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国家総動員法 1938年04月01日

内容見直し点:口語訳中途

国家総動員法(口語訳 ただし、改正後のもの)

第一条 本法律において国家総動員とは、戦争時(戦争に準ずる事変も含む)に際して、国防目的の達成のため国の全力を最も有効に発揮できるよう人的、物的資源を統制し運用することをいう。
第二条 本法律において総動員物資とは次にあげるものをいう。
 一 兵器、艦艇、弾薬その他の軍用物資
 二 国家総動員上必要な被服、食糧、飲料及飼料
 三 国家総動員上必要な医薬品、医療機械器具その他の衛生用物資及び家畜衛生用物資
 四 国家総動員上必要な船舶、航空機、車両、馬その他の輸送用物資
 五 国家総動員上必要な通信用物資
 六 国家総動員上必要な土木建築用物資及び照明用物資
 七 国家総動員上必要な燃料及び電力
 八 前各号に掲げるものの生産、修理、配給又は保存に要する原料、材料、機械器具、装置その他の物資
 九 前各号に掲げるものの他、勅令で指定する国家総動員上必要な物資
第三条 本法律において総動員業務とは次に掲げるものをいう。
 一 総動員物資の生産、修理、配給、輸出、輸入又は保管に関する業務
 二 国家総動員上必要な運輸又は通信に関する業務
 三 国家総動員上必要な金融に関する業務
 四 国家総動員上必要な衛生、家畜衛生又は救護に関する業務
 五 国家総動員上必要な教育訓練に関する業務
 六 国家総動員上必要な試験研究に関する業務
 七 国家総動員上必要な情報又は啓発宣伝に関する業務
 八 国家総動員上必要な警備に関する業務
 九 前各号に掲げるものを除く他、勅令で指定する国家総動員上必要な業務
第四条 政府は戦争時には、国家総動員上必要な時は、勅令が定めることによって国民を徴用して、国家総動員業務に就かせることができる。ただし、兵役法とかち合うときは兵役法が優先する。
第五条 政府は戦時に際して国家総動員上必要と認めた時は、勅令の定めにより帝国臣民及び帝国法人その他の団体を、国・地方公共団体又は政府の指定する者の行う総動員業務に協力させることができる。
第六条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって労働者を雇ったり、解雇したり、また、その者の賃金などの労働条件に対しては必要な命令を出すことができる。
第七条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって労働争議の予防もしくは解決に対して必要な命令を出すことができる。また、作業所の閉鎖、作業もしくは労務の中止、その他の労働争議に対して制限もしくは禁止することができる。
第八条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって物資の生産、修理、配給、譲渡、その他の処分、使用、消費、所持及び移動に対して命令を出すことができる。
第九条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって輸出や輸入を制限したり禁止したりすることができる。また、輸出もしくは輸入を命じたり、輸出税や輸入税を課したりすることができる。また、輸出税や輸入税を増加したり減免したりすることができる。
第十条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって総動員物資を使用又は収用または総動員業務を行う者を使用したり収用したりすることができる。
第十一条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって会社の設立、資本の増加、合併、目的変更、社債の募集もしくは第二回以降の株金の払い込みを制限したり禁止したりできる。また、会社の利益の処分、償却その他の経理に対して必要な命令を出すことができる。また、銀行、信託会社、保険会社その他勅令によって指定する者に対して資金の運用、債務の引き受けもしくは債務の保証に対して必要な命令を出すことができる。
第十三条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって総動員業務にあたる事業に属する工場、事業場、船舶その他の施設または、総動員業務に転用できる施設の全部または一部を管理、使用、収用することができる。
?3 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって総動員業務に必要な土地もしくは家屋その他の工作部を管理、使用、収用することができる。また、総動員業務を行う者を使用しまたは収用することができる。
