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物価統制要綱 1939年05月05日

 物価統制要綱(ひらがな化、不明文字あり)

昭和14年5月5日 閣議決定


第一 物価政策の目標

一、戦時物価問題解決の急務

支那事変の推移及長期建設の進展に対応すべき戦時経済の運営上特に現下最大の急務は生産力の拡充と物価問題の解決とに在り就中速に所要の対策を講じて一定の物価基準を確保するに非ずんば、一切の経済国策は其の枢軸を失ひ竟に聖戦の目的達成を期待すべからざるに至るべし、蓋し高物価は

イ、輸出を困難ならしめ、軍需及生産力拡充に緊要なる物資の輸入力を著しく減殺すべし

ロ、政府予算の執行を阻害し軍備の充足をも至難ならしむべし

ハ、国民貯蓄の意念を根底より覆し、公債政策の運行並に生産力拡充資金の調達を不可能ならしむべし

ニ、生産力拡充を要する事業の基礎を脆弱にし、其の経営の前途を不安ならしむべし

ホ、国民生活を危殆に陥らしめ、社会不安を激成すべし

即チ物価にして一度其の安定を失ひ昂騰の勢を激成するに於ては収拾の途なく、戦時経済は混乱に陥るべきを以て、此の際万難を排し抜本的対策を断行するの要あり

二、総合的物価対策の必要

政府は事変発生以来物価騰貴抑制の為夙に応急的の措置を講じ夫々効果を挙げ来りたるも今後の事態に備ふる為には単に物価現象のみならず根本的に財政経済の全分野に亘り総合的対策を確立せざるべからざるの時機に到達せるものと謂ふべし、蓋し物価は財政経済の凡ゆる部面と密接なる相互関連を有しその総合点として現るゝものなるが故に根本的に財政経済の全分野即チ物資の生産、配給、消費、資金、労力、運輸等の適合並調整等に亘り総合的対策を確立実施せざるべからず、斯かる総合的対策によりてのみ始めて事変所期の目的たる長期建設の大業を達成するを得べきなり而してその実行に付ては政府が全機関を挙げて一層有機的にその機能を発揮すると共に一般国民特に産業に従事する者が戦時物価問題解決の重要性及根本対策の趣旨を深く認識することを緊要とし真に官民一致の全面的努力に俟つの外なし

三、物価基準の決定

(一)現下の物価統制の目的は、現在の為替相場を堅持しつゝ輸出を増進し生産の拡充、軍需の供給に支障なからしむると共に、国民生活の安定を図り、戦時経済の運営を完からしむるに在り、而して之が為には国内物価の安定を急務とし其の基準は国際物価水準に照応して輸出の増進を可能ならしむることを其の目標とす

(二)右基準を具現すべき価格の形成に付ては凡そ左の三点を斟酌し、現在の物価を検討し極力此の基準に到達せしむる様低下を図るべきものとす

(1)輸入品に付ては輸入価格を基礎とし、同種の国内生産品ある場合には適当なる調査を加ふ

(2)輸出品の原材料等に付ては、当該輸出品の海外市場価格を基礎とし、生産拡充の関係を考慮し適当なる調査を加ふ

(3)其の他一般物品に付ては、軍需の充足、生産の拡充、国民生活の維持を目途とし兼ネて輸出品原材料等の価格との均衡を考慮す

(三)物価を右基準に引下ぐるに当りては、製品並に原材料の価格等の一斉引下を期するの要あり、而して之が為特に過渡期に於ては生産の減少を招来するの處なきを保せざるを以て各企業相互間の組織化及能率の統制化、各産業の経営の合理化及能率の増進等と相俟て極力生産費の低下を図り以て生産減少の防止に努むべきも其の影響の過大なるものある場合に付ては之を緩和すべき補助対策を併せ考慮すべきものとす


