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中国主権尊重原則実行に関し日本に対する要望 1939年06月15日

 中国主権尊重原則実行に関し日本に対する要望(ひらがな、新字体化)


        序  言

帰国後日本か真に中国の主権を尊重せられんとする真意を我同志及国民に諒解せしむる各般の工作を行はさるへからす

右工作は日本の真意を納得せしむるに足る「事実」に立脚せさるへからす

以下政治、軍事、経済に分ち記述する所のものは右工作実行の為日本の諒解及保証を得置き度き最低条件にして中国主権尊重の原則は之か実現に依りて始めて効果ありと思料する次第なり

詳細弁法は中央政府改組して南京に帰還の後中日両国政府当局間に於て日支調整原則及其精神に基き慎重研究の上決定せらるへきものなり

   六月十五日

                  汪 兆 銘


        追  記

本稿に対する御意見は成るへく速に開示せられ度く大体の御意見たけにても六月二十六日出発の周佛海に指示せられんことを望む

       一、内政に就て

中国の内政の独立自主たるへきことに関しては日本の屡次闡明せらるる原則なるも尚事実に即して日本の好意を国民に証明し其注意を喚起せんか為以下緊要なる数点を列挙し日本側の実行を切望す

一、中国は絶対に抗日排日の思想言論を厳禁し親日的国民教育を徹底励行すへく日本側に於ても亦侮華侵華思想乃至態度を是正し親華教育を実施せられ度し

二、我国民をして日本か我内政に干渉するの意図あるか如き疑惑を抱かしめさる為中央政府に在りては政治顧問及之に類似するか如き名義職位を設くるを避けられ度政治的に日本と商議を要する事項は総て正当なる経路を経て中華民国駐在日本大使と行ふことと致し度し

三、中央政府各院、各部中行政関係の院、部に於ては内政干渉の疑惑を避くる為日本人を職員として任用せさることと致し度し

  自然科学の技術に関する各部に於ては日本の専門家を技術顧問として招聘するも其職域は技術方面に限定し一般行政には参画せさることを方針とす従て当該部の技術と関係ある会議には主管長官の通知に依り之に列席するを得るも一般行政会議には列席せさるものとす但し技術顧問の招聘に当りては上級官庁の認可を受くるを要す

  技術顧問に関する任用規定及服務規定は中央政府之を公布す

四、各省政府及特別市政府に於ても上述の趣旨に依り政治顧問又は類似の名義を有する職位を設けす

  日本軍の撤退以前に在りては当該地方に於ける日本軍との商議及一般渉外事項に関し各当該省政府及特別市政府に臨時的に交渉専員を設け此事に当らしむ

  日本軍にして省政府又は市政府の協力を必要とする場合は外交的手続を以てし命令式文書又は口頭の通知を以てせさる様致され度し

  省政府所属の各庁及特別市政府所属の各局に於ても任行政事項に関しては政治顧問又は類似の名義を有する職位を設けす但し自然科学技術の必要上技術顧問を任用する場合は中央政府に於ける弁法に準す

五、県政府及普通市政府は人民と直接接触する行政機関なるを以て我人民をして日本に対する疑畏心理を起ささらしむる為如何なる名義たるを問はす日本人の職員を任用せさるを可とす

  県政府は渉外事項に関し交渉秘書を設くるを得

  日本軍の撤兵以前に於て当該地方県市政府の協力を必要とする場合には外交方式に依ることとし命令式文書又は口頭の通知を以て行はさることと致され度し

  現に作戦中の地域以外の各県宣撫班は速に撤退することに決定せられ度し

六、各地方政府の威信を保持し且我人民の日本に対する悪感を避くる為撤兵以前に於ては日本駐屯軍は省市県政府と商議を行ふ為めには専任人員を指定し其責に任せしめられ度し

七、財政独立を表現する為中国に在る日本の如何なる機関及個人と雖直接間接を問はす各種各個の税収機関を占有し又操縦することなき様せられ度し

  軍事上特異の状態を発生せるもの(例えは鹽税の如し)は速に其税収行政を常態に復する如くし又中国に於ける如何なる機関、個人と雖之を阻止し又は妨害を加ふくか如きことなき様せられ度し

八、中国に於ける日本(下級)軍民の中国人を侮辱するか如き行動及態度なき様是正せられ度し斯かる些細なる事故か両国民間の親善の障害をなすこと大なり殊に撤兵以前に於て此点に関し特別の注意を払はれ度し


       二、軍  事

中日両国国防方針既に一致せる以上我国の軍事施設は必す日本と同一共同目標を対象とするや勿論なり

唯中国の最高軍権の独立性に関し必す之を確立する如くすること緊要なり

之か為左記諸項を実行せられ度し

一、中央の最高軍事機関(軍事委員会又は国防委員会の如し)に在りては顧問団を設け日独伊三ケ国の軍事専問家を招聘して之を組織す

  顧問人数は日本人二分の一独伊人二分の一とし主席は日本人之に当り国防計画及軍事施設の企画を補佐す其職権の範囲及服務規定は中央政府之を制定す

二、各種軍事教育機関には日独伊軍事専門家を教官として招聘するを得

三、中国軍隊を監視し或は束縛するか如き疑惑を避くる為各部隊内に如何なる名義たるを問はす日独伊軍事専門家を任用し或は招聘して職務を担任せしむるを得す

  但中央の最高軍事機関より派遣したる顧問にして臨時各部隊を視察するものは此限りにあらす

  但其視察は人事に渉らさるを要す

四、各種の兵器製造工場は必要ある場合日独伊の専門家を技師として任用することを得

  其職権は技術の方面に限り各工場の人事行政及経理に参加せす

五、中央政府南京帰還の後中国軍隊にして新中央政府に復帰するものある時は協議の上日本軍は局部の撤退を行ひ其区域を該復帰軍隊に与へられんことを希望するも然らされは他の区域を其駐屯地となす如く考慮あり度し


       三、経 済

経済合作は互恵平等の原則に拠るへきは既に両国人士の公認せる所にして此原則の具体化を計る為速に左記諸項を実行せられ度し

一、軍事期間中国に於ける日本の機関或は個人の為に占領又は没収せられたる中国の公営及私営の工場、鉱山及商店は速に之を中国側に返還せられ度く別に適当なる合弁弁法を規定し度し

二、現在合弁中の公私事業にして固有資産の評価適正を欠くものは客観的標準に基き再評価することと致し度し

三、合資経営の公私事業に対し日本側か株券等を提供して実際上の出資を行ひあらさるものあるは不当なるを以て是正せられ度し

四、合資経営の公私事業にして日本側の資本額は百分の四十九を超過することを得さることと致し度し

五、合資経営の公私事業の最高主権は固より中国に属するものたるを要す

六、中央政府南京帰還前軍事期間中に南北両組織の許可せる契約は之を再審査の上有効無効を決定し度し

  審査に際し要すれは日本側代表は臨時列席して説明せらるるを得

  備 考

四、五、等は当然の事に属するも中国人の復帰及投資を速かならしむる為新中央政府に於て更めて宣伝の要ありと思料し予め日本側の諒解を得度き希望に出たるに過きす

Source:(国立公文書館:6 重要決定事項(其ノ一) 2 B02030545700)

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