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マッカーサー書簡 1948年07月22日

 マッカーサー書簡(一部新字体化、不明文字あり)


一九四八年七月二十二日ダグラス・マツカーサー

内閣総理大臣 宛

 余は、目下日本の公務員制度に関して起つている諸問題の解決策としての国家公務員法の適否に付いて、日本政府並に本司令部の代表者間に行はれた合同討議から得られた結論の検討を了した。余は、是正せらる可き現存の欠点に関する右結論には全般的に賛成である。

 国家公務員法の狙いは、日本の政府に民主的且能率的な公務員制度の樹立を規定するに在つた。本計画は近代的な人事制度を定めて、公務員を全民衆の中から、競争試験に依て、取入れることにし、又職階、報酬、訓練、考査、健康、安全、厚生、休養並に関する科学的管理の下に、 実力に基いて■進せしめることを定めた。本制度は被■者の為に不服を申立てる手続を定め、且行政機構に於ける彼等の正当にして公正な待遇を心障している。司法的行政機関に依て実行され、且緊急事態の必要に応じて直ちに改革出來得る様な緊急条項を附加された、本制度は日本に於ける民主主義の成功を阻んだ旧官僚制度の種々の宿弊を是正すに足る建設的計画を定めている。

 今次創設された人事行政の基調は全国民が国会を通じて政府の使用人に対して主権と監督権を行使し、其の国会が人事委員会を通じて科学的人事行政の原理を適用し、且公務員制度、公務員の充足、報酬、■紀、年金及雇用に伴う其の他の条件を標準化すると云ふ考へ方に立つているのである。民主主義の考へ方に基く斯る制度は、法律の忠実な実施と政府へ仕事の能率的運営とを最高の職責として、政治や特権の圧迫に屈しない意図の下に作られたものである。

 本問題に関係のある色々な法規の研究は今や完了したのであるが、情勢に対処する為にはこのまゝでは不十分であることが明となつた。これ等の法規は小数者が団結して政府の権限と権威に加える圧力に突し積極的な保護を与えるものではなく又公務員制定の恩恵と保護を受け又制限に服する義務を有する政府職員の各種職階に対して法規の適用が明かになつていない。全体にわたつて政府に於ける職員関係と、私企業に於ける労働者関係の区別が著しく明確を欠いている。

 占領下日本に於いて労働者が、急速に且つ前例のない地歩を獲得した事実は、現代生活に於て労働組合主義が極めて重要なものであることと現代の産業軽罪に伴う多くの幣害を最正するに当り労働組合運動の有する歷史的意義に対しての余の見解を正常とするものである。然しながら、政府関係に於ては労働運動は極めて制限された範囲に於いて適用せらるべきであり、正常に設定せられて主義を行使する行政、司法、立法の各機関の代用となり或はこれ等に挑戦することはゆるされない。

 産業時代の初期に於いては、支払代価に対する交渉も雇用条件の取極もなく、労働を一商品として取扱う傾向があつた。然し、大量生産の機械技術が発達するにつれ、労働者は相互の利益の為に組織する、よりよき機会が与えられ、そして長期にして且つ困難な闘争によつて、生活水準、労働条件の改善並にある程度の社会保障を獲得する為に、彼等自身の選んだ代表を通じて団体交渉の経済力を確保した。固有の強制力を伴う団結権は産業経済に対し極めて重大な影響を及ぼした経済力を労働組合運動の中に益々伸張せしむるに至つた。民主主義社会に於ては、かかる影響力が労働組合の■■に対する支持を通じて順次政治力として考えられるに至つたが、然し、組合の判断を立法並に行政所に進出せしめ、労働組合が国民全般の正しく並ばれた代表者の、機能を侵害することは、民主主義理念に違反するものである。

 全ての産業化された国々に於いては、労働者の利益を代表するものに限らず、実業者、金融家、農民並に專門業務者の利益を夫々代表する特定の強制力を発動する階級のあることは事実である。民主主義社会に於いては、斯る強制力発動階級が権力と勢力を獲得せんとして争ふがそれは国家統一の根本観念を逸脱すべきではない。「一般民衆」は斯る特定の階級に属しない残りの階級ではなくして、国民全般から成るものであり「一般民衆の利益」は一般の福祉と同じ意味である。