第二 価格の公定

一定の物価基準の下に価格を公定することは現下の物価統制施設の根幹を為すものにして物価相互の関連性に鑑み能ふ限り普遍的に公定価格を形成するを要す、而して其の公定価格は戦時下に於て適正とする規準及方法に依り算出したる「戦時適正価格」たるべきものとす、其の要点左の如し

一、価格を公定すべき品目の範囲及生産規格

(1)価格公定の範囲としては、原則として戦時国民経済の運営上特に必要なるもの、即チ軍需資材、輸出資材、生産力拡充資材及戦時下に於ける国民生活必需品に付其の品目を選定すること

(2)価格公定の対象となる品目に付ても全体の価格形成上重大の影響ある重要品目を先にして之を公定する等、其の着手すべき順位を定むること、但し後述の如く各物価間の均衡を期するの要あるを以て、一物資の価格を決定するに当り、相当関連性を有する物資ある場合に於ては当該各品目に付同時に関連して決定するの方法を採る等適当なる考慮を払ふこと、尚以上の品目中に於ても、其の一般物価に及ぼす影響の特に重大なるものに付ては、其の■■■制の程度方法に付特別の考慮を払ふこと

(3)公定価格品に付ては、品質の低下を防ギ量目の正確を図ると共に原則として生産規格を統制し、併せて需給調整計画を確立し、以て公定価格の確保を期し、尚公定価格品に対しては、原材料等の供給を優先集中せしむる等の方法に依り公定価格の確保を期すること

二、公定価格品と非公定価格品との調和

公定価格の決定を見ざる品目に付之を其の儘に放置するに於ては、一般的に物資不足の今日必然に当該商品及其の原材料等の価格は暴騰し、当業者に不当の利得を与ヘ延ては公定価格品の価格の維持を困難ならしむる場合多かるべし斯の如き場合に於ては左の如き対策を講ずること

(1)非公定価格品の生産に付原材料等の使用を制限又は禁止す

(2)過大利得に付賦課金等の方法に依り適当に之を調整す

三、戦時適正価格の決定

(1)戦時適正価格の決定に付ては、原価計算に依るを原則とし、其の計算方法並に運用手続きを定むること、而して各物資の価格の公定に付ては、原材料、賃金、運賃、利潤等価格構成の各要素毎に戦時下に於ては適正とすべき原価計算を行ひ所期の物価基準に照応せしむること、此の場合に於て機械的原価計算主義に依るときは、或は物価を高位に斉すの傾向あるべきを以て、同時に之に達観的検討を加ヘ、且物価相互間の均衡を考慮し戦時物価基準の維持に努むること

(2)原価計算に当りては、中庸生産費主義を以て原則とするも特殊の場合に於ては適当なる調整を加ふること

(3)価格公定後に於て原価に或程度を越ゆる変化を生じたる場合には一定の準則に基き其の公定価格を改定すること

(4)価格の公定は原則として、生産者乃至輸入者より最終消費者に至る迄の各段階に於ける価格に付之を行ふこと

(5)公定価格は最高価格とすること

備 考

1 戦時経済に於ては軍需並に生産力拡充の為に国家経済力を優先集中せざるを得ざるものなり、其の当然の帰結として、戦時下に於ける国民生活は平時の生活程度を極力切詰め低下して健康の維持増進其の他銃後の国民活動力の維持発展を期するに必要なる最少限度に甘ぜざるべからず、仍て本大綱に於て謂ふ所の国民生活の安定、国民生活程度の維持、生活必需品、生計費等の意味に付ては右の戦時的要求を考慮したるものに依るものとす。

2 戦時物価統制上必要なる「戦時物価指数その他の統計」を作成すること、蓋し戦時物価対策の対象は主として公定価格品に在るを以て物価の変動を測るべき物価指数も亦之に適合する様公定価格品及非公定価格品の区別に従ひ作成するを要し尚賃金指数、生計費指数等に付ても同様の考慮を加ふべきものとす。

