国際紛争平和的処理条約(ひらがな化、一部新字体化)
國際紛爭平和的處理條約
第一章 一般平和の維持
第一条 列国間の関係に於て兵力に訴ふることを成るへく制止せむか為記名国は国際紛議を平和に処理することに其の全力を竭さむことを約定す
第二章 周旋及居中調停
第二条 記名国は重大なる意見の衝突又は紛争を生したる場合には兵力に訴ふるに先ち事情の許す限り其の交親国中の一国若は数国に周旋又は居中調停を依頼することを約定す
第三条 記名国は右依頼の有無に拘らす紛争以外に立つ一国又は数国か事情の許す限り自ら進て周旋又は居中調停を紛争国に提供することを有益と認む
紛争以外に立つ国は交戦中と雖其の周旋又は居中調停を提供するの権利を有す
紛争国は右権利の行使を目して友誼に戻れるものと為すことを得す
第四条 居中調停者の本分は紛争国双方の申分を和解し且其の間に生することあるへき悪感情を融和するに在るものとす
第五条 居中調停者の職務は其の提出したる和解方法の採納せられさることを紛争国の一方又は調停者自ら宣言したるとき直に終止するものとす
第六条 周旋及居中調停は紛争国の依頼に由ると紛争以外に立つ国の発意に出つるとに論なく全く勧告の性質を有するに止り決して拘束の効力を有せさるものとす
第七条 反対の約束ある場合の外は居中調停を承諾したるか為動員其の他の戦闘準備を中止し遅延し又は障碍するの結果を生することなし
若戦闘開始の後に於て居中調停起りたるときは反対の約束ある場合の外之か為進行中の軍事的動作を中止することなし
第八条 記名国は事情の許す限り左の手続を以てする特別居中調停の適用を可とすることに同意す
平和を破るの虞ある重大なる紛議を生したる場合には紛争国は平和の破裂を予防する為各各一国を選定し他の一方の選定したる国と直接の交渉を開くの任務を附託す
右附託の期間は反対の規約ある場合の外三十日を超えさるものとし期間中紛争事件に関することは調停国に一任したるものと看做し紛争国は自て直接の交渉を為すことを中止す右調停国は紛議を処理するに全力を竭すへきものとす
平和の既に破れたる後と雖右調停国は平和を回復するの機会ある毎に之を利用するの共同任務を負ふものとす
第三章 国際審査委員
第九条 名誉又は重要なる利益に関係せす単に事実上の見解の異るより生したる国際紛争事件にして外交上の手段に依り其の妥協を遂くること能はさりし場合には紛争国は事情の許す限り国際審査委員を設け之をして公平誠実なる審査に依りて事実問題を明かにし紛争の結了を幇助するの任に当らしむるを以て記名国は有益なりと認む
第十条 国際審査委員は紛争国間の特別条約を以て之を設置す
審査条約は審査すへき事実及委員の権限を明瞭に規定す
審査条約は審査手続を規定す
審査は双方対審の上之を行ふ
遵守すへき方式及期限にして審査条約に規定なきものは委員自ら之を定む
第十一条 国際審査委員は反対の規約なき限り本条約第三十二条に定めたる方法に依り之を設置す
第十二条 紛争国は係争事実を完全に知悉し且精確に会得するに必要なる一切の方法及便宜を其の為し得へしと認むる限り充分に国際審査委員に提供することを約定す
第十三条 国際審査委員は各委員の記名したる報告書を紛争国に提出す
第十四条 国際審査委員の報告書は単に事実の記述に止るものにして決して仲裁宣告の性質を有せす此の記述に対し如何なる結果を付すへきやは全く紛争国の自由たるへし
第四章 万国仲裁裁判
第一節 仲裁裁判
第十五条 万国仲裁裁判は紛争国の選定せる裁判官をして法を尊重するの基礎に拠り国と国との間に生したる紛議を処理せしむることを以て目的とす
第十六条 法律問題就中国際条約の解釈又は適用に関する問題に就ては記名国は外交上の手段に依り結了すること能はさりし紛議を処理するには仲裁裁判を以て最も有効にして且最も公平なる方法と認む
第十七条 仲裁裁判条約は既に生したる紛議又は将来生することあるへき紛議の為に締結す
仲裁裁判条約は総ての総議又は特に指定したる種類の紛議のみに関することを得
第十八条 仲裁裁判条約は誠実に仲裁宣告に服従するの約束を包含す
第十九条 仲裁裁判に依頼すへき義務を記名図に対して現に規定したる一般若は特別条約の有無に拘らす記名国は仲裁裁判に付することを得へしと思料する一切の場合に義務的仲裁裁判を普及せしめむか為本条約批准前又は其の後に於て一般若は特別の新協定を為すの権利を保留す
