊若は隠匿し又は其の他の方法を以て其の物の効用を害し当該事業の遂行の妨害を生ぜしめたる者は無期又は一年以上の懲役に処す

第十四条 前四条の未遂罪は之を罰す

第十五条 戦時に際し業務上不正の利益を得る目的を以て生活必需品の買占又は売惜を為したる者は五年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処す

 前項の罪を犯したる者には情状に因り懲役及罰金を併科することを得

第十六条 戦時に際し刑法第百二十四条第一項の罪を犯したる者は一年以上の有期懲役に処す因て人を死傷に致したる者は死刑又は無期若は三年以上の懲役に処す

 戦時に際し刑法第百二十五条の罪を犯したる者は無期又は五年以上の懲役に処す

 戦時に際し刑法第百二十六条第一項又は第二項の罪を犯したる者は死刑又は無期若は七年以上の懲役に処す因て人を死に致したる者は死刑に処す

 第二項の罪を犯し因て刑法第百二十七条に定むる結果を生ぜしめたる者亦前項の例に同じ

 第一項前段、第二項及第三項前段の未遂罪は之を罰す

第十七条 戦時に際し刑法第百三十条の罪を犯したる者は五年以下の懲役又は千円以下の罰金に処す

 前項の未遂罪は之を罰す

第十八条 戦時に際し刑法第百四十三条又は第百四十四条の罪を犯したる者は一年以上の有期懲役に処す因て人を死傷に致したる者は死刑又は無期若は三年以上の懲役に処す

 戦時に際し刑法第百四十六条前段の罪を犯したる者は死刑又は無期若は七年以上の懲役に処す因て人を死に致したる者は死刑に処す

 戦時に際し刑法第百四十七条の罪を犯したる者は無期又は三年以上の懲役に処す

 第一項前段、第二項前段及前項の未遂罪は之を罰す

 第二項前段の罪を犯す目的を以て其の予備又は通謀を為したる者は十年以下の懲役に処す

第十八条の二 戦時に際し公務員刑法第百九十七条第一項前段、第百九十七条第二項、第百九十七条の二又は百九十七条の三第三項の罪を犯したるときは十年以下の懲役に処す

 戦時に際し公務員刑法第百九十七条第一項後段の罪を犯したるときは一年以上の有期懲役に処す

 戦時に際し公務員刑法第百九十七条の三第一項又は第二項の罪を犯したるときは無期又は二年以上の懲役に処す

第十八条の三 戦時に際し官公署の職員其の地位を利用し他の官公署の職務に属する事項に関し斡旋を為すこと又は斡旋を為したることに付不当の利益を収受し、要求し又は約束したるときは収賄の罪と為し七年以下の懲役に処す

第十八条の四 犯人又は情を知りたる第三者の収受したる賄賂は之を没収す其の全部又は一部を没収すること能はざるときは其の価額を追徴す

第十八条の五 第十八条の二及第十八条の三に規定する賄賂を供与し又は其の申込若は約束を為したる者は五年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処す

 前項に掲ぐる行為を為さしむる目的を以て金銭若は物品の交付を為し又は情を知りて其の交付を受けたる者の罰亦前項に同じ

 前項の場合に於て交付を受けたる金銭又は物品は之を没収す其の全部又は一部を没収すること能はざるときは其の価額を追徴す

第十八条の六 第十八条の二、第十八条の四及前条の規定の適用に付ては公務に従事する職員は法令に依らざる者と雖も之を公務員と看做す

第十八条の七 第十八条の二の規定は他の法令に於て官吏と看做さるる者を除くの外他の法令に於て法令に依り公務に従事する職員と看做さるる者に付ては之を適用せず


   第二章 刑事手続

第十九条 戦時に於ける刑事手続に関する特例は本章の定むる所に依る

第二十条 弁護人の数は被告人一人に付二人を超ゆることを得ず

 弁護人の選任は最初に定めたる公判期日に係る召喚状の送達を受けたる日より十日を経過したるときは之を為すことを得ず但し已むことを得ざる事由ある場合に於て裁判所の許可を受けたるときは此の限に在らず

第二十一条 弁護人は訴訟に関する書類の謄写を為さんとするときは裁判長又は予審判事の許可を受くることを要す

 弁護人の訴訟に関する書類の閲覧は裁判長又は予審判事の指定したる場合に於て之を為すべし

第二十二条 裁判書又は裁判を記載したる調書の謄本又は抄本は機密の保持其の他公益上の理由に依り裁判所に於て之を被告人其の他訴訟関係人に交付することを相当ならずと認むるときは之を交付せざることを得

第二十二条の二 刑事訴訟法第六十条第二項第七号の規定に依り公判調書に被告人、証人、鑑定人、通事又は翻訳人の訊問及供述を記載するには其の供述の要領のみを明確にするを以て足る