3 価格統制の目的を達することを得べきときは必ずしも法律上の公定によらざる場合あるべきこと、尚運賃、賃金其他に付ても之に準ずるものとす。


第三 需要供給の調整

一、需給調整に関する諸対策及其の連繋

物価騰貴の根本原因は物資需給の現実の跛行状態に在るを以て、物価対策は需給の調整に重点を置かざるべからず而して既に物資動員計画、物資原材料の配給調整等の外、臨時資金調整法の運用及国民貯蓄奨励運動其他金融に関する対策等実施せらるゝ所なれドも、此の際物価統制の目的を貫徹する為には、各種対策相互間に一層密接なる連繋を図るは勿論、物資及資金の需給に付、根本的計画を樹立し需給適合の完璧を期するの要あり、特に注意すべき点左の如し

(1)昭和十四年度の物資動員計画に付ては、之が励行を期し、且其の運用に当りては季節的、時期的調節を行ふと共に、特に事情の変化に即応して適宜の調整を加ふること

(2)昭和十四年度予算は物資動員計画に即応して決定せられたるものなるも、之が実行に当りては物資動員計画及物資需給調整計画の運用と緊密なる連繋を保持し、物資需給の実情に適合せしむること

(3)昭和十五年度以降の物資動員計画の樹立並に政府予算の編成に付ては各般の事情を考慮し、物資並に労力の活用に付最大能力の発揮を期すると共に実行可能の限度に付正確なる見透を立つること

(4)物資動員計画以外の物資に付ても、必要に応じ其の需給の調整に付適切なる計画を樹つること

二、供給の調整

供給の確保に関しては、既に第六回中央物価委員会答申の如く、生産の増大、輸入力の増進、代用品の奨励、廃品又は不用貯蔵品の利用を図る等の方策を必要とするは勿論特に近時輸出の減退は輸入力の減少を来し居るに鑑み、輸出の振興に付一段の努力を払ふの要ある処、尚左記に依り供給調整の徹底を期すべし

(1)此の際凡ゆる物資の供給を増加することは生産能力上不可能なるを以て、現下特に必要なる物資の生産に所与の生産力を極力集中せしむるの要あり、之が為必要の場合には、戦時下に於て忍ビ得べき比較的不急不要の品目に付、其の生産の制限又は禁止を為すこと

(2)価格の引上に依りて生産の増加を図る方策は、現下の物価統制の目的に背馳するの惧あるのみならず、一国産業の永続的基礎を脆弱にし、延ては国民経済全般の生産力を減殺するに至るべきを以て、斯かる方策は戦時経済運行の大局より見て真に已むを得ざる場合の外は之を排除し専ら経営の合理化並に能率の統制及増進等に依り生産増大の目的を達するに努め尚必要ある場合に於ては、例ヘば左の如き方策を採ること

イ、「プール」制に依り平準価格を採用すること

ロ、将来の危険に対する企業採算を調整する為適当なる方法を講ずること

ハ、已むを得ざる場合に於ては補助金其の他の方法を採ること

(3)右経営の合理化並に能率の統制及増進等の戦時下経済に於ける重要性に鑑み、之が具体的方策を樹て其の実行を期すること

(4)生産力拡充計画の実施に当りては、物資並に労力に付全体的にも季節的にも供給可能力との調和に於て之を行■所与の物資並に労力を極力能率的に利用して生産の増大を期すること

(5)生産力拡充計画外の重要物資例ヘば食料品其の他に付ても適当なる増産計画に依り其の供給を確保する■■

三、需要の調整

現下の情勢に於ては供給の増大には自ら限度あるを以て需給調整の主眼点は之を需要の方面に置くの必要あり、即チ左の如し

一、政府予算又は生産拡充等に基く需要の調整

(1)政府の消費、特に物資の大量的需要を伴ふ軍事費の使用に当りては其の時間的、地理的調整に注意し、発註及納期等に付一層適切なる調整を加ふること

(2)地方団体其の他の団体の消費に付ても物資の需給状況との調和に留意し適当なる具体策を講ずること

(3)臨時資金調整法の運用に当りては、単に企業の性質のみならず特に其の企業に必要なる物資の供給力を勘案して、其の許否を決することゝし、尚物資需給の時間的調整に付ても留意すること

