スキップしてメイン コンテンツに移動

世界情勢判断 1942年11月07日

 世界情勢判断(ひらがな、一部新字体化)


     世界情勢判断

                    昭和一七、一一、 七

                    連絡会議決定

開戦以来帝国は東亜に於ける米英蘭の根拠を覆滅し戦略上優位の態勢を確立すると共に重要資源地域並に重要交通線を確保して自彊不敗態勢の基礎を確立し独伊亦欧州に於て其の要域を占拠して長期不敗の態勢を整へんとし敵側必死の反攻にも拘らす日独伊三国は戦争目的必成を期し密に提携して敵戦力の撃滅に邁進しつつあり而して世界戦局の前途今や愈々複雑多岐ならんとするに当り茲に世界情勢の判断を周到にし以て今後の戦争指導に資する所あらんとす

     第一 米英の動向

米英は帝国の大東亜建設を破摧し独伊の欧州制覇を阻止する為今後益益各般に亘る協力を緊密一体化し自己戦力の急速増強を計り逐次其の有力なる兵力を以て攻勢に出て枢軸側を屈伏せしめんことを企図すへく其攻勢は昭和十八年後期以降に於て愈々高潮すへし此の間米は南北米州を其の傘下に収むると共に「アフリカ」豪州、印度、西亜等の実質的把握に努め以て戦後の世界の覇者たらんことを企図して政戦略に亘る凡有諸方策を強行するものと判断せらる之か為差当り

一、米英は「ソ」と相携へて極力独伊戦力の消耗を図ると共に地中海及西亜方面の確保に努むへし

 太平洋印度洋方面に於て米は英と協力し有力なる兵力を以て従来より一層積極的なる攻勢作戦に出て豪州、「アリウシャン」、印度及支那方面よりする対日反攻態勢の強化、対日海上交通の破壊、並に「ソ」との提携等と相俟て逐次積極的なる対日反攻を企図するならん而して現に行はれつつある南太平洋方面に於ける反攻は現下特に重視するの要あり又英は極力印度洋の制海権、印■並に阿弗利加方面の確保及米と協力する対日反攻に努むへし

 尚米英は帝国本土及占領地の致命部に対し明年以降逐次大規模の空襲を企図する公算少からす

二、米英側に依る欧州に於ける大規模なる援「ソ」第二戦線の構成は其の実力就中船腹不足の情況よりして現在の所実現の可能性極めて尠きも援「ソ」物資の供給は更に之を強化するに努むへし

 又米は密かに東部「ソ」領に於ける基地の獲得を策すへし

三、米英は重慶に対し各種の手段を画し極力対日抗戦を督励すへし

四、米英は西亜及阿弗利加方面に兵力を増強し反英気運を抑圧しつつ飽く迄之を確保し日独伊の連絡阻止に努むへし

五、豪州は愈々戦意を固め実質的に米の勢力下に在りて専ら其の援助に頼り戦力の増強に努め対日抗戦を続行すへし

六、印度に於ける反英運動は相当激化することあるへきも英の弾圧に依り差当り大なる成果を見ることなく屏息するの已むを得さるに至る公算大にして印度は依然対日反攻の基地たるへし

七、米英は今後情勢の推移如何に依りては独伊との間に和平を策することなしとせさるへし

     第二 重慶の動向

一、重慶は其抗戦力逐次低下すへきも米英の最後的勝利を信し依然継戦意思を放棄せさるへし

二、重慶は今後益々「ソ」との提携を強化し米英よりの物的援助の復活に努むると共に逐次米英の対日航空作戦の促進強化を図るへし

     第三 独伊の動向

独は「ソ」に対しては差当り概ね現態勢を基礎として長期不敗の地位を強化すると共に西亜進出及伊と協力する地中海制覇並に大西洋作戦の激化等英の屈伏に努めつつ欧州情勢の転回を図るへし

一、独軍は今後引続き高架索作戦を続行すへく而して明年更に対「ソ」攻勢を企図するの已むを得さるに至るならん

二、独伊軍は中西亜方面に対する進出を企図すへきも其の時機は早くも明年秋以後となる公算大なり

三、独の対米英海上交通破壊戦は其の成果特に多少の差異あるへきも当分の間毎月概ね六十万屯程度を維持し得るならん

四、独は今後の情勢如何に依りては「ソ」英に対し和平工作をなすことなしとせさるへし

五、「ヒツトラー」「ムツソリーニ」の存在する限り独伊の紐帯は弛緩せさるへし

     第四 「ソ」の動向

一、「ソ」は依然抗戦を続行すへし然れとも独「ソ」戦況の推移、米英の対「ソ」援助の程度及独側の和平条件の如何に依りては対独妥協の意向を拘くに至ること絶無とせさるへし