第十六条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって事業に属する設備の新設、拡張もしくは改良を制限又は禁止することができる。また、総動員業務にあたる事業に属する設備の新設、拡張もしくは改良を命じることができる。
第十六条ノ二 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって事業に属する設備または権利の譲渡、その他の処分、出資、使用又は移動に対して必要な命令を出すことができる。
第十六条ノ三 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって事業の開始、委託、共同経営、譲渡、廃止や休止、法人の目的変更、合併、解散に対して必要な命令を出すことができる。
第十七条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって同種もしくは異種の事業の事業主間における統制協定の設定、変更もしくは廃止について認可を受けさせることができる。また、統制協定の設定、変更もしくは取り消しを命じたり統制協定の加盟者もしくは統制協定に加盟していない事業主に対して統制協定によることを命じることができる。
第十八条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって同種もしくは異種の事業の事業主またはその団体に対して、当事業の統制または統制のためにする経営を目的とする団体または会社の設立を命じることができる。
2 前項の命令により設立される団体は法人とする。
3 第一項の命令により設立を命じられた者がその設立を行わないときは政府は定款の作成その他設立に関し必要な処分を為すことができる。
4 第一項の団体が成立したときは、政府は勅令の定めるところにより、当該団体の構成員たる資格を有する者をして、その団体の構成員たらしめることができる。
5 政府は第一項の団体に対してその構成員(その構成員の構成員を含む以下同じ)の事業に関する統制規程の設定、変更もしくは廃止について認可を受けさせ、統制規程の設定もしくは変更を命じたり、またはその構成員もしくは構成員の資格を有する者に対して団体の統制規程によるべきことを命じることができる。
6 第一項の団体または会社に関して必要な事項は勅令をもって定める。
第十九条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって価格、運送賃、保管料、保険料、賃貸料、加工賃、修繕料その他の財産的給付に対して必要な命令を出すことができる。
第二十条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって新聞紙その他の出版物の掲載について制限または禁止をすることができる。
第二十一条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって帝国臣民及び帝国臣民を雇傭もしくは使用する者について、帝国臣民の職業能力に関する事項を申告させ、または、帝国臣民の職業能力に関して検査することができる。
第二十二条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって学校、養成所、工場、事業場その他の技能者の養成に適する施設の管理者又は養成されるべき者の雇傭主に対して国家総動員上必要な命令を出すことができる。
第二十三条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって総動員物資の生産、販売または輸入を業とする者に対して、当該物資またはその原料もしくは材料の一定数量を保有させることができる。
第二十四条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって総動員業務にあたる事業の事業主または戦争時に際して総動員業務を実施すべき者に対して、総動員業務に関する計画を設定させ、当該計画に基づき必要な演練をさせることができる。
第二十五条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって総動員物資の生産、もしくは修理を業とする者または試験研究機関の管理者に対して試験研究を命じることができる。
第二十六条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって総動員物資の生産または修理を業とする者に対して、予算の範囲内において一定の利益を保証し、または、補助金を交付することができる。この場合において、政府はその者に対して総動員物資の生産もしくは修理をさせ、または国家総動員上必要な設備を作らせることができる。