二、一般民需の調整

一般民需の調整に付ては第四回中央物価委員会に於て消費の節約、消費の合理化、購買力の吸収、消費節減に伴ふ打撃緩和等に付既に詳細なる答申ありたるが此の際特に左の事項に付其の対策の完璧を期すること

(1)一般購買力の調整

後述の如き法律に依る物資の個別的消費規正は技術上相当複雑にして国民の日常生活に多大の煩累を及ぼすべきと同時に若し一般購買力の吸収にして徹底的に実現を期するを得ば右の煩累を避け得る場合多かるべきが故に、特に此の際一般購買力の吸収に全力を傾倒すること肝要なり

イ、貯蓄は購買力吸収の最も適切有効なる基本的手段にして従来国民の協力に依り其の実績見るべきものあるも此の際物価対策の見地より国民貯蓄増加の重要性を徹底的に国民に認識せしめ国民各層就中殷賑産業方面等に対し最大限度の貯蓄を為サしむる為之が具体的方策を確立すること

ロ、税制改正に当りては特に購買力の調整に付考慮すること

は、保険其の他の制度に依り国民購買力の吸収を図ること

に、政府及公共団体等に於ける一般的増俸は此の際之を差し控ヘ、必要なる場合に於ては福利施設等に付考慮すること

(2)消費の合理化及節約の具体案確立並に其の励行

物資消費の合理化及節約方法に付、各品目に亘り物資動員計画等物資需給の状況に即応して、其の消費節約の状況に即応して、其の消費節約の必要程度を明確にし、国民を指導すべき具体案を確立して、其の趣旨を徹底せしめ、個人の家庭消費は勿論法人団体の消費の抑制に付此の際徹底的措置を講ずること、特に政府及公共団体は右に付率先垂範の実を示すこと

(3)物資の個別的消費規正

物資動員計画内の物資に付ては、該計画に即応し、又右以外の物資に付ても、適切なる需給の見透しを立てたる上、戦時下に於て忍ビ得べき比較的不急不要の物資に付ては必要ある場合には、各品目に対し、法律上の消費制限乃至禁止を為し以て国民消費の規正を断行すること

四、配給の調整

配給の調整に付ては、既に第六回中央物価委員会に於て、当業者の組織化、買占め、売惜み並に買溜の防止、配給の管理、数量割当又は切符配給制度の採用、配給費の低減等の諸方策を答申したる所なるが、更に後述の運輸に関する統制対策を実施すると共に、左記に依り其の徹底を期すべし

(1)当業者の組織化、連絡機関の設置等は此の際之を拡充強化し、必要に応じ生産者、問屋及小売業者等配給系統並に其の分野を規則し、配給機構を合理化すること

(2)在庫品の動員利用を図り、在荷の制限売渡命令等に付ても考慮すること

(3)物価騰貴を招来するが如き思惑及買溜に付ても、徹底的取締方法を講ずること

(4)金融関係に於ても、思惑資金の融通の如きは厳に之を抑止すること


第四 生産費構成要素の調整

戦時適正価格の形成を緊要とする段階に於ては、単に物価を公定するに止まらず、其の原価を適正に形成すべき方策を採るに非ずんば物価対策は到底其の目的を達し得ざるものと云はざるべからず、而して生産費の構成要素を成すもの即チ原料資材の外、賃金、運賃及商品価格の形成要素たる利潤並に是等と相当度の関連性を有する家賃、地代等に対しても前掲の物価対策其のものに照応せる根本対策を講ずること肝要なり