第二十二条の三 裁判所又は予審判事相当と認むるときは証人又は鑑定人の訊問に代へ書面の提出を為さしむることを得

第二十三条 予審判事は商工会議所其の他の団体に対し必要なる事項の報告を求むることを得

 裁判所は公判期日前前項の団体に対し必要なる事項の報告を求むることを得

 刑事訴訟法第三百四十二条の規定は前項の規定に依り集取したるものに付之を準用す

第二十四条 刑事訴訟法第三百三十四条の規定は第五条第一項並に昭和五年法律第九号第二条及第三条の窃盗の罪に関する事件に付ては之を適用せず

第二十五条 地方裁判所の事件と雖も刑事訴訟法第三百四十三条第一項に規定する制限に依ることを要せず

第二十五条の二 検事事案の内容に照し相当と認むるときは区裁判所の管轄に属する事件に付地方裁判所に公判を請求することを得此の場合に於ては刑事訴訟法第三百五十六条但書の規定は之を適用せず

第二十六条 有罪の言渡を為すに当り証拠に依りて罪と為るべき事実を認めたる理由を説明し法令の適用を示すには証拠の標目及法令を掲ぐるを以て足る

第二十七条 裁判所構成法戦時特例第四条第二項の上告は第二審の判決に対し上告を為すことを得る理由ある場合に於て之を為すことを得

 上告裁判所は第二審の判決に対する上告事件に関する手続に依り裁判を為すべし

第二十八条 上告裁判所訴訟記録の送付を受けたるときは速に其の旨を上告申立人及対手人に通知すべし

 上告申立人は前項の通知を受けたる日より三十日以内に上告趣意書を上告裁判所に差出すべし

 上告の対手人は第一項の通知を受けたる日より三十日以内に附帯上告を為すことを得

 刑事訴訟法第四百二十二条、第四百二十三条及第四百二十四条第一項の規定は之を適用せず

第二十九条 上告裁判所上告趣意書其の他の書類に依り上告の理由なきこと明白なりと認むるときは検事の意見を聴き弁論を経ずして判決を以て上告を棄却することを得

第二十九条の二 区裁判所は事案の内容単純にして犯罪の成立明白なりと認むる事件に付略式命令を以て一年以下の懲役若は禁錮又は拘留を科すことを得

 左に掲ぐる罪に関する事件に付前項と同一の条件あるときは前項の規定に拘らず略式命令を以て三年以下の懲役を科することを得

 一 第五条第一項の窃盗の罪

 二 第十七条の罪

 三 刑法第百八十六条の罪

 四 刑法第二百三十五条の罪及其の未遂罪

 五 昭和五年法律第九号第二条及第三条の窃盗の罪

 前二項の場合に於て刑の執行猶予は刑の言渡と同時に略式命令を以て其の言渡を為すべし

第二十九条の三 略式命令に付ては検事の謄本の送達ありたる日より七日内に正式裁判の請求を為すことを得

 正式裁判の請求は略式命令を為したる裁判所に書面を以て之を為すべし正式裁判の請求ありたるときは裁判所は速に其の旨を被告人に通知すべし

第二十九条の四 刑事訴訟法第五百二十三条乃至第五百二十八条の規定は第二十九条の二の場合に付、同法第五百二十九条乃至第五百三十三条の規定は前二条の場合に付之を準用す

第二十九条の五 検事又は被告人は略式命令を為したる裁判所に書面を以て正式裁判の請求を放棄することを得

 正式裁判の請求の放棄に因り略式命令は確定判決と同一の効力を有す

第三十条 刑事手続に付ては別段の規定ある場合を除くの外一般の規定の適用あるものとす

第三十一条 第二十一条乃至第二十四条、第二十六条及前条の規定は軍法会議の刑事手続に付之を準用す此の場合に於て刑事訴訟法第六十条第二項第七号とあるは陸軍軍法会議法第百十二条第二項第六号又は海軍軍法会議法第百十二条第二項第六号とし刑事訴訟法第三百四十二条とあるは陸軍軍法会議法第三百八十八条又は海軍軍法会議法第三百九十条とし刑事訴訟法第三百三十四条とあるは陸軍軍法会議法第三百六十七条又は海軍軍法会議法第三百六十九条とす


   附 則

本法施行の期日は勅令を以て之を定む

第十九条及第二十九条の二乃至第二十九条の五の改正規定は本法施行前公訴を提起したる事件に付ては之を適用せず

第二十七条の改正規定は本法施行前第一審の弁論の集結ありたる事件に付ては之を適用せず

改正前の戦時刑事特別法第二十七条の規定は本法施行前第一審の弁論の集結ありたる事件に付ては本法施行後と雖も仍其の効力を有す


(国立公文書館:御署名原本・昭和十八年・法律第一〇七号・戦時刑事特別法中改正法律:A03022788900) 