二、「ソ」は差当り進んて帝国に挑戦するか如きことなかるへし

 「ソ」の米に対する基地供与は当分行はれさるへきも独「ソ」戦及日米戦の推移並に彼我戦力の状況に依りては之か実現を見ることなしとせす

     第五 中立諸国の動向

一、「トルコ」は西亜に於ける戦勢帰趨明白とならさる限り依然中立政策維持に努むへし

二、仏、西、拉米等中立国に対する判断は三月七日決定の世界情勢判断に変化なし

     第六 各国戦争遂行能力

一、米英の戦争遂行能力

 (一)米は戦時兵力概ね六〇〇万を維持すること可能なるへく差当り人的資源に困窮することなかるへし

  英本土は人的資源概ね極限に達しあるへし

 (二)米の戦争遂行能力は今後少くも両三年其の軍備及軍需生産能力は飛躍上昇により益々増強せらるへし尚戦時体制への変換に伴ひ経済及社会上の諸問題を生すへきも今日之により其の戦争遂行能力に大なる影響を及ほすものとは認め難し(別表参照)

 (三)英の戦争遂行能力は差当り概ね現状を維持すへきも制海権並に属領植民地の喪失及海上輸送力の逓減に伴ひ逐次低下するに至るへし(別表参照)

 (四)米英の戦力は其の海上輸送力に依存するところ極めて大なるを以て船腹の喪失は其の戦争遂行に至大の支障を■すへし然れとも米の造船能力上昇に伴ひ昭和十八年後期以降米英の総合船舶保有量は逐次増加するに至るへし(別表参照)

 (五)米英総合の有形戦力は時日の経過と共に増強せらるへし

二、重慶の抗戦能力

 現在の情勢に於ては消極的抗戦継続可能なり

 (一)人的資源豊富なり

 (二)財政経済的には極めて窮迫しあるも食糧並に軽兵器の自給可能なるを以て之により抗戦態勢の破綻を早急に期待し得す

 (三)軍隊は地上部隊約三〇〇ケ師(内中央系約一一〇師)航空部隊約一〇〇機にして装備劣等なるも消極的戦闘に支障なし

  在支米航空部隊は最近約七〇機に及ひ逐次増加中なり

 (四)蒋介石の地位は尚強固にして其の統帥力未た衰へす

三、独伊の戦争遂行能力

 (一)独は概ね現国力維持し得へし

  (イ)人的資源には大なる余裕を有せさるも糧食は勢力圏内の需要を概ね充足し得へし

  (ロ)軍需工業能力は十分なるも一部軍需資源の取得には相当の努力を要するものあり

  (ハ)「ヒツトラー」に対する信望厚く軍民共に戦争意志旺盛なるも本冬以後対「ソ」戦の推移意の如くならさる場合に於て占領地の治安、輿論の指導等に関し相当の努力を必要とするに至ることなしとせさるへし

 (二)伊の戦争遂行能力は独に依存する所少からさるも「ムツソリーニ」の政治力は依然強固なるを以て現情勢に於ては其の戦力維持に大なる困難なかるへし

四、「ソ」の戦争遂行能力

 「モスコー」「コーカサス」等を喪失せる場合に於ても低装備の狙撃約二〇〇師団を以てする東西■正面防勢作■の遂行は可能なるへし

 (一)人的資源は尚余裕あり

 (二)本秋頃の軍需工業能力は独「ソ」開戦前の約五割なるへし、石油■■は「コーカサス」の喪失に伴ひ約二割に激減すへきも目下のところ其貯蔵■にも■み防勢作戦の継続には支障なかるへし

 (三)糧食は逐次逼迫しあるも国内秩序■乱を呈する程度には至らさるへし

 (四)「スターリン」の政治力は未た動揺を■すして庶民の抗戦意思は共に目下のところ尚維持せられあり

     第七 総合判断

一、米英は「ソ」連及重慶をして依然対枢軸国抗戦を続行せしめつつ米英自らも亦逐次積極的作戦に出て此の■自己戦力の増強及対枢軸反攻態勢の強化に奔しあり

 而して米英の総合戦力は今後少なくも両三年急速に向上せらるへき態勢にあり

二、当分の間彼我の戦勢は枢軸側に有利に進展すへきも昭和十八年後期以降に於ては時日の経過と共に彼我の物的■力の■隔は大なるに至るへし

右の如き情勢に鑑み帝国にして玆一両年の間に■難を配して目■不敗の■■態勢を確立し独伊と提携して為し得る限り積極的なる屈■手段を■しつつ今後相次て起るへき米英の対日反攻に対応し随時随所に■の■力を破滅するに於ては遂には米英の戦意を喪失せしめ我は充分戦争目的を達成し得へし