第二十七条 政府は勅令によって第八条、第十条、第十三条、第十四条もしくは第十六条の二による処分、第九条による輸出もしくは輸入の命令、第十一条による資金の融通、有価証券の応募、引受もしくは買入、債務の引受もしくは債務の保証の命令、第十六条による設備の新設、拡張もしくは改良の命令または第十六条の三による事業の委託、譲渡、廃止もしくは休止もしくは法人の目的変更もしくは解散の命令によって生じた損失を補償する。ただし、第二項の場合はこの限りではない。
2 総動員業務を行う者は、第十条、第十三条第三項または第十四条によって使用、収用または実施する場合には勅令により、これによって生じた損失を補償しなければならない。
第二十八条 政府は、第二十二条、第二十三条または第二十五条の規定にある命令を出す場合、勅令による命令によって生じた損失は補償し、補助金を交付すること。
第二十九条 前二条の規定での補償金額及び第十五条の規定での買受の価額は総動員補償委員会の議決を経て政府が定める。
2 総動員補償委員会に関する規程は勅令で定める。
第三十条 政府は第二十六条または第二十八条の規定によって利益の保証または補助金の交付を受ける事業を監督し、そのための必要な命令を出したり処分をすることができる。
第三十一条 政府は、戦争時に国家総動員上必要な時は、勅令によって報告を求めたり、担当職員を必要な場所に派遣し業務や帳簿、書類その他の物件を検査することができる。
第三十二条 第九条の規定の命令に違反し輸出又は輸入をし又はしようとした者は三年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処す
2 前項の場合において輸出又は輸入をし又はしようとした者で、犯人の所有し又は所持するものは没収することができる。もし、その全部または一部を没収することができないときは、その価格を追徴することができる。
第三十三条 次の各号の一に該当する者は三年以下の懲役または五千円以下の罰金に処する。
 一 第七条の規定にある命令又は制限もしくは禁止に違反した者
 二 第九条の規定にある命令に違反し輸出又は輸入をしなかった者
 三 第十条の規定にある総動員物資の使用又は収用を拒み、妨げ又は忌避した者
 四 第十三条の規定にある施設、土地もしくは工作物の管理、使用もしくは収用又は従業者の供用を拒み、妨げ又は忌避した者
第三十四条 次の各号の一に該当する者は二年以下の懲役又は三千円以下の罰金に処する。
 一 第十一条の規定にある制限もしくは禁止又は命令に違反した者
 二 第十六条の規定にある制限もしくは禁止又は命令に違反した者
 三 第十六条の二の規定にある命令に違反した者
 四 第十六条の三の規定にある命令に違反した者
 五 第十七条もしくは第十八条第五項の規定に違反し認可を受けないで統制協定もしくは統制規程を設定、変更もしくは廃止したもの。また、第十七条や第十八条第五項の規定による命令に違反した者
 六 第二十三条の規定にある命令に違反し保有をしなかった者
 七 第二十六条の規定に違反し生産、修理または設備をしなかった者
第三十五条 前四条の罪を犯した者には情状により懲役及び罰金を併科することができる。
第三十六条 次の各号の一に該当する者は一年以下の懲役又は千円以下の罰金に処する。
 一 第四条の規定にある徴用に応じない者。または同条の規定にある業務に従事しなかった者。
 二 第六条の規定にある命令に違反した者
第三十七条 次の各号の一に該当する者は三千円以下の罰金に処する。
 一 第二十二条の規定にある命令に違反した者
 二 第二十四条の規定にある命令に違反し、計画の設定または演練をしなかった者
 三 第二十五条の規定にある命令に違反し、試験研究をしなかった者
第三十八条 次の各号の一に該当する者は千円以下の罰金に処する。
 一 第十八条第一項の規定にある命令に違反し、団体または会社の設立をしなかった者
 二 第十八条第六項の規定にある命令に違反した者
 三 第三十条の規定にある命令または処分に違反した者
 四 第三十一条の規定にある報告を怠りまたは虚偽の報告をした者
第三十九条 第二十条第一項による制限または禁止に違反したときは新聞紙においては発行人及び編集人、その他の出版物においては発行者及び作者を二年以下の懲役もしくは禁錮または二千円以下の罰金に処する。
2 新聞紙においては編集人以外については実際編集を担当した者及び掲載の記事に署名した者もまた前項に同じ。
第四十条 第二十条第二項による差押処分の執行を妨害した者は六月以下の懲役または五百円以下の罰金に処する。
第四十一条 前二条の罪には刑法併合罪の規定を適用しない。
第四十二条 第三十一条による当該官吏の検査を拒み、妨げまたは忌避した者は六月以下の懲役または五百円以下の罰金に処する。
第四十三条 第二十一条に違反して申告を怠りまたは検査を拒み、妨げまたは忌避した者は五十円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する。