第二節 常設仲裁裁判所
第二十条 外交上の手段に依りて処理すること能はさりし国際紛議を直に仲裁裁判に付するに便ならしむるの目的を以て記名国は何時たりとも依頼することを得へき且紛争国間に反対の規約なき限は本条約に掲けたる手続に依りて其の職務を行ふへき常設仲裁裁判所を構成することを約定す
第二十一条 常設仲裁裁判所は紛争国の間に特別の裁判所を設置するの協約ある場合の外一切の仲裁事件を管轄するものとす
第二十二条 海牙に万国事務局を設置し仲裁裁判所書記局の事務に当らしむ
右事務局は裁判所の開廷に関する通信の媒介者とす
事務局は記録の保管を掌り一切の行政事務を処理す
記名国は相互の間に定めたる一切の仲裁裁判規約の認証謄本竝其の当事者たる場合に特別裁判所か下したる仲裁宣告の認証謄本を海牙万国事務局に交付することを約定す
記名国は仲裁裁判所の下したる宣告の執行を証明することあるへき法律規則及文書も亦同しく右事務局に交付することを約定す
第二十三条 各記名国は本条約批准後三箇月以内に国際法上の問題に堪能の名ありて徳望高く且仲裁裁判官の任務を受諾するの意ある者四名以下を指定すへし
右指定を受けたる者は仲裁裁判所裁判官として名簿に記入し事務局より之を各記名国に通知すへし
仲裁裁判官の名簿に異動ある毎に事務局より之を記名国に通知す
二国若は数国相約して共同に一名又は数名の仲裁裁判官を指定することを得
同一人にして数国より指定せらるることを得
仲裁裁判所裁判官は其の任期を六箇年とす但し再任せらるることを得
仲裁裁判所裁判官中死亡又は退職する者あるときは其の任命の為に定めたる方法に依り之を補欠す
第二十四条 記名国は其の相互の間に生したる紛議を処理せむか為常設仲裁裁判所に訴へむと欲するときは其の紛議を裁定すへき当該裁判部を組織する仲裁裁判官の選定は仲裁裁判所裁判官総名簿に就て之を為すへし
仲裁裁判部の構成に関し紛争国相互間に直接の協定なき場合には左記の方法に従ふへきものとす
双方に於て各二名の仲裁裁判官を選定し右仲裁裁判官は共同して更に一名の上級仲裁裁判官を選定す
其の投票相半はしたる場合には双方の協議を以て指定したる第三国に上級仲裁裁判官の選定を委託す
若右指定に関する協議成立せさるときは双方に於て各各異りたる一国を指定し其の指定せられたる両国の協議を以て上級仲裁裁判官を選定す
右の如く仲裁裁判部の構成を了りたるときは双方より常設仲裁裁判所に訴ふるの決意及仲裁裁判官の氏名を事務局に通知す
仲裁裁判部は双方の定めたる期日に開廷す
仲裁裁判所裁判官は外国に在りて其の職務を執行するに方り外交官の特権及免除を亨有す
第二十五条 仲裁裁判部は通常之を海牙に設置す
仲裁裁判部は不可抗力の場合の外双方の承諾を経るに非されは其の所在地を変更することを得す
第二十六条 海牙万国事務局は其の庁舎及局員を記名国の為特別仲裁裁判所の用に供することを得
常設仲裁裁判所の管轄は双方に於て其の裁判に訴ふることを協定したるときは規則に定めたる条件に従ひ之を非記名国間又は記名国と非記名国との間に生したる紛議に及ほすことを得
第二十七条 記名国は其の二国又は数国の間に激烈なる紛争の起らむとする場合には常設仲裁裁判所に訴ふるの途あることを紛争国に注意するを以て其の義務なりと認む
故に記名国は紛争国に向て本条約の規定あることを注意し且平和の大切なる利益を保たむか為常設仲裁裁判所に訴ふへきことを勧告するは全く周旋の行為に外ならさるものと看做すへきことを宣言す
第二十八条 少くとも九箇国に於て本条約を批准したる後は成るへく速に常設評議会を海牙に設置し同府に駐劄する記名国の外交代表者及和蘭国外務大臣を以て之を組織し和蘭国外務大臣を推して其の議長とす
評議会は万国事務局を創設組織するの任務を有し竝之を指揮監督す
評議会は仲裁裁判所の構成を各国に通知し及其の開庁の設備を為す
評議会は其の事務章程及其の他必要なる諸規則を定む
評議会は仲裁裁判所の職務執行に関して生することあるへき行政事務上一切の問題を決定す
評議会は事務局の役員及雇員の任命停職及罹免に関する全権を有す
評議会は俸給及手当を定め竝全般の経費を監督す