一、賃金

戦時適正物価形成上必要とする賃金対策の主眼目は、必ずしも従業者各個の所得其のものを制限するの趣旨に非ずして、賃金が価格に及ぼす影響を考慮し生産費中に含まるゝ賃金総額の適正低下を期するに在り、従つて左記の賃金規則の目的を達するに当りても、能ふ限り従業者の生産能率の増進を図るべきものとす

(1)各種の職種に適応せる戦時適正賃金標準を定め之に準拠すること

(2)右賃金標準は物価並に利潤の標準に照応すると共に、生計費に重要なる考慮を用ひて決定すること

(3)右標準賃金の維持に付ては労力需給の調整を併せ実施すること

(4)給料等に付ても賃金に準ずること

二、運賃

運賃其の他の運送費は物価構成上の重要素なるのみならず、物資の需給を調整し其の配給を適正ならしむる為には海陸輸送の円滑なる運営を必要とするものなるに鑑み、此の際海陸輸送の統制ある運営を期すると共に運賃等の合理的規制を為すこと極めて肝要なり

(1)戦時物価基準の目標に照応して運賃其の他の運送費を公定すること

(2)生産力拡充計画に即応せる輸送力の拡充を極力促進せしむる要あると共に其の促進対策として高運賃政策を採ることは此の際物価政策の根本方針に矛盾するを以て戦時経済運行の大局より見て真に已むを得ざる場合の外之を避け必要の場合には他の対策を講ずること

(3)右公定運賃等の確保に付ては運送量を運送能力の範囲に調整すること必要なり、其の方法としては例ヘば左記の如き手段を講ずること

イ、運賃の順位を定め重要物資の優先的運用を図ると共に不急不要の物資の運送は之を制限すること

ロ、思惑取引に基く物資の運送は之を抑止すること

ハ、交錯及重複運送を規制する方策を採ること

ニ、運送料を季節的に調整すること

ホ、工場設置の場所に付ては、可及的運輸力を節約し得る様之を調整する為適当の対策を講ずること

(4)前記各種方策を実行する為には海陸を通じ各般の運輸機関に対し一元的統制機構を確立して輸送力の総合的運用を為し其の最大能率を発揮せしむること

三、利潤

戦時適正物価形成上必要とする利潤対策の主眼目は、必ずしも各個の企業経営の利潤率其のものを直接制限するの趣旨に非ずして、利潤が価格に及ぼす影響を考慮して商品価格中に含まるる利潤の適正低下を期するに在り

(1)物価其の他の公定に付ては、夫々当該商品価格中に含まるる生産者、配給者等の利潤に付各種の業態に適応せる戦時適正標準を定め之に準拠すること

(2)右利潤の算定標準に付ては物価並に賃金の標準に照応すると共に戦時特殊の危険率、減価銷却等に付合理的考慮を用ひること

四、家賃、地代等

戦時適正物価の樹立を確保する目標の下に家賃、地代等を合理的に規制すること


第五 物価統制の励行其の他

一、物価統制の励行

(一)戦時経済下に於ては政府の物資購買は物価の大勢を支配するものなるに鑑み政府は其の購入に当り単価の適正なる調整に特に留意し実践を以て物価統制の励行に付国民に範を垂るゝの必要あり

(二)戦時に於ける物価統制の絶対必要性並に其の国民経済及私生活に及ぼす効果、影響及物価統制の趣旨内容等を国民各層に徹底理解せしむると共に其の協力を求むるの要あり、右に付考慮せらるゝ諸点次の如し

(1)当業者に対しては、特に統制施設の趣旨内容及其の絶対必要なる事情を充分に会得せしむべき方策を講じ、官庁及民間当業者の団体をして之に当らしむること

(2)一般消費者に対しては、政府は因より国民精神総動員連盟、其の他民間団体、言論機関等に於て一層の努力を為すこと

(3)統制に関する法規を成るべく単純ならしめ又官報、週報等の利用に依り具体的事項を実際的に速に全国民に周知せしめる方法を採ること

(三)物価統制諸対策の実施を円滑にし且其の実状を明かにする為、物価統制視察制度を設け、民間諸団体をして之に協力せしむると共に、進んで民意を聴取し統制方策の進歩改善を図るに適当なる常設機関を置くの要あり