第四十四条 総動員業務に従事した者がその業務遂行に関して知得した当該官庁指定の総動員業務に関する官庁の機密を漏泄または窃用したときは二年以下の懲役または二千円以下の罰金に処する。
2 公務員またはその職にあった者が職務上知得した当該官庁指定の総動員業務に関する官庁の機密を漏泄または窃用したるときは五年以下の懲役に処する。
第四十五条 公務員またはその職にあった者が本法の規定によって職務執行に関して知得した法人または人の業務上の秘密を漏泄または窃用したときは二年以下の懲役または二円以下の罰金に処する。
2 第十八条第一項または第三項によって事業の統制を目的として設立された団体または会社その他本法による命令によって統制をした法人その他の団体の役員もしくは使用人またはその職にあった者がその業務執行に関して知得した法人または人の業務上の秘密を漏泄または窃用したときも前項に同じ。
第四十六条及第四十七条 削除
第四十八条 法人の代表者または法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業者その法人または人の業務に関して第三十一条の二乃び至第三十四条、第三十六条第二号、第三十七条、第三十八条または第四十三条前段の違反行為をしたときは行為者を罰するほか、その法人または人に対して各本条の罰金刑または科料刑を科す。
第四十九条 前条の規定は本法施行地に本店または主な事務所をヲ持つ法人の代表者、代理人、使用人その他従業者が本法施行地外にした行為にも適用する。本法施行地に住所を持つ人の代理人、使用人その他の従業者が本法施行地外においてした行為についても同じ。
2 本法の罰則は本法施行地外において罪を犯した帝国臣民にもこれを適用する。
第五十条 本法の施行に関する重要事項(軍機に関するものを除く)について政府の諮問に応じるため国家総動員審議会を置く。
2 国家総動員審議会に関する規程は勅令で定める。

国家総動員法(原文:一部新字体化)

法律第五十五号
  国家総動員法
第一条 本法ニ於テ国家総動員トハ戦時(戦争ニ準ズベキ事変ノ場合ヲ含ム以下之ニ同ジ)ニ際シ国防目的達成ノ為国ノ全力ヲ最モ有効ニ発揮セシムル様人的及物的資源ヲ統制運用スルヲ謂フ
第二条 本法ニ於テ総動員物資トハ左ニ掲グルモノヲ謂フ
 一 兵器、艦艇、弾薬其ノ他ノ軍用物資
 二 国家総動員上必要ナル被服、食糧、飲料及飼料
 三 国家総動員上必要ナル医薬品、医療機械器具其ノ他ノ衛生用物資及家畜衛生用物資
 四 国家総動員上必要ナル船舶、航空機、車両、馬其ノ他ノ輸送用物資
 五 国家総動員上必要ナル通信用物資
 六 国家総動員上必要ナル土木建築用物資及照明用物資
 七 国家総動員上必要ナル燃料及電力
 八 前各号ニ掲グルモノノ生産、修理、配給又ハ保存ニ要スル原料、材料、機械器具、装置其ノ他ノ物資
 九 前各号ニ掲グルモノヲ除クノ外勅令ヲ以テ指定スル国家総動員上必要ナル物資
第三条 本法ニ於テ総動員業務トハ左ニ掲グルモノヲ謂フ
 一 総動員物資ノ生産、修理、配給、輸出、輸入又ハ保管ニ関スル業務
 二 国家総動員上必要ナル運輸又ハ通信ニ関スル業務
 三 国家総動員上必要ナル金融ニ関スル業務
 四 国家総動員上必要ナル衛生、家畜衛生又ハ救護ニ関スル業務
 五 国家総動員上必要ナル教育訓練ニ関スル業務
 六 国家総動員上必要ナル試験研究ニ関スル業務
 七 国家総動員上必要ナル情報又ハ啓発宣伝ニ関スル業務
 八 国家総動員上必要ナル警備ニ関スル業務
 九 前各号ニ掲グルモノヲ除クノ外勅令ヲ以テ指定スル国家総動員上必要ナル業務
第四条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ帝国臣民ヲ徴用シテ総動員業務ニ従事セシムルコトヲ得但シ兵役法ノ適用ヲ妨ゲズ
第五条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ帝国臣民及帝国法人其ノ他ノ団体ヲシテ国又ハ地方公共団体ノ行フ総動員業務ニ付協力セシムルコトヲ得
第六条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ従業者ノ使用、雇入若ハ解雇又ハ賃金其ノ他ノ労働条件ニ付必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
第七条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ労働争議ノ予防若ハ解決ニ関シ必要ナル命令ヲ為シ又ハ作業所ノ閉鎖、作業若ハ労務ノ中止其ノ他ノ労働争議ニ関スル行為ノ制限若ハ禁止ヲ為スコトヲ得
