陸軍刑法(ひらがな化、一部新字体化、不明文字あり)
法律第四十六号
陸軍刑法
第一編 総則
第二編 罪
第一章 叛乱の罪
第二章 檀権の罪
第三章 辱職の罪
第四章 抗命の罪
第五章 暴行脅迫の罪
第六章 侮辱の罪
第七章 逃亡の罪
第八章 軍用物損壞の罪
第九章 掠奪の罪
第十章 俘虜に関する罪
第十一章 違令の罪
陸軍刑法
第一編 総則
第一条 本法は陸軍軍人にして罪を犯したる者に之を適用す
第二条 本法は陸軍軍人に非すと雖左に記載したる罪を犯したる者に之を適用す
一 第六十四条乃至第六十七条の罪及此等の罪の未遂罪
二 第七十四条の罪
三 第七十九条乃至第八十五条の罪
四 第八十六条乃至第八十九条の罪
五 第九十一条乃至第九十三条の罪及第九十一条、第九十二条の未遂罪
六 第九十五条第一項、第九十六条、第九十七条第二項及第九十九条の罪
第三条 本法は前二条に記載したる者帝国外に於て罪を犯したるときと雖之を適用す
第四条 帝国軍の占領地に於て陸軍軍人刑法又は他の法令の罪を犯したるときは之を帝国内に於て犯したるものと看做す
陸軍軍人に非すと雖帝国臣民、従軍外国人及俘虜の犯したるとき亦前項に同し
第五条 帝国外に在る部隊に属し若は従ふ者又は之に俘虜たる者其の部隊の所在地に於て刑法又は他の法令の罪を犯したるとき亦前条に同し
第六条 陸軍と共同作戦に従ふ海軍軍人に対する行為は其の職務、官等、等級又は階級に相当する陸軍軍人に対する行為と看做す
第七条 陸軍と共同作戦に従ふ外国の陸海軍に属する者に対する行為は其の職務、官等、等級又は階級に相当する陸軍軍人に対する行為と看做す但し其の外国に於て同一の取扱を為すことを保せさる場合は此の限に在らす
第八条 陸軍軍人と称するは左に記載したる者を謂ふ
一 陸軍の現役に在る者但し未た入営せさる者及婦休兵を除く
二 召集中の在郷軍人
三 召集に依らす部隊に在りて陸軍軍人の勤務に服する在郷軍人
四 前二号に記載したる者の外陸軍の制服着用中又は現に服投上の義務履行中の在郷軍人
五 志願に依り国民軍隊に編入せられ服務中の者
第九条 左に記載したる者は陸軍軍人に準す
一 陸軍所屬の学生、生徒
二 陸軍軍属
三 陸軍の勤務に服する海軍軍人
前項第一号に記載したる者の中特に除外すへき者あるときは命令を以て之を定む
第十条 陸軍将校、相当官、陸軍准士官、海軍将校、同相当官、海軍候補生反海軍准士官は陸軍将校に準す陸軍士官の候補者にして士官の勤務に服する者亦同し
第十一条 陸軍士官の候補者にして下士の階級に在り士官の勤務に服せさる者は陸軍下士に準す
第十二条 陸軍の兵役に在りて官等、等級を有せさる者は兵卒に準す陸軍士官の候補者にして兵卒の階級に在る者亦同し
第十三条 在郷軍人と称するは陸軍の現役以外の役に在る者、陸軍の現役に在りて未た入営せさる者、陸軍の帰休兵及退役陸軍将校、同相当官、准士官を謂ふ
第十四条 陸軍軍属と称するは陸軍文官、同待遇者及宣誓して陸軍の勤務に服する者を謂ふ但し予備又は退職の文官は此の限に在らす
第十五条 海軍軍人と称するは海軍刑法に於て海軍軍人と為す者を謂ふ
第十六条 上官と称するは命令関係ある陸軍軍人間に於て命令権を有する者を謂ふ
命令関係なき者の間に於ては官等、等級又は階級の上なる者は之を上官に準す但し兵卒は下士勤務上等兵を除くの外総て同等とす
第十七条 司令官と称するは軍隊の同令に任する陸軍軍人を謂ふ
第十八条 哨兵の称するは儀仗又は警戒の為守地に在る陸軍軍人を謂ふ
第十九条 部隊と称するは陸軍の軍隊、官衙、学校、特務機関及戦時に於ける陸軍の特設機関を謂ふ
第二十条 軍中と称するは左に記載したる部隊に在る場合を謂ふ
