満洲開拓政策基本要綱(ひらがな化、一部新字体化、一部省略、附属文等省略)
満洲開拓政策基本要綱(昭和十四年十二月二十二日閣議決定)
第一 基 本 方 針
満洲開拓政策は日満両国の一体的重要国策として東亜新秩序建設の為の道義的新大陸政策の拠点を培養確立するを目途とし特に日本内地開拓農民を中核として各種開拓民並に原住民等の調和を図り日満不可分関係の強化、民族協和の達成、国防力の増強及産業の振興を期し兼て農村の更生発展に資するを以て目的とす
第二 基 本 要 領
一 基本方針に則り日満両国各分担部門並に協力部門の各責任範囲を明かならしむると共に其の間一貫せる脈絡を保持し以て日満両国を貫く満洲開拓政策の統制ある発展並に円滑なる実施を期するものとす
二 開拓民の種別概ね左の通とす
(一)日本内地人(朝鮮人は之に準ず)
(イ)開拓農民
(ロ)半農的開拓民(林業、牧畜、漁業等)
(ハ)商、工、鉱業其の他の開拓民
(ニ)開拓青年義勇隊
(二)原住民
(イ)国内開拓移動原住民
(ロ)開拓民移住に伴ふ輔導原住民
三 各種開拓民の数的拡充を期し其の調和を図り之が実行を促進す
四 開拓民の指導に関し満洲に於ては開拓政策遂行の一元化を図り開拓用地の整備、利用開発及配分、営農方式開拓民移住、原住民輔導等に付刷新的方途を講じ特に開拓諸機構を調整し開拓民取扱に関する責任分野を明かならしむると共に其の総合的機能の発揮に努むるものとす
五 開拓民の移住に付ては各種開拓民の按配を適切ならしめ日本内地開拓民は差当り原則として北満方面を主とするの外全満に於ける交通、産業開発上の重要地点に定着せしむるも、理想としては広く分布し各地に於ける民族協和の中核的分子たらしむることを期す
尚朝鮮人開拓民の移住、在満朝鮮人の安定、原住民の転住及其の国内開拓移動に付更に積極的なる助成輔導の方途を講ず
六 開拓用地の整備、利用開発、配分等に関しては概ね左の要領に依る
(一)開拓用地の整備に関しては原則として未利用地開発主義に依り之を国営とす
右の開拓用地は之を国家に於て管理し其の方法に付ては適宜有効適切なる措置を講ずるものとす
(二)開拓用地の利用開発に付ては湿地干拓、アルカリ地の利用、森林原野の開拓等を積極的に遂行するものとす
特に治水利水、干拓事業等の機能及其の運営、取得土地の暫定的利用方策及開拓地区内の資源開発と開拓事業との調整に着意す
(三)開拓用地の配分に付ては其の利用区分を適正ならしむると共に団又は開拓農家に配分せる土地に対しては自由なる私有権制度に拠るの適当ならざるに鑑み適切なる規制を設け営農の根拠を確固にして開拓目的に即応する理想的農村の建設を庶幾す
之が為開拓農地制度を確立し其の適用の範囲は原則として開拓用地とす
七 開拓民の農業経営に就ては開拓地の自然的経済的条件を考慮し之に即応する営農形態に拠らしめ大陸新農法の積極的創成を目途とす
八 日本内地人開拓農民の指導に付ては満洲開拓政策の核心として特に其の哺育発達を期する為土地、担税、移住形態と民族混住、行政経済機構、農業経営等各般の事項に付開拓目的に即応する如く基礎制度を確立するものとす
其の指導概ね左の要領に依る
(一)開拓用地の管理配分に付ては国家、団及開拓農家間の移行関係等を適切に規制し農民の特性に鑑み土地の永代世襲的確保を図ると共に其の所有型態を定む
(二)担税に関しては開拓農民及之に伴ふ転住原住民に対する減税の措置を講ずると共に物納主義の併用に関し考究す
