重要産業五ケ年計画要綱実施に関する政策大綱（案）（ひらがな化、一部新字体化、一部省略）
昭和十二、六、一〇
陸 軍 試 案
重要產業五ケ年計畫要綱實施ニ關スル政策大綱（案）
（目次省略）
第一 方 針
重要産業五ヶ年計画の実行に方りては日満両国に亘り次に示す如き金融政策、貿易及為替政策、物価対策、産業統制政策、技術員労働者対策、機械工業対策、交通政策、国民生活の安定保証政策、財政政策、行政機構の改革等を緊急実施し計画の支障なき遂行を期すると共に日満支「ブロック」の結成と自給経済の確立並日満両国国民経済の偕調的発展、一般国民生活の向上安定を図り以て帝国の総合的国防力の拡充に資するものとす
第二 方 策
一、金融政策
本計画の遂行に伴ひ新に必要とすへき各種資金を推定するに概ね左の如し
（表省略）
而して前記約百七十億円の所要資金に対し之に賄ふへき国民貯蓄は今後本計画期間に於て約百七十億円に達するものと推定せらる（附表其二参照）
然れとも以上の外更に、地方債及対外投資を併せて五ヶ年約十数億円の資金需要あるを以て本計画遂行に際し其資金調達を極端に悲観すへきの必要なきも相当の統制を必要とすること予想に難からす
之か為帝国は官民挙つて真に協力一致本計画の円滑なる遂行に邁進すへきものとす 今、本計画遂行上必要なる若干の金融対策事項を述ふれは次の如し
(一)本計画遂行に伴ふ建設所要資金の供給を潤沢ならしむる為金融指導の原則は現存金融機関の積極的自発的協力に依り其円滑なる運営を期す
(二)然れとも調達市場に於ける各種支障を生せさらしむるか為必要妥当なる統制を行ふ其主眼とする所左の如し
本計画所要資金の供給を容易ならしむる為
資金供給の源泉たる新規蓄積の積極的増加を図る為
資金投下を調整し其重複を防止する為
適切妥当なる金利政策を堅持する為
(三)之か為必要なる若干の具体策を例示せは左の如し
(１)資金調達を容易ならしむる為の対策
イ、日本銀行条令を改正し同行をして基本的産業金融を管掌せしむ
ロ、同行に対し各種金融機関の統制管理に関する権能を与ふ
ハ、日本興業銀行法を改正し現債券発行法定最高限度を十五倍迄拡張す。之か為政府出資の下に必要なる増資を行ふ
ニ、同行に対し公社債発行受託の独占権を賦与し、起債市場の統制を行ふ
ホ、担保物権制度の改正を行ふ
ヘ、預金部及簡易生命保険資金の対産業融資を拡大す
(２)蓄積増加の為の対策
イ、一大国民運動を興し、消費節約、勤検貯蓄を励行す
ロ、現行郵便貯金預入最低額の引下けを行ふ（十銭より五銭に）
ハ、郵便貯金の戸毎取立制度を行ふ（簡易保険料金の如く）
(３)資金投下調整の為の対策
イ、不急不要事業に対する新規投資を抑制す
ロ、日本銀行をして各種金融機関の資金運用に付監督指導を行はしむ
ハ、二重投資を抑制す
(４)金利対策
イ、全般低金利政策を堅持す
ロ、興業銀行の公社債統一引受に依り公社債利回り統制を行ふ
ハ、長期金利と公債利子との調整を行ふ
ニ、短期金利昂騰抑制の為、特に預金部資金の運用を適当ならしむ
ホ、各種金融機関の合同及合理化を促進し極力金融「コスト」の低下を図る
(四)健全通貨政策の遂行を図り中央銀行の統制下に適時適切なる市場操作を行ふ
二、貿易及為替政策
本計画実施に伴ふ日満を一体とする国際収支を発想するに次表の如く昭和十二及十三両年度に於ける国際支払不足は十億円を突破し年内産金の現送のみを以てしては之を補填することを得す、然れ共生産力の充実に伴ひ十五年度以降に於ては此の頽勢を挽回し、国際収支は好転するものと予想せらる。
本計画遂行に伴ふ日満一体国際収支予想 （単位 百万円）
（表省略）
而して之か好転の成否は懸つて政府の適切なる貿易並為替対策に在るを以て次の如き方策を講するの必要あるものとす。