一 戦時の体勢を執りたる部隊但し留守部隊、衙成勤務に服する後備又は国民諸隊、戦地以外の地に在る輸送又は補給諸機関にして対敵状態に在らさるものを除く
二 戦時の体勢を執らさるも対敵状態に在る部隊
三 事変又は一地方の騷擾に際し其の鎮定に従事する部隊
第二十一条 陸軍に於て死刑を執行するときは陸軍法衙を管轄する長官の定むる場所に於て銃殺す
第二十二条 多衆共同の暴行を鎮圧する為又は敵前に在る部隊の急迫に臨み軍紀を保持する為巳むことを得さる出てたる行為は之を罰せす
必要の程度を超えたる行為は情状に因り其の刑を減軽又は免除することを得
第二十三条 前条の規定は刑法又は他の法令の罪と為るへき行為に亦之を適用す
第二十四条 本法及海軍刑法に於て俱に罰すへき正条あり且其の刑に軽重なきときは陸軍軍人に準する者と雖海軍軍人に対しては海軍刑法を適用す
第二編 罪
第一章 叛乱の罪
第二十五条 党を結ひ兵器を執り反乱を為したる者は左の区別に従て処断す
一 首魁は死刑に処す
二 謀議に参与し又は群衆の指揮を為したる者は死刑、無期若は五年以上の懲役又は禁錮に処し其の他諸般の職務に従事したる者は三年以上の有期の懲役又は禁錮に処す
三 附和隨行したる者は五年以下の懲役又は禁錮に処す
第二十六条 反乱を為す目的を以て党を結ひ兵器、弾薬其の他軍用に供するに物を劫掠したる者は前条の例に同し
第二十七条 左に記載したる行為を為したる者は死刑に処す
一 軍隊又は要塞、陣営、艦船、兵器、弾薬、其の他軍用に供する場所、建造物其の他の物を敵国に交付すること
二 敵国の為に間諜を為し又は敵国の間諜を幇助すること
三 軍事上の機密を敵国に漏泄するすること
四 敵国の為に嚮導を為し又は地理を指示すること
五 敵国に降らしむる為司令官を強要すること
六 敵国の為に俘虜を奪守し又は之を逃走せしむること
第二十八条 敵国を利する為左に記載したる行為を為したる者は死刑に処す
一 要塞、陣営、艦船、兵器、弾薬其の他軍用に供する場所、建造物其の他の物を損壞し又は使用すること能はさるに至らしむること
二 水陸の通路、橋梁を損壊又は壅塞し又は其の他の方法を以て軍隊、艦船の往来の妨害を生せしむること
三 司令官軍隊を率いて守地若は配置の地に就かす又は其の地を離るること
四 隊兵を解散し又は其の潰走混乱を誘起し又は其の連絡集合を妨害すること
五 兵器、弾薬、糧食、被服其の他軍用に供する物を欠乏せしむること
六 命令、通報若は報告を詐り伝へ又は虚偽の命令、通報若は報告を為すこと
七 造言飛語し又は敵前に於て叫呼喧噪すること
第二十九条 前二条に記載したる以外の方法を以て敵国に軍事上の利益を与へ又は帝国の軍事上の利益を害したる者は死刑又は無期若は五年以上の懲役に処す
第三十条 反乱者又は内乱者を利する為前三条に記載したる行為を為したる者は死刑、無期若は三年以上の懲役又は禁錮に処す
第三十一条 前六条の未遂罪は之を罰す
第三十二条 第二十五条乃至第三十条の罪の予備又は陰謀を為したる者は一年以上の有期の懲殺又は禁錮に処す
第三十三条 第二十五条又は第二十六条の罪の予備又は陰謀を為したる者未た事を行はさる前自首したるときは其の刑を免除す
第三十四条 本章の規定は戦時同盟国に対する行為に亦之を適用す
第二章 擅権の罪
第三十五条 司令官外国に対し故なく戦闘を開始したるときは死刑に処す
第三十六条 司令官休戦又は媾和の告知を受けたる後故なく戦闘を為したるときは死刑に処す
第三十七条 同令官権外の事に於て已むことを得さる理由なくして檀に軍隊を進退したるときは死刑又は無期若は七年以上の禁錮に処す