(三)開拓農民の移住型態に関しては集団、集合及分散の型態に区分し、集団型態に付ては集団移住、協同経営の概成より進んで自給自足経済の確立を図ると共に原住民部落との混成村の完成を庶幾し、集合型態に付ては集団型態に準じ集合部落の概成を、分散型態に付ては開拓農家の自立を目途とし、各型態とも原住民を包容融合せしむる如くす
(四)開拓地の行政経済機構に関しては開拓団が団長を中心とする農村協同体たるに著意し開拓事業の円滑なる遂行に即応する如く措置すると共に原住民との共存共栄的関係を考慮し合理的且有機的に満洲国制度下に融合帰一せしむるものとす
之が為集団開拓地に付ては行政機構は街村制に拠らしめ経済機構は協同組合を結成せしめ之が一元的運用の方途を講ずるも移住後概ね五年は街村制其の他諸制度の適用及運営に付特別の考慮を払ふと共に開拓地建設の円滑なる遂行を期する為特殊法人(仮称開拓団)を結成せしめ可及的速に一般行政経済機構に吸収移行せしむるものとす
其の他の開拓地に関しては原則として特殊行政経済機構を構成せしむることなく当該地方関係機構に吸収せしむ
(五)開拓政策遂行上の必要に基き開拓団に指導員を設くるものとし日満両国協議の上之を定むる様適宜措置するものとす、満洲国に於ける諸機構上の公の身分は右指導員及其の他の開拓団幹部中必要なる者に就き之を保有せしむるものとす
■■■■■(六)集団及集合開拓農民の農業経営に関しては家族的勤労主義並に部落的協同勤労主義を目途とし其の型態に付ては自作農を主眼とし、協同経営を加味し、特に集団開拓農民に付ては機械営農併用の協同経営又は必要なる鮮満人との合作等に関し考究す
尚集団、集合開拓地に於ける経営に付ては全体的共同経営より個人経営への分化移行要領及之が有機的相関係並に経営指導の要領を確立す
分散開拓農民の農業経営に関しては適地適応主義に依り自立自活の方途を講じ自作農を設定することに努む
右各項に関連し各種協同機構、備荒制度及農業金融機構に付適切なる機能を整ふると共に農法、農機具、農産加工、副業等に付考究す
(七)開拓農民の衣食住、保健及生活様式に関しては大陸的新環境に即応する様適切なる方途を講ずるものとし、適地適応主義に則り其の綜合的改善を期するものとす
(八)医療に関しては各地医療機関を整備し、其の経営を合理化し、開拓民医療の万全と医療費負担の軽減を期するものとす
(九)開拓農民移住後其の経済的基礎確立に至る間に於て死亡等の場合其の遺族等を救済する為共済制度を設くるものとす
(十)移住準備に関しては開拓地の調査選定並に其の設定計画を確立すると共に先遣隊制度の運用に付考究するものとす
(十一)前各号に関連し輔導助成に付更に適切なる措置を為すものとす
九 朝鮮人開拓農民の指導に付ては開拓政策の方針に則り全体的計画の下に集合及分散を主義として輔導安定せしめ、集団開拓農民は優秀なるものに付之を行ひ、差当り朝鮮内よりの移住を適宜統制すると共に在満朝鮮人の安定に考慮するものとす
右に伴ふ指導一般の要領は各其の区分に応じ日本内地人開拓農民の例に準ずるも其の実情に鑑み適宜按配を加へ其の目的達成に遺憾ならしむるものとす
十 原住民の国内開拓移動に関しては集約的農業経営の指導と相俟ち全体的計画の下に之を輔導統制す
開拓民の移住に伴ふ原住民の輔導に関しては開拓民の移住に依り可成之を移転せしめざるを原則とし、已むを得ず移転せしむる場合は物心両方面より其の生活安定の途を講ず
十一 満洲国産業開発計画、軍事的建設等と照応し開拓農民の外日本内地人の半農的開拓民及商、工、鉱業其の他の開拓民の計画を樹立し其の実行を促進す
右開拓民に付ては開拓農民との関係調整に留意す