(一)貿易政策
(１)全般的貿易統制策
(イ)貿易統制法を制定し、内外地を同一に規律すると共に、貿易組合法を設け、当業者の自治的統制と共同の利益を促進す。
(ロ)貿易省を設立し、貿易の調整及管理の適正を期す。
(ハ)国策貿易株式会社を設立し、国防重要産業品の輸出入を行はしむ。
(２)積極的輸出促進策
輸出の重点は軍需工業品及生産財に之を置く。但し、国際収支の均衡を保持するため依然繊維工業及消費財の輸出増進をも促進す（附表其三参照）
(イ)輸出組合を強化し、当業者の強制加入を命すると共に品質、数量、価格に付自主的統制を行はしむ。
(ロ)輸出金融機関を整備し、輸出金融の円滑を期す。
(ハ)現行輸出補償法を強化し、輸出補償と信用補償に依り対外輸出を促進す。
(ニ)日満商品の宣伝及迅速なる各地貿易情報取得の為世界主要都市に貿易館を設置し且所要地点に貿易通信員を駐在せしむ
(３)消極的輸入抑制策
(イ)現行輸入為替許可制度は要すれは更に之を存続し、不急品及不要品の輸入に付適時適当なる抑制を行ふ
(ロ)関税管理権を貿易大臣に賦与し、関税法を改正し国際収支に重点を置き、復関税制度及関税撤廃を目標とする日満特恵関税制度を採用す
(ハ)米、濠、独、加、印等入超国に対し求償主義に基く輸出促進若くは輸入抑制を要求し、中南米、近東の出超国に対しては求償に応し、輸入補償制度に依る分散買付制度を採用す
(４)貿易外収支の改善
(イ)海運業の発展を助長し海外運賃収入の増加を図る
(ロ)外客誘致に努むると共に、日満人の海外消費を節約せしむ。
(二)為替政策
(イ)努めて対英一志二片を維持し以て為替価格の安定を図る。
(ロ)為替管理法を強化し、資本の海外逃避並海外円投機の防止を徹底的に行ふ。
(ハ)金買上価格を適時適当ならしめ以て産金の画期的奨励を促し（附表其三参照）、満洲中央銀行の保育金を日銀に移譲し、必要なる金現送を行ふ。
(ニ)海外に長期クレディットを設定す。候補国を米、英及独とし、五ヶ年間約五億円とす。
三、物価政策
本計画遂行に伴ふ物資需要の増加に因り物価の水準は本計画期間に於て年約一割内外の騰貴を来すものと推定せらる。
物価並労賃対策を適切にし以て計画の実行に支障無からしむると共に生産費の昂騰等に因り生することあるへき輸出の減退等を防止し且一般国民生活の混乱を避くるを緊要となす之か為左の如き方策を講するの必要あるものとす。
(一)鉄其他緊要なる物資の生産を急速に増大し、凡ゆる方策に依り物資供給を豊富ならしめ、其の流通を円滑ならしむ。
(二)情勢之を要すれは物価統制を強化し、一般物価水準のみならす個別的価格に就ても必要なる抑制を加ふ。
(三)過度の輸入制限に因る国内市場の刺戟特に売惜、見越輸入の激増及之に因る海外市価の吊上等を極力回避す
特に計画産業、輸出産業及主要生活必需品産業に対し優先輸入制を実施し且随時定むへき基準価格に基き輸入価格を審査す
(四)暴利取締令を強化し一切の供給制限及不当利益を取締り、違反者は厳罰す。
(五)価格官を新設し暴利取締令、重要産業統制法、重要肥料業統制法等に依る価格査察を担当せしむ。
重要商品の値上には政府の許可を必要とせしむ（即時実行）
(六)石炭其他重要国産原材料及機械類のカルテル又は組合（工業組合、商業組合、水産組合、産業組合其他）を統制団体と為し生産、販売其他配給の割当及価格の統制を行ふ。
(七)業者をして在庫高、約定高及生産高を毎月管轄道府県等を経て主務大臣に申告せしむ。
(八)運賃増嵩を防止し併せてスクラップ貯蔵の為要すれは古船大約六五万トンの輸入を図る。
(九)鉄材其他重要商品並紙類の使用統制を行ふ、特に鉄材在りては建築認可に依り亦紙類に在りては新聞及雑誌等の紙数制限に依る