評議会は正当に招集せられたる会合に於て五名以上の出席者あるときは有効の評議を為すことを得決議は投票の多数に依る
評議会は其の制定したる諸規則を速に記名国に通知し且毎年仲裁判所の事業行政事務の執行及経費に関する報告書を記名国に提出す
第二十九条 万国事務局の経費は万国郵便連合事務局の為に定めたる比例に依り記名国に於て之を負担す
第三節 仲裁裁判手続
第三十条 仲裁裁判の発達を助くるの目的を以て記名国は紛争国か別段の規則を協定せさる場合に於て仲裁裁判手続に適用すへき左の規則を定む
第三十一条 仲裁裁判に依頼する諸国は其の係争事件の趣旨竝仲裁裁判官の権限を明瞭に確定したる特別条約(仲裁契約)に記名す右条約は双方に於て誠実に仲裁宣告に服従するの約束を包含す
第三十二条 仲裁の職務は双方に於て隨意に指定し若は本条約に依りて設置したる常設仲裁裁判所の裁判官中より双方の選定したる一名又は数名の仲裁者に委託することを得
紛争国一 裁裁判所の構成に開し直好 き場合には左記の方法に従ふいものとす双方に於て○一名の仲裁裁判官を選定し右仲裁判判官は共同して更に一名の上級仲裁裁判官を選定す其の投票相半はしたる場合には双方の協議を以て指定したる第三国に上級仲裁裁判官の選定を委託す若右指定に関する協議成立せさるとは其の係争事件の趣旨竝仲裁判官の権限を明瞭に確定したる特別条約(仲裁契約)に記名す右条約は双方に於て誠実に仲裁宣告に服従するの約束を包含す
紛争国相互間に仲裁裁判所の構成に開し直接の協定なき場合には左記の方法に従ふへきものとす
双方に於て各二名の仲裁裁判官を選定し右仲裁裁判官は共同して更に一名の上級仲裁裁判官を選定す
其の投票相半はしたる場合には双方の協議を以て指定したる第三国に上級仲裁裁判官の選定を委託す
若右指定に関する協議成立せさるときは双方に於て各各異りたる一国を指定し其の指定せられたる両国の協議を以て上級仲裁裁判官を選定す
第三十三条 君主其の他国の元首にして仲裁者に選定せられたるときは仲裁裁判手続は仲裁者自ら之を定む
第三十四条 上級仲裁裁判官は当然裁判長たるへし
仲裁裁判所に上級仲裁裁判官なきときは裁判所自ら其の裁判長を指定す
第三十五条 仲裁裁判官中死亡し辞職し又は原因の如何に拘はらす故障を生したる者あるときは其の任命の為に定めたる方法に依り之を補欠す
第三十六条 仲裁裁判所の所在地は双方に於て之を指定す其の指定なきときは海牙を以て所在地とす
前項の所在地は不可抗力の場合の外双方の承諾を経るに非されは仲裁裁判所に於て之を変更することを得す
第三十七条 紛争国は自国と仲裁裁判所との間に在りて媒介者たる任務を帯ふる所の委員又は特別代理人を該裁判所の下に派遣するの権利を有す
紛争国は尚顧問又は弁護人を任命し仲裁裁判所に於て其の権利及利益を弁護せしむることを得
第三十八条 仲裁裁判所は法廷に於て自ら使用し及其の使用することを許すへき国語を選定す
第三十九条 仲裁裁判手続は大体に於て之を準備書面の提出及口頭弁論の二種とす
準備書面の提出とは双方の派遣員より印刷し又は筆記したる一切の公文及訴訟上援用する理由を掲けたる一切の書類を仲裁裁判所裁判官及相手方に提出するを謂ふ右書類の提出は本条約第四十九条の規定に基き仲裁裁判所に於て定めたる方式及期限に従ひ之を為すへし
口頭弁論とは法廷に於ける双方理由の口頭演述を謂ふ
第四十条 紛争国の一方より提出したる書類は総て之を他の一方に通知すへきものとす
第四十一条 口頭弁論は裁判長之を指揮す
口頭弁論は紛争国の承諾を経て為したる仲裁裁判所の決定に依るの外之を公開せす
口頭弁論は裁判長の指定する書記の作りたる調書に之を記載し此の調書のみを以て公正なる性質を有するものとす
第四十二条 仲裁裁判所は準備書面の提出終結の後は紛争国の一方より他の一方の承諾を得すして提出する新なる一切の公文又は書類に付論議することを拒絶するの権利を有す
第四十三条 仲裁裁判所は紛争国の派遣員又は顧問か其の注意を求むることあるへき新なる公文又は書類を参酌するの自由を有す
前項の場合に於て仲裁裁判所は右公文又は書類の提出を要求するの権利を有す但し其の趣を相手方に告知するの義務あるものとす