第三十八条 命令を待たす故なく戦鬪を為したる者は死刑又は無期若は七年以上の禁錮に処す
第三十九条 本章の未遂罪は之を罰す
第三章 辱職の罪
第四十条 司令官真の尽すへき所を尽さすして敵に降り又は要塞を敵に委したるときは死刑に処す
第四十一条 司令官野戦の時に在りて隊兵を率い敵に降りたるときは其の尽すへき所を尽したる場合と雖六月以下の禁錮に処す
第四十二条 司令官敵前に於て其の尽すへき所を尽さすして隊兵を率ひ逃避したるときは死刑に処す
第四十三条 司令官軍隊を率い故なく守地若は配置の地に就かす又は其の地を離れたるときは左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは死刑に処す
二 戦時、軍中又は戒厳地境なるときは五年以上の有期禁錮に処す
三 其の他の場合なるときは三年以下の禁錮に処す
第四十四条 司令官出兵を要求する権ある官憲より其の要求を受け故なく之に応せさるときは二年以下の禁錮に処す
第四十五条 将校部隊若は一部の兵員を率い又は之に属し輸送船舶に在りて敵の艦船に遭遇したる際其の尽すへき所を尽さすして其の船舶を退去したるときは死刑、無期若は十年以上の懲役又は禁錮に処す
第四十六条 部下多衆共同して罪を犯すに当り鎮定の方法を尽ささる者は三年以下の禁錮に処す
第四十七条 哨兵故なく守地を離れたるときは左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは死刑に処す
二 軍中又は戒厳地境なるときは三年以下の禁錮に処す
三 其の他の場合なるときは一年以下の禁錮に処す
第四十八条 哨兵睡眠又は酩酊して其の職務を怠りたるときは左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは五年以下の禁錮に処す
二 其の他の場合なるときは一年以下の禁錮に処す
第四十九条 ■兵、■兵、巡察、斥候其の他警戒又は伝令の勤務に服する者故なく勤務の場所若は隊伍を離れたるとき又は到るへき場所に到らさるときは左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは死刑又は無期若は十年以上の禁錮に処す
二 軍中又は戒厳地境なるときは二年以下の禁錮に処す
三 其の他の場合なるときは一年以下の禁錮に処す
第五十条 故なく規則に依らすして哨兵を交代せしめ其の他哨令に違反したる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは一年以上五年以下の禁錮に処す
二 軍中又は戒厳地境なるときは三年以下の禁錮に処す
三 其の他の場合なるときは一年以下の禁錮に処す
第五十一条 戦時、軍中又は戒厳地境に在りて斥候、巡察又は偵察の勤務に服する者虚偽の報告を為したるときは七年以下の懲役に処す
戦時、軍中又は戒厳地境に在りて軍事に関する命令、通報又は報告の伝達を掌る者其の命令、通報若は報告を詐り伝へ又は故なく之を伝達せさるとき亦前項に同し
第五十二条 軍事機密の図書、物件を保管する者危急の時に当り之を敵に委せさる方法を尽ささるときは五年以下の禁錮に処す
第五十三条 戦時、軍中又は戒厳地境に在りて兵器、弾薬、糧食、被服其の他軍用に供する物の運搬又は支給を掌る者故なく之を欠乏せしめたるときは一年以上十年以下の懲役に処す
第五十四条 健康を害すへき飲食物を配給したる者は一年以上十年以下の懲役に処す因て人を死に致したる者は無期又は五年以上の懲役に処す