(四)現行罰則規定の励行と共に、更に適切なる制裁制度の考究を期するの外、一方民間団体等に於ける自発的制裁方法に付考究せしむるの要あり

(五)物価統制は国民各層が相当の犠牲を負担することにより遂行せらるゝものなるを以て、政府並に民間に於ける指導的地位にある者の物心両方面に於ける率先的実践躬行は此の際特に必要なり

二、内地、外地、満洲及支那の連絡

外地、満洲及支那は内地と為替水準を共通にし協同的経済を構成するものにして就中物価の如きは其の相互間に影響の波及する所甚大なるに鑑み、是等の各地に於ける物価統制に付左の如く緊密なる連絡調整を図るの要あり、差当り内外地及満洲相互間の関係に於て特に急務とすべし

(1)関係各地域に於ける物価統制に関する機構を整備充実し、其の機能を拡大強化し、共同の一定物価基準を確保する目標の下に、外地、満洲等の物価対策に付更に其の徹底を期し且相互の連絡を緊密ならしむること

(2)物資の需給調整に付各地域当局者間の協調を一層緊密ならしむること

三、物価統制機構

物価統制の内容は広汎且多方面に亘りて相関関係を有し其の実効を収むる為には総合的、統一的の運用を絶対に必要とするを以て官民各関係機関の整備及相互の緊密なる連絡協調を図るの要あり、特に左の諸点に付留意すること

(一)事務の複雑増大に備ふる為関係機関を拡充し各官庁間の一層密接なる協同動作に依り中央物価委員会の機能と相俟チ決定案件の実施を斉整迅速ならしむること

(二)中央地方相互間に於ける物価統制に関する官庁及委員会等の統制連絡を整備すること

(三)政府は民間経済機関の物価統制に関する協力事項を定め是等の機関との間に緊密なる連絡を保つこと

四、物価統制の影響に対する措置

政府は物価統制に伴ふ経済的影響に対処する為別途適当の方策を講ずるの要あり、其の主なるもの次の如くなるべし

(一)賃金の規制に因り従業者が将来に備ふる余力を減殺するが如き場合に対し失業、老後、保健等に関する方策を講ずること

(二)物価統制の結果生産者乃至問屋、小売商等に及ぼすことあるべき経済的影響に付対策を講ずること


附 記

本大綱に依る価格の公定其の他の諸方策の実施に付ては、急速に之を実行するを要すると雖も、事実上相当日時を要するものあるべきを以て差当り左の経過的取扱を為すこと

一、価格の公定に付ては、差当り必要と認むる品目に対し従来の手続に依り遅滞なく之を実施すること、本大綱に基く原価計算方法等に依らずして定められたる公定価格は他日之を再検討したる上右方法に準拠し之を改定することあるべきこと

二、需要の制限等に付ては、本大綱に基く諸制度の実施前と雖も、当該諸官庁に於て速に適当なる措置を採ること

(国立国会図書館:https://rnavi.ndl.go.jp/politics/entry/bib00197.php)