朝鮮人に関しても必要に応じ之に準じ処理するものとす
十二 開拓青年義勇隊は主として日本内地人青少年を以て之を結成し、民族協和の中核として満洲国の生成発展に寄与すべき各種開拓民持に開拓農民の基底たるの資質を育成訓練し、以て日満不可分関係の鞏化に資するものとし、特に其の重要性に鑑み之が指導及び経営に関する方策を確立す、其の要領概ね左の通とす
(一)管理運営の主体を確立す
(イ)満洲開拓青年義勇隊訓練本部を新京に設置す
(ロ)訓練本部は之を日満両国開拓関係機関の協力合作になる指導統制機関たらしめ義勇隊訓練の一貫的指導統轄に当るものとす
(ハ)訓練本部長は日満両国政府の協議決定せる者を以て之に充つるものとす
(ニ)基本訓練所は訓練本部之を経営するも其の指導訓練、施設、管理等に関しては前記合作各機関の機能を有効に発揮せしむる様措置するものとす
(ホ)其の他の訓練所の施設、管理及運営は夫々適当なる機関をして之に当らしむるものとす
(二)訓練所の種別、態様を確定す
基本訓練所と実務訓練所とに分ち後者を左の如く区分す
(イ)訓練修了後集団開拓農民として当該訓練地に定着せしむることを目標とするもの
(ロ)訓練修了後開拓農民として他地方へ移住せしむることを目標とするもの
(ハ)技術其の他の特殊訓練を施すもの
(三)日本に於ける募集訓練より現地訓練及定着に至る迄脈絡一貫せる指導精神を保持し、内地訓練、現地訓練を実施す
(四)青年義勇隊中に各民族を包含し協同訓練せしむる様工夫す
(五)青年義勇隊と少年工要員の募集訓練に関しては統制聯繫の方途を講ずるものとす
十三 一般開拓民の訓練は其の心身を鍛錬陶冶し、特に八紘一宇の理想、満洲建国の精神を振作涵養し、満洲開拓政策の本義を体得せしめ、併せて開拓地の建設及経営に必要なる技術を授くるを主眼とす
其の訓練所は日本及満洲に設置するも開拓民の区分に応じ其の経営様式、訓練其の他に関し適宜考慮を加へ目的達成に遺憾ならしむるものとす
十四 指導員は汎く之が適格者を簡抜するも特に之が要員の確保の為開拓に関する教育施設の拡充を図ると共に日本及満洲に訓練養成施設を設置し、其の資質の向上を期するものとす
十五 開拓民移住及原住民転住輔導に関しては民族協和具現上特に満洲帝国協和会の活動を促進し其の機構及運営は各種開拓民の特性及開拓事業の進展等の実情に即応せしむ
尚開拓民と原住民との社会生活に於ける民族協和の実現に付特別なる工夫を払ふものとす
十六 日本に於ては満洲開拓民の募集、銓衡、訓練、送出、助成及保護に付合理的方途を講じ、特に官民一途の総力的参画寄与を図り、努めて資質優良なる者の大量移住の円滑なる遂行を期するものとす
之が為特に措置すべき事項概ね左の通とす
(一)満洲開拓に関する教育は皇道精神の涵養を目途とし、満洲建国の本義を明かならしむると共に満洲開拓に関する諸般の知識技能を授け、以て旺盛なる開拓精神を培養し、社会教育に於ては特に実践的方面に留意するものとす
(二)開拓民大量送出を容易ならしめ且開拓団組織の健全なる発達を促進する為、内地農村の恒久的更生並に開拓政策の趣旨に照応し郷村単位の計画的組織的団体移住に付有効適切なる措置を講ずるものとす
(三)負債の為移住困難なる開拓希望者に対しては其の負債整理計画の樹立を指導すると共に極力負債の条件緩和及財産の有利なる処分の斡旋等に努め以て移住を容易ならしむるものとす
(四)開拓民の未招致家族に対しては能う限り隣保相助の精神に則り之が生活維持に努めしむるも尚生活を維持すること能はざる者に対しては扶養の方途を講じ開拓民の不安を除去し満洲開拓政策の順調なる遂行に資するものとす