第五十五条 従軍を免れ又は危険なる勤務を避くる目的を以て疾病を作為し、身体を毀傷し其の他詐偽の行為を為したる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは五年以上の有期懲役に処す
二 其の他の場合なるときは五年以下の懲役に処す
第五十六条 第四十条、第四十二条、第四十三条、第四十五条、第四十七条、第四十九条第五十一条及第五十三条乃至第五十五条の未遂罪は之を罰す
第四章 抗命の罪
第五十七条 上官の命令に反抗し又は之に服旋せさる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは死刑又は無期若は十年以上の禁錮に処す
二 軍中又は戒厳地境なるときは一年以上七年以下の禁錮に処す
三 其の他の場合なるときは二年以下の禁錮に処す
第五十八条 党与して前条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは首魁は死刑に処し其の他の者は死刑又は無期禁錮に処す
二 軍中又は戒厳地境なるときは首魁は無期又は五年以上の禁錮に処し其の他の者は一年以上十年以下の禁錮に処す
三 其の他の場合なるときは首魁は三年以上十年以下の禁錮に処し其の他の者は五年以下の禁錮に処す
第五十九条 暴行を為すに当り上官の制止に従はさる者は三年以下の禁錮に処す
第五章 暴行脅迫の罪
第六十条 上官に対し暴行又は脅迫を為したる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは一年以上十年以下の懲役又は禁錮に処す
二 其の他の場合なるときは五年以下の懲役又は禁錮に処す
第六十一条 党与して前条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは首魁は無期若は十年以上の懲役又は禁錮に処し其の他の者は三年以上の有期の懲役又は禁錮に処す
二 其の他の場合なるときは首魁は五年以上の有期の懲役又は禁錮に処し其の他の者は十年以下の懲役又は禁錮に処す
第六十二条 上官に対し兵器又は兇器を用いて暴行又は脅迫を為したる者は左の区別に於て処断す
一 敵前なるときは死刑、無期若は十年以上の懲役又は禁錮に処す
二 其の他の場合なるときは無期若は二年以上の懲役又は禁錮に処す
第六十三条 党与して前条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは首魁は死刑に処し其の他の者は死刑又は無期の懲役若は禁錮に処す
二 其の他の場合なるときは首魁は死刑又は無期の懲役若は禁錮に処し其の他の者の他の者は死刑、無期若は五年以上の懲役又は禁錮に処す
第六十四条 哨兵に対し暴行又は脅迫を為したる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは七年以下の懲役又は禁錮に処す
二 其の他の場合なるときは四年以下の懲役又は禁錮に処す
第六十五条 党与して前条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは首魁は三年以上の有期の懲役又は禁錮に処し其の他の者は十年以下の懲役又は禁錮に処す
二 其の他の場合なるときは首魁は一年以上十年以下の懲役又は禁錮に処し其の他の者は五年以下の懲役又は禁錮に処す
第六十六条 哨兵に対し兵器又は兇器を用いて暴行又は脅迫を為したる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは無期若は五年以上の懲役又は禁錮に処す
二 其の他の場合なるときは一年以上の有期の懲役又は禁錮に処す