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 ダンバートン・オークス提案(一般的国際機構設立に関する提案)(訳文)     一般的国際機構設立に関する提案 (「ダンバートン、オークス」会議の結果「ソ」連邦、米国、英国及重慶政権に依り提案せられ千九百四十四年十月九日発表せられたるもの) (本提案の英文は千九百四十四年十月十一日附「モスコー、ニュース」より之を採り「ストックホルム」電報等に依り長短相補ひたるものなり) 「国際連合」なる名称の下に一の国際機構設立せらるべく其の憲章は左の提案を具現するに必要なる規定を掲ぐべし    第一章 目的 本機構の目的は左の如くなるべし 一、国際平和及安寧を保持すること、右目的の為平和に対する脅威の防止及除去並に侵略行為又は他の平和侵害行為の抑圧を目的とする効果的且集団的措置を執ること及平和の侵害に至るの虞ある国際紛争を平和的方法に依り調整又は解決すること 二、各国間の友好関係を発展せしめ且世界平和を強化すべき他の適当なる措置を執ること 三、各国間の経済的、社会的及他の人道上の問題の解決の為国際協力を完成すること及 四、右共同目的完成の為各国の行動を調整すべき中心たるべきこと    第二章 原則 第一章に掲げたる目的を遂行せんが為本機構及其の締盟国は以下の原則に従ひ行動すべし 一、本機構は一切の平和愛好国の主権平等の原則に其の基礎を置くものとす 二、本機構の一切の締盟国は締盟国全部に対し締盟国たるの地位に基く権利及利益を保障する為憲章に従ひ負担したる義務を履行することを約す 三、本機構の一切の締盟国は其の紛争を国際平和及安寧を危殆ならしめざるが如き平和的方法に依り解決すべきものとす 四、本機構の一切の締盟国は其の国際関係に於て本機構の目的と両立せざる如何なる方法に於ても脅威又は兵力の行使を避くるものとす 五、本機構の一切の締盟国は本機構が憲章の規定に従ひ執るべき如何なる行動に於ても之に対し有らゆる援助を与ふるものとす 六、本機構の一切の締盟国は本機構が防遏的又は強制的行動を執行中なる如何なる国家に対しても援助を与ふることを避くるものとす 本機構は、国際平和及安寧保持に必要なる限り本機構の非締盟国が右原則に従ひ行動することを確実ならしむべし    第三章 締盟国 一切の平和愛好国は本機構の締盟国たり得べし    第四章 主要機関 一、本機構は其の主要機関として左記を有すべし  イ

第二次近衛声明(東亜新秩序建設の声明) 1938年11月03日

 第二次近衛声明(東亜新秩序建設の声明)                     (昭和十三年十一月三日)  今や 陛下の御稜威に依り帝国陸海軍は、克く広東、武漢三鎮を攻略して、支那の要域を戡定したり。国民政府は既に地方の一政権に過ぎず。然れども、尚ほ同政府にして抗日容共政策を固執する限り、これが潰滅を見るまで、帝国は断じて矛を収むることなし。  帝国の冀求する所は、東亜永遠の安定を確保すべき新秩序の建設に在り。今次征戦究極の目的亦此に存す。  この新秩序の建設は日満支三国相携へ、政治、経済、文化等各般に亘り互助連環の関係を樹立するを以て根幹とし、東亜に於ける国際正義の確立、共同防共の達成、新文化の創造、経済結合の実現を期するにあり。是れ実に東亜を安定し、世界の進運に寄与する所以なり。  帝国が支那に望む所は、この東亜新秩序建設の任務を分担せんことに在り。帝国は支那国民が能く我が真意を理解し、以て帝国の協力に応へむことを期待す。固より国民政府と雖も従来の指導政策を一擲し、その人的構成を改替して更生の実を挙げ、新秩序の建設に来り参ずるに於ては敢て之を拒否するものにあらず。  帝国は列国も亦帝国の意図を正確に認識し、東亜の新情勢に適応すべきを信じて疑はず。就中、盟朋諸国従来の厚誼に対しては深くこれを多とするものなり。  惟ふに東亜に於ける新秩序の建設は、我が肇国の精神に淵源し、これを完成するは、現代日本国民に課せられたる光栄ある責務なり。帝国は必要なる国内諸般の改新を断行して、愈々国家総力の拡充を図り、万難を排して斯業の達成に邁進せざるべからず。  茲に政府は帝国不動の方針と決意とを声明す。 (国立公文書館:「近衛首相演述集」(その二)/1 第一章 「声明、告諭、訓令、訓辞」 B02030031600)