追加日清通商航海条約（一部ひらがな化、一部新字体化）
大日本國皇帝陛下及
大清國皇帝陛下ハ明治三十四年九月七日即光緒二十七年七月二十五日北京ニ於テ調印セラレタル最終議定書第十一條ノ規定ニ充分ノ效力ヲ與ヘムカ爲メ日清兩國間ノ通商關係ヲ簡易ニシ且増進セシムルヲ目的トシタル追加通商航海條約ヲ締結スルコトニ決シ之カ爲メニ
大日本國皇帝陛下ハ公使館一等書記官從五位勳五等日置益總領事正六位勳五等小田切萬壽之助ヲ
大清國皇帝陛下ハ工部尚書呂海寰太子少保前工部左侍郎盛宣懷商部左侍郎伍廷芳ヲ各其ノ全權委員ニ任命セリ因テ各全權委員ハ互ニ其ノ委任状ヲ示シ其ノ良好妥當ナルヲ認メ以テ左ノ條項ヲ協議決定セリ
第一條 清國ハ其ノ財政制度ヲ改正スル目的ヲ有シ而シテ釐金制度ノ全廢ニ依リテ生スヘキ缺損ノ一部ヲ填補スル爲メ海關又ハ内地及國境ノ税關ヲ通過スル各種貨物ニ對シ關税ノ外ニ附加税ヲ徴収スルコトヲ提議シタルヲ以テ日本國ハ清國カ各條約國ト協議ノ上決定スルモノト同率ノ附加税ヲ支拂フコトヲ承諾ス
清國ノ徴収スル生産税消費税機械製造品税又内國産鴉片及鹽ノ税ニ關シ日本國ハ各條約國カ清國ト協議決定スヘキ同一ノ取極ニ依ルコトヲ承諾ス
但シ本條ノ爲メ日本國ノ貿易權利及特權ハ他國ノ貿易權利及ひ特權ニ比シ何等不利益ノ地位ニ置カルルコトナカルヘキコト勿論タルヘシ
第二條 清國政府ハ日本國汽船所有者カ自己ノ費用ヲ以テ楊子江宜昌重慶間ノ急流曳上セノ爲メニ設備ヲ爲スコトヲ承諾ス然レトモ右ハ四川湖南湖北各省人民ノ利害ニ關スル處アルヲ以テ其ノ設置前清國海關ノ認可ヲ得ルコトヲ要ス
右設備ハ汽船及清國形船舶共ニ之ヲ使用スルコトヲ得ヘキモノニシテ水路又ハ清國形船舶ノ自由航行若ハ沿岸道路人民ノ交通ヲ妨クルコトヲ得ス右設備ニ關シテハ清國海關ニ於テ制定スヘキ特別規則ニ從フヘシ
第三條 清國政府ハ内河航行ニ適スル各種ノ日本國汽船カ清國海關ニ届出テノ上内地水路汽船航通規則及同追加規則ニ依リ貿易ノ目的ヲ以テ清國開港場ヨリ其ノ屆出テタル内地ニ航行スルコトヲ承諾ス
第四條 清國臣民ニシテ日本國臣民ト共同シテ正當ナル目的ヲ以テ組合又ハ會社ヲ組織スル場合ニハ契約又ハ覺書竝定款及右ニ基キ作リタル細則ニ據リ右組合及會社ノ各員ト共ニ公平ニ損益ヲ分ツモノトス又右清國臣民ハ自ラ承認シ且日本國裁判所ノ解釋ニ從フヘキ該契約又ハ覺書竝定款及右ニ基キ作リタル細則ニ定メタル義務ヲ履行スヘキモノトス若清國臣民ニシテ斯ク定メタル處ノ義務ヲ履行セサルカ爲メ訴訟ヲ提起セラレタルトキハ清國裁判所ハ直チニ右義務ノ履行ヲ強制スヘシ
日本国臣民にして清国臣民と共同して組合又は会社を組織する場合には契約又は覺書竝定款若ハ之ニ基キ作リタル細則ニ據リ公平ニ損益ヲ分ツヘシ若日本國臣民カ契約又ハ覺書竝定款若ハ之ニ基キ作リタル細則ニ定メタル處ノ義務ヲ履行セサルトキハ日本國裁判所モ亦右同樣直チニ義務ノ履行ヲ強制スルコト勿論タルヘシ
第五條 清國政府ハ清國臣民カ日本國臣民ノ有スル登録濟商標ヲ侵害スルヲ禁遏スル爲メ必要ナル規則ヲ設ケ且誠實ニ之ヲ執行スヘキコトヲ約ス
清國政府ハ又清國語ヲ以テ編製シ且特ニ清國人ノ使用ニ供スル爲メ作製セラレタル書籍冊子地圖及海圖ニ關シ日本國臣民ノ有スル登録濟版權ヲ保護スル爲メニ必要ナル規則ヲ制定スヘキコトヲ約ス
清國政府ハ登録局ヲ設置シ商標及版權保護ノ爲メ今後同國政府ニ於テ制定スヘキ規則ノ定ムル所ニ從ヒ其ノ保護ヲ求ムル外國商標及版權ノ登録ヲ爲スヘシ
日本國法律規則ノ定ムル所ニ從ヒ正當ニ登録セラレタル清國商標及版權ハ日本國ニ於ケル侵害ニ對シ同樣ノ保護ヲ受クルコト勿論タルヘシ
本條ハ清國ノ安寧ヲ害セムトスル公刊物ノ著作者所有主若ハ販賣人タル日本國臣民又ハ清國臣民ヲ法律ノ正當ナル進行ニ對シ庇護スルモノト解スヘカラス