第六十七条 党与して前条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは首魁は死刑又は無期の懲役若は禁錮に処し其の他の者は無期若は七年以上の懲役又は禁錮に処す
二 其の他の場合なるときは首魁は死刑、無期若は七年以上の懲役又は禁錮に処し其の他の者は無期若は二年以上の懲役又は禁錮に処す
第六十八条 上官又は哨兵以外の陸軍軍人其の職務を執行するに当り之に対し暴行又は脅迫を為したる者は四年以下の懲役又は禁錮に処す
党与して前項の罪を犯したるときは首魁は六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処し其の他の者は五年以下の懲役又は禁錮に処す
第六十九条 上官又は哨兵以外の陸軍軍人其の職務を執行するに当り之に対し兵器又は兇器を用いて暴行又は脅迫を為したる者は一年以上十年以下の懲役又は禁錮に処す
党与して前項の罪を犯したるときは首魁は無期若は三年以上の懲役又は禁錮に処し其の他の者は一年以上の有期の懲役又は禁錮に処す
第七十条 多衆聚合して暴行又は脅迫を為したる者は左の区別に従て処断す
一 首魁は三年以上の有期の懲役又は禁錮に処す
二 他人を指揮し又は他人に率先して勢を助けたる者は一年以上十年以下の懲役又は禁錮に処す
三 附和隨行したる者は二年以下の懲役又は禁錮に処す
第七十一条 職権を濫用して陵虐の行為を為したる者は三年以下の懲役又は禁錮に処す
第七十二条 第六十条乃至第七十条の未遂罪は之を罰す
第五章 侮辱の罪
第七十三条 上官を其の面前に於て侮辱したる者は三年以下の懲役又は禁錮に処す
文書、図画若は偶像を公示し又は演説を為し其の他公然の方法を以て上官を侮辱したる者は五年以下の懲役又は禁錮に処す
第七十四条 哨兵を其の面前に於て侮辱したる者は二年以下の懲役又は禁錮に処す
第七章 逃亡の罪
第七十五条 故なく職役を離れ又は職役に就かさる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは死刑無期若は五年以上の懲役又は禁錮に処す
二 戦時、軍中又は戒厳地境に在りて三日を過きたるときは五年以下の懲役又は禁錮に処す
三 其の他の場合に於て六日を過きたるときは二年以下の懲役又は禁錮に処す
第七十六条 党与して前条の罪を犯したる者は左の区割に於て処断す
一 敵前なるときは首魁は死刑又は無期の懲役若は禁錮に処し其の他の者は死刑、無期若は七年以上の懲役又は禁錮に処す
二 戦時、軍中又は戒厳地境に在りて三日を過きたるときは首魁は五年以上の有期の懲役又は禁錮に処し其の他の者は六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処す
三 其の他の場合に於て六日を過きたるときは首魁は一年以上七年以下の懲役又は禁錮に処し其の他の者は三年以下の懲役又は禁錮に処す
第七十七条 敵に奔りたる者は死刑又は無期の懲役若は禁錮に処す
第七十八条 第七十五条第一号、第七十六条第一号及前条の未遂罪は之を罰す
第八章 軍用物損壞の罪
第七十九条 陸軍の工場、船舶、戦闘の用に供する建造物、汽車、電車若は橋梁又は陸軍の軍用に供する物を貯蔵する倉庫を焼燬したる者は死刑又は無期若は十年以上の懲役に処す
第八十条 露積したる兵器、弾薬、糧食、被服其の他陸軍の軍用に供する物を焼燬したる者は左の区別に従て処断す
一 戦時、軍中又は戒厳地境なるときは死刑又は無期懲役に処す
二 其の他の場合なるときは無期又は二年以上の懲役に処す
第八十一条 火薬、汽缶其の他激発すへき物を破裂せしめて前二条に記載したる物を損壊したる者は焼燬の例に同し