第八条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ総動員物資ノ生産、修理、配給、譲渡其ノ他ノ処分、使用、消費、所持及移動ニ関シ必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
第九条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ輸出若ハ輸入ノ制限若ハ禁止ヲ為シ、輸出若ハ輸入ヲ命ジ、輸出税若ハ輸入税ヲ課シ又ハ輸出税若ハ輸入税ヲ増課若ハ減免スルコトヲ得
第十条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ総動員物資ヲ使用若ハ収用セシムルコトヲ得
第十一条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ会社ノ設立、資本ノ増加、合併、目的変更、社債ノ募集若ハ第二回以後ノ株金ノ払込ニ付制限若ハ禁止ヲ為シ、会社ノ利益金ノ処分、償却其ノ他経理ニ関シ必要ナル命令ヲ為シ又ハ銀行、信託会社、保険会社其ノ他勅令ヲ以テ指定スル者ニ対シ資金ノ運用ニ関シ必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
第十二条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ総動員業務タル事業ヲ営ム会社ノ当該事業ニ属スル設備ノ費用ニ充ツル為ノ社債ノ募集又ハ資本ノ増加ニ付商法第二百条又ハ二百十条ノ規定ニ拘ラズ勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得
第十三条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ総動員業務タル事業ニ属スル工場、事業場、船舶其ノ他ノ施設又ハ之ニ転用スルコトヲ得ル施設ノ全部又ハ一部ヲ管理、使用又ハ収用スルコトヲ得
 政府ハ前項ニ掲グルモノヲ使用又ハ収用スル場合ニ於テ勅令ノ定ムル所ニ依リ其ノ従業者ヲ供用セシメ又ハ当該施設ニ於テ現ニ実施スル特許発明若ハ登録実用新案ヲ実施スルコトヲ得
 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ総動員業務ニ必要ナル土地又ハ家屋其ノ他ノ工作物ヲ管理、使用又ハ収用スルコトヲ得
第十四条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ鉱業権、砂鉱権及水ノ使用ニ関スル権利ヲ使用又ハ収用スルコトヲ得
第十五条 前二条ノ規定ニ依リ政府ノ収用シタルモノ不用ニ帰シタル場合ニ於テ収用シタル時ヨリ十年内ニ払下グルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ旧所有者若ハ旧権利者又ハ其ノ一般承継人ハ優先ニ之ヲ買受クルコトヲ得
第十六条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ事業ニ属スル設備ノ新設、拡張若ハ改良ヲ制限若ハ禁止シ又ハ総動員業務タル事業ニ属スル設備ノ新設、拡張若ハ改良ヲ命ズルコトヲ得
第十七条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ総動員業務タル同種若ハ異種ノ事業ノ事業主間ニ於ケル当該事業ニ関スル統制協定ノ設定、変更若ハ廃止ニ付認可ヲ受ケシメ、統制協定ノ設定、変更若ハ取消ヲ命ジ又ハ統制協定ノ加盟者若ハ其ノ統制協定ニ加盟セザル事業主ニ対シ其ノ統制協定ニ依ルベキコトヲ命ズルコトヲ得
第十八条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ総動員業務タル同種又ハ異種ノ事業ノ事業主ニ対シ当該事業ノ統制ヲ目的トスル組合ノ設立ヲ命ズルコトヲ得
 前項ノ組合ハ法人トス
 第一項ノ命令ニ依リ設立ヲ命ゼラレタル者其ノ設立ヲ為サザルトキハ政府ハ定款ノ作成其ノ他設立ニ関シ必要ナル処分ヲ為スコトヲ得
 第一項ノ組合成立シタルトキハ政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ当該組合ノ組合員タル資格ヲ有スル者ヲシテ其ノ組合ノ組合員タラシムルコトヲ得
 政府ハ第一項ノ組合ニ対シ其ノ組合員ノ営業ニ関スル統制規程ノ設定、変更若ハ廃止ニ付認可ヲ受ケシメ、統制規程ノ設定若ハ変更ヲ命ジ又ハ其ノ組合員ニ対シ組合ノ統制規程ニ依ルベキコトヲ命ズルコトヲ得
 第一項ノ組合ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十九条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ価格、運送賃、保管料、保険料、賃貸料又は加工賃ニ関シ必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
