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六月二一日米国提案 1941年06月21日

 六月二一日米国案(訳文:ひらがな、一部新字体化)


合衆国及日本国政府は伝統的友好関係恢復の為共同宣言に於て表現せらるるか如き了解に関する一般的協定の交渉開始及締結の為共同の責任を受諾す

両国国交の最近の疎隔の特定原因に論及することなく両国間友好的感情悪化の原因となれる事件の再発を防止し且其の不測不幸なる結果に付矯正を図ることは両国政府の衷心よりの希望なり

共同の努力に依り合衆国及日本国か太平洋に於ける平和の樹立及保持のため有効なる貢献を為すこと及友好的了解を速かに完成することに依り世界平和を助長し且現に文明を没滅せんとする惧ある悲しむへき混乱を仮令一掃せしむること不可能なりとするも之か悪化を抑制せんことは両国政府の真摯なる希望なり

斯かる果断なる措置の為には長期の交渉は不適当にして又効果薄弱なり仍て両国政府は両国政府を不取敢道義的に且其の行動に関し拘束すへき一般的了解を成立せしめ之を完成する為には適当の手段を案出実施することを希望す

両国政府は斯る了解には緊急を要する枢要問題のみを包含せしめ後日会議の審議に譲り得へき付随的事項は之を含ましめさること然るへしと信す

両国政府は左の如き特定の事態及態度を明瞭にし又は改善するに於ては融和関係の達成を期待し得へしと認む

一、国際関係及国家の本質に関する合衆国及日本国の観念

二、欧州戦争に対する両国政府の態度

三、日支間の和平解決に対する措置

四、両国間の通商

五、太平洋地域に於ける両国の経済的活動

六、太平洋地域に於ける政治的安定に関する両国政府の方針

七、比律賓群島の中立化

因て合衆国政府及日本国政府は茲に左の相互的了解及政策の宣言に到達せり

一、国際関係及国家の本質に関する合衆国及日本国の観念

 両国政府は其の国策は永続的平和の樹立並に両国民間の相互信頼及協力の新時代の創始を目的とするものなることを確認す

 両国政府は各国家及各民族か正義及衡平に依る万邦協和の理想の下に生存する一宇を為すとは其の伝統的及現在に於ける観念及革新なることを声明す即ち平和的手続に依り規律せられ且精神的及物質的福祉の追求を目的とする相関的利害関係に基き何れも等しく権利を享有し責任を容認す而して右福祉たるや各国家及民族か他の為に之を毀損すへからさるか如く自らの為に之を擁護すへきものとす更に両国政府は他の民族の抑圧又は搾取を排撃すへき各自の責任を容認す

 両国政府は国家の本質に関する各自の伝統的観念並に社会的秩序及国家生活の基礎的道義的原則は引続き之を保存すへく且右道義的原則及観念に反する外来の思想又は「イデオロギー」に依り之を変改せしめさることを固く決意す

二、欧州戦争に対する両国政府の態度

 日本政府は三国条約の目的か過去に於ても又現在に於ても防禦的にして挑発に依らさる欧州戦争の拡大防止に寄与せんとするものなることを闡明す

 合衆国政府は其の欧州戦争に対する態度は現在及今後も防護と自衛即ち自国の安全と之か防衛の考慮に依りてのみ決せらるへきものなることを闡明す

  註 一九四一年五月三十一日案の一部を成せる本問題に関する合衆国政府の付属追加書の代りとして茲に交換公文の試案添付せらる

三、日支間の和平解決に対する措置

 日本国政府は合衆国政府に対し日本国政府か支那国政府との和平解決交渉を提議すへき場合に於ける基礎的一般条件即ち日本国政府の声明するところに依れは善隣友好、主権及領土の相互尊重に関する近衛原則並に右原則の実際的適用に矛盾せさるものなる条件を通報したるを以て合衆国大統領は支那国政府及日本国政府か相互に有利にして且受諾し得へき基礎に於て戦闘行為の終結及平和関係の恢復のため交渉に入る様支那国政府に慫慂すへし

  註 第三項の前記案文は共産運動に対する共同防衛問題(支那領土に於ける日本軍隊の駐屯問題を含む)及日支間の経済的協力の問題に関する今後の討議に依り変更せらるることあるへし第三項の案文修正の提議に関しては如何なる修正提案も本項に関し付属書に掲けられたる一切の点か満足に起草せられ本項及付属書か全体として検討し得るに至りたる上にて考究するか最も好都合なりと信す

四、両国間の通商

 本了解か両国政府に依り公式に承認せられたるときは合衆国及日本国は両国の一方か供給し得て他方か必要とするか如き物資を相互に供給すへきことを保障すへし両国政府は更に嘗て日米通商航海条約に基き確立せられ居たるか如き正常の通商関係を恢復せしむるに必要なる措置を講することに同意す若し新通商条約か両国政府に依り希望せらるるときは右は出来得る限り速かに交渉せらるへく且通常の手続に従ひ締結せらるへし

五、太平洋地域に於ける両国の経済的活動

 太平洋方面に於ける日本国及米国の活動は平和的手段に依り且国際通商関係に於ける無差別待遇の原則に遵ひ行はるへしとの茲に為されたる相互的誓約に基き日本国政府及合衆国政府は両国か夫々自国経済の保全及発達のため必要とする天然資源(例えは石油、護謨、錫、「ニッケル」)の商業的供給の無差別的均霑を受け得る様相互に協力すへきことを約す

六、太平洋地域に於ける政治的安定に関する両国政府の方針

 両国政府は本了解の基調を為す支配的方針は太平洋地域に於ける平和なること協力的努力に依り太平洋地域に於ける平和の維持及保全に貢献するは両国政府の根本目的なること

 並に両国何れも前記地域に於て領土的企図を有せさることを声明す

七、比律賓群島の中立化

 日本国政府は合衆国政府か希望する時期に於て合衆国政府と比律賓の独立か完成せらるへき際に於ける比律賓群島の中立化のための条約締結を目的とする交渉に入る用意あることを声明す


    日本国政府の付属追加書

三、日支間の和平解決に対する措置

 本項に所謂基本条件とは左の如し

 (一) 善隣友好

 (二) (有害なる共産運動に対する共同防衛---支那領土内に於ける日本軍隊の駐屯を含む)

  今後更に討議決定すへし

 (三) (経済的協力)

  国際通商関係に於ける無差別待遇の原則を本号に適用することに付ての交換公文に関する合意に依り決定するものとす

 (四) 善隣国として協力しつつあり且世界平和に貢献すへき東亜の中核を形成すへき各国民固有の特質に対する相互尊重

 (五) 出来得る限り速かに且日支間に締結せらるへき協定に遵ひ支那領土より日本の武力を撤退すへきこと

 (六) 非併合

 (七) 無賠償

 (八) 満州国に関する友誼的交渉


    合衆国政府の付属追加書

四、両国間の通商

 現下の国際的非常事態の継続中日本国及合衆国は相互に通常の又は戦前の数量に達する迄物資の輸出を許可すへし尤も何れの国の場合に於ても自国の安全及自衛目的のため必要とする物資に付ては例外とす右制限は各政府の義務を明瞭ならしむる為之を掲けたり右は相手国政府に対する制限を目的とするものに非す且両国政府は友好国との関係を支配しつつある精神に依り斯かる規則を適用するものとす

(外務省 日本外交文書デジタルコレクション 日米交渉-1941年- 上巻 二 「六月二一日米国案」をめぐる交渉 P125~ PDFファイルP13~)

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