 この観念の重大さは西洋の民主主義国家と同様に日本に於いてもよく理解されているところである。日本憲法自体も「国民連合」と「主権の存する日本国民の総意」を認めている。憲法自体が「この憲法が国民に保障する自由及び権利は国民の不断の努力によつてこれを保持」する原則を確認している。

 又国民はこの憲法を「濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」ものである。

 更に憲法自体は国会を国家権力の「最高機関」たることを示し、この国会は「全国民を代表する」ものである事を明示している。

 若しこの国民の団結と公共利益の優越とを宣言している憲法の根本理念が踏みにじられずに保全せらるべきであるならば、政府の権能の如何なる一部分も私的の団体若は一部の階級にこれをわかち授け若しくは奪はれることは出来ない。若しこの逆が真であるならば「ポツダム」宣言によつて企図せられ憲法によつて作られた日本の「責任ある政府」は存続することが出来ない。自らの主権を他に譲り渡す如き政府は最早責任ある政府ではないと云ふのが基本原理であるからである。

 本来私的の団体たる性質の労働組合は政府の特質をそなへているものではない。組合が発展した如何なる国に於ても自由をな労働組合の力は、常に政府から離れて独立のものであることと並にその合法且正常な目的を追及するに当り、政府の支配から離れて自由であることから生れてきている。

 全体主義的日本の特質であつた圧迫の理論を経てきた日本の労働者も、占領以来大体に於てこの原則を理解し、自由なる労働組合の道を選び、一般公共の利益を擁護せんが為に起る急激な抑制的手段を必然的に挑発す■無分別な方針を回避してきた。彼等は、自由な私的事業に属する自由な労働者は、自由な選挙に於て自由人としての権能を有する以外には国の主権を自ら行ふことは出來ないことを承認してきた。組合主義はそれが個人自身とそして勤労の権威を高揚するものであるが故にこそ、労働者の正当なる目的を追及しつつ、民主々義の最も強固な支柱の一つとなるのである。

 然しその勤労を公務に捧げるものと私的企業に従ふものとの間には顕著な区別が存在する。 前者は国民の主権に基礎をもつ政府によつて使用される手段そのものであつて、その雇用せられる事実によつて与へられた公共の信託に対し無条件の忠誠の義務を負ふ。労働者の権利の唱道者として第一人者であつたかつての米国大統領故「フランクリン、ローズベルト」の言葉によれば「国民はその利益と福祉の為に政府活動のうちに秩序と脈絡とが維持せられることを要求する、公務員の上にはこの国民全体に奉仕する義務が負はされている。これは最高の義務である。彼等自身の職務が政府の機能に関係するものである以上、公務員の争議行為は、彼等自身に於て、要求が満足せらるゝまでは政府の運営を妨害する意図のあることを明示するものにほかならない。自ら支持を誓つた政府を麻痺せしめんと企図するこのような行為は想像し得ないものであると同時に許し得ないものである。」

 ■5■余はこの見解に全面的に賛成である。雇用若しくは任命により日本の政府、機関若しくはその従属団体に地位を有するものは、何人といえども争議行為若しくは政府運営の能率を阻害する遅延戦術その他の紛争戦術に訴えてはならない。何人といえどもかかる地位を有しながら日本の公衆に対しかかる行動に訴えて、公共の信託を裏切るものは、雇用せられているが為に有するすべての権利と特権を放棄するものである。「ローズベルト」大統領は、更に言つている、 「すべての政府職員は普通に知られている所謂団体交渉の手段は公務員の場合には採用出来ないものであることを理解せねばならぬ。団体交渉は国家公務員制度に適用せられるに当つては明確なそして変更し得ない制限を受ける。政府の性質並に目的それ自体がその行政運営に当る官吏をして政府・職員の団体との間の協議若しくは交渉に於て使用主を代表し又は之を拘束することを不可能ならしめている。使用主は全国民である、国民は国会に於けるその代表者により制定せられる法律によりその意志を表明する。従つて行政運営の任に当る官吏も雇用せられて居るものも、均しく人事に関して方針、手続並に規則を定める法律によつて支配せられ、指導せられ又少なからざる場合に於て制約を受けている。」と。