第二十条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ新聞紙其ノ他ノ出版物ノ掲載ニ付制限又ハ禁止ヲ為スコトヲ得
 政府ハ前項ノ制限又ハ禁止ニ違反シタル新聞紙其ノ他ノ出版物ニシテ国家総動員上支障アルモノノ発売及頒布ヲ禁止シ之ヲ差押フルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ併セテ其ノ原版ヲ差押フルコトヲ得
第二十一条 政府ハ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ帝国臣民及帝国臣民ヲ雇傭若ハ使用スル者ヲシテ帝国臣民ノ職業能力ニ関スル事項ヲ申告セシメ又ハ帝国臣民ノ職業能力ニ関シ検査スルコトヲ得
第二十二条 政府ハ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ学校、養成所、工場、事業場其ノ他技能者ノ養成ニ適スル施設ノ管理者又ハ養成セラルベキ者ノ雇傭主ニ対シ国家総動員上必要ナル技能者ノ養成ニ関シ必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
第二十三条 政府ハ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ総動員物資ノ生産、販売又ハ輸入ヲ業トスル者ヲシテ当該物資又ハ其ノ原料若ハ材料ノ一定数量ヲ保有セシムルコトヲ得
第二十四条 政府ハ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ総動員業務タル事業ノ事業主又ハ戦時ニ際シ総動員業務ヲ実施セシムベキ者ヲシテ戦時ニ際シ実施セシムベキ総動員業務ニ関スル計画ヲ設定セシメ又ハ当該計画ニ基キ必要ナル演練ヲ為サシムルコトヲ得
第二十五条 政府ハ国家総動員上必要アルトキハ総動員物資ノ生産若ハ修理ヲ業トスル者又ハ試験研究機関ノ管理者ニ対シ試験研究ヲ命ズルコトヲ得
第二十六条 政府ハ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ総動員物資ノ生産又ハ修理ヲ業トスル者ニ対シ予算ノ範囲内ニ於テ一定ノ利益ヲ保証シ又ハ補助金ヲ交付スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ政府ハ其ノ者ニ対シ総動員物資ノ生産若ハ修理ヲ為サシメ又ハ国家総動員上必要ナル設備ヲ為サシムルコトヲ得
第二十七条 政府ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ第八条、第十条、第十三条若ハ第十四条ノ規定ニ依ル処分、第九条ノ規定ニ依ル輸出若ハ輸入ノ命令、第十一条ノ規定ニ依ル資金ノ融通、有価証券ノ応募、引受若ハ買入ノ命令又ハ第十六条ノ規定ニ依ル設備ノ新設、拡張若ハ改良ノ命令ニ因リ生ジタル損失ヲ補償ス
第二十八条 政府ハ第二十二条、第二十三条又ハ第二十五条ノ規定ニ依リ命令ヲ為ス場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ニ因リ生ジタル損失ヲ補償シ又ハ補助金ヲ交付ス
第二十九条 前二条ノ規定ニ依ル補償ノ金額及第十五条ノ規定ニ依ル払下ノ価額ハ総動員補償委員会ノ議ヲ経テ政府之ヲ定ム
 総動員補償委員会ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十条 政府ハ第二十六条又ハ第二十八条ノ規定ニ依リ利益ノ保証又ハ補助金ノ交付ヲ受クル事業ヲ監督シ之ガ為必要ナル命令又ハ処分ヲ為スコトヲ得
第三十一条 政府ハ国家総動員上必要アルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ報告ヲ徴シ又ハ当該官吏ヲシテ必要ナル場所ニ臨検シ業務ノ状況若ハ帳簿書類其ノ他ノ物件ヲ検査セシムルコトヲ得
第三十二条 第九条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ輸出又ハ輸入ヲ為シ又ハ為サントシタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ一万円以下ノ罰金ニ処ス
 前項ノ場合ニ於テ輸出又ハ輸入ヲ為シ又ハ為サントシタル物ニシテ犯人ノ所有シ又ハ所持スルモノハ之ヲ没収スルコトヲ得若シ其ノ全部又ハ一部ヲ没収スルコト能ハザルトキハ其ノ価額ヲ追徴スルコトヲ得
第三十三条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五千円以下ノ罰金ニ処ス
 一 第七条ノ規定ニ依ル命令又ハ制限若ハ禁止ニ違反シタル者