       目  次

一、米英造船状況

二、米国陸軍拡張状況

三、米国艦艇増勢状況(隻数)

四、米国艦艇増勢状況(排水屯数)

五、米国陸軍航空拡張状況

六、米国海軍航空拡張状況

(以下省略)

(国立公文書館:標題:8、世界情勢判断 昭和17年11月7日)

コメント

このブログの人気の投稿

徴兵の詔(徴兵令詔書及ヒ徴兵告諭) 1872年12月28日

徴兵令詔書及び徴兵告諭(口語訳)  今回、全国募兵の件に付き、別紙の詔書の通り徴兵令が仰せ出され、その定めるところの条々、各々天皇の趣意を戴き、下々の者に至るまで遺漏なきように公布しなさい。全体として詳細は陸軍・海軍両省と打ち合わせをしなさい。この趣旨を通達する。  ただし、徴兵令および徴募期限については追って通達するべきものとする。 (別紙) 詔書の写し   私(明治天皇)が考えるに、往昔は郡県の制度により、全国の壮年の男子を募って、軍団を設置し、それによって国家を守ることは、もとより武士・農民の区別がなかった。中世以降、兵は武士に限られるようになり、兵農分離が始まって、ついに封建制度を形成するようになる。明治維新は、実に2千有余年来の一大変革であった。この際にあたり、海軍・陸軍の兵制もまた時節に従って、変更しないわけにはいかない。今日本の往昔の兵制に基づいて、海外各国の兵制を斟酌し、全国から兵を徴集する法律を定め、国家を守る基本を確立しようと思う。おまえたち、多くのあらゆる役人は手厚く、私(明治天皇)の意志を体して、広くこれを全国に説き聞かせなさい。 明治5年(壬申)11月28日  わが国古代の兵制では、国をあげて兵士とならなかったものはいなかった。有事の際は、天皇が元帥となり、青年壮年兵役に耐えられる者を募り、敵を征服すれば兵役を解き、帰郷すれば農工商人となった。もとより後世のように両刀を帯びて武士と称し、傍若無人で働かずに生活をし、甚だしい時には人を殺しても、お上が罪を問わないというようなことはなかった。  そもそも、神武天皇は珍彦を葛城の国造に任命し、以後軍団を設け衛士・防人の制度を始めて、神亀天平の時代に六府二鎮を設けて備えがなったのである。保元の乱・平治の乱以後、朝廷の軍規が緩み、軍事権は武士の手に落ち、国は封建制の時代となって、人は兵農分離とされた。さらに後世になって、朝廷の権威は失墜し、その弊害はあえていうべきものもなく甚だしいものとなった。  ところが、明治維新で諸藩が領土を朝廷に返還し、1871年(明治4)になって以前の郡県制に戻った。世襲で働かずに生活していた武士は、俸禄を減らし、刀剣を腰からはずすことを許し、士農工商の四民にようやく自由の権利を持たせようとしている。これは上下の身分差をなくし、人権を平等にしようとする方法で、とりもな...