(十)一般生活費の昂騰防止を行ふ。
(１)家賃値上には主務官庁の許可を要せしむるものとし、本計画期間値上は之を許可せさるを原則とす。味噌醤油、肉類、電燈、ガス、水道等の料金に就ても亦同し。
(２)本邦に於ける砂糖消費税の減免を行ふ。
(３)官吏一般に制服制を採用し、民間会社、銀行等をして之に做はしめ、普く一般服装の簡易化を計る。
四、産業統制政策
本計画は信念ある強力なる政府の指導下に官民一致労資協力真に国民一丸となりて始めて急速に実現せらるるものとすと雖要は現経済機構の最効果的なる活用に在るを以て先つ現経済機構並之を運営する有用人物を国家的に最も合理且能率的に動員し、本計画遂行の先駆たらしむるものとす
従つて企業の形態に於ても国有国営形態に依ること無く、努めて民営事業の自主的統制に依り国家の目的を達成する如く必要なる国家管理を強化するものとす。
これか為め以上の方針に基き処置すへき当面の緊要対策左の如し。
(一)産業統制局を左の如く拡充す
(イ)産業統制局の現機能を強化す。
(ロ)統制局に生産、配給及消費の各代表より成る委員会を設置し法律運用の適正且円滑を期す。
(二)重要産業は左の要領に依り之を統制す。
(イ)産業助成政策を強化し、要すれは国策事業に対し助成金の交付、損失補償又は利益保証を為す。
(ロ)計画産業に就ては当該産業別に単行法を制定す。
(ハ)軍需産業に就ては左記事項に関し政府の認可を要せしむ。
１生産設備の縮少及廃止
２生産、販売、労務其他一般営業に関する重要事項
３損益処分
(ニ)単価の抑制は特に必要ある場合に之を行ふ、利潤は必要に応し国策的見地に基き其処置を指導す。
(三)基本産業は左の要領に依り之を拡充す。
(１)鉄鋼業
(イ)原鉱輸入並貯鉱を助成し要すれは屑鉄輸入を抑制す
(ロ)貧鉱処理を奨励す
(ハ)砂鉄利用を促進す
(ニ)特殊精錬法の普及を助成す
(ホ)特殊鋼の品質改良及増産を促進す
(ヘ)鉄鉱の輸入及配給を国策的に統合す
(ト)日満に亘り鋼材及銑鉄配売機構を統一し、其の合理化を図る
(２)石 油
(イ)人造石油及油田の開発に断乎たる国の助成策を遂行し以て液体燃料自給策に邁進す。
(ロ)特殊法人帝国燃料興業株式会社を設立し石油事業に対する金融を潤沢ならしむると共に、必要なる人造石油事業をも実施せしむ。
(ハ)国内機械製作能力（官営を含む）を統制利用し、人造石油製造設備の急速整備を図る。但し開発初期の設備は概ね年産一〇〇万瓲を標準とし国策を以て独逸設備の輸入を行ふ。
(ニ)前項の為速に特殊法人国策機械製作会社を設立し高精度及緊急機械の外専ら人造石油製造設備の製作に当らしむ。之か為建設に要する一万瓲「フォシングプレス」、工作機械等主要設備は独逸に重点を置き国策を以て之か急遽輸入を行ふ。
(ホ)人造石油製造方法及企業形態に対しては別に制限を加ふること無し、但し良質なる航空用揮発油及「デイセル」油を製出するものに重点を指向する如く之を指導す。
(ヘ)軍用人造石油事業開発の重点は大陸に之を置き特に満洲石炭の合理的利用に努めしむ。
(ト)極力既存油田の試掘を促進せしむるの外、帝国及隣邦に亘る広汎且深刻なる国営油脈調査を行ひ以て未発見油田の開発に努む
(チ)代替燃料の研究利用を促進す。
(３)石炭業
(イ)炭田開発の重点は大陸に之を置く。
(ロ)価格及ひ配給は日満を通し一元的に之を統制し、特に満洲炭の日本輸入を促進す。
(ハ)劣悪企業は之を統合整理し以て斯業の合理化を図る。
(４)電 力
(イ)発送電は民有国営とし二重設備の廃止其他設備の合理化及未開発資源の徹底的開発利用を図る。之か為特殊法人日本電力設備株式会社を設立して之か管理経営に当らしむ。
(ロ)配電に付ても価格、設備其他に付必要なる統制を行ふ。