 二 第八条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者
 三 第九条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ輸出又ハ輸入ヲ為サザル者
 四 第十条ノ規定ニ依ル総動員物資ノ使用又ハ収用ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタル者
 五 第十三条ノ規定ニ依ル施設、土地若ハ工作物ノ管理、使用若ハ収用又ハ従業者ノ供用ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタル者
 六 第十九条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者
第三十四条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ二年以下ノ懲役又ハ三千円以下ノ罰金ニ処ス
 一 第十一条ノ規定ニ依ル制限若ハ禁止又ハ命令ニ違反シタル者
 二 第十六条ノ規定ニ依ル制限若ハ禁止又ハ命令ニ違反シタル者
 三 第十七条若ハ第十八条第五項ノ規定ニ違反シ認可ヲ受ケズシテ統制協定若ハ統制規程ヲ設定、変更若ハ廃止シ又ハ第十七条若ハ第十八条第五項ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者
 四 第二十三条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ保有ヲ為サザル者
 五 第二十六条ノ規定ニ違反シ生産、修理又ハ設備ヲ為サザル者
第三十五条 前三条ノ罪ヲ犯シタル者ニハ情状ニ因リ懲役及罰金ヲ併科スルコトヲ得
第三十六条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ一年以下ノ懲役又ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
 一 第四条ノ規定ニ依ル徴用ニ応ゼズ又ハ同条ノ規定ニ依ル業務ニ従事セザル者
 二 第六条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者
第三十七条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三千円以下ノ罰金ニ処ス
 一 第二十二条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シタル者
 二 第二十四条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ計画ノ設定又ハ演練ヲ為サザル者
 三 第二十五条ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ試験研究ヲ為サザル者
第三十八条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
 一 第十八条第一項ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ組合ノ設立ヲ為サザル者
 二 第三十条ノ規定ニ依ル命令又ハ処分ニ違反シタル者
 三 第三十一条ノ規定ニ依ル報告ヲ怠リ又ハ虚偽ノ報告ヲ為シタル者
第三十九条 第二十条第一項ノ規定ニ依ル制限又ハ禁止ニ違反シタルトキハ新聞紙ニ在リテハ発行人及編輯人、其ノ他ノ出版物ニ在リテハ発行者及著作者ヲ二年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
 新聞紙ニ在リテハ編輯人以外ニ於テ実際編輯ヲ担当シタル者及掲載ノ記事ニ署名シタル者亦前項ニ同ジ
第四十条 第二十条第二項ノ規定ニ依ル差押処分ノ執行ヲ妨害シタル者ハ六月以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十一条 前二条ノ罪ニハ刑法併合罪ノ規定ヲ適用セズ
第四十二条 第三十一条ノ規定ニ依ル当該官吏ノ検査ヲ拒ミ、妨ゲ又ハ忌避シタル者ハ六月以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第四十三条 第二十一条ノ規定ニ違反シテ申告ヲ怠リ又ハ検査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シタル者ハ五十円以下ノ罰金又ハ拘留若ハ科料ニ処ス
第四十四条 総動員業務ニ従事シタル者其ノ業務遂行ニ関シ知得シタル当該官庁指定ノ総動員業務ニ関スル官庁ノ機密ヲ漏泄又ハ窃用シタルトキハ二年以下ノ懲役又ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