第八十二条 第七十九条に記載したる物又は陸軍戦闘の用に供する鉄道、電線若は水陸の通路を損壊し又は使用すること能はさるに至らしめたる者は無期又は二年以上の懲役に処す
第八十三条 兵器、弾薬、糧食、被服、馬匹其の他陸軍の軍用に供する物を毀棄又は傷害したる者は十年以下の懲役又は禁錮に処す
第八十四条 第七十九条乃至第八十二条の未遂罪は之を罰す
第八十五条 本章の規定は陸軍と共同作戦に従ふ外国陸海軍の軍用物に対する行為に亦之を適用す
第九章 掠奪の罪
■29■第八十六条 戦地又は帝国軍の占領地に於て住民の財物を掠奪したる者は一年以上の有期懲役に処す
前項の罪を犯すに当り婦女を強姦したるときは無期又は七年以上の懲役に処す
第八十七条 戦場に於て戦死者又は戦傷病者の衣服其の他の財物を■奪したる者は一年以上の有期懲役に処す
第八十八条 前二条の罪を犯す者人を傷したるときは無期又は七年以上の懲役に処し死に致したるときは死刑又は無期懲役に処す
第八十九条 本章の未遂罪は之を罰す
第十章 俘虜に関する罪
第九十条
俘虜を看守又は護送する者其の俘虜を逃走せしめたるときは三年以上の有期懲役に処す
第九十一条 俘虜を逃走せしめたる者は十年以下の懲役に処す
俘虜を逃走せしむる目的を以て器具を給与し其の他逃走を容易ならしむへき行為を為したる者は七年以下の懲役に処す
前項の目的を以て暴行又は脅迫を為したる者は一年以上十年以下の懲役に処す
第九十二条 俘虜を奪取したる者は二年以上の有期懲役に処す
第九十三条 逃走したる俘虜を蔵匿し又は隠避せしめたる者は五年以下の懲役に処す
第九十四条 第九十条乃至第九十二条の未遂罪は之を罰す
第十一章 違令の罪
第九十五条 哨兵を欺きて哨所を通過し又は哨兵の制止に背きたる者は左の区別に従て処断す
一 敵前なるときは一年以上五年以下の禁錮に処す
二 軍中又は戒厳地境なるときは三年以下の禁錮に処す
三 其の他の場合なるときは一年以下の禁錮に処す
前項の外哨兵に対し哨令を犯したる者亦前項に同し
第九十六条 在郷軍人故なく召集の期限に■れたるときは左の区別に従て処断す
一 戦時に際し又は事変の為召集を受けたる場合に於て五日を過きたる者は二年以下の禁錮に処す
二 其の他の場合に於て十日を過きたる者は一年以下の禁錮に処す
第九十七条 兵役を免るる目的を以て疾病を作為し、身体を毀傷し其の他詐偽の行為を為したる者は三年以下の懲役に処す
在郷軍人召集を免るる目的を以て前項の行為を為したるとき亦前項に同し
第九十八条 戦時、軍中又は戒厳地境に在りて軍事に関する虚偽の命令、通報又は報告を為したる者は五年以下の懲役に処す
第九十九条 戦時又は事変に際し軍事に関し造言飛語を為したる者は三年以下の禁錮に処す
第百条 礼砲、銃砲其の砲空包を発すへき場合に於て弾丸、■石其の他の物を装填して発したる者は二年以下の禁錮に処す
第百一条 哨兵又は衞兵故なく銃砲を発したるときは二年以下の禁錮に処す
第百二条 戦時、軍中又は戒厳地境に在はりて急呼の号報ありたる場合に故なく来会せさる者は二年以下の禁錮に処す
第百三条 政治に関し上書、建白其の他請願を為し又は演説若は文書を以て意見を公にしたる者は三年以下の禁錮に処す
第百四条 服従の義務に違ふへき事を目的として党を結ひたるときは首魁は六月以上五年以下の禁錮に処し其の他の者は二年以下の禁錮に処す
附則
本法施行の期日は勅令を以て之を定む
明治十四年第六十九号布告陸軍刑法は之を廃止す
(Source:国立公文書館 A03020745200)
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