(ハ)所管を商工省とし産業開発に重点を置かしむ。特に全般低料金制を実施し、尚特殊指定産業に対する特定低料金制を行ひ重要国防産業の急速振興を図る。
(ニ)水力開発に重点を置き、水主火従主義を維持す。
(５)アルミニウム及マグネシウム
(イ)豊富且低廉なる電力供給を実施せしめ、極力生産費の引下を行ふ。
(ロ)国策を以て積極的に用途を開拓し一般需用を拡大す。
(ハ)極力大陸資源の利用に努めしむ。
(四)重要産業統制法を左の如く改正す
１産業指定制度を廃止し、一般カルテル法とす
２新設及拡張統制条項を活用し、新規投資の誘導を図る
３公益規定を強化し就中其の運用を迅速且適正ならしむ
４処罰規定を厳重にし、体刑制度を採用し、場合に依り営業権剥奪の制を設く。
(五)日満両国に亘り本計画の実行を内面的に指導統制する為中央に之か総合的指導統制機関を設置す。
(六)特に満洲に在りては製鉄、石炭及石油業を軍需工業に指定し、一般助成の外、軍事的助成に依り之か急速なる開発を行ひ得る如くす。
(七)以上の外重要なる産業に関し研究の統一、助成及発明奨励の処置を講し且所要の資源に関し調査開発を促進す。
五、技術者及労働者対策
本計画の遂行及之に伴ふ一般産業の生産力増大並交通量の増加に因り昭和十六年頃に於ける工、鉱業及交通業等に於ける技術者、熟練工及一般労働者の需要は左の如く増加するものと推定せらる。
（単位千人）
区 分 昭和十一年 昭和十六年 増加人員 増加率
技 術 者 一三七 二三二 九五 一、七％
熟 練 工 六七四 一、三三九 六六五 一、九％
一般労働者 六、〇九〇 八、〇二七 一、九三七 一、三％
右の内、自然増に依り供給せらるる分として技術者七八千人、熟練工五五九千人、一般労働者六、九七五千人を見込み得るの外、技術者に在りては更に下級技術者よりの格上及其他学部より供給せらるるもの九、七八〇人を推算し得るを以て、特に之か養成補充を必要とする数は技術者六、七〇〇人熟練工九六、〇〇〇人、一般労働者一、〇五二、〇〇〇人と推定す之か為政府か採るへき対策左の如し
(一)技術者対策
官公私立大学工学部及工業専門学校卒業生の増加、私立大学工学部新設、工業専門学校及甲種工業学校の昇格、官公私立大学に専門部附設等の方策を講す。
(二)熟練工対策
府県及大工場に熟練工養成所を新設拡張せしむ。
(三)一般労働者対策
主として農業及商業人口より吸引することとし、吸引を円滑ならしむる為職業紹介機能を強化し又工業の地方分散に努む。
(四)所要経費
技術者及熟練工の養成に要する経費（設備費及五年間経常費共）総額八千七百六十万円、内政府支出金五千八百三十万円と推定す
六、機械工業対策
我か現下の生産力よりして本計画に必要なる一切の機械を迅速に自給するは全く不可能の事に属し少くとも速急に当面必要のものは輸入に依りて之を充足せさる可からさるものあり今其額を推計するに概ね左の如し。
（表省略）
而して五ヶ年間の国産機械輸出を十七億円と見込むも尚、多大の入超に終る右の如きは一国重工業の建設期に於ては不可避の事象にして速に彼の設備と技術を採つて我の欠を補ひ、以て敏速に独立自給の途を確保し以て世界市場に進出するの日を近きに期すへきなり之が為採るへき方策左の如し。
(一)特殊法人国策機械製作会社を設立し需要寡少の機械、高級精密工作機械、石炭液化用機械等、技術的並経済的に現存企業にとり困難なるものの製作を管掌せしむ。
(二)国策を以て技術及設備の迅速なる輸入を行ふ、主として国策貿易会社をして之に当らしめ対外注文の統制、海外受注能力の調査及輸入価格の抑制及輸出資金の融通等を行はしむ。
(三)規画の統一、国内発注の合理化及製作品種の統制等に依り速に生産能力の増進を図る。
