帝国国策遂行要領(原文:ひらがな、新字体化)
帝国国策遂行要領
昭和十六年九月六日
御前会議決定
帝国は現下の急迫せる情勢特に米、英、蘭各国の執れる対日攻勢、「ソ」連の情勢及帝国国力の弾撥性に鑑み「情勢の推移に伴う帝国国策要綱」中南方に対する施策を左記に依り遂行す
一、帝国は自存自衛を全うする為対米、(英、蘭)戦争を辞せさる決意の下に概ね十月下旬を目途とし戦争準備を完整す
二、帝国は右に並行して米、英に対し外交の手段を尽して帝国の要求貫徹に努む
対米(英)交渉に於て帝国の達成すへき最小限度の要求事項並に之に関連し帝国の約諾し得る限度は別紙の如し
三、前号外交々渉に依り十月上旬頃に至るも尚我要求を貫徹し得る目途なき場合に於ては直ちに対米(英蘭)開戦を決意す
対南方以外の施策は既定国策に基き之を行い特に米「ソ」の対日連合戦線を結成せしめざるに勉む
別 紙
対米(英)交渉に於て帝国の達成すべき最小限度の要求事項並に之に関連し帝国の約諾し得る限度
第一 対米(英)交渉に於て帝国の達成すべき
最小限度の要求事項
一、米英は帝国の支那事変処理に容喙し又は之を妨害せざること
(イ)帝国の日支基本条約及日満支三国共同宣言に準拠し事変を解決せんとする企図を妨害せざること
(ロ)「ビルマ」公路を閉鎖し且蒋政権に対し軍事的政治的並に経済的援助をなさざること
(注)右はN工作に於ける支那事変処理に関する帝国従来の主張を妨ぐるものにあらず而して特に日誌間新取極に依る帝国軍隊の駐屯に関しては之を固守するものとす
但し事変解決に伴ひ支那事変遂行の為支那に派遣せる右以外の軍隊は原則として撤退するの用意あることを確言すること支障なし
支那に於ける米英の経済活動は公正なる基礎に於て行はるる限り制限せらるるものにあらざる旨確言すること支障なし
二、米英は極東に於て帝国の国防を脅威するが如き行動に出でざること
(イ)泰、蘭印、支那及極東「ソ」領内に軍事的権益を設定せざること
(ロ)極東に於ける兵備を現状以上に増強せざること
(注)日仏間の約定に基く日仏印間特殊関係の解消を要求せらるる場合は之を容認せざること
三、米英は帝国の所要物資獲得に協力すること
(イ)帝国との通商を恢復し且南西太平洋に於ける両国領土より帝国の自存上緊要なる物資を帝国に供給すること
(ロ)帝国と泰及蘭印との間の経済提携に付友好的に協力すること
第二 帝国の約諾し得る限度
第一に示す帝国の要求が応諾せらるるに於ては
一、帝国は仏印を基地として支那を除く其の近接地域に武力進出をなさざること
(注)「ソ」連に対する帝国の態度に関し質疑し来る場合「ソ」側に於て日「ソ」中立条約を遵守し且日満に対し驚異を与ふる等同条約の精神に反するが如き行動無き限り我より進んで武力行動に出づることなき旨応酬す
二、帝国は公正なる極東平和確立後仏領印度支那より撤兵する用意あること
三、帝国は比島の中立を保障する用意あること
(国立公文書館:帝国国策遂行要領(御前会議議題))
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