北支那開発株式会社法(原文、ひらがな・一部新字体化)
法律第八十二号
北支那開發株式會社法
第一章 総則
第一条 北支那開発株式会社は北支那に於ける経済開発を促進し其の統合調整を図るを目的とする株式会社とし其の本店を東京に置く
第二条 北支那開発株式会社の資本は三億五千万円とす但し政府の認可を受け之を増加することを得
第三条 政府は一億七千五百万円を限り北支那開発株式会社に出資すべし
政府は金銭以外の財産を以て出資の目的と為すことを得
政府所有の株式の株金払込は其の他の株式の株金払込と之を異にすることを得
第四条 北支那開発株式会社の株金の第一回の払込金額は株金の六分の一迄下ることを得
政府は金銭以外の財産を以て其の所有する株式の第二回以後の株金払込に充つることを得
第五条 北支那開発株式会社は株金全額払込前と雖も其の資本を増加することを得
第六条 北支那開発株式会社の株式は記名式とす
第七条 北支那開発株式会社に非ざるものは北支那開発株式会社又は之に類似の名称を以て其の商号と為すことを得ず
第八条 北支那開発株式会社の定款の変更は資本の半額以上に当る株主出席し其の議決権の過半数を以て之を決す
第二章 役員
第九条 北支那開発株式会社に総裁一人、副総裁二人、理事五人以上及監事二人以上を置く
第十条 総裁は北支那開発株式会社を代表し其の業務を総理す
総裁事故あるときは副総裁の一人其の職務を代理し総裁欠員のときは其の職務を行ふ
副総裁及理事は総裁を補佐し定款の定むる所に従ひ北支那開発株式会社の業務を分掌し又は之に参与す
監事は北支那開発株式会社の業務を監査す
第十一条 総裁及副総裁は勅裁を経て政府之を命じ其の任期を五年とす
理事は株主総会に於て之を選任し政府の認可を受くるものとし其の任期を四年とす
監事は株主総会に於て之を選任し其の任期を三年とす
第十二条 総裁、副総裁及業務を分掌する理事は他の職務又は商業に従事することを得ず但し政府の認可を受けたるときは此の限に在らず
第十三条 北支那開発株式会社に顧問若干人を置くことを得
顧問は総裁の諮問に応じて意見を開陳す
顧問は北支那開発株式会社政府の認可を受け之を委嘱す
第三章 業務
第十四条 北支那開発株式会社は左の事業の主要なるものに対し投資又は融資を為し其の経営を統合調整するものとす
一 交通、運輸及港湾に関する事業
二 通信に関する事業
三 発送電に関する事業
四 鉱産に関する事業
五 藍の製造、販売及利用に関する事業
六 前各号の外北支那に於ける経済開発を促進する為特に統合調整を必要とする事業
第四章 北支振興債券
第十五条 北支那開発株式会社は払込株金額の五倍を限り北支開発債券を発行することを得
北支那開発株式会社は北支開発債券借換の為一時前項の制限に依らず北支開発債券を発行することを得此の場合に於ては発行後一月内に其の発行額面金額に相当する旧北支開発債券を償還すべし
北支開発債券を発行する場合に於ては商法第二百九条に定むる決議に依ることを要せず
第十六条 北支開発債券を発行せんとする場合に於ては政府の認可を受くべし
第十七条 政府は北支開発債券の元本の償還及利息の支払に付保証することを得
第十八条 北支開発債券の所有者は北支那開発株式会社の財産に付他の債権者に先ちて自己の債権の弁済を受くる権利を有す
第五章 準備金
第十九条 北支那開発株式会社は毎営業年度に準備金として資本の欠損を補ふ為利益金額の百分の八以上を積立て且利益配当の平均を得しむる為利益金額の百分の二以上を積立つべし
第六章 政府の監督及助成
第二十条 政府は北支那開発株式会社の業務を監督す
第二十一条 北支那開発株式会社借入金を為さんとするときは政府の認可を受くべし
第二十二条 定款の変更、合併及解散の決議は政府の認可を受くるに非ざれば其の効力を生ぜず
第二十三条 北支那開発株式会社は政府の認可を受くるに非ざれば利益金の処分を為すことを得ず
第二十四条 北支那開発株式会社は毎営業年度の投資及融資の計画を定め事業開始一月前迄に之を政府に提出し認可を受くべし之に重大なる変更を加へんとするとき亦同じ
第二十五条 政府は北支那開発株式会社の業務に関し監督上、国防上又は北支那に於ける経済開発を促進し其の統合調整を図る為必要なる命令を為すことを得
前項の規定に依り国防上必要なる命令を為したるときは政府は勅令の定むる所に依り之に因り生じたる損失を補償す
前項の補償を伴ふべき命令は之に因り要すべき補償金の総額が帝国議会の協賛を経たる金額を超えざる範囲内に於て之を為すことを要す
第二十六条 政府は北支那開発株式会社監理官を置き北支那開発株式会社の業務を監視せしむ
北支那開発株式会社監理官は何時にても北支那開発株式会社の金庫帳簿及諸般の文書物件を検査することを得
北支那開発株式会社監理官は必要と認むるときは何時にても北支那開発株式会社に命じて業務に関する諸般の計算及状況を報告せしむることを得
