日本国「アメリカ」合衆国間国交調整に関する了解案(ひらがな、一部新字体化)
昭和十六年九月二十日
連絡会議決定
日本國「アメリカ」合衆國間國交調整ニ關スル了解案
合衆国及日本国政府は伝統的友好関供快復の為共同宣言に於て表現せらるるか如き了解に関する一般的協定の交渉開始及締結の為共同の責任を受諾す
両国国交の最近の疎隔の特定原因に論及することなく両国間友好的感情悪化の原因となれる事件の再発を防止し且其の不測不幸なる結果に付矯正を図ることは両国政府の衷心よりの希望なり
共同の努力に依り合衆国及日本国か太平洋に於ける平和の樹立及保持のため有効なる貢献を為すこと及友好的了解を速に完成することに依り、世界平和を助長し且現に文明を没滅せんとする惧ある悲しむへき混乱を仮令一掃せしむること不可能なりとするも之か悪化を抑制せんことは両国政府の真摯なる希望なり
斯かる果断なる措置の為には長期の交渉は不適当にして又効果薄弱なり。仍て両国政府は両国政府を不取敢道義的に且其の行動に関し拘束すへき一般的了解を成立せしめ之を完成する為には適当の手段を案出実施することを希望す
両国政府は斯る了解には緊急を要する枢要問題のみを包含せしめ後日会議の審議に譲り得へき附随的事項は之を含ましめさること然るへしと信す
両国政府は左の如き特定の事態及態度を明瞭にし又は改善するに於ては融和関係の達成を期待し得へしと認む
一、国際関係及国家の本質に関する合衆国及日本国の観念
二、欧州戦争に対する両国政府の態度
三、日支間の和平解決に対する措置
四、両国間の通商
五、南西太平洋地域に於ける経済問題
六、太平洋地域に於ける政治的安定に関する方針
因て合衆国政府及日本国政府は茲に左の相互的了解及政策の宣言に到達せり
第一条(国際関係及国家の本質に関する観念)
両国政府は其の国策は永続的平和の樹立並に両国民間の相互信頼及協力の新時代の創始を目的とするものなることを確認す
両国政府は各国家及民族か正義及衡平に依る万邦協和の理想の下に生存する一宇をなすことは其の伝統的及現在に於ける観念並に確信なることを声明す。即ち平和的手続に依り規律せられ、且つ精神的及物質的福祉の追求を目的とする相関的利害関係に基き何れも等しく権利を享有し、責任を容認す、而して右福祉たるや、各国家及民族か他の為に之を毀損すへからさると同様に自らの為に之を擁護すへきものとす。更に両国政府は他の民族の抑圧又は搾取を排撃すへき各自の責任を容認す
両国政府は国家の本質に関する各自の伝統的観念並に社会的秩序及国家生活の基礎的道義的原則は引続き之を保存すへく、且右道義的原則及観念に反する外来の思想又は理念に依り之を変革せしめさることを固く決意す
第二条(欧州戦争に対する両国政府の態度)
両国政府は世界平和の招来を共同の目標として適当なる時機至る時は相協力して世界平和の速かなる克服に努力すへし
世界平和克服前に於ける事態の諸発展に対しては両国政府は防護と自衛との見地より行動すへく、又合衆国の欧州戦争参入の場合に於ける日本国独逸国及伊太利国間三国条約に対する日本国の解釈及之に伴ふ義務履行は専ら自主的に行はるへし
第三条(日支間の和平解決に対する措置)
両国政府は支那事変の解決か太平洋全域の平和延いては世界の平和に至大の関係あるを認め之か急速なる実現促進の為努力すへし
合衆国政府は支那事変解決に対する日本国政府の努力と誠意とを諒解し、之か実現促進の為重慶政権に対し戦闘行為の終結及平和関係の恢復の為速に日本国政府と交渉に入る様橋渡しを為すへく且日本国政府の支那事変解決に関する措置及努力に支障を与ふるか如き一切の措置及行動に出てさるへし
日本国政府は支那事変解決に関する■■的一般条件か近衛声明に示されたる原則及右原則に基き既に実施せられたる日支間約定及事項と矛盾せさるものなること並に日支間の経済協力は平和的手段に依り且国際通商関係に於ける無差別の原則及隣接国間に於ける自然的特殊緊密関係存立の原則に基き行はるへく而して第三国の経済活動は公正なる基礎に於て行はるる限り之を排除するものに非ることを■明す
註 日支和平基礎条件別紙の通り
連絡会議決定案に依る
第四条(日米両国間の通商)
両国政府は両国間正常の通商関係を恢復せしむるに必要なる措置を遅滞なく講することに同意す
両国政府は前項の措置の第一着手として現に実施しつつある相互の凍結措置を直に撤廃し且両国の一方か供給し得且他方か必要とするか如き物資を相互に供給すへきことを保障すへし
第五条(南西太平洋に関する経済問題)
両国政府は南西大西洋地域に於ける日本国及合衆国の経済活動は平和的手段に依り且国際通商関係に於ける無差別待遇の原則に遵ひ行はるへきことを相互に誓約す
両国政府は前項の政策遂行の為両国か通商手続に依り各国か自国の経済の安全防衛及発達の為必要とする商品及物資獲得の手段を確保する為の合理的機会を有し得るか如き国際通商及国際投資の条件創設に付相互に協力すへきことに同意す
両国政府は石油、護謨、「ニツケル」、錫等の特殊物資の生産及供給に付無差別待遇の基礎に於て関係諸国との協定及其の実行に関し友好的に協力すへし
第六条(太平洋地域に於ける政治的安定に関する方針)
両国政府は太平洋地域に於ける事態の速かなる安定の緊要なる所以を認め右安定に脅威を与ふるか如き措置及行動に出てさるへきことを約す
日本国政府は仏領印度支那を基地として其の近接地域(支那を除く)に武力的進出を為ささるへく又太平洋地域に於ける公正なる平和確立する場合には現に仏領印度支那に派遣し居る日本国軍隊は之を撤退すへし
合衆国政府は南西太平洋地域に於ける軍事的措置を軽減すへし
両国政府は「タイ」及蘭印印度の主権及領土を尊重すへきこと並に比律賓の独立か完成せらるへき際に於て同群島の中立化に付協定を締結するの用意あることを声明す
合衆国政府は比律賓群島に於ける日本国人に対する無差別待遇を保障すへし
別 紙
日支和平基礎条件
一、善隣友好
二、主権及領土の尊重
三、日支共同防衛
日支両国の安全の脅威となるへき共産主義的並に其他の秩序擾乱運動防止及治安維持の為の日支協力
右の為及従前の取極及慣例に基く一定地域に於ける日本国軍隊及艦船部隊の所要期間駐屯
四、撤兵
支那事変遂行の為支那に派遣せられたる前号以外の軍隊は事変解決に伴ひ撤退
五、経済提携
(イ)支那に於ける重要国防資源の開発利用を主とする日支経済提携を行ふ
(ロ)右は公正なる基礎に於て行はるる在支第三国経済活動を制限することなし
六、蒋政権と汪政府との合流
七、非併合
八、無賠償
九、満洲国承認
(国立公文書館:日本国「アメリカ」合衆国間国交調整に関する了解案 昭和16年9月・・・)
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