第四十四条 仲裁裁判所は尚双方の派遣員に一切の公文の提出を要求し且必要なる一切の説明を請求することを得若之を拒みたる場合には其の旨を記録す
第四十五条 双方の派遣員及顧問は其の訴訟を弁護する為に有益なりと認むる一切の理由を口頭にて仲裁裁判所に申立つることを得
第四十六条 双方の派遣員及顧問は抗弁を為し及中間の争を起すの権利を有す此の点に関する仲裁裁判所の決定は確定にして更に之を論議することを許さす
第四十七条 仲裁裁判所裁判官は双方の派遣員及顧問に質問を為し且疑はしき事項に関して其の説明を求むるの権利を有す
弁論の進行中仲裁裁判所裁判官か為したる質問又は注意は仲裁判所全体若は其の裁判官自己の意見を表彰したるものと看做すことを得す
第四十八条 仲裁裁判所は仲裁契約其の他紛争事件に関して援用せらるへき諸条約を解釈し且国際法の原則を適用して自ら其の権限を定むることを得
第四十九条 仲裁判所は訴訟取扱手続に関する命令を発し各当事者の結論を為すへき方式及期限を定め且証拠扱の為適当なる一切の手続を履行するの権利を有す
第五十条 双方の派遣員及顧問より各各其の訴訟を弁護する一切の説明及証拠を提出し了りたるときは裁判長は弁論の終結を宣告す
第五十一条 仲裁裁判所の評議は秘密会とす
決議は総て裁判官の多数に依る
裁判官中表決の数に加はることを拒む者あるときは其の旨を調書に記入すへし
第五十二条 投票の多数に依りて決定したる仲裁宣告には其の理由を付す右宣告は書面に認め各裁判官之に記名す
裁判官中少数に属したる者は記名の際其の不同意の旨を記入することを得
第五十三条 仲裁宣告は双方の派遣員及顧問在廷し又は之に対し正当の呼出を発したる仲裁裁判所の公開廷に於て之を朗読す
第五十四条 正当に言渡を為し且双方の派遣員に通知したる仲裁宣告は確定にして上告を許さす
第五十五条 紛争国は仲裁契約に於て仲裁宣告の再審を請求するの権利を保留することを得
前項の場合には再審の請求は反対の約束なき限り最初宣告を為したる仲裁裁判所に之を為すへし右の請求は口頭弁論終結のとき仲裁裁判所も又再審を要求したる一方の紛争国も共に覚知せさりし新事実にして其の性質宣告に断乎たる影響を与へ得へきものを発見したる場合の外之を為すことを得す
再審の手続は特に新事実の存在することを確認し其の事実は前項に掲けたる性質を有することを識認し且之か為再審の請求の受理すへきものたることを宣言する仲裁裁判所の決定に依るの外之を開始するを得す
再審の請求を提出すへき期限は仲裁契約に於て之を定む
第五十六条 仲裁宣告は仲裁契約を締結して紛争国に対するの外効力を有することなし
仲裁契約にして紛争国以外の諸国か加盟せる条約の解釈に関するものなるときは紛争国は其の締結したる仲裁契約を右諸国に通告すへし右諸国は各各訴訟に参加するの権利を有す若其の一国又は数国に於て此の権能を利用したるときは宣告文中に記載したる解釈は其の国に対しても亦均く効力を有するものとす
第五十七条 紛争国は各各自国に係る費用を負担し且仲裁判所費用を等分に負担す
総則
第五十八条 本条約は成るへく速に批准すへし
批准書は海牙に保管す
各批准書に付一通の保管証書を作り其の認証謄本を外交上の手続に依り海牙万国平和会議に賛同したる各国に交付すへし
第五十九条 万国平和会議に賛同したる諸国にして本条約に記名せさるものは他日之に加盟することを得此の場合に於て其の加盟を締盟国に通知するには書面を以て和蘭国政府に通告し同国政府より更に之を爾余の締盟国に通知すへし
第六十条 万国平和会議に賛同せさりし諸国か本条約に加盟し得へき条件は他日締盟国間の協商に依りて之を定む
第六十一条 若締盟国中の一国に於て本条約を廃棄するときは書面を以て其の旨を和蘭国政府に通告したる後一箇年を経過するに非されは廃棄の効力を生することなし右通告は和蘭国政府より直に爾余の締盟国に通知す
右廃棄の効力は之を通告したる国のみに止るものとす
右証拠として各全権委員は本条約に記名調印するものなり
千八百九十九年七月二十九日海牙に於て本書一通を作り之を和蘭国政府の記録に保管し其の認証謄本を外交上の手続に依り締盟国に交付するものなり
(Source:国立公文書館 御署名原本・明治三十三年・条約十一月二十一日・国際紛争平和的処理条約 A03020484300)
コメント
コメントを投稿