十七 旺盛なる開拓思想を培養すると共に開拓地に於ける人口構成の階調的進展を期する為汎く女性一般に対し積極的進出を鼓吹すべき有効適切なる施設を行ふものとす
日本各地に亘り開拓民配偶者養成施設を整備すると共に其の女子指導者の養成訓練施設を設くるものとす
十八 開拓関係機関に関しては日満両国夫々当該行政機構の整備拡充を行ひ関係機関との連絡に付適切に処置すると共に開拓政策に関する重要事項の処理に付ては日満両国政府緊密に協議連絡するものとす
十九 開拓政策の調整に伴ひ満洲拓植委員会の運営に関しては適宜之を規制すると共に当該事務局の事務量の増加に伴ひ必要に応じ所要人員を増加するものとす
右に伴ひ委員、臨時委員の構成に付ては之を調整す
二十 満洲拓植公社を改編し満鮮拓植會社を統合し其の機能を調整すると共に開拓事業の一元化を図り各種開拓民に対する公正なる輔導助成と民族協和の積極的達成を期せしめ之と共に開拓事業に関する金融、物資配給等に付ては全一的統制の下に各種開拓民の特性に応じ適切なる方途を講ずるものとす
二十一 満洲開拓政策が日満不可分関係を基調とせるに照し日満両国は文化的智的協調、人事の交流、資金の調達、馬其の他の家畜資源、飼料原料其の他の物資の供給等形而上下に亘り協調提携するものとす
二十二 日満両国間の負担に関しては日満不可分の関係及開拓政策の両国一体的国策たるに鑑み又満洲国に於ける各民族間の負担に関しては開拓政策の趣旨及民族協和の本義に則り各形而上下に於て合理的且均衡を得る様調整するものとす、日満両国政府の経費負担区分に関しては概ね左の要領による
(一)日本人開拓民に関しては原則として日本国内に於て要する経費及箇別的補助は日本国政府、共同補助は日満両国政府同額負担し、満洲国内に於ける施設及助成は満洲国政府之を負担す
青年義勇隊に関しては日本国内に於て要する経費及渡航費は日本国政府に於て負担し満洲国内に於ける施設及助成は日満両国政府同額負担とす
(二)日満両国政府の補助に関しては従来の実績に徴し其の程度、内容及方法に付合理的に之を調整するものとし、開拓地に対し満洲国政府の行ふべき施設は可及的に移住前之を整備し置くものとす
二十三 開拓民に対する金融に関しては組織ある統制の下に民度及各種開拓民の特性に応じ其の機構を調整すると共に融資の豊富低廉且敏速を図るものとす
二十四 開拓地に於ける子弟の教育に関しては満洲に於ける日満両国の教育一般方針に則り且開拓政策の趣旨に照応し、教育内容、施設、経営、教師の養成補充等に付特別の考慮を払ふものとす
二十五 開拓地に於ける神社、宗教及文化施設に付諸般の方策を講じ又厚生施設に付ては適地適応主義に則り其の整備を期するものとす
二十六 開拓民の警防的意義に鑑み兵役其の他兵事制度に付考究すると共に開拓団防衛に関する諸施設を充実する如く努むるものとす
第三 処 置
一 以上各種事項に関し満洲拓植公社設立に関する協定書の了解事項、公社定款等に関し適当の調整を加へ必要なる事項は日満両国間の適宜なる取極等を以て措置するものとす
二 昭和十五年(康徳七年)より新体制に移行し得ることを目途とし所要の準備を為すものとす
附 帯 事 項
(省略)
附 属 書
一 日本内地人集合開拓農民移住に関する件
(以下省略)
(国立国会図書館:満洲開拓政策関連法規)
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