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第十四回御前会議議事録 1945年08月09日

 第十四回御前会議議事録(ひらがな化、一部新字体化)


 八月九日午後十一時五十五分より十日午前二時十分に至る間

 於宮中防空壕

最高戦争指導会議 御前会議

  出席者 鈴木首相 平沼枢府議長

      陸軍大臣(阿南) 海軍大臣(米内)

      外務大臣(東郷)

      参謀総長(梅津) 軍令部長(豊田)

      幹事

        迫水書記官長

        吉積陸軍軍務局長

        保科海軍軍務局長

        池田綜合計画局長官

  思召しに由り特に平沼枢議長を列席せしめらる

 総理 本日ポツダム宣言を中心とし戦争指導会議開催したるに意見纏まらざるも次の条項を認むることとしては如何との意見有力なりき

1皇室の地位の絶対保持安全

2武装解除は内地に帰り復員す

3戦争犯罪人は国内にて処理す

4保証占領は保留す

尚外務大臣は左の意見なり

客月二十六日付三国共同宣言に挙げられたる条件中には天皇の国情上の地位を変更する要求を包含し居らざることの了解の下に日本政府は之を受諾す

依て本日閣議を開き本件審議したるに

外務大臣案賛成  六

四条項案賛成   三

中間       五 但し条項を少くせよとの意見あり

外務大臣提案理由説明

外務大臣

宣言は日本として不面目受諾し難きものなるが時局は之を受諾せざるを得ざるに至れり

全員之が受諾に関しては意見の完全一致を見たり

而して原子爆弾の出現と之に関連するソ連の対日参戦とは時局を愈々急変し相手方を強硬にせり

従つて相手方との交渉に依て話を進めんとする方法は其余地を失へり

殊にソ連が武力を行使したる故益々然り

故に此情勢より見て多くの条件を出すことは全部を拒絶せらるるに至るべし

唯一のものを提案すべし それは皇室の護持安泰なり

武装解除は停戦協定の際考へらるべし

保証占領は已むを得ず

犯罪人の件も已むを得ず

日本民族は皇室存在なれば隠忍して他日の復興を為し得べし

故に凡てを皇室の一事に集中すべし

海軍大臣

外務大臣の意見に同意なり

陸軍大臣

外務大臣の意見に全然反対なり

カイロ会議には満洲返還を規定しあり日本の道義に反す

飽く迄戦争遂行に邁進すべきなり

但し和平をやるとせば四条件は絶対なり

此等条件は皇室擁護の手段として絶対条件なり

七生報国一億玉砕して死中活を求め得べし

参謀総長

陸軍大臣と全然同様なり

本土決戦には準備整ふ確信あり

ソ連の参戦は状況を不利に陥れたるも之が為最後の一撃を米英に与ふるの機会を放棄するには当らざるべし

既に数年に亘り戦争を継続し戦友は喜んで国に尽したり 無条件降伏では英霊にすまぬ

四条件は最少限の譲歩的要求なり

平沼枢密院議長

外務大臣に対しソ連との交渉経過を報告せられ度

外務大臣

七月十三日天皇陛下の平和快復に関する大御心を伝へ英米との戦争集結に関しソ連の斡旋を依頼せり

之が為特派大使をソ連に派遣することを目的とす 特派大使の目的はソ連が戦争終末の斡旋と日ソ間の問題解決に在りたるも具体的問題には触れあらず

然るに佐藤大使はポツダム会議の為ソ連首脳の者と会談するの機会を逸しモロトフと八月八日に会見することに手配終りたる旨の報告を受けたるのみ

枢府議長

ソ連宣戦の目的理由如何

外務大臣

タス電の宣明書説明す

枢府

犯罪人は如何 引渡すものか如何

処断は自国に於て行ふものなり

外相

独逸軍の例は引渡しを要求せられあり

裁判に就ては文面に依れば規定なし

枢相

日本軍隊の自主的武装解除にては先方は同意すまいとの見解なりや

外務大臣

然り

枢相

陸海軍当局に導ぬ

将来戦争継続の確信ありや否や 疑あり

本土作戦は可能と云ふか 空襲は頻発し艦砲射撃は受け殊に原子爆弾は恐るべきものなるに之に対する防御可能なりや否や

国民の感想を聞くに多くの場合空襲に対し反撃なし 中小都市全くなし 本土空襲激烈となる 東京も大半喪失し中小都市は全滅せん 機能は停止すべし

原子爆弾対策ありや

今日国民は不安増大し国民戦意は沮喪す 殊に交通機関破壊し食糧は不足す 東京の如きは他よりの輸送は喰ひ尽しつつあり

満洲よりの雑穀は移入困難に陥る

懸念に堪へず

参謀総長

出来るだけ善処し度い