日清修好条規 1871年09月13日

内容見直し点:口語訳中途 修好条規(口語訳、前文署名省略) 第一条 この条約締結のあとは、大日本国と大清国は弥和誼を敦うし、天地と共に窮まり無るべし。又両国に属したる邦土も、各礼を以て相待ち、すこしも侵越する事なく永久安全を得せしむべし。 第二条 両国好を通ぜし上は、必ず相関切す。若し他国より不公及び軽藐する事有る時、其知らせを為さば、何れも互に相助け、或は中に入り、程克く取扱い、友誼を敦くすべし。 第三条 両国の政事禁令各異なれば、其政事は己国自主の権に任すべし。彼此に於て何れも代謀干預して禁じたる事を、取り行わんと請い願う事を得ず。其禁令は互に相助け、各其商民に諭し、土人を誘惑し、聊違犯あるを許さず。 第四条 両国秉権大臣を差出し、其眷属随員を召具して京師に在留し、或は長く居留し、或は時々往来し、内地各処を通行する事を得べし。其入費は何れも自分より払うべし。其地面家宅を賃借して大臣等の公館と為し、並びに行李の往来及び飛脚を仕立書状を送る等の事は、何れも不都合がないように世話しなければならない。 第五条 両国の官位何れも定品有りといえども、職を授る事各同じからず。因彼此の職掌相当する者は、応接及び交通とも均く対待の礼を用ゆ。職卑き者と上官と相見るには客礼を行い、公務を辨ずるに付ては、職掌相当の官へ照会す。其上官へ転申し直達する事を得ず。又双方礼式の出会には、各官位の名帖を用う。凡両国より差出したる官員初て任所に到着せば、印証ある書付を出し見せ、仮冒なき様の防ぎをなすべし。 第六条 今後両国を往復する公文について、清国は漢文を用い、日本国は日本文を用いて漢訳文を副えることとする。あるいはただ漢文のみを用い、その記載に従うものとする。 (これ以下まだ) 第七条 両国好みを通ぜし上は、海岸の各港に於て彼此し共に場所を指定め、商民の往来貿易を許すべし。猶別に通商章程を立て、両国の商民に永遠遵守せしむべし。 第八条 両国の開港場には、彼此何れも理事官を差置き、自国商民の取締をなすべし。凡家財、産業、公事、訴訟に干係せし事件は、都て其裁判に帰し、何れも自国の律例を按して糾辨すべし。両国商民相互の訴訟には、何れも願書体を用う。理事官は先ず理解を加え、成丈け訴訟に及ばざる様にすべし。其儀能わざる時は、地方官に掛合い双方出会し公平に裁断すべし。尤盗賊欠落等の事件は、両国の地方官より...

帝国陸海軍作戦計画大綱 1945年01月25日

 帝国陸海軍作戦計画大綱(ひらがな化、一部新字体化、一部省略)  帝国陸海軍作戦計画大綱(昭和二十年一月二十日)    目 次(略)    第一 作戦方針  帝国陸海軍は機微なる世界情勢の変転に莅み重点を主敵米軍の進攻破摧に指向し随処縦深に亙り敵戦力を撃破して戦争遂行上の要域を確保し以て敵戦意を挫折し以て戦争目的の達成を図る    第二 作戦の指導大綱 一 陸海軍は戦局愈々至難なるを予期しつつ既成の戦略態勢を活用し敵の進攻を破摧し速に自主的態勢の確立に努む   右自主的態勢は今後の作戦推移を洞察し速に先つ皇土及之か防衛に緊切なる大陸要域に於て不抜の邀撃態勢を確立し敵の来攻に方りては随時之を撃破すると共に其の間状況之を許す限り反撃戦力特に精錬なる航空戦力を整備し以て積極不羈の作戦遂行に努むるを以て其の主眼とす 二 陸海軍は比島方面に来攻中の米軍主力に対し靭強なる作戦を遂行し之を撃破して極力敵戦力に痛撃を加ふると共に敵戦力の牽制抑留に努め此の間情勢の推移を洞察し之に即応して速に爾他方面に於ける作戦準備を促進す 三 陸海軍は主敵米軍の皇土要域方面に向ふ進攻特に其の優勢なる空海戦力に対し作戦準備を完整し之を撃破す   之か為比島方面より皇土南陲に来攻する敵に対し東支那海周辺に於ける作戦を主眼とし二、三月頃を目途とし同周辺要地に於ける作戦準備を速急強化す   敵の小笠原諸島来攻(硫黄島を含む)に対し極力之か防備強化に努む   又敵一部の千島方面進攻を予期し又状況に依り有力なる敵の直接本土に暴進することあるを考慮し之に対処し得るの準備に遺憾なからしむ 四 陸海軍は進攻する米軍主力に対し陸海特に航空戦力を総合発揮し敵戦力を撃破し其の進攻企図を破摧す 此の間他方面に在りては優勢なる敵空海戦力の来攻を予想しつつ主として陸上部隊を以て作戦を遂行するものとす   敵戦力の撃破は渡洋進攻の弱点を捕へ洋上に於て痛撃を加ふるを主眼とし爾後上陸せる敵に対しては補給遮断と相俟つて陸上作戦に於て其の目的を達成す 此の際火力の集団機動を重視す   尚敵機動部隊に対しては努めて不断に好機を捕捉し之を求めて漸減す 五 支那大陸方面に在りては左に準拠し主敵米軍に対する作戦を指導す (一) 支那大陸に於ける戦略態勢を速に強化し東西両正面より進攻する敵特に米軍を撃破して其の企図を破摧し皇土を中核とする大...