(四)下請業者の統制に努め其の素質及能力を向上せしむ。
七、交通政策
政府は鉄道、港湾及道路の整備、各種運賃の全面的合理化及不急輸送の整理等に依り、本計画遂行に伴ふ貨物輸送量の増加に備ふるものとす。
別に民間航空に対し、断乎たる保護助長策を講し以て其の画期的振興を図る。
其の主なる事項左の如し。
(一)鉄 道
(イ)貨主客従主義を採用し万難を排して貨物輸送の円滑を期す。
(ロ)満鮮主要幹線の直線化を促進し、其の輸送能力の引上を行ふ。
(ハ)重要産業建設材其の他重要商品に対する特定低運賃制度を採用し、特に満鮮に在りては貨物運賃遠距離逓減制を実施す。
(ニ)所要に応し満鮮重要産業地帯に於ける新線建設及改良を行ふ。
(二)海 運
(イ)自国船自国貨物船主義を確立す。之か為、止むを得されは古船輸入をも行ふ。（前掲）
(ロ)優秀船の建造増加は一層之を促進せしむ。
(ハ)石炭、鋼材、鉄鉱及石油の為特殊輸送船を整備せしむ。
(ニ)重要産業地帯に於ける港湾整備を行ふ。
(三)陸上運輸
(イ)官民挙つて国産自動車採用主義を実行す。但し、本計画期間止むを得さる限度に於ける低価なる「フオード」「シボレー」は例外とす。
(ロ)優秀国産車を以てする大型貨物自動車の普及を促進し、鉄道輸送の不足を補ふ。
(ハ)其の他左の措置を講す。
１自動車運輸に便なる道路の整備
２営業用自動車の規格統一、程度不良車の使用抑制
３デイゼル自動車の普及奨励
４自動車に対する各種税の減免
(四)航 空
(イ)速に中央航空技術研究所を設立し、航空技術の画期的発達を促進せしむ。
(ロ)定期航空運賃を合理化し、極力民間利用率を拡大す。
(ハ)鉄道と航空との一体化を促進し、鉄道に依り航空輸送の発達を図る。
(ニ)保護助成を更に拡大し以て大陸及海洋方面に対する国際定期航空空路を開拓す。
(ホ)其の他左の如き発達助成策を行ふ。
１大会社、大工場等に於ける飛行機保有義務の設定
２特殊機体又は発動機の研究、試作奨励
３民間の国産機買入補助
４国産機の輸出奨励補助
５飛行機に依る魚群探見等奨励
６各種空中作業（写真撮影、測量等）の奨励
７航空保険制度の創設
８航空機製作設備の維持保証等
八、国民生活の安定保証政策
近年我国の産業発達の跡見るへきものありと雖尚其の淵由する処遠からさる為、国富及国民所得の如き列強に比し著しき劣位にあるは否み難し本計画の目標とする所は、固より総合的国力の整備に在り即本計画の遂行に依り発展途上に在る各種産業は、一大躍進を成すに至るへく、此の生産増加に依り我か国民所得は昭和十六年頃には現在の二百億より、三百億以上に上昇するものと推定せらる。而してこの際、特に留意すへきは此の増大すへき国富国民所得の国民各階層への配分か妥当均衡なるへきこと之なり、蓋是、国民生活安定の基調なれはなり之か為農村の振興、都市勤労者の生活向上、中小商工業の救済等に就き左の諸方策を講するものとす
(一)農村の振興。本計画の実行に当り動もすれは生することあるへき都市偏重の弊を矯め、工業の地方分散等に依り農村経済の振興に努むると共に、農民負担を軽減し、その生活を向上せしむるものとす
(１)公租負担の軽減
総額二億千六百万円
内 訳
戸数割の全廃 一四〇百万円
特別地税及附加税の半減 七 〃
雑種税及附加税の半減 五〇 〃
町村役場費中政府事務に課するものの移譲 一九 〃
(２)農民負債の整理
中小農の消費的負債にして農業生産に障碍たるへき高利債並無担保負債より約十五億円を整理す。政府は年額一千万円を限り負債管理組合の損失補償を為すものとす
(３)保険組合制度の設立
町村をして保健組合を設立せしめ、全町村民を強制加入せしむ医療費年額約一七、五〇〇万円（一戸当平均二五円として七百万戸）の財源は、住民の保健掛金、政府補助金、及ひ治療者の自弁等各三等分に之を負担す