北支那開発株式会社監理官は株主総会其の他諸般の会議に出席して意見を陳述することを得
第二十七条 政府は北支那開発株式会社の決議又は役員の行為が法令、法令に基きて為す処分若は定款に違反し又は公益を害すと認むるときは其の決議を取消し又は役員を解任することを得
第二十八条 北支那開発株式会社は毎営業年度に於ける配当し得べき利益金額が政府以外の者の所有する株式の払込金額に対し年百分の六の割合に達する迄政府の所有する株式に対し利益の配当を為すことを要せず
第二十九条 北支那開発株式会社の毎営業年度に於ける投資及融資に因る収入の投資及融資の総額に対する割合(以下収入割合と称す)が年百分の六に達せざるときは政府は初営業年度及爾後五年間左の各号の金額の合計額を限度とし配当し得べき利益金額が政府以外の者の所有する株式の払込金額に対し年百分の六の割合に達する迄其の不足額に相当する金額を補給す
一 投資及融資の総額中政府以外の者の所有する株式の払込金に依りたる部分に百分の七より収入割合を減じたる差を乗じて得べき金額
二 投資及融資の総額中社債収入金(社債前借金を含む以下同じ)に依りたる部分に百分の五より収入割合を減じたる差を乗じて得べき金額
毎営業年度に於ける配当し得べき利益金額が政府以外の者の所有する株式の払込金額に対し年百分の六の割合を超過するときは其の超過額は先づ之を前項の補給金の償還に充つべし
第一項の投資及融資に因る収入、投資及融資の総額並に其の中政府以外の者の所有する株式の払込金に依りたる部分及社債収入金に依りたる部分の計算方法は命令を以て之を定む
第三十条 北支那開発株式会社の毎営業年度に於ける配当し得べき利益金額が政府以外の者の所有する株式の払込金額に対し年百分の六の割合を超過する場合に於て政府以外の者の所有する株式に対し年百分の六の割合を超え利益配当を為さんとするときは其の超過する利益金額は利益配当が総株式に付払込みたる株金額に対し均一の割合に達する迄政府以外の者の所有する株式の払込金額及政府の所有する株式の払込金額に対し一と五との割合を以て之を配当すべし
第三十一条 北支那開発株式会社には命令の定むる所に依り開業の年及其の翌年より十年間所得税及営業収益税を免除す
第三十二条 北海道、府県、市町村其の他之に準ずべきものは前条の期間北支那開発株式会社の事業に対し地方税を課することを得ず
第三十三条 北支那開発株式会社が設立、資本の増加、合併又は第二回以後の株金払込の登記を受くる場合に於ては其の登録税の額は払込株金額、増資払込株金額又は毎回払込株金額の千分の一とす
第七章 罰則
第三十四条 北支那開発株式会社が本法若は本法に基きて発する命令又は之に基きて為す処分に違反したるときは総裁又は総裁の職務を行ひ若は代理する副総裁を百円以上二千円以下の過料に処す副総裁又は理事の分掌業務に係るときは副総裁又は理事を過料に処すること亦同じ
非訟事件手続法第二百六条乃至第二百八条の規定は前項の過料に之を準用す
附 則
第三十五条 本法は公布の日より之を施行す
第三十六条 政府は設立委員を命じ北支那開発株式会社の設立に関する一切の事務を処理せしむ
第三十七条 設立委員は定款を作成し政府の認可を受くべし
政府前項の規定に依る認可を為さんとするときは政府の出資の目的たる金銭以外の財産の価格及之に対して与ふる株式の数に付政府出資財産評価委員会の議を経べし
政府出資財産評価委員会に関する規程は勅令を以て之を定む
第三十八条 前条の認可ありたるときは設立委員は株式総数より政府に割当つべき株式を控除したる残余の株式に付株主を募集すべし
第三十九条 株式申込証には定款認可の年月日並に商法第百二十六条第二項第二号、第四号及第五号に規定する事項を記載すべし
第四十条 設立委員は株主の募集終りたるときは株式申込証を政府に提出し其の検査を受くべし
第四十一条 設立委員は前条の検査を受けたる後遅滞なく各株に付第一回の払込を為さしむべし
前項の払込ありたるときは設立委員は遅滞なく創立総会を招集すべし
第四十二条 創立総会に於いては第十一条の規定に準じ理事及監事の選任を行ふべし
第四十三条 創立総会集結したるときは設立委員は其の事務を北支那開発株式会社総裁に引渡すべし
第四十四条 政府第四条第二項の規定に依り金銭以外の財産を以て其の所有する株式の株金払込に充つる場合に於ては其の財産の価格に付政府出資財産評価委員会の議を経べし
第四十五条 政府は北支那開発株式会社に対する出資の目的に充つる為帝国鉄道特別会計より其の所属物件を無償にて一般会計に保管換を為すことを得
第四十六条 登録税法第六条第一項第十一号中「東洋拓殖債券」の下に「北支開発債券」を加ふ
(国立公文書館:北支那開発株式会社法制定登録税法中改正・御署名原本・昭和十...)
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