原子爆弾の対策 惨害を絶対に防止するは困難なるも制空の機関を適当にせば或程度は阻止し得べし

空襲激化は已むを得ず

交通機関遮断に伴ふ国民生活不安戦意は喪失すべし 惨害は絶対に妨ぐこと困難なるも努力すべし

空襲の惨害苦難に堪へる覚悟あれば戦争は終りにはならぬ

枢相

機動部隊対策ありや

海軍大臣

此問題は軍令部総長より

軍令部総長

機動部隊には航空部隊を以て対処するものなるも本土決戦に兵力を集中配置しあり

輸送船を伴はざる機動部隊には運動軽捷なる故大航空兵力を以てせざれば捕捉し得ず

兵力を温存しあり 小兵力を以て寄襲する程度なり

今後は本土決戦も考へられざるに付反撃し得べし

枢相

内地の治安維持は大切なり

殊に政府の採るべき方策に依りては国内治安悪化すべし

国民は空襲と食糧とに難義しあるべし腹の底の忠誠心は疑はざるも非常に危険なり

憂慮すべき事態なり

戦争を中止するより起る国内治安と戦争遂行に伴ふ国内治安不良は又憂ふべし

所見如何

総理

全く同感なり 今日の情況は戦争が不利なる故民心は不安なり

空襲に堪へ得ず 如何に努めても防禦出来ず 此の儘で行つては危険なり

枢相

突然の出席にて充分推鎬しあらざるも情況は急迫しある故意見を述ぶべし

外務大臣の主旨には同意なるも国体擁護は絶対なり 之に対し少しでも揺ぎあれば敢然として防禦すべし 国民一人に至る迄敢闘すべし

原案の字句は不可なり 国法上の地位とは申すまじき言なり 大義名分より不可なり

天皇の統治権は肇国以来のものにして国法に依り定まりたるものなり

憲法は公示上の形式なり

天皇の国家当地権云々変更しては如何

次に四つの条項は敵国に対し交渉の余地なしと云ふが果して然りや

武装解除は自主的に行ひても可なり

戦争犯罪人は引渡を求むとあらば何れにても可なるべし

独立国として当然なり

保証占領も独立として重大なる

外務大臣としては交渉努力すべし

但し交渉困難となり遅たなれば全体の終結は困難となる

懸念に考へらる 然し若し反対となりて戦争継続し最も不利となる場合に於ては国体に動揺来す虞あり

見透しを充分つけよ

兵力だけでは駄目なり 国民精神、生産情況、必需品を考へよ 今日は国家総力戦なり

今日の事態で宜しいかどうかを検討せよ

軍の食糧はどうか 国民も見殺しに出来ぬ

国民の安泰は政治の要諦なり

此等に付不安の念あれば陸海の兵強くとも戦争継続は不可能なるべし

他の条件は当局として充分考究して決定すべし

事極めて重大なり  聖断に依りて決定すべきなり

陛下に於かれても皇祖皇宗の遺訓を承け国体に動揺を来さぬことは陛下の御責任なり

軍令部総長

海軍統帥部としては陸軍大臣、参謀総長に同意なり

勝算ありや否やと云ふに絶対算ありと云はざるも必敗とは考へず

次の作戦には準備あり好機あり 敵に打撃を与ふることは不可能とは考へず

国体擁護のみを条件とする交渉は統帥部として統率上憂慮しあり

国民の内には敢闘精神あり 前線将兵は努力しあり 特攻精神あり 戦意を沮喪しある国民も指導に由りて昂揚すべし

総理大臣

充分意見を吐露せしものと認む 但し意見一致せざるは遺憾なり 事極めて重大なるが故に聖断を仰ぐ以外になしと思ふ

総理 御前に進み 外務大臣案に依るべきか或は又四条件案に依るべきか謹んで御聖断を仰ぐ 旨奏上す

天皇陛下

私は外務大臣案に同意す

理由

陸海統帥部の計画は常に錯誤し時機を失す 本土決戦と云ふが九十九里浜の防禦陣地は遅れ八月末にあれざれば出来ずと云ふ 増設部隊も装備未だに整はずと云ふ 之れでは米軍を如何にして邀撃し得るや

空襲は激化しあり

之以上国民を塗炭の苦しみに陥れ文化を破壊し世界人類の不幸を招くは私の欲せざる処なり

此の際は忍び難きを忍ぶべきなり

忠良なる軍隊を武装解除し又昨日迄私に忠勤を抜じたれたる者を戦争犯罪人とするは情に於て忍びざるも国家の為には已むを得ざるべし

今日は明治天皇の三国干渉の心を心とすべきなり

此の理由に依り私は外務大臣案に同意なり

と仰せ出さる

                       (終了)

(国立公文書館:https://www.jacar.archives.go.jp/acv/contents/pub/pdf/C14/C14020184800.c1122140002.kenseisiryou_006.1930_01.pdf)

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