(４)自然的農業災害の補償制度の新設
数ケ村単位にて保険組合を組織せしめ主要農産物の収穫保険を行ひ、国営保険にて再保険す。再保険に依り政府の支弁すへき保険金は約六、〇〇〇万円と推定す
(二)都市勤労者の生活向上
(１)産業拡充に伴ふ労働強化、物価高に伴ふ生活水準の低下等に対し極力之か緩和の途を図り、国民労働力の培養と産業平和の維持に努む
(２)工場法を改正し特に過激労働の緩和、傷病者の保護等を行ふ
(３)各種勤労保険の拡大を図る
(４)其他一般勤労者の福利施設を増進せしむ
(三)中小商工業者の保護
我国産業機構に於て、中小商工業の占むる位置極めて重要なるに鑑み、之か更生と救済の為左の処置を講す
(１)中小商工業者の債務整理
(２)中小商工業金融機関の整備
(３)大企業の圧迫排除
(４)経営の合理化及機構の組織化
九、財政政策
本計画の成否如何は一に懸つて帝国政府の一貫せる不動の国策的指導に在ること言を俟たす。政府は国力増強の見地より各種産業に対し凡ゆる政策手段を以つて之を支援するを要すへく、特に政府の財政的助成手段は最も肝要なり
今本計画遂行の為政府の財政的助成を要すと認めらるる額を推定するに概ね左の如し（内訳見込の概要は附表其四参照）
（表省略）
而して国力の充実国防の充備を目的とする帝国の将来歳出（本計画の遂行を目的とする将来の歳出額）を予想するに概ね左表の如く前記助成金は本歳出額中に包含せしめらるるものとす
（表省略）
之か為の対策左の如し
一、右に対する歳入予算は左の方法に依りて之を支弁す
（表省略）
二、政府は右財政政策を遂行する為、金融、消費、其他国民生活の全部門に亘り財政を良好ならしむへき凡ゆる総合的方策を行ふの外特に左の措置を講するを必要とす
(１)予算統制を強化し、歳出の重点は本計画の遂行を助成且可能ならしむるものに之を置き、不急不要経費の徹底的整理を行ふ
(２)生産力の向上、国民所得の増加と相俟ちて、租税体系其他の根本的合理化を行ひ、経常収入の増加を図る
(３)一層軍事費の生産部門への拡充を図る
(４)重工業利潤の農山漁村方面への均霑化を促進す
(５)金融政策と相俟つて公債政策を確立す
(６)官公吏事務能率の向上を目的とする行財政整理を行ふ
十、行政機構の改革
本計画の進行に方りては強力なる行政機構を確立し一貫せる不動の国策として之を堅持すへきものとす之か為国務院を設け国務大臣と各省長官を分離する等現行内閣制度の根本的改革を始め行政機構全般の再検討を要すること必然なるも之か急速なる実現困難なるに因り差当り少くも左の応急処置を講し以て本計画遂行の為の国策運行に支障無からしむること必要なり
(一)本計画遂行の中枢的指導統制機関としての総務庁の設置
(二)貿易の調整及管理の為の貿易省新設
(三)民間航空の画期的発展の為の航空省新設
(四)国民体躯の向上と労働力培養の為の保健省新設
(五)民間の人材を抜擢登用して清新なる産業経綸を行はしむる為の官吏任用令の改正
(六)特殊法人の人事に関しては特に従来の弊に鑑み原則として官吏を登用せさるものとす
附表其一
計画産業の生産力拡大年表
（省略）
附表其二
国民貯蓄の推計表
（省略）
附表其の三
日満重要産業拡充計画所要資金概算表
（省略）
附表其四の一
本計画産業に対する日本政府直接及間接助成経費予想額
（省略）
附表其四の二
本計画遂行の為の附帯事業に対する日本政府助成額予想
（省略）
（国立公文書館：昭和１２年６月１０日 重要産業５ヶ年計画要綱実施に関する政策大綱（案））
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