 然しながらこの理念は公務員たるものが、自ら若しくは選ばれた代表を通じ、雇用条件の改善を求めんが為に自由にその意見見解若しくは不満を表明する個人的若しくは団体的の妨げらるることなき権利を有しない意味ではないことを明確に了解せられなければならない。この権利は民主主義社会に固有のものであり奪うべからざるものである、而して余はこの権利は現に提案せられている国家公務員法の修正案の中に十分に規定せられていると信ずる。更に国家の公益を擁護する為に政府職員に課せられた特別の制限があると云う事実は政府に対し常に政府職員の福祉並に利益の為に十分な保護の手段を講じなければならぬ義務を負はしめている。この理念は民主々義社会に於ては完全に理解せられ実現せられているのであつてそれ故にこそ公職が威厳と権威と永続性とをそなえて居り、公職に就き得る機会が広く一般から好ましい特権として認められ且求められているのである。

 鉄道並に塩、樟脳、煙草の専売などの政府事業に関する限り、これらの職員は普通公職からは除外せられて良いと信ずる。然し乍らこれ等の事業を管理し運営する為に適当な方法により公共企業体が組織せらるべきである。而して雇用の標準方針並に手続を適正に定め且普通公職の場合に与へられている保護に代へるに調停仲裁の制度が設けられねばならぬが、同時に、職員に於て、その雇用せられている責任を忠実に遂行することを怠り、為に、業務運営に支障を起すことなきよう公共の利益を擁護する方法が定められなければならない。更に又、能率増進の為に、逓信省の完全な再編成が実施されることが望ましいと信ずる、その為には政府の郵便事業を他の業務から切りはなし、逓信省に代つて内閣の内部に二つの機関を設置することが考へられる。

 国家公務員法は、本来、日本に於ける民主的諸制度を成功させるには、日本の官僚制度の根本的改革が不可欠であるとの事実の認識の下に考へられたものである、何故ならば斯る民主的諸制度の強弱は、その政治的、経済的、社会的の何れなるを問はず、必然的に直接公務員制度の能率如何にかかると共に、公共の利益擁護と一般の福祉増進の為に組織された政府が其の権力の源泉たる主権者たる国民に対して行使し得る強力な指導力如何にも同様必然的に直接関連するからである。従て本改革の成功が占領政策の第一義的目標の一つたるのみならず、それは、日本国民の将来の福祉の為の前提要件の一つでもある。

 仍て本問題の解決に当つては公共の利益優先と云ふ点に最大の考慮が払はる可きであり、次に必要なことは、公法の中に明示された通りに、国民の意思を実施する政治手段としての政府の適法な権威は、充分民主化された方法の下に行はれる選挙に依てのみ覆し得ると云ふことを保障する道が構ぜらる可きであると云ふことである。これなくしては、政府を少数者の特権優先に従属せしめることに依て公共の利益を滅却することとなり、其の結果は無政府状態、暴動、破壞を招来することになる。これが民主社会が先ず存在し得る為の基本的原則であるが、西洋の主要民主国家に於ては、その原則実行の為に極く最近に至つては、軍隊並に文官警察の両者を用いた国家警察力の全面的行使を余儀なくされるに至つた。憲法の定める所に従つて軍隊の保持を放棄した日本に於ては、警察力の斯る行使には文官警察を期待し得るのみである。従つて日本に於ては他の何れの国に於けるよりも尙一層法律が政府の権力並にその安全と権威の確保の為の規定を綿密に定めて誤解なき様に明確を期する必要があるのである。

 余が国家公務員法を全面的に改正して茲に論議された考え方の体制に適合せしめることが時を移さず着手さる可きであると考えるのは以上の目的達成の為である。

 本件に関し貴下を援助する可く本司令部は従前通り助言と相談に応ずるであろう。

(Source:国立公文書館 国家公務員法関係 マッカーサー元帥書簡 A17111323600)

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