第六條 清國政府ハ成ルヘク速ニ自ラ進テ全國一定ノ貨幤制度ヲ創設シ全國一定ノ流通貨幤ヲ設備スヘキコトヲ約ス右流通貨幣ハ清國内ニ於テ日清兩國臣民均シク法貨トシテ自由ニ一切ノ租税賦課及其ノ他ノ債務ノ辨濟ニ使用スルコトヲ得ヘシ但シ關税ハ海關兩ヲ基礎トシ計算シテ支拂フコト勿論タルヘシ
第七條 清國各省ニ於テ商業者及一般人民カ普通及商業ノ爲メニ使用スル度量衡ハ區々一定セス且政府ノ定メタル本位ニ違ヒ清國及外國商人ノ貿易ニ障碍アリ是ヲ以テ清國各省ノ總督巡撫ハ其ノ時ノ状勢ヲ詳査シ會同協議シテ一定ノ本位ヲ商定シ上奏ノ上之ヲ採用シ全國官民ノ一切取引ニ使用セシメ先ツ開市場ヨリ實施シ漸次内地ニ及ホスヘキコトヲ約ス若新定ノ度量衡ト現行ノ度量衡トノ間ニ差異アル時ハ其ノ差異ノ額ニ應シ増減ノ上公平ニ算定スヘシ
第八條 光緒二十四年五月ノ内地水路汽船航通規則及同年七月ノ追加規則ハ實行上不便ノ箇處アルヲ以テ清國政府ハ之ニ修正ヲ加へ本條約ニ右新規則ヲ添付スヘキコトヲ約ス此等ノ規則ハ相互ノ同意ニ依リ變改セラルルマテハ其ノ效力ヲ有スルモノトス
第九條 日清兩國間ニ現ニ存在スル凡テノ條約及約定ノ規定ハ本條約ニ依テ改正又ハ廢止セラレサル限リ茲ニ其ノ效力ヲ確認ス又日本國ノ政府官吏臣民通商航海運漕工業及一切ノ財産ハ
大清國皇帝陛下又ハ清國政府又ハ清國諸省若ハ地方官衙ヨリ他國ノ政府官吏臣民通商航海運漕工業又ハ財産ニ既ニ附與セラレ又ハ將來附與セラルヘキ一切ノ特權免除及利益ヲ自由且完全ニ享受スヘキコトヲ明ニ茲ニ規定ス
日本國政府ハ日本國ニ在ル清國官吏及臣民ニ對シ帝國法律規則ノ許ス限リ成ルヘク優遇ヲ與フルコトニ努ムヘシ
第十條 兩締盟國ハ直隷省ニ駐屯スル外國軍隊及公使館護衛兵ノ總テ撤退シタル場合ニ於テ清國ハ直ちニ自ラ進テ外國人ノ居住及貿易ノ爲メ北京市内ノ一地區ヲ開クコト竝之ニ關スル規則ハ其ノ時ニ於テ雙方協議ノ上決定スヘキコトヲ約ス
清國政府ハ本條約批准交換ノ日ヨリ六個月以内ニ既ニ外國貿易ニ開カレタル港市ト同一ノ條件ヲ以テ湖南省長沙府ヲ外國貿易ノ爲メニ開クヘキコトヲ約ス同開港場在留外國人ハ清國居住民ト同シク地方及警察規則ヲ遵守スヘク清國官廳ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ該條約港區域内ニ自己ノ地方役場又ハ警察ヲ設置スルコトヲ得ス
清國政府ハ本條約批准交換後直チニ各國人ノ居住及貿易ノ爲メ自ラ進テ盛京省奉天府及同省大東溝ヲ開クヘキコトヲ約ス外國人ノ使用ニ供スル爲メニ適當ナル地域ノ撰擇竝外國人ノ居住及貿易ノ爲メ定メラルル場所ノ規則ハ日清兩國政府協議ノ上之ヲ定ムヘシ
第十一條 清國政府ハ其ノ司法制度ヲ改正シテ日本國及西洋各國ノ制度ニ適合セシムルコトヲ熱望スルヲ以テ日本國ハ右改正ニ對シ一切ノ援助ヲ與フヘキコトヲ約シ且清國法律ノ状態其ノ施行ノ設備及其ノ他ノ要件ニシテ日本國カ滿足ヲ表スルトキハ其ノ治外法權ヲ撤去スルニ躊躇セサルヘシ
第十二條 本條約ハ日本文漢文及英文ニテ調印スヘシ然レトモ將來ノ紛議ヲ避クル爲メ兩締盟國全權委員ハ日本文本文ト漢文本文トノ間ニ解釋ノ相違アル場合ニハ其ノ相違ノ点ハ英文本文ニ照ラシテ之ヲ決定スヘキコトヲ約ス
第十三條 本條約ハ
大日本國皇帝陛下及
大清國皇帝陛下之ヲ批准セラルヘク而シテ其ノ批准書ハ本日ヨリ六箇月以内ニ成ルヘク速ニ北京ニ於テ交換スヘシ
右證據トシテ兩國全權委員ハ本條約ニ署名調印スルモノナリ
明治三十六年十月八日即
光緒二十九年八月十八日上海ニ於テ之ヲ作ル
大日本國條約改訂委員
公使館一等書記官從五位勳五等 日置益 ＜印＞
總領事正六位勳五等 小田切萬壽之助 ＜印＞
大清國條約改訂委員
工部尚書 呂海寰
太子少保前工部左侍郎 盛宣懷 ＜印＞
商部左侍郎 伍廷芳
（国立公文書館：日清追加通商航海条約）（19031008日清追加通商航海条約.PDF）
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