 公務員又ハ其ノ職ニ在リタル者職務上知得シタル当該官庁指定ノ総動員業務ニ関スル官庁ノ機密ヲ漏泄又ハ窃用シタルトキハ五年以下ノ懲役ニ処ス
第四十五条 公務員又ハ其ノ職ニ在リタル者本法ノ規定ニ依ル職務執行ニ関シ知得シタル法人又ハ人ノ業務上ノ秘密ヲ漏泄又ハ窃用シタルトキハ二年以下ノ懲役又ハ二千円以下ノ罰金ニ処ス
第四十六条 第十八条第一項又ハ第三項ノ規定ニ依リ設立シタル組合ノ役員其ノ職務ニ関シ賄賂ヲ収受シ又ハ之ヲ要求若ハ約束シタルトキハ二年以下ノ懲役ニ処ス
 前項ノ場合ニ於テ収受シタル賄賂ハ之ヲ没収ス若シ其ノ全部又ハ一部ヲ没収スルコト能ハザルトキハ其ノ価額ヲ追徴ス
第四十七条 前条第一項ニ掲グル者ニ対シ賄賂ヲ公布、提供又ハ約束シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
 前項ノ罪ヲ犯シタル者自首シタルトキハ其ノ刑ヲ減軽又ハ免除スルコトヲ得
第四十八条 法人ノ代表者又ハ法人若ハ人ノ代理人、使用人其ノ他ノ従業者其ノ法人又ハ人ノ業務ニ関シ第三十二条乃至第三十四条、第三十六条第二号、第三十七条、第三十八条又ハ第四十三条前段ノ違反行為ヲ為シタルトキハ行為者ヲ罰スルノ外其ノ法人又ハ人ニ対シ各本条ノ罰金刑又ハ科料刑ヲ科ス
第四十九条 前条ノ規定ハ本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有スル法人ノ代表者、代理人、使用人其ノ他ノ従業者ガ本法施行地外ニ於テ為シタル行為ニモ之ヲ適用ス本法施行地ニ住所ヲ有スル人ノ代理人、使用人其ノ他ノ従業者ガ本法施行地外ニ於テ為シタル行為ニ付亦同ジ
 本法ノ罰則ハ本法施行地外ニ於テ罪ヲ犯シタル帝国臣民ニモ之ヲ適用ス
第五十条 本法ノ施行ニ関スル重要事項(軍機ニ関スルモノヲ除ク)ニ付政府ノ諮問ニ応ズル為国家総動員審議会ヲ置ク
 国家総動員審議会ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
軍需工業動員法及昭和十二年法律第八十八号ハ之ヲ廃止ス
本法施行前軍需工業動員法ニ基キテ為シタル命令又ハ処分ハ之ヲ本法中ノ相当規定ニ基キテ為シタルモノト看做ス
軍需工業動員法ニ違反シタル者ノ処罰ニ付テハ仍旧法ニ依ル
(国立公文書館:国家総動員法制定軍需工業動員法及昭和十二年法律第八十八号(...)

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徴兵令詔書及び徴兵告諭(口語訳)  今回、全国募兵の件に付き、別紙の詔書の通り徴兵令が仰せ出され、その定めるところの条々、各々天皇の趣意を戴き、下々の者に至るまで遺漏なきように公布しなさい。全体として詳細は陸軍・海軍両省と打ち合わせをしなさい。この趣旨を通達する。  ただし、徴兵令および徴募期限については追って通達するべきものとする。 (別紙) 詔書の写し   私(明治天皇)が考えるに、往昔は郡県の制度により、全国の壮年の男子を募って、軍団を設置し、それによって国家を守ることは、もとより武士・農民の区別がなかった。中世以降、兵は武士に限られるようになり、兵農分離が始まって、ついに封建制度を形成するようになる。明治維新は、実に2千有余年来の一大変革であった。この際にあたり、海軍・陸軍の兵制もまた時節に従って、変更しないわけにはいかない。今日本の往昔の兵制に基づいて、海外各国の兵制を斟酌し、全国から兵を徴集する法律を定め、国家を守る基本を確立しようと思う。おまえたち、多くのあらゆる役人は手厚く、私(明治天皇)の意志を体して、広くこれを全国に説き聞かせなさい。 明治5年(壬申)11月28日  わが国古代の兵制では、国をあげて兵士とならなかったものはいなかった。有事の際は、天皇が元帥となり、青年壮年兵役に耐えられる者を募り、敵を征服すれば兵役を解き、帰郷すれば農工商人となった。もとより後世のように両刀を帯びて武士と称し、傍若無人で働かずに生活をし、甚だしい時には人を殺しても、お上が罪を問わないというようなことはなかった。  そもそも、神武天皇は珍彦を葛城の国造に任命し、以後軍団を設け衛士・防人の制度を始めて、神亀天平の時代に六府二鎮を設けて備えがなったのである。保元の乱・平治の乱以後、朝廷の軍規が緩み、軍事権は武士の手に落ち、国は封建制の時代となって、人は兵農分離とされた。さらに後世になって、朝廷の権威は失墜し、その弊害はあえていうべきものもなく甚だしいものとなった。  ところが、明治維新で諸藩が領土を朝廷に返還し、1871年(明治4)になって以前の郡県制に戻った。世襲で働かずに生活していた武士は、俸禄を減らし、刀剣を腰からはずすことを許し、士農工商の四民にようやく自由の権利を持たせようとしている。これは上下の身分差をなくし、人権を平等にしようとする方法で、とりもな...

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