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 ダンバートン・オークス提案(一般的国際機構設立に関する提案)(訳文)     一般的国際機構設立に関する提案 (「ダンバートン、オークス」会議の結果「ソ」連邦、米国、英国及重慶政権に依り提案せられ千九百四十四年十月九日発表せられたるもの) (本提案の英文は千九百四十四年十月十一日附「モスコー、ニュース」より之を採り「ストックホルム」電報等に依り長短相補ひたるものなり) 「国際連合」なる名称の下に一の国際機構設立せらるべく其の憲章は左の提案を具現するに必要なる規定を掲ぐべし    第一章 目的 本機構の目的は左の如くなるべし 一、国際平和及安寧を保持すること、右目的の為平和に対する脅威の防止及除去並に侵略行為又は他の平和侵害行為の抑圧を目的とする効果的且集団的措置を執ること及平和の侵害に至るの虞ある国際紛争を平和的方法に依り調整又は解決すること 二、各国間の友好関係を発展せしめ且世界平和を強化すべき他の適当なる措置を執ること 三、各国間の経済的、社会的及他の人道上の問題の解決の為国際協力を完成すること及 四、右共同目的完成の為各国の行動を調整すべき中心たるべきこと    第二章 原則 第一章に掲げたる目的を遂行せんが為本機構及其の締盟国は以下の原則に従ひ行動すべし 一、本機構は一切の平和愛好国の主権平等の原則に其の基礎を置くものとす 二、本機構の一切の締盟国は締盟国全部に対し締盟国たるの地位に基く権利及利益を保障する為憲章に従ひ負担したる義務を履行することを約す 三、本機構の一切の締盟国は其の紛争を国際平和及安寧を危殆ならしめざるが如き平和的方法に依り解決すべきものとす 四、本機構の一切の締盟国は其の国際関係に於て本機構の目的と両立せざる如何なる方法に於ても脅威又は兵力の行使を避くるものとす 五、本機構の一切の締盟国は本機構が憲章の規定に従ひ執るべき如何なる行動に於ても之に対し有らゆる援助を与ふるものとす 六、本機構の一切の締盟国は本機構が防遏的又は強制的行動を執行中なる如何なる国家に対しても援助を与ふることを避くるものとす 本機構は、国際平和及安寧保持に必要なる限り本機構の非締盟国が右原則に従ひ行動することを確実ならしむべし    第三章 締盟国 一切の平和愛好国は本機構の締盟国たり得べし    第四章 主要機関 一、本機構は其の主要機関として左記を有すべし  イ

第二次近衛声明(東亜新秩序建設の声明) 1938年11月03日

 第二次近衛声明(東亜新秩序建設の声明)                     (昭和十三年十一月三日)  今や 陛下の御稜威に依り帝国陸海軍は、克く広東、武漢三鎮を攻略して、支那の要域を戡定したり。国民政府は既に地方の一政権に過ぎず。然れども、尚ほ同政府にして抗日容共政策を固執する限り、これが潰滅を見るまで、帝国は断じて矛を収むることなし。  帝国の冀求する所は、東亜永遠の安定を確保すべき新秩序の建設に在り。今次征戦究極の目的亦此に存す。  この新秩序の建設は日満支三国相携へ、政治、経済、文化等各般に亘り互助連環の関係を樹立するを以て根幹とし、東亜に於ける国際正義の確立、共同防共の達成、新文化の創造、経済結合の実現を期するにあり。是れ実に東亜を安定し、世界の進運に寄与する所以なり。  帝国が支那に望む所は、この東亜新秩序建設の任務を分担せんことに在り。帝国は支那国民が能く我が真意を理解し、以て帝国の協力に応へむことを期待す。固より国民政府と雖も従来の指導政策を一擲し、その人的構成を改替して更生の実を挙げ、新秩序の建設に来り参ずるに於ては敢て之を拒否するものにあらず。  帝国は列国も亦帝国の意図を正確に認識し、東亜の新情勢に適応すべきを信じて疑はず。就中、盟朋諸国従来の厚誼に対しては深くこれを多とするものなり。  惟ふに東亜に於ける新秩序の建設は、我が肇国の精神に淵源し、これを完成するは、現代日本国民に課せられたる光栄ある責務なり。帝国は必要なる国内諸般の改新を断行して、愈々国家総力の拡充を図り、万難を排して斯業の達成に邁進せざるべからず。  茲に政府は帝国不動の方針と決意とを声明す。 (国立公文書館:「近衛首相演述集」(その二)/1 第一章 「声明、告諭、訓令、訓辞」 B02030031600)